砂菩に詠む月

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カテゴリ: 小説
お題は

*からくり
*歌
*地図にない村

で、今度は都市伝説とのご指定をいただきました。
都市伝説ってどんな感じか わかんないので検索しまくり。
では、

+++++++++++


その湖畔の、ほんの片隅に小さな祠がある。
そこにはセルロイドの人形が収められている。
何故?

誰もそれに気づく人はいない。
だが、 伝説めいた話は、知る人が多い。
もっとも、怪談のように面白く云われているようだ。

それは・・・




和津沢までは、
XX駅から隣県行きのバスに乗る。
25分ほどで到着。
和津沢林業の看板が指す方向へ歩く。

ここを上っていくのだ。
結構キツイ傾斜だ。
陸の孤島と呼ばれた、この場所の不便さがよくわかる。

15~20分ほど歩くと、大き目のヒノキがあった。
県内最大のヒノキ。
確かに圧倒的だ。
だが、このヒノキを見に、わざわざこの山道を歩く者はいない・・・・

ヒノキから5分ほど歩く。
炭焼き小屋を幾つか過ぎる。
その先に廃屋が集まっている。

その1軒に入ると。
新聞とヘルメット。
昭和何年だかの新聞。
政治的な記事が一面になっていた。

足元に転がっているのは。

人形…

セルロイド製。
片腕は失く。
髪も服も、すっかり土に返ったのか1本も無い。

もう、誰も抱いてくれないの。
そう言っているようだ。

元は金色の瞳だったのだろう。
その、虚ろな瞳で、何を想うのだろう。


白黒の往年の映画スターの切抜きが、壁に貼られ色あせていた。
時代を感じる。

これが過疎の現実。
数年前、この村落の最後の住人が亡くなった。

この村はもう、誰もいない。

すでに、地図に和津沢の表記は無い。
地図にない村。。

もうすぐここは水に沈む。
ダムになるのだ。

村を出て行かざるを得なかった、老人たちの最後の願いで
私はカメラを持ってこの村へ入った。
故郷の記録と、記憶を残すために。

過疎が始まって40年。
家々は朽ち、おおよそは崩れかけている。
その1軒1軒をカメラに収める。
残された品物と一緒に。

何件目だったか、蓄音機があった。
手巻き式のそれには、なんと音盤が乗っていた。
私はカメラにそれを収めた後 クランクをまわしてみた。


鳴る。


古い古い もう誰も歌わない童謡が流れた。


私はそれに聞き入って、何故か涙した。
山の木々が、それに呼応し泣いているようにも見えた。

日が傾きだしている。
山の日暮れは早い。
私は急いで帰る準備を始めた。

蓄音機を持ち帰りたい。
そう思うが、荷物はすでに手に一杯だ。
せめて、と音盤だけを取り外そうとした。


すると。

いま聞いた童謡が幽かに響いた。
大きくはない。
この静寂がなければ、聞こえなかっただろう。

私は驚いて家から出ようと後へ戻ると。
先刻 別の家屋で見たはずの、古い人形がそこに横たわっていた。

片腕は無い。

歌はその人形から聞こえているようだった。
何故なのかは判らない。
人形が歌ったのかも知れない。
からくり人形には見えない。
ただの昔のセルロイド人形。

私は手を伸ばし人形を拾い上げた。
歌は止んだ。
そして、その側に一枚の着物を見つけた。
ほとんど腐ってぼろぼろのそれは、子供の着物だろうか 簡素な柄が見える。
そして、その端に名前が縫ってあった。

ゆりこ。

この人形はその、ゆりこ と言う子の人形だろうか。


村落を出るときに、私はその人形をヒノキの脇にあった祠に預けた。
私は人形を持ち帰るのをやめたのだ。
何か神聖なものを感じたからかもしれない。
それがこの村にとって、良いことのように思えたのだ。

帰路に着いた私の耳には、まだあの人形が歌った童謡が聞こえていた。



そして、村は沈みダムができた。



ただ、すべてが水に呑まれたわけでもなかった。

あの村のヒノキの脇の祠は、沈まず水に浮いてきたのだ。
ダムがすっかり出来上がっても、いつまでたっても沈むことは無かった。
それを、元村民たちが湖畔に移し祀った。

故郷の想い出とともに。


あれから数十年たった今。
私も老人になった。

その人たちはもう、誰もいなくなった。
和津沢を知っているものは誰もいない。

けれどもし君が、その湖畔の祠を見つけることができたなら、耳を澄ませてほしい。
セルロイド人形の歌が、今も聞こえると言われているから。



---FIN---












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Last updated  2007/03/24 03:22:33 PM
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