東方見雲録

東方見雲録

2025.01.12
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カテゴリ: 郷土
―八雲の没後120年だった昨年に続き、朝ドラが放映される今年は小泉八雲やセツが再評価される年になりそうです。八雲が作品を通し、現代人に問うていることは何でしょうか。

 「日本では、生者も死者も共生しているという感覚が、生活の中でどこか残っています。お盆には祖先が帰ってくると信じています。先祖の力で生かされているような感覚さえあり、人々は謙虚です。先祖そのものが『神』という考え方は、キリスト教にはありません。『知られぬ日本の面影は』には、そういった日本人の精神生活がちりばめて記述してあると思います。それから、同書には実は54の怪談話がちりばめてあります。そのほとんどはセツが語った話ですが、新婚旅行の途中で宿屋の女中さんから聞いたとされる話もあります。怪談は、人間と自然をつなげたり、生きている人と死んだ人をつないだり、現実世界と目に見えない世界をつないだりします。ですから、現代社会で問題になっている、分断や対立、戦争とは、むしろ逆の世界なんですよね。そうした『つながりの感覚』が、今の時代に求められているんだと思います。それがハーンの作品が注目される大きな理由ではないでしょうか」

 「ここ2年間だけでも、世界のいろんな場所で八雲の怪談が再評価され、いろんな芸術表現が行われています。イタリア・ミラノでは2022年に『怪談展』が開かれ、9万5千人もの来場がありました。アイルランドの画家やアーティストたちの提案で、怪談をテーマとする芸術写真と版画展が今、日本とアイルランドの両国で巡回しています。昨年2月には、松江市と姉妹都市の米国ルイジアナ州ニューオーリンズで、マルディグラという大きなカーニバルのメーンのパレード団体が、ラフカディオ・ハーンをテーマに26台の山車を作り、100万人の見物客の前を練り歩きました。朝ドラ『ばけばけ』が決まったこともそうですが、今、八雲が各地で必要とされていると感じます」

 ―少しドラマに関してお聞きしたいのですが、セツが果たした役割を教えてください。

 「怪談のような再話文学を作るに当たって、セツはネタを探してきたり、提供したりする人でした。東京に行ってからは、セツが古書店巡りもしていたようです。夫の好みそうな江戸末期の奇談集を探してきて、一通り目を通して、夜になると語ったりしていました。もう一つは『語り部』としての役割です。ハーンは日本語は読めませんし、流暢(りゅうちょう)な日本語で語られても、理解できませんでした。2人のコミュニケーションには独特な『ヘルン言葉』が使われました。例えば助詞を抜いたり、活用をなくして単語を並べたり。時には『ママ様に願う 自分のからだ可愛がる』『ありました ない』など、動詞を先に置く英語的な表現も使われます。その点でもセツは優れた語り部だったのです」

 「さらにはセツの回想録を見ると、構成段階にも関わっています。出版社に一度送った原稿が送り返されてきて、それをセツが提案して適切な言葉に直すなど、共同著者と言ってもいいような役割を果たしていました。セツは元々文学少女で、貧窮生活でなければ学問を究めた人になったかもしれません。八雲もセツも貧しさを経験し、一度結婚生活にも失敗し離婚を経験している。お互いに似たような境遇を知っているんですね。子どもの頃から物語や怪談が大好きだったという共通点もあります。非常にいい夫婦だったんだと思います」

引用サイト: こちら




 イタリア・ミラノへ行ってきた。9月9日から現地の日本企業「テノハ・ミラノ」が開催している「怪談と八雲」をテーマとする展示会が目的だった。ミラノが、八雲ゆかりの地ではないところに特に興味が湧いた。

 展示会場は、1100平方メートルの面積を持ち、テーマ別に九つの部屋が設置されている。部屋のテーマは「雪女」「十六桜」「猫を描いた少年」「ろくろ首」「伊藤則資(のりすけ)」「河童(かっぱ)」「浦島太郎(夏の日の夢)」「狐(きつね)」「生霊」。



 とりわけ、ラコンベ氏が日本のアニミズムの象徴として描く木霊(こだま)・蝶(ちょう)・狐などのイラストはかわいくもあり、怪しくもあり、展示にアクセントを添える。すなわち、八雲が再話した日本の怪談を、ラコンベ氏が画集にし、それをイタリア人のクリエーティブ・ディレクターと米国人のグラフィック・デザイナーが作り上げたのが今回の展示だ。

 ラコンベ氏と八雲の事跡を紹介するコーナーには、小泉八雲記念館(松江市)から提供した資料も展示されている。また展示会場の入り口には赤い太鼓橋が設置され、その奥は異界であることを示唆する。展示会のテーマは「日本の幽霊と精霊たち」だが「赤い橋を渡るな」というサブタイトルに遊び心をくすぐられる。

 私は10、11の両日に計5回のギャラリートークと、11日夜に講演を行った。ギャラリートークでは、部屋ごとに作品のメッセージや創作秘話、民俗学的意味を語りながら案内した。イタリア語の通訳を介するので1周70分を要した。

 驚いたことに、各回30人以上の参加者があり、あまりにも熱心に耳を傾けてくれるので感動と高揚感を覚えた。概して若年層の女性が多い印象だった。そもそも展示会の入場料は16ユーロ(約2300円)だが、始まって2カ月余りで3万人以上が来場し、週末は身動きがとれない状況だ。

 客層の大半はミラノ市民。ミラノはそもそも日本ファンが多い土地だという。テノハが週末に開催する日本文化のワークショップの常連客や学生も多い。ローマ法を学んでいるという博士課程の学生からは「一度日本に行ってすっかり文化に魅了されたので、今回、あなたの話を聞けて幸せだった」と帰国後に丁寧なメールまでいただいた。

 「超自然の物語には一面の真理があるので、それに対する人間の関心は何百年たとうが不変だ」(「小説における超自然的なものの価値」)と予言した八雲の言葉が頭をよぎる。人間中心主義の限界を感じる世界の人々が<日本の見えざるものの世界>へ引き込まれていくのは必然なのかもしれない。

 (小泉八雲記念館館長)

引用サイト:山陰中央新報   こちら

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Last updated  2025.01.13 21:16:35
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