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2007.12.19
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カテゴリ: Figure Skating

トリノでのフィギュアグランプリファイナルの男子フリーが終わった数時間後(つまり日本では明け方)、朝のニュースで知る前に結果を見ようと、ISUのサイトにアクセスした。今回は高橋選手の優勝が濃厚で、かなり期待していた。ショートで2位につけていたランビエールは今シーズンはフリーで自滅することが多く、これまで成績があがっていない。苦手の4回転を跳ばずに他の要素を正確に決めることで今シーズン絶好調だったウィアーもショートで失敗して4位に沈んでいる。となれば、高橋選手が日本人初のグランプリファイナル優勝者となるのは、ほぼ間違いないのではないか。期待を胸に順位表を見た。

--あれっ......

最終順位は1位ランビエール、2位高橋とある。

がーん!

負けちゃったのか。ということはジャンプで失敗したってことかな? さっそくプロトコル(詳細な成績表)を見る。フリーの総合得点はランビエール155.3と高橋154.74と、えらい僅差だ。

プロトコルを見れば、どんなジャンプを跳び、失敗したか成功したかがすぐわかる。さっそくエレメンツを確かめる。フムフム、ランビエールったら、これまで4回転を2度入れて自滅してきたものだから、4回転を1回に抑えたんだな。そのかわりそこに3連続ジャンプを入れてるじゃないの。その手で来ましたか、ナルホド。ジャンプは回転不足によるダウングレードや転倒はなかったようだが、トリプルアクセルと4回転トゥループでGOEが減点されている。ということは、あまりきれいには決まらなかったということだね。

で、高橋選手は? と見るとずらりとならんだエレメンツにダウングレードもGOEでの減点もない。最初のジャンプは3T、4T、3A。すべてGOEの加点をもらっている。ただ1つ3回転のサルコウが2回転になっている。とはいえGOEの減点はない。じゃあ、ジャンプはすべてきれいに決めたということじゃない。それじゃ、一体何で負けたんだ? 

簡単にいえば、技術点では勝っていた(ランビエール76.2、高橋77.34)。だが演技・構成点で負けている(ランビエール79.1、高橋77.34)。さらに演技・構成点の5つの要素を詳しく見ると、「スケート技術」はまったく同じ。「演技力」では高橋選手のほうがやや点が高く、「要素のつなぎ(つなぎのステップ)」「振り付け」「音楽の理解(曲の解釈)」でランビエールのほうが高かった。

7月18日のエントリーで記事

7月の記事を書いた時点では、今シーズンの高橋選手のフリーはまだどんなものになるかわからなかった。今年のフリーは「ロミオとジュリエット」。悪くはないのだが、去年の「オペラ座の怪人」ほどのドラマ性はなかった。いくらモロゾフ(高橋選手のコーチ兼振り付け師)だって毎年毎年ウルトラ素晴らしいプログラムは作れない。「オペラ座の怪人」がインパクトがありすぎ、あまりに高橋選手にハマリすぎたということもあるが、今年の「ロミオとジュリエット」はメッセージ性が足りない。高橋は「ロミオ」のイメージではない。荒川静香が「トゥーランドット(氷の姫)」ではあっても「カルメン(野性的な情熱の女)」でないのと同じだ。それは皮肉にも、ランビエールがEXナンバーで映画の「ロミオとジュリエット」の音楽(ニーノ・ロータ)を使い、白いバラをジュリエットになぞられて、自身がロミオになりきって演技して見せたことでなおさら際立ってしまっている。高橋選手彼自身も「ロミオを演じるというより、音楽を表現する」と言っている。だが、このスタンスがかなり曖昧で、もう1つこちらに迫ってくるものがないのだ。一方のランビエールのフラメンコ(ポエタ)は、おそらく後にも先にもこれほどのプログラムは作れないだろうというくらいの傑出した芸術性を備えている。それは成熟した大人の世界観であり、ダンスによる情熱のほとばしりだ。これを表現できるのは、その恵まれた容姿とスタイルも含めて、現在のところランビエールをおいてほかには考えられない。

ランビエールのフラメンコがどんなにスゴイかということは7月の記事を読んでいただくとして、テレビで実際の演技を見る前は、「あのプログラムを大きなミスなく滑ったんなら、負けても仕方ないか」と思っていた。

だが、実際のランビエールの演技は、悪い意味で期待を裏切るものだった。ジャンプがかなり調子が悪い。ジャンプに関しては、もしかしたらランビエールは全盛期を過ぎてしまったのかもしれない。3A(アクセル)ではステップアウト、4T(トゥループ)ではお手つきと着氷がひどく乱れた。4回転のかわりにもってきた3連続は成功したが、おそらくは最初のジャンプを3 Lz(ルッツ)にしたかったであろう連続ジャンプは2Lz+3Tになった。ほかは大きなミスはなかったが、このジャンプの失敗は演技全体の印象を大きくキズをつけるものだった。そして、高橋選手の演技はというと、全体的に大きなミスはなく、よかった。後半の3Sが確かに2Sになっていたが、ジャンプに関してはランビエールをはるかに凌駕していた。演技が終わった時点で、解説の佐野稔が高橋の金メダルを確信したような発言をした。佐野は間違っていない。誰だって、あの出来だったら高橋が勝ったと思ったはずだ。Mizumizuも「ええっ? これで負けたの?」と信じられない気分だった。

高橋本人に言わせれば、ステップを含めて細かな失敗があった(たしかにサーキュラーステップでは少しトウがつっかかったようになっていたし、ストレートラインステップではターンが不完全な部分があったかもしれない)ようだが、プログラム全体のまとまりからしたらランビエールよりよかったと思う。ランビエールのフラメンコは、7月にも書いたが、超絶技巧すぎる。あそこまでステップからスピンから難しいものを入れ、上体や腕の複雑な動きを最初から最後まで入れたたら、ジャンプに集中できないのは当たり前なのだ。案の定、ランビエールはやはり今回もジャンプに精彩を欠いていた。なのに、高橋選手が負けた。完璧ではない、「あの程度」の出来のフラメンコに...... 7月の記事でフラメンコを絶賛した本人が言うのも変な話かも知れないが、実のところ、Mizumizuはかなりショックだった。繰り返して言うが、ランビエールがほぼ完璧にプログラムをまとめたのなら、たとえ高橋が同様に完璧にすべって負けたとしても文句はない。だが、今回大きなミスなくまとめた高橋が、目立つミスをしたランビエールに負けたことに落胆したのだ。

あのフラメンコが革新的に素晴らしい振り付けだったことは間違いない。それはステップへの評価にも表れている。誰しも「高橋選手のステップは世界一」と思っている。だが、今回の技術点を見ると、CiSt(サーキュラーステップ)もSlSt(ストレートラインステップ)もランビエールのほうが得点が高い。レベルは両者とも3で基礎点は同じだが、GOEでランビエールのほうが加点をもらっている。その結果、CiStは4.1と4.0、SlStは4.1と3.8。さらに演技・構成点の「要素のつなぎ(つなぎのステップ)」もランビエール7.6、高橋7.4。つまりは得意なハズのステップでランビエールに負けてしまったのだ。スピンで負けるのは仕方がない。ランビエールの強みはスピンだからだ。だが、ステップで負けたというのには、Mizumizuはボーゼンとなった。多少ミスはあったが、高橋選手のステップの構成も超ハイレベルなものだ。そのステップの天才・高橋をもしのぐステップを取り入れたあのフラメンコ・プログラムの超絶技巧ぶりを、ジャッジがいかに評価しているかを見せつけられた気がしたからだ。あくまでダンスとしての芸術性に主眼がおかれ、「レベルを取りに来た」点数稼ぎの構成をしたステップではなかったにもかかわらず。

<明日へ続く>






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最終更新日  2007.12.19 22:47:22


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