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2011年05月24日
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「愛と美と文学-わが回想-」中村真一郎 岩波新書


あれより22年たち、中村真一郎はむろんこの後数年し逝き、加藤周一も二年と少し前になくなった今、もう一度この本を紐解いた。いや、初めて紐解いた。やはり加藤周一が認める文筆家だけあって、加藤が新書二冊かけて綴った伝記「羊の歌」が1960年で終わっていたのに対して、同年代の中村はたった一冊で89年までを書ききった。簡潔にして的確、稀代の文章家ではある。

中村は生涯二回深刻な神経症を患うほどに繊細な神経を持っているが、一方でそんな自分を生涯にわたって分析してきたらしい。後に加藤は中村の「四季」四部作の完成を評して、「荘周胡蝶の夢」の故事を例にひいて「中村がこの小説を書いたのか、この小説が中村の人生を作ったのか」と言ったらしい。中村も「これはまさに肯綮に当った知己の言で、この全体小説は私の一生と一体をなすものである。私はこの作品を書き上げるために、人生を生きたのである」と書いている。現在偶々(たまたま)私小説巷間(ちまた)に流行るが、中村の場合は全体小説と謂う。「年表を広げながら外界の社会情勢と物語の中の事件とを関連付けた展開を行うことは止め、事件そのものをちょうど現実の経験が記憶の中に生きている状態を模倣するように描く」外界の社会情勢を眼中に入れない私小説とはおのずから大きく違う小説家である。それが成功したか、失敗したかは知らない。しかし、青年時代から30年以上かけてこの小説のためにメモを溜めていたというのだから、壮大な大河小説だったことだろう。また、そのことを言い当てた「古い仲間の加藤周一」を紹介することで、私は中村における加藤周一像の一端を知ることができて、満足だったのである。

この自伝でも中村は「中学時代に世を去った父」のことを「封建的貴族的感情と近代市民精神との極端な対立を、矛盾としてでなく調和として生きた、近代日本独特の人物だった」と分析し、自らの人格形成に決定的影響を与えたことを認めているのである。

中村真一郎という文学者の入門書として、あるいは、しばらくその文学に耽溺したあとの重要な自伝として、この冊子は重要な位置を占めると思う。私はあくまで、暫くは加藤周一に耽溺しておきたいので他にもいろいろと面白いところ(現代の貧困問題を言い当てているところとか、色好みの裏話等)はあるのだが、ここまでとする。





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最終更新日  2011年05月24日 23時38分48秒
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