May 7, 2008
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◆前回までの小説のあらすじ◆は、今回の記事の下のコメント欄をご覧くださいえんぴつ

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 明日も仕事があるにも関わらず、今日に限って家まで送って行くと言うと、普段なら喜んでくれるくるみが、今日に限ってここまででいいと僕の申し出を断った。
 無理もないよな。くるみも、相当思い悩んだに違いない。
 それなのに一体どういうつもりなんだ、紗英にお見舞いなんて言って雑誌を渡すなんて。僕には全く理解できなかった。案外、直接話し合ったことで、二人は親しくなったとでもいうのか?いや、今日のくるみはとてもじゃないけど、そんな感じには見えなかった。
 紗英も何でくるみに会ったことを僕に話さなかったんだ。僕が言い出せないでいるからって、何の断りもなく、くるみに会うなんて。僕は紗英の身勝手な行動に腹を立てながら、くるみに打ち明けるのを先延ばしにしていた自分の不甲斐なさを後悔していた。
 揺れる電車の中、右手で吊革を掴む僕の姿が窓に映っている。左脇に挟むようにして抱えているコンビニの袋の中で、一冊の雑誌が僕を憐れんでいるような気がした。

 家に着いて玄関を開けると、中は暗く静まり返っていた。
 紗英はどうやら早めに寝たようだった。普段ならまだ起きていて、テレビでも観ている時間だったが、よっぽど疲れていたのだろうか。
 僕は抱えていた雑誌をリビングのテーブルに放って、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。何となくそれを額に当ててみる。冷えたアルミ缶の感触が心地いい。
 リビングに戻りソファに腰を下ろすと、今日の疲れが全身にのしかかってくるようだった。
 紗英には、言ってやりたい事が山のようにある。だが起こしてまでは・・・。明日の朝話すか?いや、出勤前の短い時間に話すようなことじゃないよな。
 プルタブを開けると閉じ込められていた炭酸が、指先で破裂するように拡散した。一缶目をすぐに空け、二缶目を飲みだして、ぼーっと天井を眺めていると、リビングのドアが開いた。
「お帰り」
 寝ぼけた声でそう言いながら紗英は冷蔵庫に向かい、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
「お帰りじゃないよ、お前さ、一体、何考えて」
 紗英はちょっと待ってというふうに片手を僕の方に軽く振り、ミネラルウォーターをグラスに注いで飲み干した。
「くるみさんに会ってたんでしょう。彼女怒ってた?」
 唇の端を指で拭いながら、紗英が話し出した。
「何でくるみに会って話したこと、僕に黙ってたんだよ」
「だって、くるみさんが、吾朗ちゃんには黙っててって言うんだもの。ちゃんと吾朗ちゃん本人の口から説明があるのを待ちたいって」
「だからって、従兄妹じゃないって話までしてるなら、その辺ちゃんと僕たちで擦り合わせておかないと、矛盾が出たりするだろう?」
 紗英は心持ちムッとした顔で、キッチンの椅子に腰を下した。
「それくらいはさ、現場で臨機応変にやってよ。何とかくるみさんと話ついたんでしょ?」
「あぁ、まあ、とりあえず、二ヶ月だけって約束で」
「あれだけ挑発しておけば、多分、大丈夫だと思ったんだ。彼女、打たれ強いっていうか、打てば打つほど、反発してきそうな感じだったから」
 そう言うと紗英は、目を細めて可笑しそうに笑った。
「くるみさんって、可愛いね」
 僕は張りつめていた気持ちが、次第に緩んでいくのを感じていた。
「思っていたよりは落ち着いて話せたけどな。もっと泣いたり、怒ったりするだろうと思ったけど。ひょっとして紗英が先に話してくれたのが良かったのかもな。くるみが分かってくれるんだったら、さっさとこうしてれば良かったかもな」
 疲れた体に酔いがまわってきたせいかもしれない。何だが調子づいて喋っていた。だが、そんな僕に、紗英は冷ややかな視線を投げつけた。
「そんなもんじゃないと思うけど」
「何がだよ?」
 そんなこと分かっているくせに、僕はわざと聞き返した。くるみのことを思ったら、今の僕の発言は軽率だったと思う。だからって、そんなふうに紗英に言われたくはなかった。僕だって、分かっている。
 でも次に返ってきた紗英の言葉は、僕の理解できる範囲をぽんと飛び越えた。
「私だって、そんなもんじゃない」
 え?
 面食らった僕を置いて、紗英は部屋から出て行こうとした。
「ちょっと待て、今のはどういう・・・」
「気にしないでー。ごめん、疲れてるから。おやすみー」
 食い下がろうとする僕に、紗英はまたもや軽く片手を振って行ってしまった。
「あいつ、何だって言うんだ?」
 元カノだってことは伏せておいてくれたこと、礼を言いそびれた。いや、礼なんかいらないか。そんなことバラしたら、くるみが黙っていないことくらい分かるはずだし、そうなったらここに居られなくなって困るのは紗英自身なんだから。
 僕は缶の中に残っていたビールを、一気に喉に流しこんだ。
 そうだ、雑誌。紗英に渡すのを忘れていた。
 テーブルの上に置かれたままの雑誌を手にとって、パラパラとめくってみる。流行りの服を身にまとった人気モデルたちの写真が、何ページにもわたって掲載されている。それから、ダイエット、スイーツ、レストランやカフェの情報、占いなど、どこにでもあるような女性情報誌だった。
 だが後になって、紗英がこの雑誌を見ていた理由を知った時、僕は愕然とすることになる。
(つづく)



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Last updated  May 7, 2008 05:35:34 PM
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