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2016年10月04日
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カテゴリ: 山大新聞会
ひとつ、昔話です。初めて生で噺を聴いたのは、我々が主催した落語会だった。

大学時代、新聞会という自治組織に入って新聞をつくっていたというのは、以前書いたことがある。なぜ自治組織(自治会)か。入学当初、まだ右も左もわからない新入生に手紙が行くことになっている。大学には学生の自治組織がある。独立採算制なので、会費が必要だ。引いては、四年間の会費を振り込んでもらいたい。と。ホントは払っても払わなくてもいい。でも多くの学生は払ってしまう。数十年経ったいま、思うのは「完全に騙し討ちだった」。そうやって、文化会・体育会・新聞会・大学祭実行委員会・女子学生の会の「五自治会」は運営していた。もちろん、新聞会は義務として新聞を毎月発行していて全学部に無料で配っていたし、会計報告はしていた。他の自治組織はそんなことさえしていたとは思えない。

話がとんでもないところに行ってしまった。閑話休題、その自治会費還元の一環として毎年大学祭に企画を行う事になっていた。2年の時に、落語会を企画した。「何処かの大学でやったらしんだけど、笑福亭松鶴という落語家はものすごく安い出演料で、貧乏学生のために落語を聴かせてくれるそうだ」当時の大阪出身の先輩がそんなことを言ったのがキッカケだったと思う。

私は新聞会文化部だったので、企画のメンバーになった。上方落語(東京の落語に対してこういう言葉があることさえ、その時に初めて知った)の学習会のレジメをつくった覚えがある。大阪の戦災で、戦後上方落語は壊滅的な状況にあった。その時に、地域で落語会を開きながら上方落語を復興させたのが、若き六代目笑福亭松鶴含めた上方四天王の落語家だった。その経験があるからだろう、当時誰もが認める名人だった松鶴が、学生とは言え、わざわざ山口までやってきて上方落語を広めようとしたのだろう。とは、数十年経ったいま、やっと分かることである。ホントは山口市民に広く知らせて、大講義室に立ち見が出るほどの興行をすべきだったと、たった今、初めて思うところである。果たして、講義室が満員になったかどうかは覚えていない。お礼は、交通費込みで20万円だった覚えがある。チケットは確か500円だった。

私は山口県小郡の新幹線が着くプラットホームに松鶴師匠を待っていた。普通のお年寄りが降りて来た。お弟子さんらしき人が、浴衣で風呂敷包を持って一緒に降りて来たので、初めて師匠だと気がついた。タクシーで山口市の大学まで送ってゆく。世間話なんてできなかった。師匠からいろいろと聞いてきた。「山口の学生がよく飲んでいるお酒は何?」「いつもは角瓶です。でもたまにオールドになるとすげえな、となります」「郷土の日本酒は?」「やっぱり五橋(ごきょう)かなあ。今回は五橋なんだ、となると盛り上がりますね」五橋とは岩国錦帯橋に由来するお酒である。
大講義室の高台に座布団を敷いただけの簡単な高座である。師匠は先ず「饅頭こわい」を演った。私はお囃子を準備出来ていないことをうじうじ悩んでいたが、噺を聴き出して、そんなことを全て忘れて観て聴き入った。今さっきまでいたよぼよぼの爺さんが、いま、たった1人で長屋の人物群を苦もなく演じ分けて、しかも私はいつの間にか久しぶりに爆笑している。「生の落語ってすごいんだ」



演題は一切お任せだった。だから、そのあと「試し酒」を演ると聞いて、二つも演ってくれるんだとビックリした。


実は先日、Eテレで「試し酒」を観て、この日のことを思い出したのである。前名人の跡を継いだのかな、観たこともない顔の桂文楽が演っていた。

ある日、ご隠居たちの世間話の中で付き人の田舎者の男が酒を五升は飲むだろうという話になる。2人は男を呼んでホントに五升飲めるか賭けをする。男は、負ければご主人が散財すると聞いて少し考えさせてくれと外に出て、帰ってきて決心が固まり、一升づつ飲み始める。遂には五升飲み終えて、賭けに勝つ。相手のご隠居が聞く。
「今さっき、外に出たときに、何かおまじないでもやったのかな。後学のために教えておくれ」
「あゝあれはなんでもねえだ。ワシは五升なんて、確かめて飲んだことねえから、外に出て飲み屋に入って、試しに五升飲んで来ただ」

桂文楽の男の飲みっぷりは、上品だった。しかも、五升飲みおわった時に下品に威張り散らした。ダメだ。私はこの30数年間、いろんな人の「試し酒」を観てきたけど、松鶴のそれほど面白かったことはない。

松鶴は、ホントに飲んでいるように飲んだ。しかも、ホントにお酒が好きで好きでたまらない、という風に飲んだ。しかも、あの酔いっぶりの動作のひとつひとつがどうしてあんなに面白いのか、未だに理由が掴めないほどにおもろかった。

もし、山口の学生ではなく、私が大阪の無職の若者だったら、その場で松鶴師匠への弟子入り志願をしていたかもしれない、と後に思うほど衝撃的だった。

六代目松鶴の高座は、出来不出来の差が激しいことで有名である、と私は学習レジメに書いた。その日のハコは、多く入っても300人ほどだったけど、間違いなく最高の出来だった。





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最終更新日  2016年10月04日 10時33分03秒
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