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「倫子。」肩を揺すられてハッとした。目の前には正志が座っている。日曜日のいつも通りのカフェでのデート。「何だか最近ぼーっとしてることが多いよね。」「ごめん。ごめん。」「なにかあったの?昨日だって、生返事しか返って来なくて大丈夫かな、って思ってたんだけど。」どうやら本気で心配してくれているらしい。「ちょっと仕事が忙しくって。ただそれだけ。」「ならいいけど。仕事もほどほどにしないとね。体も大事だから。」と倫子に笑顔を向けるとカフェ・ラテをすすった。そして思い出すようにもう一言付け加えた。「何でも僕に話してよね。何でも聞くからさ。」何でも溶かしそうな笑顔だった。エレベーターの男に出会ってから1ヶ月。倫子の予感は外れた。あれから一度もあの男は現れなかった。同じビルに勤めているのに会えないなんて。もしかして、あの日だけ用事があっただけだったとか、やっぱりタイミングが合わないのか、何故だろうと気づくといろいろ考えてしまっている。あの男の事が気になって仕方ない。会ってどうしたいのだろう。正志がいるのに?そんな事正志には口が裂けても言えない。正志に嫌悪感を抱くことがあっても、決定的に駄目という事ではない。それは私の我侭なのだ。現に正志はいつも私に優しい。その優しさに慣れすぎてしまったのだろうか。私は刺激を求めているのだろうか。そんな事、裏切りだわ。けれど、やはりあの男の事が頭から離れなかった。何となく今日はこれ以上正志とは一緒にいられなくて片付けないといけない仕事があると嘘を付いて別れた。正志は寂しそうだったが、本当なのか嘘なのか自分も同じく片付け仕事が残っているんだ、と笑顔で手を振ってくれた。日曜日の夕方は穏やかな空気に包まれている。倫子は地下鉄まで近道をしようと路地裏に入った。この道の先には数件のラブホテルが並んでいる。夜は女一人では歩けない道だが、まだ明るいうちは地元の人間なら地下鉄までの近道なので通る、そんな道だ。まだ、夜でもないのに、いやそんな事は関係ないのだろう。人目をはばかる様にラブホテルに入る人や出てくる人が目に付いた。カップルも様々だ。どう見ても学生のカップル、怪しいカップル・・・。仲良さげに出たり入ったりするカップルを尻目に、倫子はふと寂しくなった。これから食事でも一緒に食べに行くんだろうな。嘘付いて別れるなんて馬鹿だ。そう言えば正志としたのはいつだっけ・・・・。そんな事を考えながら通り過ぎて行くと前方からこっちにカップルが向かってきた。少し派手目だがかわいらしい女性。服装からして倫子よりも若そうだった。その隣で女性に腕を絡まれているのは、あの男だった。倫子と視線が合ったが気づいた様子も無く手前のホテルに楽しげに入っていったのだった。倫子は全身の力が抜ける思いだった。こんな所で会うなんて。そうか。そうだよね。彼女くらいいるよね。一人で小娘みたいに思い上がってほんと馬鹿だった。ショックだったがモヤモヤしたものが吹き飛ばされたようで、幾分心も軽くなり小走りで地下鉄に向かった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/31
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午後9時。いつもよりも早い時間に仕事が終わった。広告代理店に勤める倫子はあるプロジェクトチームに入っているのだが、最近ようやくプレゼンも終わりほっとしたところだった。けれど、また次の仕事が待っている。今の仕事は満足している。やっと仕事に対して「これだ」と思えるものに出会えたのだと思う。PCと切り、数人のスタッフに挨拶するとグッチのショルダーバッグを肩にかけオフィスを後にした。吉川もまだその数人のスタッフに入っていた。エレベーターの「下がる」ボタンを押すと、38階に止まっていたエレベーターが動き出した。38階。今朝のあの男のことを思い出した。もう一度会ってみたい、そう思う自分の心に戸惑いながらも淡い期待を持たずにはいられない自分がいた。何故なのか。考えても分からない。まさか。エレベーターの扉が開いた。中には今朝の男が偶然にも乗っていたのだった。まさかが現実になった。鼓動が早くなる。この男に聞かれてしまいそうで恥ずかしく思った。気づかれないように平静を装おうのが精一杯だった。「今朝も一緒でしたよね?」意外にも男の方から声をかけてきた。「そうでしたっけ。」一応とぼけた振りをする。男は少ししまったな、と言う様子だったがそれでも声をかけるのをやめなかった。「今朝一番にエレベーターに乗り合わせる人を僕は忘れない性質なんですよ。」にっこりと笑ったこの男に倫子は見つめられて内心はドキドキしていた。もうすぐ1階に着こうとしていた。沈黙が続いた。扉が開く。「お疲れ様。また明日。」男はそう言うと倫子とは反対の方向に歩いて行ってしまった。拍子抜けして一気に脱力感に襲われた。正志がいると言ってもガードが固すぎたかもしれない。つまらない女だと思われたのだろう。少し後ろ髪を惹かれる思いで地下鉄の3番口の階段を下りていった。その夜また夢を見た。あの少女だ。また水汲みをしているようだった。銀杏並木を抜けると川が流れている。重い桶を引きずりながらゆっくりと歩いて川に近づいていく。川の流れに逆らって桶で水を汲む。川から引き上げるのが子供の私には難しい仕事だ。苦戦していると、ふっと桶が軽くなった。びっくりして振り返ると見知らぬ男が助けてくれていた。私は咄嗟に手を離しその場から逃げた。「驚かなくてもよい。見ていて不憫に思ったから手伝ってやっただけだ。ほら。」そう言って桶を私に差し出した。私は恐る恐る近づき水の入った桶を掴むと少しだけ男に頭を下げると桶を引きずりながら家に向かった。綺麗な男だった。きっと都の人間なのだろう。男は馬に乗ると私とは反対の山道に走っていってしまった。その後ろ姿をこっそり見つめていた。そこで目が覚めた。朝方の夢はすぐに忘れてしまう。倫子はその男の顔をもう忘れてしまっていた。今朝の夢はなんだか心地よい懐かしさを残した。そして昨夜のあの男の言葉を思い出していた。「お疲れ様。また明日。」倫子は何故だかまたあの男に会える気がした。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/27
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山奥の小さな集落に家族4人で住んでいた。父と母と私と弟。まだ5歳の私ではあったが毎日の仕事は家から30分歩いた先にある川へ水汲みをしに行くことだった。生きていく為には食べることをまず最優先しなければならない。水も重要なもの。幼い私でもそれは分かっていた。私は木で出来た水汲み用の取っ手の付いた桶を両手で持って半分引きずるような感じで歩いていった。季節は秋で、途中に銀杏の並木道があり、風に吹かれるたびにハラハラと黄色い葉っぱが舞い降りてきて私の行く手を黄色い絨毯に染めていった。厳しい冬に入る前のこの風景が私は大好きだった。暫く見入ってしまうこともあり家族を心配させたこともあった。でも、この風景は美しかった。倫子は黄色い夢の途中で目が覚めた。最近色彩の豊かな夢を見るらしい。この前は赤い夢。今度は黄色。今朝の夢のあの銀杏並木の美しさは少し不思議な余韻を残した。でも、夢は夢だ。何かしらメッセージがあるとしても倫子は夢占いなど好んでする性質ではない。それに週明けの朝は何かと忙しい。休みモードの頭を素早く切り替えなければならないし、休みでだれた体も仕事の体制に持っていかなくてはならない。とっくに冷房の切れた真夏の部屋の空気は体にいやらしくまとわりついてそれだけでも気分が悪いというのに・・・。まだ生理も終わっていないのに・・・。しかしスーツに着替えた倫子はすっかり仕事の体制に入っていた。地下鉄まで徒歩で10分。朝と言っても真夏の日差しは体に応える。細胞が悲鳴をあげて泣いてるように背中から、胸元から汗が吹き出ているのを感じながら地下鉄の6番口に入っていく。地下鉄のホームに入ると冷房もきいていてさっきまで悲鳴をあげて泣いていた汗も引っ込んでいった。朝の地下鉄は混んでいる。倫子の嫌いな時間だ。この嫌いな時間は20分続く。地下鉄から勢いよく吐き出されるように人々が降りてゆく。その中に倫子もいる。3番出口の方面に向かって足早に歩き、改札に定期券を入れる。右に曲がると3番出口だ。どうして地下鉄の通路は長いのだろう。毎朝思うことだ。そんなことを思いながら階段を昇っていくとまた真夏の太陽に照り付けられる。「おはようございます。」後ろから声をかけてきたのは後輩の吉川だ。吉川徹次は倫子よりも6歳年下だが、倫子は中途採用の為1年後輩に当たる。屈託の無い笑顔の吉川はとびきりのいい男ではないが、憎めない愛らしさを持っておりそんな親しみやすさから女子社員の中では密かな人気がある。それを吉川は気づいているのかいないのか。多分気づいていないのだろう。「おはよう。」「今日も暑いですね。」「そうね。」2人一緒に会社のオフィスのあるビルのエレベーターに乗った。オフィスはこのビルの26階にある。2人がエレベーターに乗り込むと一人の男が滑り込んできた。エレベーターボタンの前に立っていた倫子に「失礼。」と一言言うとその男は38階のボタンを押した。その手首からはブルガリの腕時計が顔を覗かせ、ckbeが軽く香った。同じくらいか少し年上に見えるその男はナチュラルパーマのかかった少し明るめの清潔感のある髪型に、俳優といってもおかしくない様な整った精悍な顔立ちをしていた。倫子の視線に気づいたのか男は少し微笑んだ。どきりとして倫子は視線をそらした。3人を乗せたエレベーターは沈黙のまま26階へと向かった。倫子達がエレベーターを降りると当たり前のようにエレベーターは無言で上に向かって行ってしまった。「先輩、ああいう男の人好みですか?」と吉川は半分からかう様に聞いてきた。「あはは。そうね。ちょっと素敵な人だと思ったわ。」ちょっとした朝の出来事はオフィスに入ると、たちまちいつも通りの仕事の忙しさに立ち消えてしまった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/23
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正志はTシャツにジーンズに着替えてアパートから歩いて数十メートルのローソンに向かった。ローソンは大通りに面しているが、正志のアパートは一本路地裏に入った所で案外夜は静かである。大通りまで出てくると、午前3時なのにも関わらず車が行き来している。昼間よりも空いている為かスピードを上げているように思える。ローソンに入るとまだ原田は来ていないようだった。正志は道路に面した雑誌コーナーで今日発売されたばかりの情報誌を立ち読みして待つことにした。待つこと10分。まだ原田は現れない。あの電話は本当に原田だったのだろうか?少し不安になってきた。30分待って来なかったらアパートに帰ろう。そう心の中でつぶやいて、また情報誌の続きを読み始めた。それから5分経ってローソンの前に1台のタクシーが止まった。正志は雑誌の後ろからタクシーから降りる人影を盗み見していた。原田だった。原田は見られている事に気づかず、こっちに向かって来た。正志は原田に声をかけられるまでは何となく、気づいていない振りをする事を決めた。「正志。久しぶり。」原田は正志の肩を後ろからポンと叩いた。正志は大げさに驚いた振りをした。「あ、ああ。久しぶり。」「こんな時間に本当にすまなかった。ありがとう。」原田は学生の頃とあまり変わっていなかった。神妙な顔つきで詫びる原田を見て、今まで正志の変に緊張していた気持ちが一気に溶けて行った。「いや。本当に久しぶりだね。」2人は何も言わずにローソンを後にした。無言のままアパートに着く。正志が206号室の鍵を開けると「まあ、汚いけど入れよ。」と原田を誘い入れた。原田は部屋に入ると少し落ち着きの無いような素振りで胡坐をかいた両足はガタガタと貧乏ゆすりをし始めていた。「飲む?」ととりあえず缶ビールを差し出した。「乾杯。」と一応、8年ぶりの再会に乾杯をしビールをのどに流し込んだ。暫くすると原田も落ち着いたのか口を開けた。「今日は本当にすまなかった。突然押しかけてしまって。」「いや。驚いたけど久しぶりに会えてよかったよ。あまり変わりないようだし。」原田は学生の頃と変わらず男から見てもいい男だった。学生の頃からよくモテていた。今でもそうなのだろう、と勝手に想像してしまう。「実は、情けない話なんだが、今晩同棲している女に追い出された。そのまま出てきちまったもんだから持ち金も少なくて、携帯の電源も切れちまってさ。出てきてからどうしようかと思っていたら昔買ったテレカがまだ財布の中に入っていてさ。裏に正志の携帯番号がマジックで書いてあったんだ。」そう言うとポケットからD&Gの財布を取り出して中なら1枚のテレカを取り出し正志に差し出した。北海道の雪景色のテレカを裏返すとそこには確かに正志の携帯番号が書いてあった。しかも、この字は正志のものだった。「大学の時、1回みんなで北海道に行ったことあっただろう。その時のやつだよ。」原田の言葉で思い出した。大学4年の冬、卒論が終わってみんなで北海道に旅行に行った。その時すでに携帯電話を持っていた正志は得意になって名刺代わりとテレカの裏に携帯番号を書いた気がする。「ずっと俺持ったたの気づかなくて、急に懐かしくなってかけてみたんだ。まさか出るとは思いもしなかったけど。」「ああ。変えていないんだよ、番号。なんか面倒で。」「正志らしいな。」原田はふふっと笑った。「彼女と上手く行っていないのか?」そっちの方が心配になって聞いてみる。「結婚の話になるといつもこじれる。正志はまだ結婚はしないのか?もうてっきりしているかと思っていたけど。」原田の母親は幼い頃男と駆け落ちして姿を消した。学生の頃から結婚なんて馬鹿らしい、とよく言っていたことを思い出した。「彼女はいるんだけど。結婚はもう少し先かな。」「そうか。」いろいろもっと話したかったが、午前4時を回ってしまったので眠ることにした。正志は今朝見た奇妙な夢のことなど、もう忘れてしまっていた。翌朝、原田は正志のアパートを後にした。もう一度彼女の元に帰って話し合ってみると言っていたがどうなのだろう・・・。「じゃ、また。」とお互い手を振って別れた。急に訪れた懐かしい友は足早に去って行った。正志の元には原田の携帯番号のメモが握り締められていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/21
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僕は彼女をぐっと力を込めて抱きしめると、今まで抑えていた感情を一気に吐き出し泣き崩れた。こんなことになるだなんて少しも思っていなかった。ゆっくり抱きしめた腕を緩めて引き離していくと、すっぽりと腕の中におさまってしまう彼女の小さな体全体が視界に入ってくる。血の気を失った真っ青な顔色。ぐったりと閉じられた瞳。小さな胸は真っ赤に染まっている。そう。真っ赤に。僕の体は彼女の体からしみ出た真っ赤な液体に染められていた。悲しみ、怒り、絶望、憎悪。僕はつぶやいた。「絶対に娘を殺った奴を見つけ出して同じめにあわせてやる。」僕の眼はギラギラと光っていた。霧の立ち込める森を僕はまだ幼い娘を大事そうに抱えて歩いて消えて行った。森の匂いが残っているようだった。正志は一瞬何のことか分からなかった。目の覚めた今でも、あの感情や情景が生々しく残っているからだ。愛する娘を何者かによって殺されてしまった父親の心情がまるで正志の心に移植されてしまったような悪い心地だった。優しい性格の正志にとって、あれほどの強い感情は今まで持った事が無い。夢であるにもかかわらず、小さな女の子の胸から吹き出た血の跡はあまりにもリアルでなかなか頭から出て行ってくれない。残酷な殺され方だった。何度も刺されたのだろう。まるでコマ送りのようにその映像が何度もフラッシュバックしている。そんな夢を見る自分の心理状態が恐ろしく感じた。なぜこんな夢を突然見たのだろう。昨日の出来事を辿ってみた。倫子はあれから機嫌もよくなり落ち着いて普通の楽しいデートをした。ショッピングに付き合い、適当なカフェでお茶。正志が本屋に寄りたいといい、買いそびれていた小説の下巻を買った。ブラブラ街を歩いてイタリアンレストランで食事をとって倫子の体調を気遣って昨日は早めの帰宅をした。アパートに着くとシャワーを浴び、冷蔵庫から缶ビールを取り出してTVを見た。ニュースでは、最近起こった幼女誘拐殺人事件の事が伝えられていた。そこまで思い出すと正志はほっとした。きっとニュースのことが頭に残っていたんだろう。強引にそう結びつけることで、あの生々しい夢の記憶を早く忘れれると思ったのだった。ほっとしていると携帯が鳴った。時計を見るとまだ午前3時である。こんな時間に誰なのだろう。倫子か?着信は公衆電話からだった。いたずらか?でも、何か急用なのかもしれない。こんな時間だし。と、正志は思い電話に出た。「もしもし。どなたですか?」「もしもし正志か?俺だよ。俺。原田。」「原田?!」正志は懐かしさがこみ上げてきて大きな声で言った。「こんな時間に悪いんだけど。今晩泊めてもらえないかな。」原田とは正志の大学時代の友人である。だが、卒業以来連絡もなく実に8年ぶりなのだ。携帯の番号を今まで一度も変えたことの無い正志だから、こんな懐かしい再会も可能だったのだ。「別に、いいけど。でも、一体どうしたんだよ。」「すまん。後で詳しく話すよ。」正志は原田に住んでいるアパートの近くの目印のコンビニを教え待ち合わせることにした。突然の再会に少し胸が躍ったが、どこか不安でもあった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/17
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バスルームから倫子は気分も幾分かサッパリして出てくると、留守電のメッセージを聞いた。再生ボタンを押すと正志の落ち着いた声が聞こえて来る。「もしもし。じゃ、お昼頃にそっちに迎えに行くから。それまでゆっくり待ってなよ。」その優しい声を聞いて、最近の刺々しい心も丸くなっていくようだった。正志は優しい。それは分かっているのに。刺激が欲しくなるのだろうか?安らぎに満ちた関係を求めていたはずなのに・・・。いざ手に入れてしまうと不満に思う自分が嫌になりそうだった。嫌いではないのに・・・。何か足りない?いや、我侭なの?・・・。どうしてなのか分からない気持ちをくだくだと考えながら上の空でボサノバを聴きながらボーっとしながらハーブティーを飲んでいるとチャイムが鳴った。倫子はとっさに正志だと思い、ドアスコープで確認もせずにドアを開けた。そこには、思った通り正志が立っていた。「ちょっと早かったかな?」と照れ笑いをしながらポリポリと右手で頭を掻くのは正志の癖の一つで倫子はよく見慣れている愛着を感じる仕草だ。自然と倫子にも笑みがこぼれた。「さっきはごめんね。入って。」「いいよ。慣れてるから。」そう笑いながら正志は言った。正志はいつものように玄関から真っ直ぐ進んでリビングに入った。「倫子の部屋っていつもきれいだよね。」「あはは。正志のところに比べればね。」倫子は正志にコーヒーを出す。「さんきゅ。」大学時代から倫子は親元を離れて一人暮らしをしている。今のマンションは就職してから引っ越してきた1LDK。一人暮らしには丁度いい広さだ。2人掛けのベージュのソファーに木製のシンプルなテーブル。テーブルの上にはファッション誌が数冊積んである。下にはホワイトの肌触りの良い綿のカーペットが敷いてあり、窓にはパステルブルーのカーテンが掛けられている。21インチの薄型TV。TVボードの中にはお気に入りのDVD。薄型の白い隠し扉の付いた収納棚にはお気に入りのCDがぎっしり入っており、その棚の中央の開いた部分には黒いパナソニックのミニコンポが置かれている。そして、部屋の隅にはさりげなく観葉植物のパキラが置かれている。どちらかと言えばナチュラルだがシンプルで無駄の無い部屋という印象を初めて入った人は受けるだろう。正志はソファーの窓側に近い位置に座ってコーヒーを啜った。3階から窓の外を眺めると、隣の3軒の建売住宅が見える。その向こうには公園が、ずっと視線を伸ばしていくと高層マンションが立ち並び、視界はそこで途切れてしまう。「あんなにマンション建ってなかったのにな。」正志は独り言のようにつぶやいた。そして、ゆっくり立ち上がると「さて、今日はどこに出かけましょうか?どこへでもお供いたしますよ、お姫様。」と満面の笑みで倫子に向かって言った。正志という男は倫子がどんなにわがままを言っても許してくれる。だから倫子も言いたい事が言えるし、十分に甘えることが出来るのだろう。今朝の態度を改めて反省した倫子だった。「今朝はごめんなさい。最近ちょっとおかしいのかもしれない。」倫子が素直に謝ると正志はうつむいた倫子をそっと抱きしめた。「らしくないよ。僕は倫子の我侭なんて何とも思っちゃいない。全部受け止めれる自信がある。だから大丈夫だよ。」そんな優しい正志の腕の中で懐かしい心地よさを感じながら倫子は幸せを感じていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/05
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ー2000年夏ー赤。そう、真っ赤だ。インクの赤色。いや、あれは血の色だ。しかも、動脈の鮮血。そんな色だった。土曜日の今朝の夢は真っ赤な足跡を残して、倫子を不機嫌にさせた。赤色の夢を見る時は今までの経験上、生理になることが多い。笑い事ではなく、この確率は高い。そう言えば何となく股間がぬめぬめとして不快な感じがする。やっぱり?そう思ったとたんシーツが汚れていないか心配になり、急いでシーツの汚れを探し始めた。どうやら無いようだ。シーツが汚れると何かと不便だ。そこまで汚れていなくて良かった、とほっと胸を撫で下ろす。次に恐る恐るパンティを調べてみる。すると、やはりパンティは薄っすら赤く染まっていた。予定よりも少し早い生理がさらに倫子をを憂鬱にさせる。「ああ。もう!」と、長いストレートの黒髪を無造作にかき上げて苛々する気持ちをそのままぶち撒いた。そんな不機嫌な朝を迎えたとも知らずに、恋人の正志からの電話がかかって来て、倫子の苛々はさらに増した。最近、倫子は正志との関係に苛立ちを感じているのだ。こう言うのを「まんねり」と言うのか、「倦怠期」と言うのか・・・・。正志との付き合いはもうすぐ2年になろうとしている。倫子は大学卒業後、大手企業に勤めたもののいろいろと相性が合わず、3年で辞め派遣の仕事をしていた時に正志と知り合った。正志は派遣先の会社の営業マンだった。こういうのも社内恋愛の内に入るのだろうか。ごくごく自然の成り行きで始まった恋だった。何となく昔から知っているような錯覚をしてしまうくらいお互いがぴったりと引き寄せられて行くような不思議な感覚もあり運命さえも感じていた。けれど、付き合いが長くなるにつれて時々見せる正志の父親のような態度に反発を覚えてしまうのが、倫子の最近の悩みの種になっているのだ。「もしもし。おはよう。」正志の声は倫子の気持ちを察することも無く能天気だった。そんな正志の声が癇に障り倫子はぶっきらぼうに答えた。「何?」「何だか、機嫌悪いんだね。何かあったの?」「来た。」「は?何が?NHKの集金?」「生理。」「で、機嫌悪いの?」正志は電話の向こう笑い始めた。「女の子って大変だよね。」「今日、デートするの辞める。」「え?何で?」「何でも。気が乗らなくなったから。」と言って強引に倫子は電話を一方的に切ってしまった。するとすぐに正志から電話がかかってきた。倫子はそのままにして、シャワーを浴びに行ってしまった。留守電には正志の声が残っていた。「もしもし。じゃ、お昼頃にそっちに迎えに行くから。それまでゆっくり待ってなよ。」そんなメッセージも聞かずに、さっさとバスルームでシャワーを浴び始めていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****久しぶりに新しい話を始めてみました。さて、また思いつきで始めたので辻褄が合うように(笑)ちゃんと終えられるかが心配です。がんばろーっと。でも、ゆっくり。(笑)
2006/07/03
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