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風土 を活かした 農業
徳永 光俊(前大阪経済大学学長)
そっと手を添え、じっと待つ
◤ おかげさま
おたがいさま ◢
これまで 50 年間、奈良盆地の農法史、江戸期の農書の研究を行ってきた。農法は歴史的に変化している。天然農法→人口農法→天工農法への変化だ。
いくつくらいからか、はっきりしないものの、狩猟や漁労、採集に加えて、野生植物への作物化への半栽培や焼き畑などが始まる。これが天然農法に当たる。さらに稲作が伝来して水稲作が始まる。これが人工農法の始まりとなる。
奈良盆地を例にして考えると、8世紀頃から律令制の展開によって開田が進み、水稲作が強制されることに。これが人工農法Ⅰの時代。 14 世紀頃になると、いろいろな商品作物の栽培が進む。これが人工農法Ⅱだ。
さらに、 1960 年代以降の高度成長期には、機械化・化学化・施設化が進む。人工農法Ⅲの時代。たとえば、奈良盆地では 16 世紀頃から、水稲の裏作でそら豆を作っていた。それ豆は、飢饉対策の救荒作物であると同時に、地力を改善する効果がある。しかし、 1960 年頃から、それ豆を作らなくなった。施設でトマトやイチゴなどの連作が可能になり、そら豆を作りまわす必要がなくなったためだ。生きものの循環が失われていく。
ただし、それぞれの農法は、一気に転換したわけではなく、それまでの農法は、一気に転換したわけではなく、それまでの経験や知恵が層序(地層のように時間ととともに積み重なっていく)しているのが特徴だ。
現在では、行き過ぎた人工農法からの揺り戻しで、反・人工農法として自然農法や有機農法が行われている。一方では、さらに進んだ人工農法として、ロボットやドローン、AIなどの最新技術を活用するスマート農法もある。
私は、人工農法の全てを否定する必要はないと艦がいる。活用できるものを取捨選択しながら、天然農法から続いてきて人工農法Ⅲで途切れかけた生きもの循環を取り戻していく。これを、天然と人口が融合した天工農法と呼ぼう。
農法は、社会や経済の動きに影響されるので完全に「自立」的ではないが、農法独自の「自律」的に展開していく内的な発達法則がある。日本列島では、天然農法から人工農法Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを経て、これからの 21 世紀に天工農法へと移行していくと考えている。これは歴史学での中世や近世、近現代といった時期区分とは異なり、農法独自の自律的な区分である。
農業を取り巻く社会には、天然農法以来、「おかげさま・おたがいさま」と感謝して祈る和語=まごころの世界が息づいてきた。これからも続いていくことだろう。いや、続けていかなければならないのではなかろうか。
◤ 新たな農法を
創発・層序 ◢
農法の自律的な内的発達法則の考え方の根源にあるのは、地理学者・三澤勝衛の作物風土論だ。
農業を研究していると、必ず風土が出てくる。風土というと、和辻哲郎を思い起こす人が多いだろう。しかし和辻の風土論は環境決定論の色合いが強く、それでは足りないように思える。昔から農業者は、収穫量を上げ、安定化させるために努力を重ねてきた。しかし風土によってすべてが決まるとしたら、お天道さまに任せるしかない。
三澤が展開した作物風土論の基本は「風土+農法=作物が求める風土」と表現できる。作物自身の生きようとする自発性を尊重する。「そっと手を添え、しっと待つ」。命を育む農業と教育の勘所は同じではなかろうか。私の長年の大学での教育経験でもある。
農業を発展させるためには、農法と風土をどのように融合させていくかが重要になる。したがって、特定の農法がどの地域でも使えるわけではない。やり方(農法)は、風土に合わせて変えていく必要があるのだ。
三澤は同時代の牧口常三郎の『人生地理学』(改訂増補 6 版)から大きな影響を受けていた。三澤勝衛記念文庫に所蔵されている同書には、三澤によって多くの赤線が引かれ、最終ページには「地理教授ノ書ニアラン」と書き込みがある。
牧口は、「強度」について子どもたちに教えながら、どのような見方が大切かを『人生地理学』にまとめていた。人生とは人類の生活を意味する。そのような地理教育を実践していた牧口に、長野県の中学教師であった三澤は「風土」をキーワードにして、共感したのでなかろうか。
〝農業は終わっている〟とか〝最終局面だ〟とかいわれて久しい。確かに厳しい状況かもしれない。しかし、農業者自らとそれを支援する人々が、新たな方向性を創発しながら、農法は積み重ねられて層序しつつ変化していく。風土を生かした農業の視方を大切にしていくことが重要だと考えている。
とくなが・みつとし 1952 年・愛媛県生まれ。前大阪経済大学学長。専門は日本農業史、農学論。著書に『日本農学史研究(上・下)』(農文協)『日本農法の心土 まわし・ならし・合わせ』(農文協)などがある。
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