『3つの種まき』in所沢

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カテゴリ: 教育理念

人の生き死にとは儚い物で、

人の誕生、逆に人の死に対面するとき人は何かを考える。

私の父方の祖父が亡くなって、2ヶ月半が経とうとしている。

祖父は、93歳で亡くなった。大往生だ。

祖父の死を機に様々な光景を見た。

私は小学生の頃、両親が共働きであった事もあり、

学校が終わると自宅ではなく、 

なし畑を挟んで向こう側の祖父の家に帰り、

母が仕事から帰るまでの何時間かをそこで過ごした。

ヘビースモーカーだった祖父は、何も語らずテレビを見つめながら煙をくゆらせていた。

当時の大相撲は千代の富士が最盛期で、私も大好きだった。

小学生の何年間かで、千代の富士の歴史も垣間見えた。

後の大横綱となる貴乃花とのあの歴史的な取り組みも祖父の家で観戦した。

そこには、私と祖父との間に平穏な空間が作られていた。

祖父は、岐阜の生まれで若い時分、

岐阜の養老から歩いて三重県四日市まで来て、

目ぼしい土地を捜し求めて、歩いて回ったのだと言う。

今じゃ考えられない。

そして見つけた土地でなし園を開き、それで生計を立て5人の子どもを育てた。

愛想のある人ではないが、遠くからなしを楽しみに買いに来るお客さんを、

とにかく大事にした。

かっこいい人だった。

祖父の亡くなる2ヶ月前、

私は祖父の入院する市立病院にお見舞いに行くことができた。

ちょうど食堂で昼飯を食べていた祖父は、薬のせいか少し顔も身体もムクんでいた。

「ひさしぶりおじいさん。」

という私の言葉に、コクリと祖父はうなずき、しばらく沈黙の時間が続いた。

「わしは長く生き過ぎた・・・」

言葉が出なかった。

涙を流しながらも、必死にこらえようとする祖父の姿がそこにはあった。

祖父の初めての涙。

あとで父に聞くと、泣いている姿なんか見た事ないらしい。

そのあと父と一緒に、祖父の頭を刈り、ベットに戻ると、

「気にせんでエエから、もう帰り。」

一人で歩くのも、ベットに一人で寝転がるのも、寝返りするのもままならない祖父が、

昔と同じように、テレビを見つめながらそう言った。

帰りに父と喫茶店でコーヒーを飲んだ。

これも初めての経験だ。

いつもは、食事を終えるとすぐに店を出たがる父が、

その時は、ゆっくり落ち着いた様子だった。

「覚悟しとけよ。」

その言葉を私に伝えたかったのだろう。

父も認めたくないことだ。

時間がかかった。

いつもはあっけらかんと物事を話す父の姿はそこにはなかった。

その2ヵ月後、祖父は命を引き取った。

あの時会いに行けて良かった。

葬儀の席で喪主を務めた父は、

「我々子供達から見たら、父は永遠のように思っておりました・・・」

言い終わるか終わらないうちに泣き崩れた父の姿があった。

私が父の涙を見たのも初めてだった。

祖父を手本に生きてきた父にとって、どれだけ悲しいことか、

子供の私にも計り知れないほどだろう。

人の人生には壮大なドラマが存在し、

それを取り巻く人々にも、それぞれにドラマがある。

そのドラマにどんな形であれ影響を及ぼすことが出来たなら、

それは、最高のことなんだと思う。

我々のように子供を相手することを生業としているものとしては、

その子の人生に何かしらのエッセンスや影響を及ぼしてあげたい。

「もっと広い世界があるんだよ。」

「もっと可能性を信じてもいいんだよ。」

「立ち向かうことはツライことではなく、楽しいことなんだよ。」

そんなことが子供達の心にきちんと伝えられれば・・・






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最終更新日  2007.09.18 13:24:33
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