ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

Jan 29, 2005
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カテゴリ: 本を作る
出版業界でメシを食う方法(その二十一)

【初めて私のブログをご覧になる方へ】



後の話へ続けるために私のとんでもない失敗も書かざるを得ません。でも人間って、厭な思い出は自然と忘れようとするみたいです。

事業に躓いたあと、自戒の意味を込めて書いた文章があります。『負けてたまるか -倒産そしてラストチャンスー』と称して書きました。

その中から、倒産時の直後の経緯の分だけを掲載します。読んで欲しいような、読んでもらいたくないような複雑な気持ちです。だから小さな文字で、そのまま掲載しました。


倒産へのプロローグ

誰も電話に出ない。ほんの一時間ほど前には通じたのに、電話のベルが鳴り続けている。今日は六月五日、午後四時を回ったところだ。

「仕手決済の資金が足りない。少しでも何とかなりませんか」と、電話をもらったのが正午前。「俺のほうも余裕がないよ」と答えると、「ほかを当ってみます」と電話が切れた。

三時頃に電話を入れた時には、「社長はただ今銀行のほうへ出向いております」と事務員が答えてくれたのだが。

「ちょっと出かけてくる」と声をかけ、クルマに飛び乗った。

事務所のドアには鍵がかかっていない。ノックもせずに足を踏み入れると、応接セットにA理工の社長と幹部社員四人が座っていた。

「社長。やっちゃったよ」。A理工の社長が上目使いに私を見上げて、テレ笑いを浮かべながらつぶやいた。

「そうか」と答えるのが精一杯で、私もソファーに腰を降ろし、しばらくは灰皿の上のタバコが白い灰へと変わっていくのを見つめていた。

A理工と取引きを初めてまだ二年にも満たない。それなのに、アッという間に抜き差しならない状況にまで陥ってしまった。


最初にA理工の社長が、別のA社の名刺を持って現われたのは夕暮れ時だった。

「御社のビデオの評判が良いので、ぜひ私の会社でも売らせて欲しいのですが」

「御社では書店さんで売っておられるようですが、レコード店やビデオの専門店のほうが売れますよ」

「書店以外の販路は、ぜひ私どもにお任せ下さい」

私の会社が、書籍中心の出版物からビデオ部門へ事業を拡大してから三年が経緯していた。

スキーなどの実用ビデオを始め、その後に手掛けたディスコダンスのハウツービデオの売り上げも伸び、レコード店など、書店以外のお店からも問い合わせが急に増えてきた時期であり、A社に販売依頼をすることになった。


毎月売上げが伸びてきた。

「私どものメインの仕事は、A理工でやっているビデオのダビングなんです」

「こちらが私の本体の会社なもんですから、ぜひ仕事を出して頂けないでしょうか」

ギブアンドテイクだとの申し出に、「それなりの売上げを上げてもらっているのだから」とA理工へ発注することにした。

そのうちに、「社長のところの売上げがどんどん伸びるものだから、集金が追いつきません。支払いを手形払いに代えてもらえませんか」と頼んできた。

ビデオ売上は、A社より私の会社へ支払われるが、最初は翌月に現金払いだったのが、三カ月サイトの手形になり、さらには四カ月サイトにまで延びることになってしまった。

一方で、ビデオのダビング代は私の会社からA理工へ支払うが、当初から手形払いだったものだから、相手の社名は違っても、相互に手形を切りあうことになる。まるで融通手形と変わらないような状況になってきた。

できるだけ相殺勘定にしようとするのだが、ズルズルと拡大するはめになる。もうこれが限界だと思ったところで、案の定、先方が倒産してしまった。


「A理工はともかく、A社だけでも生き残れないんですか」

「相互保証しているので駄目ですよ。すべてがパアです」

期待もしていなかったのだが、予想どおりの返事が返ってきた。今日は金曜日、私の会社の仕手決済日は毎月十日なので、土・日を含んで五日しかない。

今月の決済資金はA社の手形を割り引いて充当する予定だった。当面の決済資金が不足するだけでなく、今まで割り引いた分のA社の手形買戻しもある。「終わった」としか思えなかった。


「あんた、何てことしてくれたんだ」

倒産のドサクサの時に何があったのか、記憶に霞がかかっているようだ。周りの風景さえ映画のスクリーンを見ているようだった。世間から取り残され、一人雑踏の中に立ちすくんで、最後の審判を待っていた。

それでもいくつか鮮明に記憶に残っている出来事がある。取引き先の破綻を知った直後、私が独立する前に働いていた出版社の会長に電話を入れた。

ほぼ一カ月前、会長の紹介と保証によって、信用組合からの借入れをおこなったばかりだった。まだ一回目の返済もおこなっていない。

「すみません。不渡りを出すことになってしまいました。申し訳ありません」。

他に何を説明したのか覚えていない。

「仕事は続けたいの?」

「可能なら続けたいと思っています。そうでないとほとんど返せません」

「事業の継続が出来るかどうかは、債権者の中で中心になる人がいるかどうかですよ」

最後にこのような会話があったのを、かすかに覚えている。手形決済日まで後四日しかない。何はともあれ取引き先へ謝罪に回り始めた。


そのうちの一社、印刷をお願いしている印刷会社へ出向いた時のことである。そこそこの規模の会社なので、いつもは課長さん程度にしか会ったことがない。

社長さんにお会いしたいというと、取引き先が挨拶に見えた程度に思われたのだろう、ニコニコして社長が現われた。

「実は、」と話を切り出すと、「あんた、何てことしてくれたんだ」と大声で一喝された。他の役員も呼ばれて、その場で社長に一気にまくし立てられる仕儀になった。

「ウチは信用を第一にしている。受け取り手形が不渡りになるということは、ウチの信用そのものが傷つけられたことになる」

私はただただ小さくなって頭を下げるしかない。ひと通りの話が終わってから、「あなたの釈明も聞きましょう」と矛先を向けられた。

経過を説明し始めてまもなく、「エッ、まだ不渡りを出していないの!」

こちらの説明がしどろもどろだったせいで、不渡りを出したので謝りに来たと思ったらしい。

どうせ二日後に不渡りを出すので同じようなものだが、事前に報告に伺ったことで少しは気持ちが和らいだようだ。他の役員を退席させて、親身になって話を聞いていただいた。

「事業継続できるかどうかは債権者の中で中心になる人がいるかどうかだ」との話を報告すると、「私も手を貸しますが、業界で知られている人のほうがいいですね」。他にどのような債権者がいるのか尋ねられた。

私の会社が利用している物流会社の社長を、老舗の有名な出版社の社長が兼務しておられた。

「あの人も苦労人だと聞いています。相談したほうがいいですね。必要なら僕も動きます」と言っていただいた。

倒産したおかげで、日頃はお目にかかることもほとんどない、各社の社長さんに会う機会が、山のように押し寄せてきた。


「辞めたほうがいい。再建するって大変なことなんだよ」

老舗の大手出版社の社長さんに会っていただいた。ほかの債権者のところも回った後だったので、冷静さも出てきていた。同時に何としても事業継続を図り、再建したいという意欲も増していた。

「倒産企業を立て直すなんて、いかに大変かは経験した者でなければわからない。悪いことは言わない。あきらめたほうがいい」

「よほど有利な条件が整っていないと、再建なんて出来るものではない」

大手の老舗出版社を立て直した人物だけに実感がこもっている。

「再建を断念して、まだ若いんだから、一からやり直したほうがいいですよ」

「負債を抱えて走ることは並大抵のことじゃないですよ」
など、るる説得が続いた。

経営者団体や作家さんたちの協会の会合など、予定がいろいろと入っていたそうだが、次々とキャンセルしながら長時間にわたって話を聞いていただいた。

最後に、「わかりました。あなたなら出来るかもしれない。どこまで協力出来るかわかりませんが、僕で出来ることならやりましょう」と言っていただいた。

その後、二度にわたって債権者集会を開くことになるのだが、債権者集会のまとめ役として前述の印刷会社の社長やこの大手出版社の社長などに、まさに負んぶに抱っこで助けていただいた。


商品の卸し先、出版物の問屋であるトーハン・日販といった出版取次にも、これらの社長さんたちにご足労いただくことになる。

顔触れが顔触れだけに、窓口担当者は大慌てで上司のところへすっ飛んでゆく。すぐに役員応接室に案内してくれ、役員を始め、部課長が勢揃いとなる。

高齢で貫禄のある人たちに挟まれ、小さくなって座っている自分の姿を思い出すたびに恥ずかしくなる。最後の審判を待つような心境でもあったのだが。

このこと以降、再建という難行苦行が始まった。失敗もこの倒産事件を最後にしたかったが、また繰り返すことになる。

お世話になった人には申し訳ないが、出来の悪い子供は、何度も周りに迷惑をかけ、何度も叱られることによってしか成長しないようだ。


ハイエナ銀行とポカポカ信金

これも、不渡りを出す直前の話だ。私の会社はメインバンクをA銀行にしていた。A銀行へ事前の報告に行った。

二日後に一度目の不渡りを出すと言った瞬間から行員の態度が一変した。中座してはまた現われて、次々と上司を連れてくる。幾度も説明を繰り返すのだが一向にらちがあかない。

そのうちに、債権譲渡書なる文章を持ち出してきた。『期限の利益』を喪失するので、売掛け債権を借入れ金弁済に充当するために譲渡しろと言うのだ。

ほかにも債権者がいるのに、そんなことは出来ない。ましてA銀行からの借入れ残の一億数千万円のほとんどに保証協会の保証や両親の家の担保が付いている。

第一、まだ不渡りは出していない。期限の利益の喪失はこれからなのだ。印鑑はすべて持ってはいたが、これだけは絶対出来ない、他の債権者に言い訳が出来ないと言い張った。

時間は刻々と過ぎていく。他にも説明に回らなければならない債権者もある。

「社長のお父さんは、私どもの先輩ですよね。事業を再開するときには協力しますよ」

言葉は優しいが、ともかく判を押せの一点張りである。

私は、印鑑をテーブルの上に置き、「勝手に押すのはあなた方の自由です。でも私は、銀行の方が勝手に押したと主張しますよ」と開き直った。

六時間以上が経過し、すでに午後の十一時を過ぎている。いつでも席を立つことは出来たのだが、態のいい軟禁状態だ。先方もさすがにこれではマズイと思ったのだろう。「それでは後日、改めてご相談しましょう」との一言で話は終わった。

行員もほとんど退社している。最寄りの駅まで歩いて電車に乗ったところで、たしか『次席』とか言う名刺をもらった行員に出くわした。

「社長、大変ですね」「私の立場では言えないですが、あれで良かったんですよ」と言葉をかけながら途中の駅で降りて行った。





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Last updated  Jan 29, 2005 02:39:30 PM
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聖書預言@ Re:ネットを再開するぞーっ! と思ったとたん(04/28) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…
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38万円で本ができた


第一章 もっと手軽に自分の本を作れたら


第二章 協力出版と懸賞募集の甘い罠


第三章 自分の本を作りたい理由を考えよう


第四章 本にする原稿をまとめよう


第五章 自分の本を売ってみよう


第六章 安く本を作る方法を考えよう


第七章 物書き稼業と編集者稼業の裏表


第八章 昨今の出版業界のお寒い事情


第九章 いまどきの本屋さんと物流事情


第十章 出版業界こぼれ話


【出版後記】


負けてたまるか


その1


その2


その3


その4


その5


その6


舞台裏からの独白


すぐそこの田舎暮らし


第一章 先住民/黒猫の『タンゴ』


第二章 山里「コンタ」発見


第三章 知らないってことは


第四章 竹の子で仲間を釣り上げる


第五章 森の天使の小さな落し物


第六章 小悪魔『チビクロ』参上


第七章 チビクロ砦とチビクロ王国


第八章 まったくもう、田舎暮しってヤツは


第九章 チビクロ、チビコゲへ変身中


第十章 隠れビーチで日向ぼっこ


第十一章 チビクロ、何処へ行こうか


第十二章 何で、お前まで行ってしまうの


第十三章 ムジナに見送られ、街へ帰る


エピローグ みんなで遊ぼうよ


両国・千夜一夜物語


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後編


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第五話 工学書転じて実用書に 


第六話 なぜかスキー書


第七話 退職、そして創業


第八話 行け行けドンドンの始まり


第九話 原稿は役員専用車で届く


第十話 スパイにされちゃった


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第十二話 閃いた


第十三話 出版から映像へ


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第二章 したたか女はイイ女


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