『とんとこひ・セクスアリテ』

July 14, 2008
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カテゴリ: 性教育/性球儀



映画 『人間みな兄弟―部落差別の記録』



小説 『寒冷前線』 酒井真右/理論社/1959年8月発行




 「 たとえ、この戦争が、どのような終結を遂げようとも、俺は死なない。俺はぜったいに死なない 。」
 それは運命とか神とかいう架空な観念的なそら頼みではなく、幼い日から、いわれもなく圧迫されつづけた者のみの持つ、より肉体的な、 逞しい 不死身な決意に似た力だった。




 「 ふん!日本のどん底、どん底の日本というこの祖国の苦さを、いやってほどなめさせ、すすらせられて!ち、く、しョッ!これほどの苦しみをなめさせられた俺が、このまま、かんたんに死ねるわけねえじァねえか!ふん!死ぬもんか!死ねるもんかよォ!




 啓一は重子と一緒になるため、心にうけた数々の、この社会に巣喰う隠然たる醜悪な生きているそのしぶとい暗い力を想起した。
 それらの暗い力は、日常、まったくあらわには姿をあらわさぬ。それだけに又、しぶとい力であった。・・・




 ずず ずーン・・・ ・・・と激しい轟音。
 「 畜生!ぬかせ!ぬかせ!ほざくだけほざけ!!人間ひとり生まれるんだ!俺にとっちァだいじな新しいいのちがひとつ、この地上に・・・ ・・・、ああ、糞ったれ!!




 「 つらい!・・・ ・・・けんど、かんたんに死んでたまるもんか。この重子 このまま・・・ ・・・このまま終らせてなるもんか・・・ ・・・死なない!ぜったい死ぬもんか!参るもんか!俺らァ不死身よ、この位ェのことで、参るもんか!ははははは、そうれ!がんばるんだ、がんばるんだ!!



逞しい ものが、やつれた啓一のからだ中に漲るのだった。




 「 新しい人間のいのち、その誕生、俺と重子との間の子に何の罪があるって、冗談云っちァいけねェ、俺を部落民だと侮り軽蔑する---、ふん、どれもゆるしはしない。人間が人間への差別、こんなナンセンスはゆるしはしない。ぜったい。その上、生まれ出た何の罪もありはしない俺の子供にまで、そんないわれのない手枷、足枷かけさせることなど、尚のこと、ぜったいゆるしはしないし、ゆるされてはならない 。」




 彼は、大きく呼吸をしようと顔を朝空に向けて思いきり空気を吸いこみ始めた。が、いつもの半分も吸い込まぬうちに、右胸のキリキリと、刺されるような痛みを感じた。




 「 ふふ。ははははは。死ぬもんか。死んでたまるもんか!
 そのような、図太いほどな生への凱歌が、つゆにぬれたぞうり穿きの、彼の足先きから、無精ひげのばさついた顔から、のびた頭髪のてっぺんから体中にふくれて来た。




 彼は、少しずつ歩きながら、何回も胸の病まぬ程度に、しきりに空気を吸い、吐き、吸った。あたかも水を欲していた金魚のように。
 彼は、生きていた、生きぬいて来た自分のいのちの歓喜に、しみじみとひたった。




 「 糞ったれが!けいさつだ!重子。・・・よ、泣くな、な?きっと帰ってくる!なァ。まだまだ重子、何もかもお互い、これッからなんだぜ 。」
 重子は、うすいボロぶとんをすっかり頭から被り、泣いていた。




その彼女のうちに、啓一への思いと、これから将来への不安との交錯する向こう側から、徐々に大きく濃く近づいて来るものがあった。





そのような重子の心情をもしらず、とり囲まれたまま、啓一は、やがて村役場の近くの交番辺り迄やって来る




 「 ふん、こいつら、手先たちに屈しられるかって!こいつらチンピラに属するほど、俺たち部落の者への差別がつづくんだ!ふん!俺たちァ人生の最底の その最底で生きてきたんだ!そうかんたんに参るもんか!重子、赤ん坊・・・ ・・・達者でやってろよ、参るもんか、ぜったい!






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Last updated  July 14, 2008 02:38:21 PM
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