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2002年06月03日
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いつも宴の終わり近くになってそっと入っていらっしゃる女の方が今日もいらっしゃいました。

「明日よりは、今日がいいんですよね」疲れがずっしりと積み重なったような声でテーブルの端に腰を下ろして、その方が言いました。

「えぇーっ! おばさん! 今日よりは明日でしょう!」と声を張り上げた若者が、はっとして口を押さえました。
この会で唯一のご法度は、「おじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん」という称号をつかわないこと・・だからです。

「いいんですよ。あなたからみたら私はおばあさんだもの。おばさんだなんて、ありがとうね」
「でもね。これは私の心の底からの思いなんですよ。明日よりはきっと今日がいい日というのがね。」

「どうしてですかぁ。『♪♪明日があるさ、明日がある♪♪じゃないですか』今日よりいい明日があると思うから今日を頑張れるんじゃないですか」

「そうだよ。そうだよ。あしたこそ、あしたこそって。ほら、風と共に去りぬのスカーレット・オハラだってそう叫んだじゃないですか。」若者の集団は一致団結しました。

「私ね、毎回この会に来る前に、92歳の母をお風呂に入れてベッドに寝かせつけてくるんですの。今はまだ一度寝かせつけると、夜中までぐっすりと寝入ってくれるのが分かっているので、2時間くらいは安心していられます。一週間に一度でも、こうして解放される時間がほしくて寄せていただいているんです。」

「母の前に父を見送りました。96歳でした。最後の数日を残して在宅で介護をしたので、老人の時間に閉じ込められたような時間でした。」

若者たちはもう面と向かって反論はしませんでした。でも、多分、心の中では反論していたことでしょう。
そんなぁ・・・。いくつになったって、どんな環境になったって、明日を信じて生きる人間にオレはなりたいな・・・と。

「私も若いころは、今日はこんなに辛くても、明日はきっといいことがあると、そう思っていたのにねぇ・・。もう何年も老人の介護で暮らしているうちに、明日よりは今日がいいんだ。こんな辛い今日でも、明日よりは今日がいいんだ。明日はもっと辛くなるかもしれないんだから、今日を感謝して生きなくてはと、自分に言い聞かせるようになったんでしょうね。明日、もっと辛いことが起きても、それを受け取る覚悟を今日からしておこうということなのかしらね。」

その方の置かれている場所、その方の生きている時間の重さを、その重さそのままには理解できないまでも、いつの日か自分の思いとしてかみ締める時が誰にもくるのだと、私はしっかりと心の中に収めました。そして、次の週も、次の週もその方にお会いしたいと心から思いました。

「そのとき・その場」に身を置かなくてはきっと本当に分からないことがある。それは健常者が障害者に対しても言えること。若者が老人に対しても言えること。健康な者が病弱の者に対しても言えること。天才が凡才に対しても言えること。裕福なものが貧困なものに対しても言えること。この世の中のすべての人間関係の中に存在する最も大きな壁なのかもしれません。






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最終更新日  2002年06月03日 19時55分08秒
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