東方見雲録

東方見雲録

2026.01.27
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カテゴリ: 政経


© 東洋経済オンライン

高市政権は「財政健全化の目標」に関して、従来の「プライマリーバランス(PB)黒字化」から転換し、「政府債務残高の対国内総生産(GDP)比の引き下げ」を新たな目標に据えた。そして、「責任ある積極財政」というキャッチフレーズを掲げ、成長と財政の持続性を両立させるとしている。これは一見すると、成長を重視する柔軟な財政運営のように思える。しかし、この方針転換には重大な問題が潜んでいる――。
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PBとは「税収などの歳入」から「利払いを除く歳出」を引いたものであり、「利払いを除けば、新たな借金に依存せずに財政を回しているかどうか」を示す指標だ。したがってPB黒字とは、新規の国債発行が利払い分に限定されることを意味する。

この指標は、政策当局の裁量によって直接コントロールすることが可能だ。そして、毎年度の歳出・歳入構造に即時的な制約をかける。つまり、PBは「今この瞬間の財政規律」を問う、極めて厳格な基準なのである。

一方、「政府債務残高対GDP比」は、分母(GDP)がインフレや名目成長で拡大すれば、債務が増えても比率は下がりうる。このため、単年度の財政運営を直接拘束することはない。したがって、財政赤字を続けながらでも「目標が達成された」と説明できる余地がある。
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さらに、将来のGDPの推計には多大な誤差が発生しうる。過大に推計しても、チェックは容易でない(PBの推計にも同じ問題があるが、GDPの推計のほうがはるかに難しい)。



一方、PBは利払いを除いた歳入と歳出の差であり、「借金に依存しない財政運営ができているか」を測る規律指標だ。したがって、PB目標そのものを事実上撤回し、「数年単位で確認する」と曖昧化することは、財政運営の責任を不明確にする。

そして現実には、財政再建を先送りするための装置として機能することになる。だから、これは財政健全化のための手段ではなく、説明責任を弱める効果を持つ。
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成長を期待して財政規律を緩めるという発想は、成長の条件そのものが失われつつある日本においては極めて危険なものなのだ。

積極財政を正当化する議論では、しばしば「日本国債は自国通貨建て国債であり、デフォルト(債務不履行)の心配はない」といった主張がなされる。しかし、問題はデフォルトではなく、金利上昇である。

インフレ率が上昇し、財政拡張が常態化すれば、長期金利には上昇圧力がかかる。これは市場の自然な反応であり、金融政策だけで完全に抑え込むことはできない。実際、日本でも最近タームプレミアム(より長い年限に対する追加的な要求利回り)の上昇が観測されており、国債市場はすでに財政運営に対して警戒シグナルを発している。
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高市政権型の「債務残高対GDP比+積極財政」は景気対策や人気取り施策を打ち出しやすいため、政治的に扱いやすい。しかし、これは「望ましい」こととは別問題だ。

日本経済の潜在成長率は極めて低い。人口減少が確定しており、金利が上昇局面に入りつつある。そして、債務残高がすでにGDPの2倍超になっている。この状況で、債務残高対GDP比という“名目的に成長すればクリアできる条件”に依存するのは極めて危険だ。

現実的に望ましい枠組みは、次のようなものである。まず、PBの黒字化を中長期の中核目標として維持する。そして、恒常的なPB赤字は明確に否定する。ただし、単年黒字化には固執しない。景気対策は期限付きで例外扱いとする。そして、債務残高対GDP比は補助指標にとどめる。

このように、PBを「いかり(アンカー)」とし、債務残高対GDP比は「参考指標」とする位置づけが最も健全だ。
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Last updated  2026.01.27 09:00:06
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