草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2019年06月05日
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第 四百三十五 回 目

       台本の試作品候補として

   「 嫉妬 」

 人物:青木 拓也(若いサラリーマン)

    逢坂 晴海(拓也の恋人)

    青木 夢路(拓也の母親)

    津村 あゆみ(拓也の妹、主婦)

    屋敷 清香(拓也の死んだ友人の妻)



    大学病院の待合室の一隅



の三人。

 夢路「晴海さん、今日はわざわざお見舞いに来ていただいて、有難う。せっかくの日曜日だと言うのに

こんな年寄りの顔を見に…」

 晴海「とんでもありませんわ。もっと早くに伺うのが本当なのですが」

 拓也「晴海さんはねえ、歳は若いけれど仕事が切れるので、会社から大切にされているので、なかなか

時間が自由にならないんだよ、母さん」

 夢路「素晴らしいお嬢さんだこと。お前には勿体無いようなお人だね」

 拓也「僕だって、こう見えても結構職場の同僚などからは、一目置かれている有望株なので、母さんが

心配する程ではないのだよ」と、一寸すねてみせた。

 夢路「おや、それはお見それしました。拓坊や」

 拓也「またこれだ、母さん僕はもう三十をとっくに過ぎているのですよ」



 そこへ拓也の妹・津村あゆみと屋敷清香が連れ立って、やって来た。

 あゆみ「遅くなって御免なさい。病室に行ったら此処だって聞いたものだから」

 清香「大変御無沙汰を致して居ります」と夢路に挨拶した。

 夢路「まあ、まあ、屋敷さん、お久しぶり。もう何年になりますかしら」

 清香「五年ぶりくらいでしょうか」



お辞儀を返した。

 そこへ看護士がやって来て、夢路に声を掛けた。

 看護士「青木さん、時間ですので病室の方にお戻りください」

 夢路「はい、分かりました。只今参ります」

 拓也「じゃあ、一寸僕、病室まで一緒に行って来ます」と、母親の車椅子を押していく。晴海、あゆ

み、清香の三人がその場に残った。

 あゆみ「ああ、そうそう、御紹介が遅れてしまいましたね。こちらが兄のガールフレンドの逢坂晴海さ

ん。そして晴海さん、こちらが兄の亡くなった友人の奥様・屋敷清香さん」

 晴海「拓也さんからお噂は伺って居りました。亡くなられた御主人とは無二の親友だったとか」

 清香「はい、主人だけでなく私自身も大変よくして頂きました」

 あゆみ「家の兄は誰にでも優しい人ですから。特に清香さんのような美人には、特別に。私は妹だから

美人でなくとも優しくしてくれますが」

 晴海「あゆみさんは、美人ですわ。私こそ、美人には程遠いのですが、幸いに好意を寄せて頂いてます

わ。ラッキーなんです、私」と一人で嬉しそうにはしゃいでいる。そこへ、拓也が戻って来る。

 拓也「どうだろうか、皆して顔を合わす機会はめったにないのだから、お茶でもどうですか、清香さ

ん。もし、お時間に余裕がお有りでしたら」

 清香「ええ、ご一緒したいわ」

 あゆみ「支払いの方は、勿論、兄さんが持つのでしょうね」

 拓也「当然だろう、こんなに美人ばかりに取り囲まれては、無理してでもそうしなくては」と軽くおど

けて見せた。一同から笑いが漏れる。


    都会近郊のハイキングコース

 軽装の拓也と晴海が仲良く歩いて来る。天気は快晴であり、木々の間からは小鳥の楽しげなさえずり

声が聞こえてくる。

 拓也「この辺で小休止しましょうか」と、近くの木で出来たベンチを示した。腰を下ろして直ぐ、

 晴海「私、今朝からどんな風に拓也さんにお話したらよいのか、迷っていたのですが…」

 拓也「何か、重大な事ですか」

 晴海「いいえ、少しも。でも、私には重大な事に思えて仕方がない事なのですわ」

 拓也「何だろうか? 僕たちもう直ぐ結婚するのだし、君にとって重大なことは、僕にとっても同様だ

からね」

 晴海「誤解してもらいたくないの。でも、思い切って言うわね。あなたは、拓哉さんは女性に対して

とても優しすぎる気がするの。あの病院に行った時のお母さんに向けた、あの眼差し。例え実のお母さん

に対してでも、あれ程に愛情溢れる眼差しを、私以外の女性に向けて欲しくは、ない」、拓也が吃驚して

言葉を挟もうとしたのを、遮って、「この際、全部言わせてくださいね。お母さんに対してばかりでは

ないわ。妹のあゆみさんに対する態度も、普通の兄妹の限度を超えている。いえ、そればかりか、親友の

未亡人、確か清香さんだったかしら、清香さんにも普通以上に気を配り過ぎていた」

 拓也「君の気持ちは、今の話を聞いてみて、分かったのだけれど…。一体、僕はどうしたら良いのだろ

うか」

 晴海「この際ですから、私が拓哉さんに対して感じていた不満を、全部さらけ出してしまうわね。自分

でも自分の感情を常軌を逸していると思う。でも、私にはどうしても我慢が出来ないのです。理不尽な

嫉妬だし、拓哉さんには迷惑な事かもしれない。いや、実際に迷惑を通り越しているかも知れません」

 拓也「言葉の途中だけれど、僕は君を心の底から、その愛しているから、今の君の言葉を聞いても理不

尽だとも、迷惑だとも思わない」

 晴海「有難う拓哉さん。私、本当に嬉しいと思う。だから、だから尚の事これまで思っているだけで

言葉に出せなかった事を、この際全部言ってしまいたい」

 拓也「嬉しいね。今日まさかこんな風な展開になるなんて、夢にも考えていなかったけれど。どうぞ

全部を、君の僕に対する不満を聞かせてもらいたい」

 晴海「貴方は私に対しても優しいのね。でも、逆に言えば私に対して優しいだけでは、私我儘だから

満足できないの。他の女性、特に貴方のお母様、妹さん、そして屋敷さん、こういう人達に対しては特別

に愛情を抑えて頂きたい。と言うよりは、仮に愛情を感じていても、少なくとも私の居る前では、絶対に

過剰な愛情を示さないで、頂きたいのです」

 拓也「困ったなあ。愛情は感じてもよいが、それを君の前では態度に出すな。そう君は主張する」

 晴海「本当は、私の事だけ考えていて、他の女性の事は一切眼中にない。それが理想だけれど、それは

どう考えても無理な注文だと思うから、せめて、私には分からせないように気を使っては、頂けないか。

そう望んでいるの。それもこれも、私の拓也さんに寄せる深い愛情が、敢えて異常と表現しましょうか、

普通ではない、異常な愛情のなせる業だと考えて頂きたいの」

 拓也「自信はないけれど、兎に角、その努力だけはしてみようと思う」

 晴海「どうか御生ですから、私を嫉妬深い女だと毛嫌いなさらないで下さい」

 拓也「嫉妬深い、嫌な女だなどとは少しも思いませんよ。むしろ僕は感心したり、感動している位

なのです。何故って母だとか妹だとか、親友の奥さんなどに嫉妬の感情を向けるくらいに、君の僕に向け

る愛情が大きくて、豊かだという事の証明だから」

 晴海「そんな風に理解して頂けたなら、最高です。何しろ拓也さんは私の 運命の人 なのですから。

生まれる先の、その先の世からずっとこの世での出会いを予感して、待ち構えていた、特別の人なのです

わ。だから、こんなにも言葉では到底表現できない程に、恋焦がれて、居ても立ってもいられないので

す。寝ていても、一人でいる時にも、誰か拓也さん以外の人といる時でも、私が思ったり、考えたり、感

じたりしているのは、貴方だけなのですから…」

 拓也「今日、此処で君からそんな告白を聞けるなんて、夢にも考えていなかった。こんなにも僕の

事を全身全霊で愛してくれている君と、もう直ぐ結婚出来る僕という男は世界一の幸せ者だよ」

 晴海「私の方こそ、幸せ者だと思う。取り分け美人でもなければ、有能でもない、平々凡々たる

私のような女を選んで下さった上に、聞き様によったら意地の悪い、心の狭い、我儘な言い分を百パー

セント聞き入れて下さろうと、約束までして下さる。嬉しいわ。これからは私の事だけを思って、他の

女性のことは考えないで下さい」

 拓也「努力する事を約束するよ。さあ、握手しよう」と晴海に右手を差し出した。その手を、晴美が

しっかりと両方の手で包み込んだ。


    青木家のリビング(一ヶ月後)

 拓也と母・夢路とが話をしている。

 夢路「でも、タクボー、本当に後悔はしないのでね。こういう結論で構わないのですね」

 拓也「僕だって喜んで彼女との結婚話をぶち壊したいとは思っていなかった。でも、彼女はとても

人間業では出来ないような事を、僕に要求して、一歩も譲ろうとしないのですよ」

 夢路「何も私は晴海さんの味方をするつもりはないけれども、あなたを深く愛しているからこそ、こう

して欲しいって要求というよりは、希望を提示したのではないのかね」

 拓也「確かに、その通りなのですよ、確かに」

 夢路「それご覧ね、やはりタクボーの我儘が原因なのではないかね」

 拓也「母さん、タクボーと言うのは止めにしてください、深刻な問題を話しているのですから」

 夢路「おや、御免なさい。つい、口癖なので」

 拓也「僕の我儘もあるかも知れないけれど、彼女は僕に何倍も輪をかけてような、常識では想像できな

いほどの我儘を言って、それを僕に押し付けて来たのです」

 その時、拓也のスマホの着信音が鳴った。拓也はスマホで少し会話してから切る。

 拓也「あゆみからです。あゆみ自身は今日来られないが、清香さんが心配して間もなくこちらに来て

くれるらしい」

 夢路「あら、そうなの。あゆみは中々忙しいからね。清香さんも忙しいだろうにね」

 玄関のインターホンの合図。迎えに出る夢路。 時間経過。 清香と拓也が会話をしている。

 清香「でも、こんな事を言うのは何ですが、拓也さんは立派だわ。だって、普通の男の人なら、最初か

ら晴海さんの言い分を拒否するでしょうから」

 拓也「いいえ、それは買いかぶりと言うものです。最初、僕には彼女の嫉妬が真実の愛情だと思えた。

浅墓だった、無知に過ぎた、実際の所」

 清香「拓也さんには、女に最後の本音まで言わせてしまう、何かがあるのですよ」

 夢路がお茶を用意して来て、テーブルに並べた。

 夢路「嫉妬は愛情の一種ですが、度を越してしまうと、愛情を殺してしまうものなのね」

 清香「それでも、嫉妬する人がいれば、まだ幸せの部類なのでしょうが、私の様に夫に死なれてしまっ

ては、何もなりませんわ」

 拓也「僕は結婚相手を失って仕舞う結果になってしまった…。嫉妬恐るべし、これが僕が今回の恋愛の

失敗から学んだ、いや、学ばされた最大の教訓です」

 夢路と清香が同時に、「普通が一番です」と互の顔を見合わせた。


                                《  完  》





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最終更新日  2019年06月05日 17時44分15秒
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