椿荘日記
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忙しさにかまけて、この楽天日記も随分間遠になってしまいました。心苦しく思いながら近況をお知らせ出来ない侭、自分のHPを覗きに行くことさえ中々出来ず、ずっと気になり辛かったのですけれど、やはり書きたいと思う時にこそ書くべきと考え、ずっと控えておりました。でも、変わらず元気に生活しておりましたことだけは、確かですのでどうぞご安心下さいね。九月に実家の父を亡くし、この二月と言うもの母の身の回りの事に奔走したり、姉と銀座や二子玉川で食事がてら香典返しなどの打ち合わせをしたり、この楽天のお友達の所属するオーケストラの定期演奏会にお伺いするなどして、十月一杯は相変わらずの忙しい日常に埋没致しておりました。本当に大分落ち着いて参りましたけれど、夜半に遠く走り去る救急車のサイレンの音を聞き、突然胸が苦しくなり、気が付きますと知らず知らず頬を涙が伝っているなどと、少々不安定な所も残っております。けれど、日常の当たり前の暮らしとは本当に有り難いもので、少しずつ、良い状態に向いていると感じております。折角の皆様の掲示板の書き込みにもお返事が書けず、気を揉んでおりましたけれど、十一月も後半となり、すっかり秋も深まって冬の気配さえ感じる今夜、漸くPCの前にこうして落ち着いて座ることが出来ました。今晩は、晩秋の宵らしく冷え込んで、マリは大好きなスコッチ(今夜のお供は「ボウモア」のスペシャルエディションです。スモーキーな香りが特徴です)のストレートを傍らに、リハビリ(?)を兼ねました、本当に久し振りの日記を恐る恐る(笑)、のんびりと楽しむことが出来、何故かしら心が浮き立つようです。最近の生活をご報告致しますと、かの「女王様のカフェ」で先週の木曜日の解禁日に因んで、ボジョレーの新酒をお昼下がりから頂くと言う、お仕事に真面目に勤しんでおられた方には、顔を顰められそうな(?)イベントがありまして、マリの日本画の先生と、マリの飲み友達で、今や県会議員となった議員氏の、私設秘書のようなことをしているT氏など、お昼間に都合の付く人間のみが集い、マダムやお手伝いのうら若いお嬢さんを相手に、ワイン談義や他愛の無い冗談話に花が咲き、久し振りに賑やかに過ごしました。そして、好天となった翌日の金曜日は、打って変わって、昨日のご乱行を打ち消すべく(?)、先生と共に、マリの住む湘南地域のこの「椿荘」からは、車で三十分程の場所にある丹沢山系に写生に出向いたのでした。今年から新しくお付き合いの始まった都内のある画廊の依頼で、山水画の軸を描くこととなった先生を、助手としてのお役目に於いてお連れしたのですけれど、先達ても、箱根へと同じ目的で出掛け、とても助かったよと随分先生に感謝されまして、弟子としての「株」を上げたマリは、すっかり気を良くしての同行でした(笑)。そう、マリにとっては大好きで、何度も訪ねたことのあるお馴染みの箱根でしたけれど、勿論マリと先生は優雅な「物見遊山」などではなく、日頃の「仕事」関連のお出掛けでしたので、滞在や食事などで通い慣れた何時もの宮下の「富士屋ホテル」にも、休憩を兼ねたお茶の為にしか立ち寄らず、後は車の中でコンビニエンスストアのお結びを、温かいお茶と共に齧って、後は只管運転手に徹し、「助手」という名誉ながら聊か忍耐を要する仕事に終始して、先生は、只写生帖と筆記用具を携え、これはと思う風景を一心不乱に描くだけの一日となりました。運転手であるマリは、先生が鉛筆や筆を真剣な面持ちで走らせている間は、そのお姿を拝見しつつ、煙草を吸い、読み止しの本のページを繰り、物思いに耽っていれば良いという、一見殆どお気楽としか映らないお役目ながら、移動の際には最新の注意を払ったり、駐停車可能な場所を探したりと工夫も必要で、それなりに苦労も伴います。良い構図を捉えるべく、赤や黄色の溢れる沿道を右往左往し、冷たい地面に座り込んで、風景を凝視している先生こそ難行苦行の最たるものですけれど、眉根を上げて難しいお顔をされたり、目を眇めて写生帖と実際の山を見比べたりとお忙しいご様子は、後半こそ疲れの色が見受けられましたが、「写生は大好き」と飽く事を知らず、それは活気に満ちたもので、その集中力と言い、素早い筆致で描かれたスケッチと言い、やはり絵の才は、後天的な鍛錬のみに依らず、天与のものが多いとつくづく思わざるを得ませんでした。それは今回も同様で、強い日差しの元、夜半に上がった前日の激しい雨の名残である濃い雲や霧で、ところどころ覆われた紅葉の盛りの丹沢山系は美しく、どんどん目前へと近づいて来る錦秋の山々を子供の様に歓声を上げ、熱心にご覧になっている先生を乗せたマリの車は一路目的地へと向かいます。秦野市街を後方に控える、最終目的地のヤビツ峠へと連なる山道の手前で、ちょっとここで描くからと、車を降りられ、駐車場所から少し歩いて下がり、いきなり道路脇にしゃがみ込んだ先生を見て、不安に思わないわけではありませんでしたけれど、構図的には最適な場所らしく早速道具を広げて描き始めるお姿を確認してから、マリは付近の探索です。登山道の入り口らしく緩やかながら勾配のある坂の上に沿って人家がぽつりぽつりと立ち並び、鬱蒼と茂る針葉樹の一群、その傍には橋が架かり、下には清流が音を立てて流れています。年配のハイカーのグループが賑やかに通り過ぎ、紅葉を愛でるハイキングの季節であることを改めて思い起こされました。古い大日堂の山門を守る素朴な表現の一対の仁王像は、長年の風雨に晒され色も褪せ朽ちかけ、それでも威厳を失ってはおらず、格子を覗く者を鋭い眼差しで睥睨します。熱心に写生を続ける先生を注意しつつ目の端に置き、看板を頼りに地元の陶芸家の窯を覗いたり、歩いて辺りを探索するのにも飽きて、先生のご様子を伺いに行きますと、山の稜線が重なり合い、出来た一角の綾錦の斜面が写生帳の中に鮮やかに再現され、出来栄えに頷いてお出ででした。飽くまでも作品の為のスケッチですので、絵として完成されているわけではありませんけれど、今後の展開が予想され、作品として改めて観せて頂ける時がとても楽しみです。次に訪れた展望台で、薄く傘を被ったような富士山をさらりとした調子でスケッチされた後、目的地であるヤビツ峠に向かいました。気候自体が不安定と言うより、山の気候の複雑さの所為なのでしょう、山道を登り進んでいくうちに、どんどん視界が霧で覆われ、暑いくらいだったお昼前の日差しが信じられない程の変化を見せ、連なるカーブを越え、打って変わって現れた幽玄な趣の風景を感嘆を持って眺めつつ、やがてヤビツ峠に到着しました。平日ですけれど、連休前ということもあって、市外からの車も見受けられ、先生のご指示に従い、ご希望の場所に駐車致しますと、今度はダッシュボードの上に写生張を据えられ、これは楽だねとにっこりしながら仰られ、一瞬のうちに集中して、眼前の、霧に所々覆われた山の風景を鉛筆(実はシャープペンシルです)で写され始めました。運転席に座ったまま傍らから覗き込むマリの目には、手馴れた筆致で見る見るうちに描かれて行く、山の稜線に沿って立ち並ぶ、様々な形の樹木の輪郭が、後ろに控える霞の掛かった山の肌に滲むように浮かび上がって来るのです。見る角度を変えながら、次々と流れるように活写されるご様子を感嘆しながら見守っておりますと、軽く色彩を施しつつ先生もご満足の表情で、「このままで『絵』になるね」と仰いました。相変わらずの未熟な、未だ未だ修行中の身の上のマリですけれど、モチーフを目の前にし、画材を手に、四苦八苦しながら実技の勉強に勤しむだけでなく、こうした師の絵に対する姿勢や、画面の構成、対象の捉え方などを実際に目の当たりに出来ることは、本当にこの上なく素晴らしい経験と勉強であることをつくづく思うのでした。
November 28, 2003
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