Free Space
短編 〜スポットライト〜
着古して黄ばんだシャツをまとった少女は、
2年前にはちょうどよかったけれど、
今となっては、引き締まった小動物の脚のような彼女の腿を、
ほとんど隠すことができてないスカートを身につけていた。
最後に切りそろえたのはいつだろうか?というほどに不揃いな、
肩を5・6センチ越して伸びた髪を無造作にひとつに結き、
公営集合住宅の空き地と隣接した畑を囲ったネット、その上のわずかなスペースの上に、
器用に腕と脚で絶妙なバランスを取りながら、
身軽そうな細い身体を委ね、彼女は座っていた。
それは、よく晴れた初夏のことだった。
夕暮れにはまだ早い時刻で、微風が出てきていた。
少し傾いてはいるが、真夏を思わせるように輝く日差しを、
顔にも、全身にもスポットライトのように浴びながら座っている彼女は、
顔を少し左へむけ、奥二重の眼を細めていた。
整った目鼻立ちを少し歪ませたその表情は、
6・7歳と思われるその少女を、
思春期の娘よりも大人びて見せていることに、
わたしは驚きを隠せなかったのだった。
カメラ片手に散歩していたわたしに気づいても、
彼女は姿勢も表情も変えずに座ったままだった。
彼女が一体いつからそうして、どこを見ているともなく、
風景と風に馴染むようにゆったりと座っていたのか、わからなかったが、
そうしていることは、わたしが思うほどには、容易でなかったのかもしれない。
驚かせないようにゆっくりとそっと近づき、
こんにちは
っと少し離れたところから、わたしは彼女に声をかけた。
”今”に溶け込むように座っている彼女のこの姿を
cameraに収めたい衝動に駆られたからに他ならなかった。
それを彼女に伝えようと声をかけたのだったが・・・
すると彼女は猫のように全身のバネを縮めてから伸ばし、
座っていたとこから小さなつむじ風を起こすかのように、
わたしの目の前に降り立ったのだった。
こんにちは・・・
わたしから何を言われるのか?
っと、不安そうではあったがそれを隠すかのように、
それまで一文字に引き締めていた唇の端をあげて、
微笑するようにして彼女は答えたのだった。
そしてこういう結果を思慮することなく、
彼女に声をかけてしまったことを、
その後長いこと、わたしは後悔することになったのだった。
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