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カテゴリ: 風の詩
 この地方の最大のイベント花火大会へ向けての準備は佳境にはいった。
 浜の場所取りはほとんど終わり、
 新旧の防波堤の上の桟敷席も完成しつつある。
 あとは荒れ模様の熊野灘が、
 これ以上荒れることがないように願うばかりだ。

 幸い台風もないようで、
 今年こそは何の問題も無く、
 予定通りに花火大会が開かれそうである。

 街の交通の要衝には花火用の交通案内看板もたった。


 花火大会の会場になる海岸で、
 一人のお爺ちゃんが何時間も浜の場所取りの確認をしている。
 色とりどりのビニールテープ囲われた浜を確かめつつ歩いている。時々手に持つ紙を覗き込み、首にかけた何かをとっては確かめている。

 ビニールテープの囲いには名前の表示板が立てられたのもいくつかあるが、殆んどは囲われているだけだ。その囲いが自分のもだと判断するのも慣れない人間には至難のように見えるが、毎年のことで地元の人には何のこともないようだ。

 それは多くの暗黙の了解があるだろう。

 老人はその暗黙の了解確認作業のような仕草であった。

 浜の整備をしている役所の職員風が老人に呼ばれた。

 職員風は老人の手に持つ紙を覗き込みながら、
 四囲を見渡し、
 何度もビニールテープの囲いを指差していたが、


 職員風の後姿を見て佇んでいた老人はまたもとの作業に戻った。

 日曜日の昼下がりの浜の光景、
 肌を切るような陽射しの中で、
 場所取りの確認の老人の姿が、
 絵画調に浮かび上がる。


 足元の覚束ない老人を、
 揺らめく光が包み込んでいる。

 老人と作業員風の話は聞こえなかったが、
 暗黙の了解事項を誰かが破って、
 老人の囲いに何らかの侵害行為を行ったのか、
 それとも老人の勘違いであったのか、
 職員風の大きく広げた手は呆れ果てた仕草だった。

 老人の作業は続く。
 老人の目的は自分が確保したビニールテープの囲いの確認に違いないが、
 その周りは同じよう囲いが並んでいる。

 暗黙の了解で老人の囲いは分かるはずだったが、
 確認に来た老人には自分の囲いが分からない。

 名札でも立てておけば問題なかったと思われるが、
 それでは伝統の場所取りのルールに反すると老人は思った。
 名札などの表示は要らない。
 それが場所取りのルールだ。

 主催者は場所取り禁止の看板を出している。
 老人と職員風の話が噛み合わないのは当然だ。

 それにしても切りつけるような陽射しの中で、
 老人はいつまで作業を続けるのだろう。

 老いの一徹では片付けられないような気もする。

 暫く時間を潰していって見ると、
 老人は囲いの中で海を見て佇んでいた。

 老人の花火大会は始まっている。
 透明な日差しの海岸で、
 切りつけるような陽射しの海岸で、
 老人の花火大会は始まっていると思った。  









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最終更新日  2007.08.12 16:17:18
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