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メータ&バイエルン放響の巨人を聴きました。指揮:ズビン・メータ管弦楽:バイエルン放送交響楽団モーツァルト 交響曲第41番 ジュピターマーラー 交響曲第1番 巨人11月22日 東京芸術劇場そもそもはヤンソンス&バイエルン放響によるアジアツアーが予定されていました。しかしヤンソンスが体調不良に陥り、その代役としてメータがアジアツアーを率いることになり、その日本ツアー5回公演の初日です。この日は、当初はマーラー7番が予定されていました。ヤンソンスの7番を聴けることを非常に楽しみにしていましたが、メータに代わり、そして曲目が大きく変更されることが発表されました。希望者には払い戻しが行われました。楽しみにしていた7番から巨人への変更というのはいささか残念ではありました。しかし、メータと言えば今年春のイスラエルフィルとの来日ツアーが、体調不良のため中止されたばかりです。悪性腫瘍の治療をしていたということです。そのメータが、病み上がりにもかかわらず代役を引き受けて振ってくれることにメータの心意気を感じ、払い戻しは露ほども考えず、聴きに来ました。2年前のウィーンフィルとのブルックナー7番の名演の記憶もあり、どんな演奏になるのだろうという楽しみがありました。会場に来てみると、キャンセルした人が多かったようで、客席は半分程度の入りでした。驚くことに、指揮台には椅子が置かれていて、指揮台までのスロープもセットされていました。メータは、片手に杖をつき、片腕を他の人に支えながら、とてもゆっくりした足取りで歩んでの入退場でした。2年前のウィーンフィルとの時には全くお元気で普通に歩いていたので、これほど足が弱っているとは思ってもみませんでした。しかし指揮そのものは体力の衰えを微塵も感じさせない、気力の充実したものでした。巨人について書きます。弦楽は、下手から第1Vn, Vc, Va, 第2Vnの両翼配置で、Vcの後ろにCbで、16-14-12-10-8でした。ホルンは上手側に2列に7人。すなわちごくオーソドックスな配置です。ちょっと変わっていたのがハープの位置でした。ピッコロとコントラバスとの間に位置し、かつ木管と同じ雛壇の一番端っこに乗っていたので、まさにピッコロのすぐ隣で、木管との一体感がありました。曲はゆっくりしたテンポで始まりました。様々な木管による下降四度の動機が、彫り深く表現されます。やがて舞台裏のトランペットによるファンファーレは、普通に下手のドアを開けてその外で吹かれました。ただし、ドアの開け方が凝ったものでした。3回のファンファーレの最初はドアをほんの少し開けるだけ、次は少し開け幅を広くし、3回目はさらに広く開けるという方式で、だんだんと大きくはっきりとファンファーレが聞こえてくるという効果を上げていました。その後もメータは遅めのテンポを基調に、適度なテンポ変化も持って、進めていきます。上体の動きは大きくはないけれど十分な気力と余裕があり、安心しました。第1楽章のあと、花の章が演奏されました。柔らかく美しくメロディを奏でたトランペット奏者は、多分首席のハーネス・ロイビンさん(あの3番ポストホルンの最強の請負人)だと思います。そしてそのあと、第二楽章(本日は第三楽章)スケルツォ、遅めのテンポを基調にしながらも、生き生きとし、堂々としていて、素晴らしいです!僕は聴いていて、このあたりから、メータの紡ぎだす音楽の佇まいに、大きな風格を強く感ずるようになりました。うまく言えないですけど、古典派の優れた音楽が持つ端正で純粋な造形美のようなものを、このマーラーのスケルツォから感じたんです。これまで巨人を聴いてきて、このように思ったことは、もしかして初めてかもしれません。第三楽章(本日は第四楽章)も、そのような一種の貫禄を持ちながら進んでいきます。弦のポルタメントとか、さりげなく目立たないんですけど、ツボにはまっていて本当に素敵です。そしてバイエルン放響の木管奏者たちの実に上手いこと。それぞれが個性を存分に主張しながら、突出しすぎることなく、すべてが調和しています。それから、ハープが超絶的に素晴らしいです。何気ないような一音に大きな存在感があります。ハープに関しては、上にも書いた木管のお友達みたいな位置取りも、とてもいい感じです。もっともこの奏者だったらどこで弾いても素晴らしいだろうと思います。第四楽章(本日は第五楽章)になり、音楽はますます格調高く、ますます深く響きます。特に第二主題部の歌は、この曲からこれほどの深みが出てくるとは、と信じられないほどの体験でした。コンサートで聴いていてごく稀に、「もしかして今この音楽は作曲者の意図を超えた深みに達しているのでは」、と思うことがあります。今夜の巨人がそれでした。メータの指揮は無駄な力みがなく、ここをこうしてやろうという作為を感じさせません。そしてそこから現れてくる音楽は、実に腰が据わっているというか、盤石の安定性があり、自然で、巨大で、そしてワクワクする楽しさがあります。奇跡のように素晴らしい音楽は順調に進んでいき、とうとう終わってしまいました。長い拍手が続き、メータはオケの各奏者を立たせました。オケは2年前のヤンソンスとのマーラー9番と同じで、みな唖然とするほどに素晴らしかったです。たとえば空を自在に舞うようなフルート首席のトリルとか、ちょっとなかなか聴けないものでした。そのあと、アンコールもやってくれました。ヨハン・シュトラウス二世の、「爆発ポルカ」。いやいや、すごいサービスです、ありがたいことこの上ありません(^^)。アンコールも終わり、やがてメータもオケも引っ込みましたが、その後も拍手が鳴り止まず、メータは車椅子で舞台に再度登場し、盛大な拍手喝采にこたえてくれました。・・・巨人は、中学生のときにワルターのレコードで没入し、そこからクラシックに浸っていった、僕の原点の曲です。大人になってからは聴く頻度はかなり減っていたけれど、この齢になって再びこれほどの感銘を受けるとは、思いもよりませんでした。今82歳のメータ。2年前のブルックナーといい、今回のマーラーといい、いまや次元の異なる高みに到達して、いよいよ充実のときを迎えています。「巨匠」という言葉が昨今大安売りで使われていますが、今のメータこそ、真の巨匠、と思います。願わくばいつまでもお元気で、このような音楽をまた聴かせていただければと思います。おまけ:蛇足ながら今回幻となったマーラー7番について。今回の日本ツアーで、7番以外の演目はすべてそのまま演奏され、変更されたのはマーラー7番だけです。僕は、曲目変更のお知らせを聞いて、今のメータにとって7番を振るのは体力的に厳しいのかなと想像していました。しかし今夜の演奏を聴いて、またその数日後に演奏された「英雄の生涯」(これも素晴らしかった!)を聴いて、今のメータならマーラー7番を振ることも十分できたと思います。ひょとしたらヤンソンスが、「7番は折角自分が仕上げたので、いずれ自分がアジアツアーでやりたいから、今回はとっておいてくれますか」とメータに頼んだのではなかろうか、などと妄想しています(^^)。
2018.11.30
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BGM選手権、2回連続でパスしてしまいました。11月18日のお題、菊池寛の「将棋」に、久しぶりに投稿しました。1)シベリウス作曲 劇音楽「カレリア」JS 115から第2場「ヴィープリ城の創立」通常のカレリア序曲やカレリア組曲とは違う曲で、録音はかなり少ないです。ヴァンスカとラハティ響ほかの演奏が、テンポ的にこのお題と良く合う感じがしましたが、動画サイトにはこの演奏はありませんでした。2)プロコフィエフ作曲 吹奏楽のための「4つの行進曲」作品69の第3曲この曲については、こちらに詳しい方の紹介記事があります。https://www.youtube.com/watch?v=xp-HOeebQpQhttp://bokunoongaku.com/2013/03/02/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%83%95%E3%80%80%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE4%E3%81%A4/ここで紹介されている英国王立北部音楽大学ウィンド・オーケストラの演奏が、温かみがあってとても素敵です。動画サイトではこちらです。https://www.youtube.com/watch?v=xp-HOeebQpQ
2018.11.25
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神戸市室内管弦楽団・神戸市混声合唱団の合同定期演奏会を聴きました。「北の響き」指揮:海老原光、松原千振管弦楽:神戸市室内管弦楽団合唱:神戸市混声合唱団10月28日 神戸文化ホール 中ホール神戸への出張が決まった折に、この日神戸近辺で行われる演奏会を探していたら、北欧ものばかりを並べた素敵なプログラムを発見しました。しかも一度は聴きたかった神戸市室内管弦楽団(旧称:神戸市室内合奏団)です。聴けるかどうかは日程的&体力・気力的に微妙でしたが、行ければいいなと思っていました。当日は、無事予定をこなし、体力・気力もなんとか持ちそうで、天気も良かったので、ついにコンサート行きを決意しました。三宮から地下鉄でわずか二駅とアクセスも良く、開演時刻のだいぶ前に会場に到着しました。緑の多い大倉山公園の一角に、ホールがありました。首尾よく当日券をゲットして一安心、穏やかな日和りで気持ち良かったので、開演まであたりを少し散策することにしました。ホールに隣接した広場には素敵な彫刻が散在していました。さらに神戸市立中央図書館や野球場を通り過ぎて、公園内の小高い丘に登りました。展望台からの眺めです。遠くに見えるのは六甲の山並みでしょうか。あとお茶目な雰囲気の富士山像もありました(^^)。陽の当たるベンチに寝そべって、青空と緑を見上げました。空をゆっくり見るのは久しぶり。気持ち良いです。いつの間にかうとうとと居眠りしてしまいました。ハッと目が覚めたら、程よい時間でした。寝過ごさなくて良かった^_^。ホールに入って座席表を見ると、やや、1階の最後列が1列で、前に向かって2,3,4,5と番号が増えていき、最前列が20列になっていました。これは珍しい!後ろからはいるので、進む順に番号が増えていくのは慣れれば便利なのでしょうか??席を探すのに一苦労しました(^^)。座席表を見ておいて良かったです。さて前半は神戸市混声合唱団。女声17名が前列に、男声16名が後列に並んで、松原氏の指揮でした。無伴奏合唱曲を5曲。グリーク 4つの詩篇 作品74より第4曲、「天国の父なる神のもとに行けたらどんなに幸福だろう」シベリウス「愛する人」 作品14クーラ 「りんごの木」トルミス 「シニッカの歌」プラキディス「追憶」作曲家はノルウェー、フィンランド、エストニア、ラトヴィアです。グリークの曲は、最晩年の作品の最後の曲ということです。ラトヴィアのペーテリス・プラキディス(1947 - 2017)という作曲家は初めて知りました。静かな中に深みを湛えた、とても美しい曲でした。休憩を挟み、後半は神戸市室内管弦楽団で、弦楽合奏曲2曲。シベリウスのアンダンテ・フェスティーボと、グリークのホルベアの時代。5-5-3-3-1の通常配置、チェロ以外は立っての演奏です。長身痩躯の若い指揮者が早足で颯爽と登場し、振り始めました。一気に引き込まれました。極めて充実し、調和した、妙なる弦楽合奏の響き。かつてボッセ氏が率いていたこの楽団の演奏はかねてから一度は聴きたいと思っていましたが、これほどまでに素晴らしいとは。指揮者は、指揮棒なしで、長い腕と全身を大きく動かすだけでなく、しばしば右や左に2歩3歩と歩んで奏者のそばに近寄って音楽をリードします。その動きが実に滑らかで、音楽的です。シベリウスの荘重で格調高い響き、グリークの軽やかな曲としっとりとした曲の色分けの鮮やかさ、そのすべてに流れる真摯な音楽性は本当に感動的で、涙がにじみながらしばし聴かせていただきました。コンサートの最後は、合唱団と室内オケとの合同演奏、指揮は海老原さんで、ヴァスクスの Dona nobis pacem(我らに平和を与え給え)。ヴァスクスは、以前BGM選手権に別な曲を出して、ボツになったことがあります ^_^。この曲は、下降ポルタメント、重い曲調など、ヴァスクスらしさがしっかりと刻印された、力強さと美しさを備えた聴きごたえのある曲でした。演奏が終わってから、松原さんが登場し、しばしお話をされました。僕はまったく知りませんでしたが、ボッセさんのあとを引き継ぎ音楽監督をされていた岡山潔さんが、この10月に逝去されたそうです。岡山さんの遺志を引き継いでいきます、というお話のあと、追悼としてバッハのマタイ受難曲から第72曲のコラールが、弦楽合奏と合唱により演奏されました。マタイ受難曲で繰り返し歌われるあの“受難コラール”が、イエスの死の直後で歌われる場面です。沈痛な鎮魂のコラールが、会場の隅々まで静かに沁みわたりました。終演後ロビーに出ると、先ほどは気が付かなかった、岡山潔さんの遺影が飾られていました。関係の方々には特別な演奏会だったことを最後に知ったわけですが、それを知らなくても、この日の演奏には本当に心打たれ、心洗われる体験でした。神戸市室内管弦楽団、神戸市混声合唱団のますますのご発展を願います。感動の余韻で軽くぼぉっとした頭で、また機会があったら是非とも聴きに来ようと思いながら、帰路につきました。
2018.11.03
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