かりん御殿

かりん御殿

May 29, 2008
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カテゴリ: 旧(時事/社会/家庭)
亡くなられた川田亜子さんを全く知らなかったので
検索して、動画も見た。
美人で、まだ29歳なのに、もったいない。

もったいない。

私には、同じように
もったいなく自死した友人がいる。

私は、おそらく彼女の最も近くにいた友人だった。
ひょっとしたら、唯一の友人だったかもしれない。
少なくとも、お母様や担任の先生や


彼女の亡くなる二、三ヶ月前か、違う大学に進んだ私達は
久しぶりに神保町で会った。
卒業式の時、彼女は、
「きっと私の事なんか忘れちゃうよ」と言っていた。
それで、私は、その時に「ほら、違う学校でも、
こうやって会えるじゃん?」的な事を言った。
しかし、その時、既に、彼女の昔と変わらない
言葉数の少なさを、どう扱っていいか
わからなくなっている自分に戸惑っていた。
昔、あの校舎では、全く気にならなかった彼女の寡黙。
それが、数ヶ月たっただけで不思議と重く感じるのに驚いた。


彼女は彼女のペースで喋るのだ。
そのペースが、非常に穏やかだった。
私は、逆に、お喋りで早口だ。
知らない人とでも、すぐに打ち解けて喋れるし
言葉が通じない相手とでも長い間をもたせられるくらい

それが彼女にとってはラクだったのかもしれない。
或いは、単に「三銃士」で気が合ったからかも知れない。
私から積極的に話しかけ、いつの間にか
親密になっていたのだった。

以前は、淀み無く流れていた会話が
おそらく、久しぶりに会ったせいだろうか
その流れがつかめない、そんな、もどかしさ、
私の戸惑いに、彼女が気付いていたかはわからない。

高校時代、彼女は、不幸だった。
家庭に対する不満、自信の無さ、その不幸を
淡々と語りながら、実に緻密な美しいイラストを描く。
自分自身を「ウシ」だと呼んでいた。
本当は、とても美しかったのに。
でも、その自信の無さが、また、可愛かった。

彼女は、確かに、思春期らしく、ぽっちゃりしていたが
その分、胸ははちきれそうに大きく
睫が密に長く西洋人形の様な瞳を縁取っていた。
彼女が自分を「ウシ」と呼ぶ度に
私は、いかに彼女が美しく才能に恵まれているか
雄弁に語ったものだ。
他の同級生達にも同意を求めた。
みな、彼女を誉めた。
彼女もクラスの女子達とは和気藹々と
共存していた。
単に深い話をしないだけで
年齢相応の社交性も静かな明るさも、持っていた。

だが、男子と喋る事は殆ど無かった。
彼女の亡くなった後、仲間だった男子達から
「俺達は、いつか、こうなるって言ってたんだ」
と打ち明けられた。

一番近くにいたはずの私は
彼女が自殺するとは全く想像もしていなかった。
ずっと彼女から身の不幸を嘆かれつつも
自殺を連想しなかった。

それなのに、彼女の自殺を知った時、
全く驚かなかった。
そして、悲しくなかった。

そういう方法が、あったのかと思った。
彼女は、どこかに旅立ったのだと思った。
もう二度と会えないとは思いもしなかった。
(今でも、いつか、また会えると思っている。)
だから悲しくなかったのだ。

私も、その時は、こんな長く生きる予定じゃなかったのだ。
すぐに会えるから待ってなよ、等と思っていた。
だから悲しくなかったのだ。

お葬式では泣いたが、その直後の
クラスの仲間達との「二次会」は
「同窓会」ノリで盛り上がった。
私が先陣をきって盛り上げた。
後、外国にいてその場にいなかった男の友人から
「盛り上がったのって、ちょっと残酷だって思ったぜ」
と非難された。

何故、そうやって盛り上げて、悲しくあるべきの会を
思いっきり楽しい会に仕上げたのか
私にもわからない。
しかし、あれで良かったと当時も思ったし
今でも思っている。

私は、その後、生き延びた。
死ぬ為に最適な理由が見つからなかった。
いつも「いや、まだ、こんなもんじゃないだろ」
と思っているうちに、その理由を越えていた。

彼女が死を選んだ(と思った)時、
何も彼女を止められなかった。
彼女を止めるものは無かった。

それが、全ての死の運命なのかもしれない。
選んでいるのではない。
逝く時が来たから逝ったのかもしれない。
選ぶ力なんて私達にあるんだろうか。
私達は、皆、生かされているだけではないか。
だったら、私は、今日を思う存分楽しみたい。
借りた命、借りた時間だから
惜しみなく享受したい。
それに、今の私には、息子達を育てる責任がある。
息子達が成人するまでは、絶対、死ねない。
死ぬ権利なんて私には、もはや無い。
借金取りの様に死神が来ても力尽きるまで闘うつもりだ。


彼女は、地下鉄に身を投げた。
今でも電車が入って来る時、一瞬、緊張する。
何故、彼女は、そのまま跳んだのか。
その時、本当に、これでラクになれると
思ったのだろうか?
ひょっとしたら
運命の手に押されてしまったのかもしれない。
ひょっとしたら、最後の瞬間に、
生きたい、助けて!と叫んだかもしれない。
借り物の命を返したくなかったかもしれない。

でも、結局、彼女は逝ってしまった。
19歳の誕生日を少し過ぎた日に。
私の手元には、相変わらずの筆不精で
また送り遅れた誕生日カードがあった。
何故、誕生日に電話しなかったんだろう?

私は何も出来なかった。
何も出来るはずが無い。
そんな力なんて私には無かったし今も無い。
彼女を助けられるのは彼女だけだったが
彼女は自分を助けなかった。
既に助ける力が無かったのかもしれない。
私には、彼女を励ますこともできなかった。

そして、彼女は、いつまでも、私の心の中で
白い彫りの深い顔立ちで頬を桜色にそめて、
高く厚い鼻を片手で包んで長い睫の瞳を伏せながら
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んでいる。
18歳の頃のままに。






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Last updated  June 3, 2008 09:01:45 PM
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