当然、森氏は囂囂(ごうごう)たる非難を浴びた。
そのため、当初は「森会長は謝罪した。この問題は決着したと考えている」との声明を出していた国際オリンピック委員会(IOC)も、手のひらを返して「完全に不適切だ」などと指摘する声明を発表するに至った。その結果、森氏は辞任に追い込まれた。
これは、森氏の現状認識が甘かったからだろう。自分が悪いとは思わず、自己正当化ばかりする人の現状認識が甘いことは少なくなく、「卵が先か鶏が先か」の関係にある。自分は悪くないと思い込んでいるからこそ現状認識が甘くなるともいえるし、逆に現状認識が甘いからこそ、自分は悪くないと臆面もなく思い込めるともいえる。
【若い女性と不倫を繰り返す夫の「甘さ」】
たとえば、知り合いの40代の女性Mさんは、これまで夫の不倫にさんざん悩まされてきて「次に夫が不倫したら証拠をそろえて離婚届を突きつけ、莫大な慰謝料をふんだくってやる」と決意していたそうだ。
一人息子が大学に進学して寮で暮らすようになったことも、Mさんの決意を後押ししたように見える。
そうとは知らぬ夫は性懲りもなく部下の20代の女性と不倫し、ラブホテルやブランドショップなどのレシートを折りたたんで自分の財布に入れていたそうだ。
Mさんは、夫の入浴中や就寝中に財布を調べるようにしていたのですぐに気づき、興信所に依頼して不倫の証拠を集めさせた。レシートが出てきたラブホテルを興信所に伝えたところ、夫と不倫相手のツーショット写真がすぐに撮れたという。さらに弁護士にも相談し、離婚届をはじめとする書類を準備しておいた。
準備万端整えたうえで、夫が出張と称して不倫相手と一緒に旅行に行っている間に、引っ越し業者を呼んでMさんと息子の荷物だけを実家に送った。そのうえ、夫と暮らしていた家のリビングのテーブルに署名捺印した離婚届と弁護士の名刺、さらに「今後はすべて弁護士を通してください」という置き手紙を残して、Mさんは実家に戻った。しかも、夫の勤務先の会社と不倫相手の実家に不倫を告発する文書を内容証明郵便で送りつけた。
【「謝れば許してもらえる」はずもなく…】
旅行から帰ってきた夫は、離婚届と置き手紙を見て、あわててMさんの実家に電話してきた。しかし、電話に出たMさんの父親が「娘はここにはいないから。これ以上電話しないでくれ。娘と連絡を取りたいのなら弁護士を通してくれ」と告げたところ、夫は「これまでも僕が謝れば、(Mさんは)許してくれたのだから、今回も許してくれるはず。直接会って謝りたい」と泣きついたという。
夫は「謝れば許してもらえる」と思い込んでいたようで、弁護士にも「妻に直接会って謝りたい」と話したらしい。それを聞いて、Mさんは激怒した。「謝れば許してもらえると思っていること自体、甘いのよ。これまで自分がしてきたことを悪いとは思っていないし、反省もしていないから、そんな甘い考えが出てくるんだわ。だから、絶対許さない」というのがMさんの言い分だった。
Mさんは弁護士と相談し、夫に「Mさんが要求している額の慰謝料を払って離婚してくれないのなら、裁判を起こすしかありません。訴状には、現在の請求額の数倍の金額を記載するつもりです」と伝えてもらった。弁護士は、「裁判になったら、不倫の事実が詳細に赤の他人の前で暴露されますよ。会社にも通達がいくかもしれません。これだけ不貞行為の証拠がそろっている以上、奥さんのほうが勝つ確率が高いと思いますよ」と付け加えるのも忘れなかったらしい。
収入が激減したこともあって、夫はMさんが要求した額の慰謝料を払うことを最初は拒否していた。だが、裁判になったら困るという計算が働いたのか、渋々ながら離婚に応じた。慰謝料は分割払いで、支払いが滞ったら、給料を差し押さえるということで合意した。結局、夫の「謝れば許してもらえる」という甘い認識は木っ端みじんに吹っ飛んだのである。
Mさんの夫が40歳を過ぎても「謝れば許してもらえる」という甘い認識を持ち続けていたのは、妻の反応に無頓着で、妻がどれだけ怒っているかに考えが及ばなかったからだろう。
いや、むしろ目を向けようともせず、部下の若い女性との不倫に溺れていたのかもしれない。
(完)
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