草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2018年09月28日
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第 三百三十七 回 目

     劇映画  『 ビッグチャレンジ! 』  その四


  (56) 商店街

  活気のない寂れた通りを、一太郎が行く。くたびれた表情で立ち止まり、ぼんやりとトイ類を眺めて

いる一太郎に、オコチャ店の店主が声を掛けて来た。

 店主「まあ、こちらにおはいりなさい…、今お茶でも差し上げましょう」

 一太郎「あッ、これはどうも…、恐縮です」

 店主「昨今じゃあ、御覧の通りこの界隈もすっかり寂れてしまいました」

 一太郎「本当に我々庶民には、暮らしにくい世の中になりました」



限りです」

 一太郎「(近くの玩具を手に取って)子供の時分には、夢で胸が膨らむ思いがしたものです。たとえお

腹が空いている場合でもです」

 店主「夢だけでは誰も生活して行くことは出来ないってね。うちの親父はよく、子供には夢や希望が米

の飯以上に必要なのだって、そう口癖のように言ってましたが」

 一太郎「夢と希望ですか……。あっ、これはとんだお邪魔を致しました。お蔭で疲れがいっぺんに吹き

飛びました」と、さっきとは別人の如くに元気な足取りで、店を出る。

  (57)ホテルのラウンジ・コーナー(別の日)

  急ぎ足でやって来る一太郎。目で誰かを探すようにしていたが、隅の席で向かい合って座っていた一

組みの男女に、視線を止めた。つかつかとその隅の席に近づき、

 一太郎「好子さん、遅れて済みません」と、中年の女性の隣りに腰を下ろした。吃驚する二人。



厚い封筒を手に取り、女性の両手に握らせた。

 男「君ッ、失礼にも程があるじゃないか!」

  男は怒りで全身を震わせている。周囲の視線が一斉に三人に向けられた。

 一太郎「(相手を威圧するような落ち着き払った態度で、しかし低声で)静かに。大きな声を出すと

貴君の為になりませんよ。今、所轄のお巡りさん達が此処に向かっている途中です。早くこの場を立ち去



 男「失敬な。北大路さん、改めて御連絡します…」と、顔色を変えた男が這々の体で退散して行った。

 北大路好子「日本さん、御親切にどうも有難う。でも、どうして分かったの、私達がこの場所に居るっ

てことが…」

 一太郎「以前にも此処で、あの男と会われているのを、数回お見掛けしていましたので。さっき、御社

に伺いました折に、後輩の方から気になる事を耳にしたので、こんな事ではなかろうかと」

 好子「じゃあ、さっきの警察の話は―」

 一太郎「ええ、嘘です。口から出まかせです、私なりに一生懸命でしたから」

  急に、大粒の涙を流す好子。

 好子「私だって、男の人からキレイだって、一生に一度でいいから言われたかった。夢よ、乙女チック

な、本当に子供染みた感情だわって、自分でも思うのだけれど……」

 一太郎「 ―― 」

 好子「私、知ってたよ、全部嘘だって、結婚詐欺だってこと。でも、わたしはバカだから、それでも好

いと思った。お金なんか、いくら貯金してたって私の為に、何もしてくれないもの……」

 一太郎「(言葉もなく頷く)」

  (58) 大衆演劇の劇場・中(別の日)

  赤や青の原色のライトが点滅する場内では、劇団の花形・早乙女誠也の華麗な日舞が演じられ、独特

な熱気に包まれている。その舞台に近い席に、お得意先の女性副社長を招待した一太郎が居る。

 一太郎「如何ですか、お気に召しましたでしょうか?」と隣の副社長の耳元に囁いた。

 副社長「予想外に楽しいです」と、まるで少女のように上気し興奮している。

 一太郎「良かった……」と、満足げである。

  (59) 同・表

  公演を終えた座員たちが総出で観客を見送っている。副社長も先客たちに見習って花形に握手を求

め、子供のようにはしゃいでいる。

 副社長「日本さん、是非もう一度ここへ連れて来て下さいね」と一太郎に耳打ちした。

 一太郎「はい、畏まりました」

  一太郎は、満面の笑顔である。

  (60) 町の食堂(夕方)

  一人で、少し早目の食事をしている一太郎に、店員が声を掛けた。

 店員「お客さん、今日は何か嬉しいことがあったみたいですね」

 一太郎「うん。でも、どうして分かったの」

 店員「うちみたいなちっぽけな店でも、商売は商売ですから、御客さんの事っていつも気になるので

す。たとえ一回限りの一見(いちげん)さんでもです」

 一太郎「そういう物ですかね」

 店員「増して、お客さんの場合は常連さんですから、特別に…」

 一太郎「有難う。気が向いた時にしか来ないのに―」

  店員はカウンターの中のマスターを気遣いながら、

 店員「俺ですね、早く料理の腕を磨いて、値段は安いけれど、飛び切り味が良いと言われるような、

自分の店を持つのが夢なんです」

 一太郎「成程、大きな夢があるんだ」

 店員「ちっぽけな、だけど、オレにとっては大切な人生の目標なのです」

  その時、新しい客が入って来た。鬼田幸三であった。

 鬼田「なんだ日本君、随分としけた所で、ささやかな夕食ですねェ」

  店員が露骨に嫌な顔をするのにも、全く意に介さない横柄な態度である。

 鬼田「ビールをくれ!」

  一太郎の隣に、ドッカと腰を下ろした。

 一太郎「お疲れさまです」と涼しい顔をしている。ムカッとした口調で、尚もしつこく絡んでくる鬼

田。

 鬼田「大体、あんたの女房が気に喰わないネ、貞女ズラして……。少しぐらい別嬪だからって、鼻にか

けやがって―」

 一太郎「妻の悪口は、止めて下さい」

  静かだが強い口調に、一瞬ギクリとするが、更に絡んで来る鬼田。

 鬼田「第一、亭主のあんたがだらしがないよナ。おい、ビール早く呉れ」と催促し、出されたビールを

一気に呷った後で、

 一太郎「どう、一杯。僕が奢るからさ」

 一太郎「まだこの後営業の仕事なので、遠慮します」

 鬼田「チェッ! 馬鹿じゃないの、あんた。亭主が謹厳実直に、模範亭主を絵に描いたように仕事して

いる隙に、自慢の美人の奥さんが、他の男と浮気しているってネ」

 一太郎「止せって言った筈だ」

  キッと向き直った一太郎の迫力に、タジタジとなる鬼田だが、余程虫の居所が悪いのか、

 鬼田「暴力はよせよ、暴力は…。僕の言いたかったのは、男には甲斐性ってものが必要だって事。君

のように唯馬車馬の如く仕事、仕事って働くだけが能じゃないってこと。時には女遊びや、浮気の一つも

出来ないようでは、肝腎の営業の成績だって、伸びやしないって言いたいの」

 一太郎「ご忠告有難う」

  勘定を済ませて出て行く。呆然と見送っていた鬼田が、突然大声を挙げて泣き出した。

 鬼田「チクショウ、夫婦で、この俺様をコケにしやがって……」と、地団太を踏んでいる。

  (61)日本家・リビング(深夜)

  一太郎が玄関から入って来て灯りを点けると、桜子が一人でテーブルの前に座っていた。

 一太郎「何だ、まだ寝ないでいたのか?」

 桜子「……」、浮かない表情である。

 一太郎「何か心配事でも?」

 桜子「いえ、特別の事ではないのだけれど…」

 一太郎「さっきの、電話での話の件だけど…」

 桜子「男同士の附き合いに口を挟むなと、あなたは仰るけれど、鬼田さんだけは―」

 一太郎「口は確かに悪いが、根っからの善人なのだ、あの人」

 桜子「そうかしら?」

 一太郎「そうかしらって、君は僕の言うことが信じられないのかい」

 桜子「そうじゃありません。ただ、鬼田さんの件だけは、どうか考え直して頂きたいの」

 一太郎「諄いよ!(珍しくイライラとしている)君はそうして、僕の事を一から十まで全部支配しよう

とするのだ。結構腹黒いんだから」

 桜子「まあ、腹黒いですって……、あんまりだわ」、横を向いて涙ぐんでいる。一旦置いたカバンを手

に持つと、一太郎は、

 一太郎「二、三日は会社の方で寝泊まりするから…」と再び家を出て行った。

 一太郎のモノローグ「自称ライバルの鬼田幸三が妻の桜子にストーカー行為を繰り返し、挙句に桜子

から手酷い肘鉄砲を喰らった経緯を知ったのは、大分時間が経過してからの事だった」

  (62) J M C のオフィス(早朝)

  ガランとした部屋。自分のデスクにうつ伏せになり、仮眠をとっている一太郎。突然、電話が鳴っ

た。ガバッと跳ね起きて、受話器を手に取る一太郎。

 一太郎「はい、……、何だ、間違い電話か……」

  それから、デスクの上に置いたままの自分の携帯電話に視線を遣り、しばし思案する一太郎。――

時間経過。誰も居ない部屋に一太郎ひとりだけが居る。深夜である。仮眠をとろうとするが、眠れない。

時々、デスクの上の携帯に目を向ける。まだ、迷っている。

  (63) 最寄りの駅(夜)

  睡眠不足と疲労とで憔悴した表情の一太郎が出て来る。

  (64) 住宅街の通り(夜)

  重い足取りで歩む一太郎の足が止まった。見ると、正装した桜子の後ろ姿が角を曲がろうとしてい

る。ハッとなる一太郎。桜子の跡を追う。

  (65) 表通り

  先を行く桜子が手を挙げてタクシーを止め、乗り込んだ。続いてやって来たタクシーに、

 一太郎「済みません、あの先を行くタクシーの後を追いかけて下さい」

 運転士「はい、畏まりました」

  一太郎の表情が固い。

 運転士「失礼ですが、御客様は興信所の関係の方でしょうか? 近頃に始まった事ではありませんが、

増えているそうですね。つまり、人妻の火遊び、ですか…。こういう稼業をしてますと、ごくたまにで

すが明らかに水商売の女性ではない、すっ堅気の女性から誘われることがあるのです。わたしお金がない

ので身体で払うわってネ。本当なんですよ」

  一太郎は、無言である。先行するタクシーから降りる桜子。続いて、少し手前でタクシーを降りる一

太郎。

  (66) 暗い道

  先を急ぐ桜子の後を追う一太郎の緊張した顔。メイクした桜子の顔は、息を飲むほどに美しい。

  (67) 神社

  拝殿の前で、一心に祈りを献げる桜子。

 桜子の祈り「夫が、一太郎がセールスの仕事で成功致しますように、お願い申し上げます」

  離れた所から、その姿を見守る一太郎。言葉は聞こえなくとも、妻が何を神に祈願しているのかは、

ストレートに伝わって来る。一太郎の見た目の桜子の姿が、涙で滲んで、霞む。

  (68) 郊外の駅(数日後)

  列車から降りて来る一太郎。

 一太郎のモノローグ「次の日曜日、私は娘の美雪が働く果樹園農家を訪れた」

  (69) 道

  地図を見ながら、一太郎が山の方に向かう。

  (70) 果樹園

  農家の主人から指導を受けて、真剣な表情で作業に打ち込む美雪の姿がある。少女に案内されて来た

一太郎が足を止め、働く娘の姿に見入る。

 一太郎「……」、その顔に満足げな笑みが浮かんでいる。

  (71) サッカー場

  観客席に、一太郎と二男・正次の楽しそうな姿がある。

 一太郎のモノローグ「次の日曜日にも、私は家族の一人と正面から向き合う時間を持った」

 正次「ナイスシュート!、あっ、外れたか……、残念」

  父親の一太郎もゲームの内容に惹き込まれ、息子以上に熱中している――。

  (72) 日本家・台所(別の日)

  エプロン掛けした一太郎が慣れない手つきで包丁を持ち、料理をしている。その表情はかなり真剣で

ある。

  (73) 同・二階の健太の部屋

  ドアをノックして、一太郎が入って来た。

 一太郎「母さんから、カレーライスが好物だって聞いたから、作ってみたんだ」

  ベッドの上に横になっていた健太が、むっくりと起き上がり、少しムッとした表情ではあるが、父親

の差し出したカレーの皿を受け取った。

 一太郎「あまり自信はないのだけれど、食べてみてくれないか」

 健太「うん……」と一口食べた後、続けて二口、三口とスプーンを口に運んだ。「旨いよ、有難う」

 一太郎「そうか。それは良かった。あっ、今冷たい水を持ってくるからナ」と、子供の様に浮き浮きし

ている。

 一太郎のモノローグ「日曜日を使っての家族奉仕の時間は、少しばかり効果を発揮したのだが――」

  (74) ゴルフ場・コース(別の日)

  得意先の重役のお伴で、一日キャディ役を買って出た一太郎が、汗だくでサービスにこれ努めてい

る。

 一太郎のモノローグ「仕事の方は一向に、好転の兆しが見えないのだった」

  パットが決まらずに不機嫌な重役に対して、不器用な一太郎は、臨機応変の対応が出来ないのだ。

  (75) 別の会社の重役宅

  祝日に、得意先の重役の自宅に出掛け、無料奉仕で庭木の手入れを買って出た一太郎。

 重役「日本君、本当に大丈夫なのだろうね?」

  脚立の上に乗り、植木バサミを使っていた一太郎が、元気よくそれに答えた。

 一太郎「これでも若い頃には、植木職人の見習いをしたことがあるのです」

 重役「ほう、するとプロの腕を持っているのだ、君は」

 一太郎「昔取った何とか、と言いたいところなのですが、実は、半年ほどで馘首(くび)になりまし

た」

 重役「えっ、半年でクビ!」、とても不安げである。

  (76) J M C ・オフィス(朝)

  遅れて出社して来た一太郎の顔を見るなり、課長が声を掛けた。

 課長「遅刻だよ君、さっきから部長がお待ちだ」

  即座に、部長の所に行く一太郎。

 一太郎「部長、遅くなりまして申し訳ありません。お得意様へ直行したものですから」

 部長「この方のオフィスを訪ねてくれ給え。社長の知合いで、業界では セールスの神様 と異名を

取るくらいの、凄い女性だそうだ」と、一枚の名刺を手渡した。

 一太郎「畏まりました」

  一太郎が名刺を見ると、『 南亜モーター販売、営業担当、新谷 春子 』とだけある。

 一太郎「部長、この方をお訪ねして、一体何を致したら宜しいので?」

 部長「兎に角、行ってみたまえ。行けば解るようになっているから」

 一太郎「はい」





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最終更新日  2018年09月28日 12時14分13秒
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