ピカルディの三度。~T.H.の音楽日誌/映画日誌(米国発)

Dec 24, 2021
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カテゴリ: 映画、テレビ
「安心、安全」(評価 ★★★★★ 満点五つ星)

 1969年の北アイルランドが舞台。紛争を逃れてベルファストを去るべきか悩むプロテスタント系一家の物語。監督はケネス・ブラナー。
 日本では2022年3月公開とのこと。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ベルファスト_(映画)

 ぼくが今年観た劇映画のなかでは上位三本に入ると思う。
 いろいろと細かいとこはアラもあったけど、演出、編集が一歩上を行ってて、最終的にいー感じに作品に仕上がっている。じわじわと味わえる。
 ただ、白黒で撮られてるし、いかにも映画評論家ウケを意識しているような狙った作風は、特にお若い方々にはうざったく思われるかもしれない。
 そういう意味で、アルフォンソ・キュアロンのメキシコ映画「ローマ」の北アイルランド版と言っていい。

 本作のお題は「紛争の残虐さ」では決してなく、あくまで「家族の絆」。しかし、そんな泣かせようと思えばいくらでも泣かせられそうな題材を、敢えてサクッと軽快にまとめてあるとこがぼくは気に入った。
 それは音楽の使いかたからもうかがえる。バン・モリソン様の楽曲に彩られており、「Everlasting Love」など明るめのイケイケ系ロッケンロウルばかり。


 特に主人公を演じた子役俳優ジュード・ヒル氏。大人の事情を知ってか知らずか健気に毎日を過ごす純情少年を見事に演じていらっしゃった。初めての恋に悩んだり(お相手の少女はカトリック教徒)、万引きしちゃったり、お騒がせ男子。

 大人たちの役は有名な俳優も起用されてて、ぼくも何人か認識できた。父親役のジェイミー・ドーナン、祖父キアランなんとか、祖母ジュディ・デンチ。
 でもむしろ母親役のカトリーナ・バルフさんだかいう初めて拝見する役者さんがひときわ目立ってた。夫が不在がちな家庭で義父母と息子らの面倒を見る肝っ玉母さんキャラという設定ではあるけれど、とても美人さんで色香も漂わせる。劇中でジェイミードーナンの歌を背景に華やかに舞ったりもする。

 映画は好奇心のある少年の目線で進んでいき、必要以上に悲哀感は強調されない。危険な街なのに悪役を悪役として登場させていない。そして最後の最後、祖母のぼそっとした独りごとでこの映画は幕を下ろす。こうゆうとこが実に上手いっ。
 家族の安全安心を求めて激しく苦悩する父親の目線で壮大な家族愛を力強く謳うこともできたであろうに、そうゆう王道をとらず、父を過度に目立たせないようにしてるのは実に効果的。

 それにしても北アイルランド問題、遠い昔の話というわけでもない。ぼくはたしか2005年にベルファストを訪ねたことがあって、現地在住の友人に根掘り葉掘り聞いていろいろ教えてもらって、それでもなかなか理解できなかったのを覚えている。いたるところに武装したお兄さんが立ってて、どの公共施設に入るにも金属探知の門をくぐって、みたいな日常で暮らすのに慣れてしまってる市民たち。

 この映画に何度か出てくる台詞で、父親が息子に言葉をかける言葉が印象的だった。「Be good, but if you can't be good, be careful(いい子にしてなさい。それが無理ならせめて気を付けて」。少年も既に呪文のように覚えてしまっている。





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最終更新日  Dec 26, 2021 07:01:05 PM
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