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ロボサムライ駆ける■第50回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/■第六章 古代都市(5)「ええっ、足毛布博士とおっしゃいましたか。博士はご無事でございましたか」「無事も無事よ。主水も知らぬらしいのう」 いい澱む落合。「まあ、いたしかたがない。教えてやるか」「何でございますか、そのような奥歯にものの挟まったような言い方、お止め下され」「よいか、主水。この地下都市発掘に関するプロジェクトで、地下ロボット動員策は、だれが提唱したと思うのじゃ」「ま、まさか、足毛布博士ということはありますまい」「ほほ残念ながらのう、足毛布博士なのじゃ」 主水の人口体液が急激に冷却した。「まさか、そのようなことが…」といいつつも、やはり山本たちが言っていたには本当だったのか。まさか、生みの親である足毛布博士がそれほど悪辣だとは思っていなかった。「足毛布博士はロボットに恨みを抱いておられるようじゃな。かつて我が子のようにかわいがったロボットに逃げられてのう。その名は…」 レイモンはじろりと主水を見る。「レイモン様、あとは言われなくてもわかります。私と言う訳ですか」 取り乱す主水。「そうじゃ、霊能力者たるレイモンにとって、すべては読みとれるのじゃ。ほほ、お前が、足毛布博士のトラウマ(精神的外傷)なのじゃ。それゆえ、お前に対する憎しみも強かろうの。そう思うじゃろう、夜叉丸」傍らにいる夜叉丸に言う。「さようでございます。主水殿、気をつけられよ。足毛布博士は、今普通の精神状態ではござらぬ」 主水は、神殿の上にいる人々の群れの中に足毛布博士を見つける。「足毛布博士」 主水はかけよるが、「お前の顔などみとうない」 博士が顔をのけぞらす。 すねているのか、と主水は思ったが、博士の言葉が急に襲ってきた。「裏切り者め。主水。俺を裏切って、今は何か、徳川公国の侍ロボットになりさがりよるか。よいか主水、お前はNASA宇宙旅行用に開発されたロボットよ。徳川公国の旗本ロボットになろうと思っても、所詮、水と油。お前のボディもICチップもほぼアメリカ合衆国製じゃ。アメリカと日本のハイブリッドなのじゃ。それがお前は徳川公国の大名になりたいじゃと。何を考えておるのじゃ。どうじゃ、主水、体の具合がおかしいじゃろう」博士は喚く。「……」 主水は図星をつかれた。なぜなのだ。体が不調なことをなぜ知っているのだ。まさか、そうプログラミングされていたわけでもあるまい。「おかしいはずじゃ、体がいうことをきかなくなる時があろう」 どんどん、声をあらげる博士。完全に自分の言葉に酔っているようである。「……」 どうしたらよいのだ。この場合の選択枝はなにだ。しかし、主水には解答はない。「それはロボット・ストレスじゃ。アメリカの体に日本の心を宿したからのう。いくら頭脳強化剤を与えたところで、機械工学で解決できるものではないのだ。ロボット生理学やロボット心理学の世界でしか解決できぬのだ。どうじゃ、すべて図星であろうが」 がなる博士に、もう手の打ち様もない主水だった。「主水、気にするな」 新たな声がやわらかに主水を包む。別の声だ。 続いて、徳川家当主、徳川公廣が現れていた。徳川家康そっくりの顔を見ると主水も安心する。「これはお上。ご無事でしたか」 主水は膝を落とした。「貴公は我が徳川公国のために働いておる。それはすなわち日本にたいして役に立っているということじゃ。足毛布博士の言うことなど気にしなくてよい。よいか、足毛布博士は、お前を再び我が手の者とし、NASA宇宙探査用ロボットとして、宇宙へ飛ばそうとしておるのじゃ」「宇宙へですと」 新たな情報で眼が回る思いの主水だった。「よいか、日本を狙っているのが、神聖ゲルマン帝国のルドルフ大帝なのじゃ。ルドルフは霊戦争の原因が宇宙空間にある冷子星と考えておるらしい。この冷子星へ調査隊を飛ばす計画のようだ」 冷子星は地球監視衛星『ボルテックス』を作った種族が支配する星である。 主水は急に切り札を思い出した。この一つで、博士に切り返すことができる。「足毛布博士、あなたのお宅にユダヤのダビデの星が落ちておりましたが」「何と、どういうことかな。足毛布博士」 徳川公が詰問する。「お前は邪宗の徒なのか」「それは……」 今度は足毛布博士が言い淀んだ。 その時、新たな人物が、主水の前に現れていた。(続く)■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yyamada-kikaku.com/
2011.12.30
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ロボサムライ駆ける■第49回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/■第六章 古代都市(4) サイ魚法師が味方に付いたことで、戦いの流れが変わった。「いかん、シュトルフ君、逃げなさい」ロセンデールは命令していた。「しかし、殿下、我々は、敵には後ろをみせません。今まで、そんな負け戦さはしたことがありませんぞ」 呻くシュトルフ。「シュトルフ君、今がその最初の時なのです。私の考えがある」 ロセンデールがいった「くそっ、ロボットども覚えていろ」 ののしるシュトルフ。 聖騎士団は奥へ退く。「へへん、ほえづらかくのはお前たちだよー」 知恵は悪態をついた。「心柱様、我々日本のロボット、外国勢からお守りもうした。どうぞ安心して下されい」『有り難い。が、決して奴らに油断するな。それでは、私を中心とした、いにしえの都市をお前たちに見せてあげよう』 心柱の表面が、一度ぐるぐると回りだし、さらには膨らんでいった。しかし、その表面は物理的なものではなかった。 半透明の膨張面は、背後から戦っていたロボットたちの体を突き抜け、心柱の中にロボットたちは、入っていた。 一瞬、あたりすべてが白熱化し、何も見えなくなる。 すべてのロボットの目がくらんだ。「我々ロボットの眼がくらむなど……」 彼らロボットの視覚が普通に回復すると。 そこには、心柱のある島を中心に巨大な青々とした地底湖が広がり、六つの島がある。その各の島の上には石造ピラミッドの神殿が現れている。ピラミッドは心柱を中心にきれいに六方向にあるのだ。 心柱のそばには、超古代に造られたらしい石造りの神殿が出現していた。古代ギリシャのオリンポスの神殿を思わせる。 主水を始め反乱ロボットはそのそばにたっているのだ。「これは……」 絶句する主水。 いかなるロボットの電子頭脳もこれは理解の範囲を超えている。 心柱のある島の神殿に数十人の人影がある。西日本都市連合の首長たちである。 神殿の祭壇の中心に、落合レイモンが座っていた。 思わず主水は走り寄る。「レイモン様、ご無事でござりましたか」「おお、主水か。無論じゃ、危機は去ったようじゃな。こちらへこられるがよい」「この神殿は一体何でござるか」「主水にわからないのも無理はない。日本にも、古代には巨石文化がござった。霊戦争以前のこのあたりの奈良地方の山、三輪山、天の香久山、耳成山、畝傍山、忌部山、磯城山、の地下すべてには、このような石造ピラミッドが超古代からあった。また、サイ魚法師が出現された湖も、古代には存在しておった大和湖じゃ」 淡々と述べる落合である。「レイモン様、このことをすべてご存じだったのですか」「いや、すべてはわからなかった。が、この近畿新平野において、何者か古代の巨大な霊が復活し、私を呼んでいるのはわかっておったのじゃ」「それをわかっていて、関西都市連合会議に参加なさったのですか」「その通りじゃ、貴公には迷惑をかけたが、このような大いなる目的があった。許せ」「いえ、何度も私を始め皆の危うい所を、お助けいただき、感謝の言葉もございません。しかし、ロセンデールのものどもは、レイモン様を…」「ロセンデールは、私を下へもおかぬ丁重な扱いをしてくれおる。この心柱と化野のことを解決できるのは、落合レイモン様しかおられぬとか申しておったわ。はっはっは」 ちょうど六つのピラミッドの頂上から光が出ていた。この六つの山のエリア内に含まれる湖面が撥ねて変化している。 光の野となる。 光が感光したように、地上から浮かび上がっている。十万の人口を養い得る町並が出現していた。湖は三分の一の広さとなった。「見よ、主水。超古代都市の復活じゃ」「レイモン様、これは……」「はるか昔、古代ユダヤの民の一支族が、この日本に住み着き、『ソロモンの宝』をもってこの地を豊饒の地にされた。やがて人々はその祖先を忘れ、享楽にふけるようになった。それゆえ、この古代の都市は、最後の霊道士によって封印されたのだ」「ロセンデールが狙っていたのも」「そうじゃ、この都市に眠る「神の棺」を、申請ゲルマン帝国、ロセンデールは狙っていたのじゃ」 あまりのことに驚く主水たちであった。「ところで主水、足毛布博士という方を存じぬか」(続く)■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/■第六章 古代都市
2011.12.29
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ロボサムライ駆ける■第48回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/■第六章 古代都市 (3) 心柱のある場所はここまでの化野よりももっと広大だつた。「なぜ、こんな広大な場所が地下にあるのだ」「これが…」主水は思わずつぶやいていた。『そうじゃ、これが心柱じゃ。日本の心柱。これを数千年にわたって探していた者がおるのじゃ』落合レイモンの声が再び響いてきた。「レイモンさま、ご無事ですか、お助けにまいりましたぞ」 その柱は直径二十メートルほどあり、天井部分は、はるか霞んで見えなかった。同じ太さで地中に植わっている。 その柱は輝いているが、がその色は数刻ごとに七色に変化していた。そして、まるで生き物の皮膚のようにぬめりとしていた。 ◆『機械たちよ、私の命令に従え』 日本ロボット軍団の皆の心の中に、この言葉が、突然侵入してきた。「こ、この声は…」 侍ロボットの一人が尋ねた。『私は超生命『心柱』である。この日本を日本たらしめている生命体である。日本列島誕生より、この日本に住み着き死んでいった生命の残留意志集合が私なのだ。古代より続くこの日本の地に霊として結集し、形をとったのだ。 私を、ロセンデールとか申す外国人によって支配させるでない。日本ロボットの諸君、皆私の前に集まれい。私を保護せよ。日本古代よりの霊の結合体と、地下に眠る地球意志ネットワークが融合したのが、私だ』「おはしらさまが、古代都市に結界を張っていたわけか」 主水がつぶやく。『そういうことだ、主水。私が動けば、古代都市を復活させることができる』心柱が答えた。「皆、みはしらさまの前に集まれい」 心柱を背にロボット奴隷戦士が、円陣を組んでいた。 シュトルフ率いる聖騎士の一団が、主水たちに襲い掛かってくる。「ここが踏ん張りどころぞ。こやつら異国の者ばらに、日本の心柱を占領させてなるものか。方々、これが日本のロボットの力の見せ所ぞ」 主水が声を張り上げていた。 パワードスーツの一団、聖騎士団は、レザーサーベルを抜き放つ。「かかれ…、日本のロボットなど、奴隷の一団。おそるるにたりん。我らが聖騎士、ゲルマンの神の御加護があらん。攻めて攻め滅ぼせい。力押しだ」 大夫シュトルフが、赤ら顔の表情を一層険しくして怒鳴っていた。地下巨大空洞に、怪しい光がみちみちた。 日本の心柱を巡って、ロボットとパワードスーツがいり乱れて戦い始めた。 そのとき、地下空洞の地面から地下水が、急に噴出してくる。 見る見るそれは湖となる。「これが、古代大和湖か」 主水は戦いながら関心した。湖の色は不思議な瑠璃色だった。その中に生命が溢れているように感じた。僅か数刻で水が満ち満ちるとは。 その地下湖から姿を現すものがある。 小型潜水艦である。 横腹に『水鏡(すいきょう)』と書かれていた。地下水流に乗ってきたのだ。「あるいは……」主水は期待をもってその潜水艦を見る。 サイ魚法師が、艦橋ハッチをあけて顔を出した。「おお、戦いの真っ最中ではないか。とんだところに出くわしたものじゃ」 そのサイ魚を見たロセンデールは味方につけようとした。『サイ魚法師君、早く我々の手助けをするのです。シュトルフ君を助けなさい。あとで礼はつくします。空母を沈めたことも許しましょう』 ロセンデールの声が、サイ魚法師に響いた。「サイ魚法師殿、我々に味方しろ。日本対外国の戦いじゃ。どちらに味方すればいいか、おのずからわかろう」主水も声を振り上げる。「おおっ、皆元気のいいことじゃ。こんな地下でも戦いとは大変じゃのう」 サイ魚法師は知らぬ顔をする。 どちら側についてもおいしい話なのである。この戦いの力のバランスを崩すことができる。キャスティングボードを握っているのが、サイ魚法師であった。「え、あなたが、有名なサイ魚法師ですかー」 そばで見ていた知恵が、調子外れにすっとんきょうな驚きの声を上げ、羨望の眼差しでサイ魚を見る。 はぐれロボットにとって世界を放浪するサイ魚法師は、伝説のロボットなのである。「サイ魚法師様、ぜひ私を弟子に。貴方様は我々ロボットのあこがれの人、伝説の人です。どうぞお願いしまーすー」 知恵が、まるでアイドルに対するようにサイ魚法師に言う。「おいおい、知恵。戦いの途中じゃ。私はどうなるのだ。よいのう、サイ魚法師、ファンがいて」むくれる主水。「おじさん、嫉妬だねー」 主水を見て、あざける知恵。「サイ魚法師、頼む」「しかたがないのう、主水、貸しは二つぞ」(続く)■ロボサムライ駆ける■第六章 古代都市作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
2011.12.28
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ロボサムライ駆ける■第47回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/■第六章 古代都市(1-2)「主水殿、どうぞ、こちらへ。狭きところなれど」 山本が廊下を案内して進んでいる。「これは…、これは…」 主水は驚いている。 反乱ロボットの本部であった。地下道のはずれの巧妙に隠されている。内部では二十人くらいのロボットが忙しく立ち働いていた。通信設備が完備している。「申し訳ございません。我々の本部を探ろうと、西日本都市連合は『イヤーバード』なる聴音飛行機を飛ばしております。それゆえ、我々は地下に潜らざるを得ませんでした」「いやいや、なかなか立派な。よく短期間でここまで」「いや、これも怪我の功名でござる。この知恵めがこの空洞を見つけたのでござる」 知恵が頭を掻いていた。「いやねえー、俺がさあ、いろは組にいたとき、特に地下坑道で頭から逃げようと思ったときに、この空洞を見つけたのさー」「この知恵めは、この空洞で一週間も粘っておったようです」「そりゃそうさー。逃亡ロボットの追及は激しいからね。鞭で打たれるくらいじゃ済まないさ。特にいろは組はねー」 知恵は頭を掻き掻き、褒められてことに対して恥じらっていた。 ◆ サイ魚法師は、大阪湾でロセンデールの空母ライオンを、サイ魚で沈めた後、ひたすら逃げることばかり考えていた。反乱ロボットが機械城に向かったおり、主水とはわかれていた。機械城の爆発も潜水艦船上で見ていた。現在どうなっているのか、まったくわかっていない。ロセンデールから復讐されないためである。 が、大阪湾海流が、法師の思うとおりには流れていない。「法師殿、潜水艦が不思議な方向に引っ張られております。何か水流が変化しております」 乗組員がサイ魚法師に呼びかけた。「どちらの方向へじゃ」「それが、陸地へと思われます」「何ごとかあらん」 モニターに、地下に大きな空洞が穿たれているのが見える。これは先刻まではなかったのだ。「どうやら、海水が、地下の空洞に吸い寄せられているようです」 サイ魚法師はしばらく腕組みをして考えていた。「地下空洞への道に、水路がないか検索してみろ」「わずかながら、可能性があるようです」「が、まてよ。ひっとして、これは主水たちが地下都市を発見したのかもしれんのう。よし、その空洞への水流に乗るのじゃ」「どこへまいるのでしょ」「いわずとしれておる。古代都市にある、古代大和湖(やまとこ)じゃ。奴らが大和湖を発見したに相違ない」 法師はほくそ笑んだ。 古代大和湖は大昔、琵琶湖が発生する以前に、近畿地方にあったと言われている。「これはまた一戦あるかもしれん。さらに古代の宝物が見つかるかもしれんのう。おもしろいことになったわ」 法師は独りごちた。(続く)■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
2011.12.27
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ロボサムライ駆ける■第46回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/■第六章 古代都市(1) (1) 三日後、機械城の後はくすぶっていたが、早急に対応がなされている。「主水殿、我々に、その剣技を貸してはくださらぬか」 水野都市連合議長は、西日本都市議事堂議長室で、主水に対して膝を屈した。 二人は、機械城から、助け出されたことに礼をいい、続けて本音をしゃべっていた。 ともかくもこの事態を収拾しなければ、ならない。 主水にとっても、ロセンデールから、落合レイモンをはじめ助け出さなければならない人がいるのだ。 ここは、西日本都市連合とも手をむすんでおくのが、得策といえた。「無論、主水殿、剣闘士としての身分は解消する。東京の自由なロボットととして活躍していただきたい」 水野が汗を拭き拭き、付け加えた。「斎藤殿、ありがとうござる、まずはどのような企てかお聞かせ下さい。話によりましたは、非力なこのロボットの私が力をお貸し致しましょう」 少しばかりイヤミを言う主水である。「落合レイモン殿。さらには貴殿の生みの親、足毛布博士も、閉じ込められておる場所を、つまり、ロセンデールの隠れ場所を、我々のロボ忍が発見しておる」 斎藤が一気にしゃべり出した。「何と。あなた方が落合レイモン様を拉致したとばかり思っていたのですが」「いやいや、さようなこと、同じ日本人同志ではござらぬか」「して、レイモン様は」「ロセンデールの古代都市復活プロジェクトチームに使われておられる」「はて、古代都市とは…」 知らぬ言葉に主水は戸惑う。「霊戦争のおり、日本の西日本エリアが大打撃を受けたのはご存じであろう」「神の衛星ボルテックスから全日本軍がレーザー攻撃を受け、近畿地方ことごとく消滅。同時に、古来からある神社仏閣がことごとく消滅したと聞き及びます」「それじゃ、それが近畿新平野の地下に埋もれておるのじゃ」「消滅したのではなく」「そうじゃ、ある一点に向かい、すべての霊力が集中した場所があるのだ」「その場所は…」「昔の記録にある…奈良、飛鳥のあたり。近畿新平野の地下に巨大な空洞があることが発見されている。その場所に古代都市があり、心柱、おはしらさまがある」「先刻、貴公が黄金の大仏と戦った化野は、その都市へ通ずる入り口の一つなのだ」 水野が付け加えた。「斎藤殿がいわれるその古代都市の中に、落合レイモン様も足毛布博士も…」 主水は戦うべき場所を二人から指示されているのだ。「そうじゃ、そこにおられる。主水殿、西日本は及ばず、東日本エリアからも、かなりの霊能師が消えておることは、知っておられよう」「つまりは、この古代都市を復活させるためのプロジェクトが進んでおるわけだ」 斎藤がいった。「しかし、なぜ、ロセンデールに『ライオン』の回航を許したのですか」 主水は話を変えた。「むむっ…」「それは…」 二人は言い淀んだ。「外交的圧力という奴じゃ」 斎藤は汗を拭き拭き答える。「それでは、あの剣闘士大会も」「むろん、ロセンデールが日本の戦闘力を調べるために行った。貴公も気がついていようが、あの『ライオン』船上に西日本エリアの主な都市の首長が招待され集まっておったろう」「そうですな、彼らはいかがされました」「ことごとくロセンデールに連れていかれた」「連れていかれたですと」「ロセンデールめが、誘拐しおったのじゃ。我々、西日本都市連合が逆らわぬように、安全処置としてな」「我々が表立って、古代都市の復活を妨げようものなら、血祭りにあげるというのじゃ」「何と、卑劣漢め」 主水の顔も怒りで真っ赤になる。「そこで我々は、貴公に頼らざるを得ない」「この話は、徳川の主上にも」「むろん。が、主水殿、悪い知らせじゃ」 悪い予感が主水の胸に走った。「何か、東京エリアの徳川公国に起こりましたか」「徳川公もロセンデールのところじゃ」「徳川公もですと。まさか…」 しばし、主水は無言となる。 徳川公がつかまっておられるのなら、主水としては、ぜひとも戦わざるをえない。「致し方がありますまい。戦いましょう」 主水は決意した。「しかと頼んだ。日本の命運はつとに貴殿の両肩にかかっておる」「戦力としては、西日本の反乱ロボットを使いましょう。彼らが反乱を起こしたことにすればよい」「なるほど、我々政府は何の責任もないことになる」 水野が考え込む。「が、約束していただきたいことがあります」「何じゃ」「もし、この計画が成功した暁にはロボット奴隷制度を廃止していただきたい」「そ、それは難しい問題じゃ」 斎藤が呻く。「我々の責任ではいかんともしがたい。政治体制の崩壊にも繋がりかねん」 水野が続けた。「と、いわれると、この日本がロセンデールに支配されること、さらには古代都市が復活することをお望みなのか」 主水は二人を責め立てる。「いや、そうではない。が、しかし…」「しかし、どうだといわれる」 水野はすこし考えていた。「わかった。その問題を議会にかけることを誓おう」「よろしい。その誓いを正式文書にしていただけるか」 主水は念を押しておく。「わかった」「それが整い次第、私は出掛けましょう」 ロボザムライ主水が部屋を立ち去った後、二人は話しあっていた。「あやつが、この問題を解決すれば、どのようにでもなりましょう」 斎藤は言った。「そうじゃ。あやつを抹殺すればよい」 水野がほくそ笑む。「議長もお人が悪うございますなあ」「貴公、我々は政治家でじゃぞ」「ああ、そうでござりますな」 二人の乾いた笑い声が続いた議長室に長く響いていた。 が、ロボザムライの耳は、この話を聞き取っていた。「ふふう、水野たち、後でほえずらかかせてやるわ」 主水は独りごちた。まずは知恵と、山本一貫に連絡しようと考える主水だった。(続く)■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
2011.12.26
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ロボサムライ駆ける■第45回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/ 第五章 機械城(7-2) ◆ 「反乱ロボットども、すべて機械城に入りましてございます」 秘書官クルトフが、地下トンネル内の秘密基地にいるロセンデールに告げていた。 「ははん、、思いどおりですね、クルトフ」 「殿下の思いどおりになりましたね。それで水野や斎藤など、日本人の側の人々も」 「むろん、機械城天守閣に入っております」 「シュタイフ君、あなたはわたしに感謝しなくてはいけませんよ」 「と、申しますと、殿下」 大男のシュタイフは不思議な顔をしていた。「そうでしょう。機械城の守備をあなた方、聖騎士団に任せていたら、皆一緒に滅ばさなければなりませんでしたよ。化野も、落合レイモンのお陰で侵入することができた今、彼らなど私に必要ないのです」 はっと気付くシュタイフ。「恐ろしいお方だ、殿下は」 「ねえ、シュタイフ君、不用物は早々と捨てるべきでしよう。ロボ忍の諸君も頑張っているようですし、美しい最後を飾って挙げましようよね、クルトフ君」 ロセンデールは、シュタイフとクルトフに同意を求めた。ロセンデールの青い眼は喜びにきらきら光っている。 「殿下の仰せのままに」二人は片膝を曲げた。 「それでは、機械城を始末するとしますか」 落合レイモンは、この心柱の近くにあるロセンデールの地下基地の別部屋にいる。 薬浴しながら、ロセンデールたちの話し声を聞いていた。彼は遠くの声を聞けろ。 「ロセンデールよ、化け物よのう」 「どういたしましたレイモン様」夜叉丸が言った。 「ここは済まぬが、夜叉丸。お前に一価きしてもらわねばならぬのう」 「お上の仰せのままに」 「反乱ロボットや、主水たちに知らせてくれぬか。あのままだと、奴ら機械城ごと吹き飛ばされてしまう」 夜叉丸は、ロセンデールの見張りを鉾で倒し、バイオコプターで機械城に向かった。 ◆ 主水は、両足を花村のために無くしていたので、破壊されたロボットの足を付け替えていた。「主水殿はおられるか」「おお、夜叉丸どのか、お助けありがとうござる。レイモン様は今、どこにおわす」 「レイモンさまはご無事じゃ。それより、おぬしたちのこと心配でレイモンさまが事ずけをされたのじゃ。機械城が危ない」 「何と」 夜叉丸は、情報を早く伝えるため、主水の手に自分の手の平をあてた。情報が生水の頭にすばやく入力される。 「これは何と」 「水野殿、斎藤殿も助けるのじゃ」 「夜叉丸殿、お手伝いいただけるか」 「こころえておる」 が、機械城は混戦状態である。、 「皆様がた、これは罠でござる。早く引きあけよう` 騒ぎが起こっていた。「何といたした」 地下から起こった火柱は、機械城全体に巡った。機械城はやがて大爆発を起こす。敷地内ことごとく吹き飛んでいた。「どないしたんや」「えらいこっちや、機械城が爆発しよったわ」「何か、残ってるのとちゃうか」「みにいこう」「ひらいにいこう」 大阪の街じゆうが大騒ぎだった。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.25
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ロボサムライ駆ける■第44回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/ 第五章 機械城(7) 主水は乱戦にて、一人切り放されていた。「主水、この攻撃が受けられるか」 機械城城壁が前に動いた。「何と」城壁の一部が地上少しばかり浮き上がり、動き始めた。地下にはキャタピラが数基、装着されている。 「主水、機械城がただの前衛基地と思うたか。この機械城は、動く地上要塞よ」 「ロセンデール卿め、敵ながらさすが」 「主水、そこを動くな」 主水の左右前後から、接合から切り離された城壁の一部が迫ってきた。圧し潰すつもりだ。 「主水、我が城、機械城の人柱となれ」 機械城城壁の一つ一つの石垣が、ばらばらにあり、浮き上がる。そして花のように舞う、空に舞う石垣の上に、何人かのロボ忍が乗っている。「これは面容な」「『石垣の舞い・天城陣』をお目にかける、土木殿、拙者、花村一去じゃ」ロボ忍の頭が言った。「我らが護衛しておる機械城。ちよっとゃ、そっとのことでは、破られぬぞ、主水」「主水、我らが天城陣敗れるか」 ロボ忍たちの城府が、上水の頭上に自在に回っている。上に向かい、叫ぶ主水であった。主水のそばに、四方の城壁が緩々と追って来る。「花村殿、破って見せようぞ」「まずは、城壁で圧しつぷしてくれるわ」 両手で壁を支える主水。瞬間、主水は双剣を足元に立てた。両足でその双剣を挟み込む。竹馬の要領で乗る。目に止まらぬ早さで回転し始める。地埃が起こる。 数秒後、主水の姿は消えていた。「くっ、主水め。地に潜りよった」「ええい、捜せ」 城石から地上に降り立つ忍者たち。掘り返された地上には埃まみれである。「ぐわっ」バタバタと倒れるロボ忍たち。地中から急に飛び出した主水の刀が、ロボ忍をすべて切り離していた。「見たか、地づりの剣」 地中から土埃とともに、双剣を持ち、主水が現れていた。「皆様のお命頂戴致す」 地に倒れるロボ忍たちは。瞬時に切り刻まれている。主水は片手拝みする。花村だけが浮遊する減石に残っていた。「県怯なり、主水。我が手下の敵」 減石が主水の方へ飛び降りて来る。瞬時、主水は跳躍していた。 上空で態勢を変える。剣先を下にして、花村の天頂目かけて落下する。「ぎゃっ」 花村の体を、頭の笑中から胴体まで、主水の剣が貴いていた。倒れている花村の側に、主水が近寄る。「花村殿、徳川公の行方を教えてくださらぬか」「ふふう、甘いのう、主水。俺が教えると思うのか」 傷ついた花村は、側にいる主水の足をがっちり掴み込んだ。「どうじゃ、私の電子心臓はやがて爆発しよう。貴様も道連れじゃ」 主水は、自らの剣を、花村の死体から引き抜こうとしたが、外れぬ。小刀も失っていた。花村を両手で叩くが動かぬ。 最後の手段だった。主水は自らの右手で、しがみつかれている両足を叩き折った。 「くわっ」自らの足をそのまま残し、体を回転し逃れる。 直後、花村の休は爆発する。傷だらけの主水が転がった後には、花村の残滓が空から散らばり降りて来る。しばらくの間、動くものはなかった。 二つの影が、主水の残った体を抱いた。 「山本どの、すまぬ。知恵もすまぬ」(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.24
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ロボサムライ駆ける■第43回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/ ■第五章 機械城(6)「ともかく、一隊は大天守閣へ向かうのじゃ」 天守の城眼から、数百の弓矢が放たれた。力士ロボットたちが、その銃眼を目指し、城壁を欠き砕き、石を投げ付ける。「我々にとって必要なものを手に入れておかねはなりませんな」主水がいった。「生命液と洗浄液でござるよ」「そうじゃ、それを忘れておった。おーいい、知恵」「何だい、山本様」「お前、城内ののこと、ある程度わかつていよう」「そうだよ」「生命液タンクは、そして生命液製造工場はどこにある」「小天守閣の地下に埋め込まれているさ」しかし、知恵はあとをつづけた。「でも、気をつけなきやね」「何ゆえに」「ロボ忍たちがいるよ。それにどうも、城のあちこちに仕掛けがあるような気がしてね」 主水たちは、抵抗する城の護衛ロボットを倒しながら、小天守閣の下にある牢獄にたどり着いていた。 何ごとが起こったのか、不審に思っている閉じ込められていたロボットたちが、こちらの様子を見ていた。 「皆々様、お助けに参りましたぞ」獄内に歓声が上がる。 「お前さん方は」一人が尋ねる。 「我々は反乱ロボットの群れ。都市連合に対して反乱を起こしました」「おお、そうか。外からの騒ぎは聞こえできていたのだが、何か起こったのかわからずにいた」「牢獄を解き放ちますので、皆様どうぞご助力のほどをに「おお、わかり申した」「どなたか、生命液のタンクの場所をご存じないか」「生命液のタンクヘの、秘密の入り口がわからないのでござる」 主水が言葉を継いだ。「おっ、しっとるぞ」ひとりの老人が手をあげていた。「助かりました。それでは後、お願い申す」 すぐさま、激戦のため、生水と山本は上にあがる。「ご老人、ご案内お願い申す」残ったロボットが頼んだ。 工場の天井から、大きなガラス球が数限りなく続いてぶら下がっている。まるで葡萄の房だった。「これだけあれば、我々は大分長い間人間と戦えるぞ」 数十人の反乱ロボットたちは、上を見回しながら、工場の中へ入って行く。「ふふっ、お主たちの命が続けばな」牢獄から案内してきた男がつぶやいた。「何だと」「ふふっ、冥土への土産に見ておけ」「貴様」「言わずと知れたロボ忍よ。草として牢獄に入っておったわ」 瞬間、その男は隠されていたスイッチを押した。あたりは一瞬真っ暗になる、 同時に、生命球がすべて反乱ロボットへ落下した。生命液工場は壊滅した。 地下は生命液で水浸しとなる。小天守から大天守り回廊へ入った一団は、回廊に閉じ込められていた。 いくつかの節点でシャッターが落下してきたのだ。袋の鼠となっていた。腕自慢のロボットたちでも、少しもその扉を勣かすことができないでいた。まるで石の壁であるかのように、びくともしないのだ。石の壁はやがて彼の方へ勤いてくる。「くそっ、奴ら、我々の力をあわ廿、奴らに眼にものを見せてくれん」「それはどうかのう」ロボ忍だった。「おまえたちが壁にてつぶれるのをUUろ待ち致そう」「何くそ」ばりばりと反乱ロボヅトたちの体は解体した。一方、大天守閣の吹き抜けに入ったロボットたちは、拍子抜けした。何もないのだ。 機械城大天守閣を飾っていた大仏は、先刻の主水との戦いで敗れていた。 ただ、フロアの中央から直径三メーートルほどの球形の棒が突出していた。棒は七色に輝いている。 「これはI体なんだ」 ロボットたちは、それに近づいて行く。 「ふふう、よく来たのう。反乱軍の諸君」 三階のデッキからロボ忍の一人が見下ろしていた。「貴様、何者だ」「お前もロボットなら、なぜ我らの味方をせぬ」「申し遅れた。我輩は花村一去。ロボ忍の頭目だ」「ここで何しでおる」「皆様に挨拶しておこうど思ってな。ただし、冥土の挨拶だよ」「何だと」花村一去は、素早く背後のドアに隠れた。 球形のボールから放電される。吹き抜けの空洞自体が電気の放電ボックス化していた。城門よりも高出力の10万ボルトの電気が放電されていた。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.23
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ロボサムライ駆ける■第42回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/ ■第五章 機械城(5) 「皆様方、これは千載一隅のチャンスじゃ。ロセンデールのライオン丸が沈んだ今となっては、水野も斎藤も弱気になっでいよう。この勢いを持って、機械城を打ち賊ぼぞうぞ」 山本が装甲車の上に立って、反乱ロボットたち・に叫んでいた。「まだ、危険ではござらぬのか」「そうだ、我々の力、そう結集してはおらぬ」「心配なら、先刻、空母ライオンを沈めることに力があったロボザムライがおわす。ご紹介いたそう。早乙女主水殿じゃ。早乙女殿は、ロセンデールの奸計に遭い、地下坑道計画に参加しておられたが、剣闘士の大会のおり、皆の見ての通り、黄金の大仏ロボットを倒された。ご挨拶願おう」「拙者、そのような晴れがましい席などに」「何言っているんだよ、主水のおじさん。恥ずかしがるがらじゃないよ」知恵が、主水にハッパをかけた。「実はあの大仏ロボット、単なるまやかし、でくの坊にて、皆様方の力でも十分に倒せた七のでございます」 落合レイモンの助けのことは言えなかった。「ご謙遜、ご謙遜」「奥ゆかしい方じゃ。やはり束日本の方は違うのう」声が飛ぶ。「いえ、私は京都で製造された者です」「して、主水殿は、どなたのご製作で」声が続く。「足毛布博士でございま才】「何、足毛布……」 一瞬、群衆は静まリ返った。現在の西目本ロボットが、このような苦汁を賞めている原因は、すべて足毛布博士にある。誰かが、声を上げていた。「足毛布博士を血祭りに上げろ」「そうだ。この西日本ロボット奴隷制の諸悪の根源、足毛布を倒せ」 すべてのロボットが唱和しでいた。「皆様方、落ち看いてくだされ。まずは機械城を打ち滅ぼさねばなりますまい」「そうじゃ、それにまだ機械城にはロボ忍がおる。さらにはシュトルフ率いる聖騎士隊も残っておる。そして、まだ、機械城の内部構造も明らかになっておりません」「皆で押し出そう」「おっ」一同は再び唱和した。 機械城の前まで、反乱ロボットは達していた。山本が皆の前で大勢を止めで喋った。 「よいか、、皆、我らロボットが解散の時はきた。空母ライオン丸を沈めた我々に、何を恐れることがあろう。皆々様の力を合わせて、この機械城を攻め滅ぼそう」 地下坑道は、すべてこの機械城の下から発していた。いわば、地下坑道あるいはロボット動員制のシンボルがこの城だった。さらには、ロセンデールという外界からの圧力のシンボルでもあった。 機械城を見上げるロボット反乱軍の各々のロボットの胸のうちには、いろいろな苫い思いが内蔵されていた。怒りに似たものが彼らロボヅトの心のうちにたぎっていた。 「力押しじゃ、一気に攻め落とせ」 主水ですら、最初にこの機械城では、苦い思い出かおるのだ。人間として扱われていなかった。東日本で旗本ロボットとして扱われていて、それが普通になっていた。自由人から奴隷へ。世界が変わったのかとさえ、思った。そのような世界に押し込められているロボットたちを思った。また、地下坑道での重労働も思った。まるで人間の古い歴史時代の出来事ではなかったのか。 が、一番気掛かりなのは、ロボットたちの怒りがロセンデールではなく、直接には足毛布博士に向けられていることだった。彼らが足毛布博士を捕まえたならば、恐らく血祭りにしてしまうだろう。 主水にとって、足毛布博士はやはり生みの親だった。どんなにひどい親でも、親は親だ。 城内の方からは、まるで物音ひとつしない。逆に不気味だった。 「山本殿、これは」「あやつらのことです。何か悪巧みをはかっているのではないでしようか」「連絡を緊密にな」 城門をまず破ろうとする。 一瞬、数体のロボットが吹き飛ぶ。最初に入ったロボットたちは、黒焦げになっていた。両側の柱が放電管になっていたのだ。何百ボルトもの電流が流れていた。 「いかん、からくりを城のあちこちに設けていそうだ」 「いかがなされました山本殿」 「主水殿。どうにもあの門を突破できぬのでござる」 城門の前には、今吹き飛ばされたロボットの残滓が散らばっている。 「よろしい、山大殿。クラルテの格納庫、この側にございましたな」 クラルテをいかがなさる。あ、さようか」 「そうです。クラルテを暴走させて、この門を潜リましよう」 「しで、方法は」 「おまかせあれ」 主水は、自分の運命をかえた、クラルテの暴走を思い起こしていた。 格納庫には三十機のクラルテがチューンナップされて格納されていた。クラルテの電子頭脳の配線を、知恵に命じて改造する。「さあ、これで第一関門は突破できるじやろう」 クラルテは、大爆走を始めた。皆は城門に達する。しかし、門の放電管が発光する。そのきらめきの中に次々にクラルテが投入する。次々吹き飛ぶがその障害を除けてクラルテは入場している。いくつかが直接に放電管と触れ合う。爆発音がこだます。門の放電管は壊れていた。(続く)ロボサムライ駆ける第五章 ■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/ 非公開日記
2011.12.22
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ロボサムライ駆ける■第41回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training■第五章 機械城(4) 主水は愛剣ムラマサを片手に空母へとひた走る。反乱ロボットの中である一群を見ている。それは力士ロボットである。空母甲板のうえ、主水は大音声でいいきかす。「力士ロボットの皆様、申し上げる。拙者、早乙女主水でござる。左舷側に集まっていたたけぬか」 先刻の剣闘士試合で大樹山を屠った主水だから、力士ロボットはいうことを聴く。「早乙女様、集まりましたぞ。後はいかように」「しこを踏んで下されい」「しこですと、聞き間違いでは…」 力士たちは戸惑いを隠せない。「さよう、しこです」 念を押した。「ご命令とあらば」 首をかしげながら、力士ロボットが一斉に、しこを踏んだ。 パランスが崩れている空母ライオンは、甲板上のロボット力士のしこの振動で、左舷側に重さが集中してくる。 続いて、舷側まで走り、主水は海面に向かって叫んでいた。「サイ魚法師、私だ。主水だ。お主たちが海中におるのはわかっておる。助けを所望じゃ」 ぐらぐらと振動する空母ライオンの横に、小型の潜水艦が浮上する。サイ魚法師の新しい潜水艦だった。「やはりおったか、法師。同じロボット同志、ここは助けてくれぬか」「おう、生きておったか、主水。申しで断る、と言いたいところだが、先日ロセンデールから追い出されたわしじゃ。それゆえ、意趣返しじゃ。主水、協力してやろう」 サイ魚法師はつるりと顔をなで笑った。「かたじけない、さすがはその名も高いサイ魚法師じゃ、有り難い」「おい、主水、褒めるのもいいかげんにいたせ。早くしないとシュトルフの聖騎士団がやってこようぞ」「わかった。右舷側からサイ魚の攻撃をお願いもうそう」「あいわかった。まっておれ。特製のサイ魚軍団攻撃を加えてやるわ」 サイ魚法師の潜水艦の後には数万匹のサイ魚の群れがひしめいている。「ライオン」の右舷に水しぶきがあがる。 サイ魚の大群が魚雷のように空母を攻撃しはじめた。このサイ魚は鉄を食う魚である。 バイオ空母「ライオン」の船底は食い尽くされる。バイオ空母だけに、鑑底は柔らかいのだ。加えて力士ロボットの働きぶりである。ライオンは沈み始めた。「ロセンデール卿、ロセンデール卿はどこだ」主水は叫んでいた。艦橋のラダーを駆け上がっていた。「ロセンデール卿降りてこい。勝負じゃ」 そのとき、急速に降下してくるバイオコプターが一機ある。「いかん、逃げろ」 主水は、反乱ロボットに向かい叫ぶ。 何体かの力士ロボットが被弾し、数体倒れる。バイオコプターからの一連射が甲板上を縫った。「これが私の挨拶状がわりです。主水くん、機械城で待っておりますぞ。ふっふっ」 バイオコプターの窓から、ロセンデールの顔が浮かびあがって、にやりと笑った。(続く)ロボサムライ駆ける第五章 ■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.21
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ロボサムライ駆ける■第40回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training ■第五章 機械城(3) 叫んだ主水はまわりの地下洞をみわたす。地平は見えず、あたりは霞が漂っている。ようく、見渡してみた。急に光が射したようであった。 主水の周囲の壁には、石仏が数限りなく並んでいた。いやその石仏は、霞たなびく地平のはてまで続いているようであった。その数は数万、いや数百万もあるように思われた。「ここは…一体」 主水は思わず独りごちた。『化野(あだしの)じゃよ。よくこられたのう、主水よ』レイモンの声が響いていた。 が、レイモンの姿は見えない。「レイモン様、いずこにおわします」『何をキョロキョロしておる、主水』レイモンの声が再び響く。 主水は温度探査モードに、眼を切り替える。が、温感を感じるものは何もないのだ。 無機体のみが、主水のまわり数キロを取り囲んでいる。レイモンの声だけが主水に届いているのだ。『主水、わしがお前をたすけたのがわかったか』「レイモンさまが、私を…」『なにじゃ、わかっておらなんだか。あれほどたやすく大仏を倒せたと思うか』ありありと失望の色が声に現れていた。とすれば、先刻の空母での声も、レイモンに違いないと主水は思った。「どのようにして、おたすけくださったのですか」『この化野の力よ、化野の霊気により、大仏を生身にしたのじゃ』「レイモン様」 レイモンをともかく助けねばならないと考える主水である。『主水、わしを探す前に、空母へ戻れ』 レイモンは冷たく言い放つ。「そう申されましても」『命令じゃ、空母の方が急ぐのじゃ』 大仏ロボットを倒した主水は、ジャンプしてその地下洞穴からはい出る。 空母ライオンの方を、望遠ズームモードで見てみる。 空母の艦橋から火の手が上がっていた。 その時、走り寄ってくる影が二つあることに気付く。身構えるが「主水のおじさん」 知恵だった。「先刻はどうも済まぬ。が、知恵、あの剣ムラマサはどうやって取り戻したのじゃ」「それは、私から答えましょう」 見知らぬ一人のロボットが続いて知恵のそばにきていた。白髪頭のにこやかな穏やかな顔たちをしている。「こちらの御仁は…」 主水は見知らぬロボットを見る。「自己紹介いたします。私は西日本の奴隷ロボット解放の運動の指導者、山本一貫です。以後、お見知りおきを」 深々と山本は頭を下げた。「山本殿がこの刀を」「はい、この知恵に命じ、やつらの武器倉庫から手に入れたものです」「かたじけない、お礼を申し上げる。それで知恵は解放運動の……」「そうでござる。それで早乙女様、我々お願いの儀がござる」「はい、いかような」「既にご覧のとおり西日本においては、我々ロボットは奴隷制の下、人間のくびきの下におかれております。我々は東日本のような自由な世界に生きとうございます。それゆえ、ロボット解放運動を進めております。このことわかっていただいて、我々にご協力を賜りたい」「協力とは、一体どのような。小生とて、現在、剣闘士の身分。自由でありません」「相談でござる。恐らく早乙女殿のお手前をみて、西日本都市連合はある提案をするでありましょう。それをお受けください」「提案ですと…、そうとはいえ」 そのとき、空母上でひとしきり大きな音が響いた。「早乙女殿、空母上にお助け下されい。我々の仲間、力士ロボットがロセンデール側の聖騎士団相手に闘っておりますれば」 一貫が頼んだ。「聖騎士団を相手に…」 その時、主水の頭の中にある考えがひらめいていた。「一貫どの、早速参りましょう」(続く)ロボサムライ駆ける第五章 ■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.20
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ロボサムライ駆ける■第39回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training 大仏は地下大空洞の中へ落ち込んでいく。続いて後を追って飛び込む主水。主水は何とか地面に立っていた。「ここがお主と私の死のリングぞ」 黄金大仏に叫ぶ主水である。 空いた穴から光りがさしこむだけで後は真っ暗である。大仏はゆっくりと立ち上がる。足元はかなり窪んでいる。ゆっくり、暗渠の中を見渡し、ようやく主水を見つけた。 にやりと笑ったようでもあった。法衣の裾さばきも良く、ぐいぐいと主水の方に近づいて来る。身長三十メートル。主水の体が小さくて、目に入らぬのではないかと思うくらいである。急に腰を屈めてくる。 足が跳んで来た。踏みつぶそうというのか。主水は真上に剣を突き上げた。刀が何かの中に入っていく。 大仏の足の裏に突き刺さっていた。一瞬の後、主水は足の先より逃げていた。「ぐわっ、ぐわっ」 大袈裟な反応が大仏ロボットより返ってくる。無論タイ語でしゃべっているのであろう。おや、思ったより、皮膚が柔らかいらしい。 ハイチタンではないようだ。二本目の刀、愛刀ムラマサをもって、目の前にある足の上を、刀の刀頂を支点にして飛び越してみる。「ぐわっああ」 すっぱりと,刀ムラマサの通った後に傷が残っている。 見かけ倒しだ。痛点があちこちにあるらしい。主水は右足から臑、大腿部と続けて飛び上がる。 大仏はすばやく動く主水を見つけられないようだ。 よろしい、それならと、背中から首もとへ。主水は動く。左右の手を背中にまわそうとする大仏ロボット。だが、「かゆいところへ手は届かぬ」ではないが、肩のジョイント部分が正常に作動しない。手が回り切らないのだ。 主水を探す左手のひらを再び刀で切り下ろしてみる。大仏の手のひらに生命線が切り刻まれている。「大仏よ、お前の生命線が長くはないぞ」 つぶやく主水。 背中から首へ飛び上がった主水は、首の痛点に刀を差し入れる。 よくよく考えれば、大仏は武器を持っていないのだ。大仏の武器はその体なのである。伸びる指にすばやく指紋を刀で刺される。大仏との闘いは、ほとんど主水のペースであった。 これには当のロセンデールですら、気もつかなかったであろう。「くそっ、タイの大仏はこんな不良品だったのですか。単なるでくの坊じゃないですか」 ロセンデールは歯がみする。「いや、大仏ならぬおだぶつですよ」 まわりにいたクルトフがなれぬシャレを言う。クルトフもやけくそである。「クルトフ、君まで」 ついに顔のうえで飛び上がった主水の剣ムラマサは、耳、鼻を切り落とした。 とどめに両眼を突き刺す主水。まるで生身の体をもつ大仏はゆらゆらと揺れ、ドウと大地に倒れた。 大仏の体は、どろりと、ゆっくり分解する。大仏の体は、バイオコプターの機体集合体となり、それもくずれ、バイオコプター飛行士の体がどさりと出てくる。 主水は片手で死体を拝む。このタイの大仏は、小型バイオコプター40機が合体してできていたのである。それゆえ、移動も簡単なのであった。「大仏ロボットやぶったり」 主水は雄叫びを上げた。(続く)ロボサムライ駆ける第五章 ■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.19
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ロボサムライ駆ける■第38回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training ロボサムライ駆ける 第五章 機械城(2)■第五章 機械城(2) ロセンデールは、もう下の動きが気になっていて、思わず安全な艦橋の特殊グラス展望台、別名、金魚鉢から出て、下にいる自分のロボットたちに直接叫んでいた。 見上げるロボットたち。一瞬、ロセンデールと早乙女主水の眼があった。「これはロセンデール卿ではござらぬか」 主水はにらみつける。ロセンデールも顔を真っ赤にし、どなり返す。「主水、ここがあなたの墓場ですよ、覚悟しなさい」 が、主水の手練の剣は、次々とロセンデールのロボット軍団をなますにして行く。残るはロボットのがらくた。「ええい、秘密兵器を出しなさい」 様子を見て怒り狂うロセンデールだ。「でも、殿下、あれは、特別では」 鷲顔のクルトフが、注意をうながした。「あやつ、主水は生まれながらの宿敵です。できれば自分の手で戦いたいものです」 ロセンデールが、クルトフや水野たちに言う。「殿下、そ、それは、お止めください。この状態です。日本の反乱ロボットを収拾するだけでも一苦労いたしておるのですぞ」 じゃがいも顔のシュトルフが言った。「まあ、よいでしょう。ではあやつ主水を、反乱ロボットの見せしめとしましょう」「何ですと」クルトフが言う。「いいですか、早乙女主水君、我々が代表してロボットを西日本都市連合に送り込みます。そのロボットに勝てば、お主ら反乱ロボットの意見に耳を傾けましょう」 ロセンデールは、美しい顔ににやりと恐ろしい笑みを見せながら言う。「いかぬ、罠じゃ。早乙女殿、止められるがよい」 味方の反乱ロボットが言う。「そうじゃ、名指しじゃ」「が、拙者はロボット武士でござる。相手からの挑戦を断ったとあっては、ロボット武名に響きまする」 ロセンデールを見上げて、声を引き絞る。「しかとあいわかった。ロセンデール卿。私が勝てば話を聞くというのじゃな。皆様方、争いの手をしばし休められい。この早乙女主水が皆様にかわって、体制側の繰り出すロボットと一対一で戦い申す」 あたりはシーンと静まり返る。 一体どんなロボットが出現するのか。固唾を呑んで見守る。 飛行機用甲板に、そいつがエレベーターとともに競り上がって来た。 バイオコプター群がガチャガチャと音を立て始める。自らの機械を解体し始めた。それが中央で集まり、姿を取り始める。 やがて、甲板上には巨人が立っていた。 黄金の大仏ロボットである。 大仏は座禅を組んでいたが、ゆっくりと立ち上がる。 空母がぐらりと傾く。全長三十メートルであった。「よろしいか。主水、大仏が相手です」「相手に不足なし」 と大音声で答えるが、主水はびびっていた。果たしてこれを倒すことができるのか。氾濫の様子はなにわテレビで流されている。「むちゃやがな」 これが大阪人、大多数の反応だった。「卑怯だっせ、ロセンデールはん」 主水の前に大仏が立っている。 反乱ロボットの何人かが口にだしていた。 大きい。 ともかく普通の相手ではない。主水も攻撃方法を考えあぐねていた。その図体にも拘わらず、所作の素早いのが気に掛かる。腕の一振りでもまともに受けてしまえば、恐らく主水の体はぺっちゃんこになってしまうだろう。主水の体機能は、むろんすべて麻痺してしまう。 そうならないようにどうすればよいか、主水も考えているのである。「主水のおじさん、ムラマサだよ」 反乱ロボットの中から、誰かが主水の刀ムラマサを投げて寄越した。主水は刀をハッシと受け取る。国境の検問所で取り上げられた刀である。「おお…、これは…、どなたか知らぬが、ありがとうござる」 ムラマサを掴み、いままでの剣闘士の刀と両刀を構える主水だった。 鑑橋の上を見る。知恵が主水に手を振っていた。「がんばりーに。主水のおじさん」 どうしてこのムラマサを、と聞きたい主水だったが、今はそれどころではない。 が、いかんせん、飛行甲板の上では限られている。地上で戦う必要があるだろう。一瞬、主水は大仏の方に向かい、走り続けた。 すわ、戦いをすすめるかと皆注目する。が、主水は大仏の手に捕まる前に、足元を通り過ぎ、甲板の端まで来ていた。「大仏、ここまでこい」 そう大声で叫び、甲板から水面へ飛び降りた。大仏も、甲板から海上へ。大仏のジャンプの瞬間、流石の空母「ライオン」もぐらりと揺れた。大波が起こり、波の上の主水は、やがて港の上に投げ出されている。「おじさん、早く、あの大仏を穴の中に落とし込むんだよ」 主水に知恵が叫ぶ。が聞こえない。『大仏に勝つには、穴じゃ、穴に連れて行くのじゃ』 続いて、誰かが叫んでいた。この声はどうやら主水のみに聞こえるようである。心の中に直接届いているよであった。聞いたことのある声だった。「穴ですと」 空に向かって、主水はうめく。どういう意味なのか。『ええい、じっれったい奴じゃの。お前が穴を掘っておったろうが。あの地盤の弱いところまで連れて行くのじゃ』 その声にはあせりが見えていた。「なるほど、わかり申した」 主水は、大仏ロボットの攻撃をうまくかわし、走りに走った。マラソンではないが、丘を越え、山を越え、川を越えといいたいが、近畿新平野はフラットなので、主水はジグザクに走る。いままで、こんなに必死で走ったことはない。まるでマラソンランナーである。 空母の人々は思う。あいつら、一体どこまで。主水の奴、逃げたのかとか。なさけないなあとか、色々憶測を呼んでいた。「ここだ」 思わず叫ぶ主水だった。主水の足元が、違う。体の感覚が告げていた。問題の地へやっとついた。一時間ばかり走っていただろうか。「ここを戦いの場所としよう」 続いて疾走して来る大仏を待ち構える主水。大仏がその地に足をつけた瞬間、地面が割れ、大仏と主水は体ごと地中へ。大暗渠である。 ロセンデールたちは、二人のロボットを追って映像を送って来る監視ヘリを送っていた。「いかん、化野(あだしの)まで連れていかれた」 空母の上で叫ぶロセンデール。(続く)ロボサムライ駆ける第五章 ■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikku.com/
2011.12.18
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ロボサムライ駆ける■第37回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training ■第四章 剣闘士■(7) 知恵は、機械城本天守閣をのぞき込んでいた。 剣闘士大会開催のため、機械城の警備は手薄になっている。 天守閣は一階から五階まで巨大な吹き抜けとなっている。その吹き抜けの部分に黄金の大仏が座しているはずだった。「あっ…」思わず知恵は叫んでいる。「大仏がいない…」 冷や汗がツーッと知恵の頬を這う。早速仲間に知らせなければと思う、知恵だった。瞬間、後ろに気配が…。「まて、こんなところに鼠がおったわ」「動くな」 機械城警備のロボ忍たちが知恵を発見したのだ。知恵の顔をのぞき込み、彼らはデータベースで知恵をチェックした。「お前、国境のあたりで、主水とかいうロボットと一緒にいた子供ロボットだな」 ようやく答えがでたようだ。「おやおや恐い。あのお兄さんたちだ…」「よいか、知恵とやら。今度はあのときのような失敗はせぬ。それにお前には、今度は主水はおらぬぞ」「機械城の埃にしてくれるわ」「おじさんたちさ、俺をバラバラにできることの方が誇りとなるよ」「こわっぱめ、いわせておけば」 一斉にロボ忍が知恵目がけ飛び掛かる。大きな音が、大天守閣屋根に響く。ころがっているのは、ロボ忍の方だった。「おじさんたち、あたいをばかにしゃあいけないよ…」 知恵は仕掛けを天守閣の屋根につくっておいた。ロボ忍の体に放電されたのだった。 細工師の知恵は、機械城内にある金庫の前に立っていた。獲物を前に舌なめずりをする。「さあて、あたいの腕が、どれだけ通じるかだな」 知恵は、今まで難攻不落といわれていた金庫の鍵を、次々と押し破っていた。子供ロボットながら、この世界では最高の細工師といわれているのである。 この金庫は割合に時間が掛かった。知恵にとっては、初めての経験だ。人工汗が流れ出ていた。『あるいは破れないのでは』知恵に生まれて初めてあせりの思いが湧いた。 が、開いた。歓喜の感情がじんわりと知恵の人工頭脳に広がっていった。ドアの中は真っ暗だった。スイッチを探して、金庫内の明かりを点ける。「ひゅーつ、こいつは」 一瞬、知恵は口笛を吹いていた。目の前に広がっているのは、知恵には思いも掛けない光景だった。この金庫は武器の山だったのである。 昔、ロボット奴隷制が施行され、ロボット動員令が発令されたとき、いわゆる刀狩りが行われた。個人個人のロボットが所有する武器は集められれていた。それがこの武器の山だった。レイ・ガン、レイ・サーベル、動波砲、刀、槍、青竜刀、まるで武器の見本市、なんでもござれだ。しかし、知恵が探そうとしているのは、特別な刀。つまり早乙女主水の剣ムラマサである。 ◆「花村様が、水野様に至急お耳にいれたいことがあると申されておられますが」 空母の司令室に議長の水野がいた。「よい、我が部屋に通せ」 花村が音もなく現れている。「花村、いかが致した。徳川公誘拐の件、成功いたしたか」「その件は確かに。この花村一去、自らが徳川公を誘拐致しましたゆえに、心配なさいますな。これにより東日本都市連合は、しばしは我々西日本に手出しすることはできますまい。それより、お上」「何か、変事出来致したか?」「誠に私の監視下、変事が起こりました。機械城天守閣上でございます。私の手のロボ忍数体、バラバラにされてございます」「誰もその戦いに気がつかなんだのか」「それが大音すると聞き、我がロボ忍おりましたが、数体壊れているのを発見せし次第」「して、何者が。東日本よりの破壊工作者ではあるまいな」「それが天守閣上に設備されております小型モニターのVTRを再生致しましたところ、わずかながら手掛かりを得てございます」「して、相手は」「それが…」 花村は言い淀んだ。「えーい、早く申せ。その仕業の張本人は」「それが、はぐれ子供ロボットの、細工師の知恵とかいう者らしく」「何、子供に、そちらのロボ忍が負けたと申すか。もしや、花村、そのもの『運命の七つ星』ロボットではあるまいな」『運命の七つ星』ロボット、、、、 水野の恐るべき質問に、花村も答えることがなかなかできない。「調べる手立てはございません」「何、全ロボットデースベースに、そいつの資料がないと申すか」「知恵なる者の資料、ごっそり消えてございます」「うーむ、ともかく警戒おこたるな」 花村は、すごすごと司令室から去っていく。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.17
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ロボサムライ駆ける■第36回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training第四章 剣闘士■(7) 中盤で、総当たり戦になる。武術ジャンルに関係なく戦う。手慰の興味しんしんタイムだった。『東、大黒屋どの所属、松前闘司郎どの、西、会津屋どの所属、大樹山どの』 行司が大声で呼びあげた。剣術部門と力士部門の本日の人気者同志の対決だった。いやがうえにも、観客の興味は盛り上がる。 歓声が大阪湾に響きわたった。 主水は大樹山とがっちりあたっていた。 大樹山は最初から、主水を殺すつもりだ。大樹山は、刀をはたき込み、剣はみごとにたたき落とされていた。ついで、さば折りを掛けて来る。「主水。ここが地獄の一丁目ぞ」 大樹山は真っ赤な顔をして耳元で囁いた。「大樹山どの、どうしても、拙者を殺すつもりか」「あたりまえじゃ、かわいい舎弟の仕返し、せんでなるものか」 主水は逆にロボットレスリングで鍛えた技で返していた。「むぐっ、貴様、一体、どこで格闘技を」 大樹山の表情には主水に対する恐怖の色が見えた。「アメリカでのう、鍛えておった」 落ち着いて主水は答える。「相手に取って不足なし。ここが死に場ぞ、主水」 アメリカのNASAにいたころ、主水はロボットプロレスリングから誘われたこともあるくらいの腕前なのだ。 主水は、大樹山の頭を、体でがっちりつかみこんだ。大樹山も両腕で主水の腰関節がきしむ程、締め上げている。 場内の空母でも、観客は息を飲んで試合を見ていた。死闘であった。 戦いをするものの勢いが、観客にも伝染していた。機械の体がきしんでいる。ばきばきと音がした。主水の腕もとから、機械の部品の残りがポロポロと甲板へ転がり落ちた。 主水が、とうとう大樹山の頭を潰していた。「おおーっ」 観客からどよめきが起こった。ゆっくりと主水は、大樹山の体を横たえる。観客総立ちであった。大樹山の首から上はぐしゃぐしゃに潰れ、跡形もない。 この試合の後、主水は『殺戮者』のあだなを貰う。 ◆ 後半戦にはいっていた。また部門ジャンル別の戦いとなる。「もしや、議会のおりの、レイモン殿あずかりの、狼藉の御仁ではござらぬか」 主水の次の対戦相手がそういった。「そういう、貴殿は」「死二三郎でござる」「貴公は、たしか、黒こげになっておられたのでは」「いや、修理されました。この剣闘士試合のために。貴公こそお名前が『松前闘司郎』となっておられるので、わかりもうさなんだが、それで拙者が切り落とした左手はいかがいたした」「この剣闘士になる前は、地下坑道で働かされておりましたゆえ、修理してくれました」「それはよかった。それでは存分にお手合わせいただきたい」「のぞむところ」「死二三郎殿、今度はあの議会のおりのように参らぬ」 主水は青眼に構える。「それは私も同じこと」 二人の刀は動き始める。が、刀の動きがあまりに早く、観客は刀が見えない。おまけに死二三郎も、主水もすばやく動く。観客の目にも止まらぬのである。手早に働きながら、主水は話しかける。「中々の腕前よのう、死二三郎殿」「貴殿こそ。このような宿敵にあえて、うれしいぞ」「私も同じ考えじゃ」 しばらくは刀を交え、静止する二人である。突然、主水の目に光が射した。光線は視覚機能から頭脳へ入る。何かの信号が、この光線に含まれている。よろける主水。隙に乗ずる死二三郎。「一体誰が」 おそらくは死二三郎を擁する都市代表の仕業であろう。が、光に目が眩んでいる様子に死二三郎は気付いてはいない。「ええい」 すばやく死二三郎の剣先から逃れる主水。死二三郎は不審に思う。「主水殿、いかがなされた。拙者から逃れられるのか」「そうではござらぬ」 主水は目を瞑った。だらりと両手を下げる。隙だらけである。「その姿は一体、私を嘗めておられるのか」 死二三郎はあまりの姿に怒り始めた。主水は無言である。「ちぇっすと」 死二三郎は怒りに駆られて切りかかる。怒りのエネルギーが、死二三郎の電子頭脳の処理をわずかに狂わせる。 死二三郎が上段から振り下ろす刀に対して、逆に主水は飛び上がる。かなりの上空から、勢いを込めて、剣を振り下ろしていた。主水の剣は、死二三郎の頭から背中にかけて切り裂き、留まっていた。「うっ」 死二三郎は、甲板のうえに頭や背中から生命液を飛び散らかして、どうと倒れる。顔を横にかしぎ、言った。「主水殿、見事じゃ」「いや、貴公こそ」 主水はゆっくり目を開く。主水の開いた目には、まだ何かの光が当たっていた。「その目への光りは」 死二三郎は、様子のただならぬことに気付く。「いや、何でもござらん。波の照り返しでござろう」 主水はごまかそうとする。「くっ、何たる卑劣な真似を。我が都市連合も。我輩ここで恥かき申した」 死二三郎は、この卑劣な手段に気付いて悔やむ。「主水殿、お願いがござる。拙者、メインボディの爆発装置が作動する」 死二三郎は、苦しい息の下、恐ろしいことを告げる。「なんと」「拙者、不負の男と呼ばれましたならば、そのような処理をされておりまする」「して、願いとは」 主水は死二三郎の思いを聞こうとする。「どうか拙者の左腕をお使いくだされい。取り外して貴公の手にしてくだされい。拙者が切り落とした左腕のかわりにお使いくだされい。拙者死二三郎の生きていた証しとして貴殿の左腕として、お使いされたく」「死二三郎殿、有り難く頂戴いたす」 死二三郎は、主水にほほ笑んで事切れた。主水は死二三郎の体を拝んだ。その後形見として左腕をはずす。主水が後に下がって、しばらくして死二三郎の体は爆発した。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.16
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ロボサムライ駆ける■第35回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training第四章 剣闘士■第4章(6) その日、空は天頂まで晴れ上がっていた。大きな音が響いていた。大阪湾上に花火が打ち上げられているのだ。剣闘士大会の会場が、ロセンデール卿の持船「ライオン」の飛行甲板上に設けられていた。 花火が終わり急に静寂が訪れ、突然に法螺貝が鳴り響いた。 空母「ライオン」甲板の六ヵ所に設けられた入場口から、各々の武術のロボットが一団となって入場してきた。各々のロボットの背中には、西日本連合の各市の旗が掲げられている。 剣闘士大会で優勝したロボットの持主の旗が、空母ライオンの艦橋の上にへんぽんと翻るのだ。 この武術試合には、BGMとして、日本古来の音楽が編曲され、使用されている。ロック調に編曲された日本古音楽にのって、次々と剣闘士ロボットが出現して来る。空母ライオンの甲板上に設けられた客席にいる、観客が手を叩き続ける。もちろん観客は、すべて人間である。 当然ながら、どの剣士が入賞するかの賭けも行われている。客席のあちこちから、各都市の市章応援旗が打ち振られている。ロボットとはいえ、各都市を代表しているので、各都市ではテレビから流れる映像に釘づけになっている人達が多くいた。 艦橋に設けられた挨拶台に、一人の男の姿があった。西日本都市連合議長、水野英四郎である。水野は、挨拶の辞を始めた。「はるばるヨーロッパ、神聖ゲルマン帝国のルドルフ大王の宮廷から来航されたロセンデール卿のご招待を受け、急遽このライオン号にて御前試合を開催するに至りました。 まず、卿に感謝の拍手をお願いいたす」 西日本都市連合の人々は頭を垂れた。 ロセンデールは軽く目礼を返す。水野は挨拶を続ける。「この剣闘士御前試合も迎えるところ二十回となり、日本精神の華ともいえる、日本武道を見せる世界でも稀なロボット剣闘士大会となっております。 西日本エリアの各市を代表する参加ロボット諸君はもちろんのこと、西日本における有名企業の皆様の絶大なご協力に感謝する次第であります。 今回より、ロセンデール卿のご好意により、この試合の様子は西日本、東日本は及ばず、全世界に放送され、日本の武道文化を知らしめるに大いに役立つでありましょう」 ライオンの係留されている大阪港の波止場あたりにも、観戦希望客が詰め掛けていた。埠頭近くに民間企業による特設会場が設けられ、何とか空母上を見ることができた。空母ライオン上の会場では、続いて各市を代表する武闘ロボットが紹介されていく。 ◆ 飛行船「飛天」で、東京から飛行し、ほぼ昔の名古屋あたりを通過している鉄は、この剣闘士大会の中継番組を、機械茶を飲みながら見ていた。「こりゃ、主水のだんなが出場すりゃ、皆いちころだがね」 独りごちた一瞬後、テレビ画面に主水の顔が写し出される。鉄が、茶を吹き出す。「ありゃ、いけねえ、本当にだんなだ。マリアあねさん、大変ですぜ。だんなだよ、だんなが西日本の剣士として登場していまさあ」「本当ですねえ。主水め、何しているの。人が心配しているというのに」 マリアがテレビの画面を眺める。主水の姿が写っている画面の映像スーパーには、『大黒屋所属・松前闘司郎』となっていた。 ◆ 剣闘士の試合が始まっている。 主水の習練の技は、西日本エリアの剣闘士の比ではなかった。 次々と試合に勝ち進んで行く主水であった。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.15
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SF短編[帰郷(ききょう)] 帰郷(1976年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 ●山田企画事務所●ここをクリックしていただくと、山田の小説以外のブログへのページがあります。のぞいていってくださいませ。 飛行機の窓から見ると、迎えが来ているのが見えた。父母と妹。元気そうに見える。僕は、この町に帰ることを楽しみにしてきた。この瞬間を、どれほど心待ち毘していたことだろう。長い間、僕は孤独で、そして疲れ切っていた。 僕は息をはずませて、皆の前に立っている。妹は、まだほんの子供だったミリーは、もうりっぱな娘になっていた。 「ねえ、にいさん・戦争はどうなっているの。敵はとっても強いってことだけれど。にいさんも火星にいたんでしょう」 火星。血にまみれた戦場の星。そう確かに、僕は火星の上で闘ってきた。多くの戦友が、敵のために死んでいった。「ミリー、ミリー、そうあわてるんじゃないよ。せっかく町に帰ってこれたんだ。家でゆっくり聞けばいいじゃないか。シムス、元気でなによりだ。五体満足か。この町でもかなりの人がサイポーク手術を受けて帰って来ている。本当によかったなー。それで戦時休暇はどれくらいだね」僕は、父と母を両肩でだき忿がら答えた。 「3日だけさ」 「たった3日」 「そうだな。おまえは、宇宙軍団の兵士だものなあ」 僕の兄、弟、息子を2人までで死なせ、自らも傷ついた父が、それでも戦時勲章を胸にかかげて、誇らしげにいった。 僕達は、空港を出て家への道をたどり始めた。僕がどれほど、この戦時休暇を待ちわびていたか誰が知るだろうか。僕の前には、常に敵しかいなかった。敵をやっつけること。それしか考えられなかった。宇宙船の残骸。氷りつきそうな遠い星の光。姿も確認できない戦友のなきがら。それが僕の日常生活のすべてだ。 僕の町はほとんど昔のままだった。戦争前のままだった。わずかに、敵襲への警報装置とパリヤー装置が、町の外観をそこねていた。 途中、僕はこの戦争で亡くなった友達の数を数え始めていた。もう、両手、両足ではたりない。家にたどりついた僕は部屋にあがり、気がつくと、自分のベットの上で、うつぶせになり、力をこめてベットをたたいていた。感情の激発だ。 僕の部屋は、そのまま残されていた。となり2つの空部屋は、戦死した兄さん、弟のもの。本箱には宇宙科学の本とSFのペーパーバック。 「シムスにいさんヽはやくーー、食事の準備ができたわよ」下の階から、妹の呼ぶ声が聞えた。僕のための、妹と母の愛のこもった料理が下で待っている。携帯糧食ではないのだ。食堂に降りていくと、皆うれしそうな顔で僕を見ている。 破局はその平和な一瞬に、訪れた。 唐突に光が。それから限がくらみ、体の感覚がなくなる。敵の攻撃だ、と思う間もなく、意識が遠のく。*** 目の前は、暗い空間だった。僕は、裸で灰色のパネルの上に、横たわっている。敵の熱線で、焼きこげたはずの服は、、あとかたもなく消えている。そうだ。ここは宇宙船の中だ。僕は現実に目ざめる。 右の璧に空洞ができ、ロボットのM113が歩いてくる。 「いかがでした。過去への旅は。完全に複製されていましたか。今回は心理治療、あなたの過去再生のテーマは、あなたの故郷でしたね」M113が言った。「完璧だよ、悲しいほどにね。M113」「悲しいほど完璧?意味不明です」「いいよ、ひとり事だ。気にするな」あまりに完璧すぎる。僕のメランコリーは、増すばかりだ。心理療法にはなっていない。「過去再生への旅」はM113が考えたことだ。僕は、たまに不安状況に追いこまれる。その解消のため、M113は、「過去再生への旅」部屋を、船の一角に設けてくれた。その部屋で、僕の記憶が全部読みとられ、過去の歴史が再現されるのだ。再現された世界で、僕はどんなものにでも手をふれることができれば、誰とでも話しあうことができるのだ。 しかし細部は異なっていた。過去への旅のあと、僕の敵へのにくしみは増すばかりなのだ。M113は、僕が敵への戦意を失なわないようにプログラミングしているのだ。『司令官以外立入禁止』の表示のあるドアを、後にした僕にM113は言った。「シムス司令、そろそろ地球を通過します。いや訂正します。もと地球のあった座標を通ります」船の巨大スクリーンには、敵の攻撃で、星くずになった地球の位置を示していた。 たったーせき残った地球の戦闘艦。そして僕は、最後の人類。 この広い宇宙の中で、人間なんか一人もいやしない。だから、僕はいいようの冷い不安にかそわれるのだ。 絶え間ない敵との戦闘を、僕はー人でたえてきた。たった一人で、この船とロボット戦闘員を指揮してきた。 敵を滅ぼすまで、僕は生きつづけるつもりだ。一生、この宇宙船の中で暮らすことになるだろう。 僕は、何度過去への旅をくりかえすだろうか。そして帰郷は、、。(完)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 ●山田企画事務所●ここをクリックしていただくと、山田の小説以外のブログへのページがあります。のぞいていってくださいませ。
2011.12.15
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ロボサムライ駆ける■第34回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training第四章 剣闘士(5-2) ◆ 新平野にある大阪市の中央に、その建物『ロボット道場』は設けられていた。まるで円盤が着陸したように思える。大きい。西日本都市連合議場と同じ広さ、あるいはもっと広いかもしれない。 剣闘士道場の中に入った主水は、驚いた。これは東日本以上だと思った。巨大なアスレチックジムが数十個ある感じなのだ。 ジムといっても人間のように筋力をトレーニングによって増強するわけではない。反応速度、ジョイント部分の潤滑、電子頭脳のシノプス反応、計算速度、試合の分析・解釈、試合例を、電子頭脳に読み込んで行くのだ。 廊下にはずっーと、剣闘士大会の優勝者の立体写真が並んでいた。「これは…」 ゆっくりと、主水はその顔を見ていく。 松前の名前で登録されている主水はトレーナーに尋ねた。「思われるとおり、優勝者だ」 トレーナーはにこりともせず答えた。「今、彼らはどうして…」「それは…」 案内するトレーナー・ロボットは言葉を濁した。「残念ながら、ロボット廃棄処分になったとか」 しゃれを言い、事実を知ろうとした。「そういう訳ではござらん。皆データバンクに生きてござる」「データバンクに生きてだと」 主水は悲しくなった。つまりは優勝者はだれも生きてはいないのだ。 ◆「戦いとは、対戦相手の息の根を止めることじゃ」 主水の前にいる老剣闘士トレーナー『吉野工作』が言った。 怜悧な、あるいは無表情とも言える顔付きで、白髪である。作務衣を着ていた。体にむだな動きがない。動きが流れるようである。「吉野様、ではいかなるときも、対戦相手を殺せとおっしゃる訳ですな」 主水は勢い込んで尋ねた。「そういうことじゃ」「トレーナー吉野殿、何のために相手を殺すのですか。同じロボットなのに」「ほほう、松前殿は、そのような基本的なこともおわかりにならぬのか」「さようでございます。私め、主人の大黒屋様から剣闘士になれと指示されただけで…」「ロボットの戦いは、持ち主の自分の名誉のためじゃ」「名誉ですと、人間の名誉のためだけですか」「さようじゃ、松前殿、我々が存在できるのはそのため。人間のために死ぬことは当たり前じゃろう」「それは足毛布博士の公理でございますな」 足毛布博士の法則『ロボットは、人間の利益のために死ぬべきである』「そうじゃ。どうやら、合点がいかぬようじゃな」「吉野殿。我々は、人間に作られたとはいえ、生命体でござる。つまり新しい個性でござる」 主水は力み、主張する。「いやはや、危険思想じゃのう。足毛布博士が聞かれたら、どう思われることか」 吉野は頭を振りながら暗い顔をする。吉野は考えていた。『このロボットは危険思想の持ち主じゃ。試合中に潰してしまわねばならぬ。後で競技委員会に連絡しておくべきじゃ』 実際、同じような質問をしたことのある主水であった。 主水が足毛布博士の元から逃亡したのも、その議論が原因なのだ。 主水は、深い記憶の層から、何かが浮かび上がって来るのを感じている。 霊戦争以前に、「ロボリンピック」という競技大会があり、ロボット同志がおのが技量を競ったことを。そのメモリーはすべてのロボットの基本フォーマットの中に残っていた。それはそれはすばらしいロボット同士の競技会であった。ロボットはロボット自身の名誉のために戦ったのだ。その時、力士型ロボットの一人が、主水の側まで近づいてきた。 彼は剣闘士トレーニングセンターの一室にいた。大きい。二メートルくらいだが、体重は四百キロはあるだろう。「俺は大樹山よ。主水、覚えているか」 急にそいつは話しかける。この力士は、主水の本名をしっていた。「大樹山殿、申し訳ないが、とんと」 主水は首を振った。「貴様は俺の舎弟を殺したのよ」 主水の記憶メモリーバンクの中で、何かがくるくるまわっていた。「そうか、あのとき、貴公が…」 主水は、徳川公が臨席される天覧大相撲大会に付き添いとして参加したことがある。 そのおりのこと、ロボレスの唐海が、大相撲場所に殴り込みをかけてきたのである。 唐海はロボ相撲の昇進試験に問題ありとして、ロボ相撲を去り、ロボットプロレスであるロボレス協会に所属を変わったものであったが、意趣返しのためこの天覧相撲大会を混乱に陥れようとして、ロボット相撲ホールに暴れ混んできたようだった。 そのとき、主水は徳川公を守るため、唐海を切り殺していた。「それでは大樹山殿は、唐海関の兄弟子であられるか」「そうじゃ、剣闘士大会のおり、楽しみにしておるぞ、主水」 どすの効いた声でしゃべり、大樹山は、どすどすと足音もはでに、去っていった。「この大樹山とは戦わねばならぬのか」 主水は思った。何という因縁輪廻の中に生きているのだ。もう一つ心配なことがある。この試合を見れば、足毛布博士が気付くかも知れぬ。さらに、ロセンデールがいればもっと悪いことになろう。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.14
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ロボサムライ駆ける■第33回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training■「そうです、その通りです。あやつらのタコを叩き落としてほしいのです。何、すべてを落とせと言うわけではありません。この飛行船の通る範囲内でいいってことです」 当たり前のように簡単に、マリアは言う「無茶だよ、私しゃ、高所恐怖症なんですよ」 鉄は冷汗をかいていた。「さっきはそうは言わなかったでしょう。ほら、落ち着くために特別の機械茶を飲ましてあげるますから、がんばって」「もし、私の乗ってるタコが切られたら」 鉄は、タコの落ちる姿を想像し、がたがた震えている。「そりゃ、あなたごと落ちるでしょうね」「ね、姐さん。本当にわたしに戦えっていうんですかい」「当たり前じゃないですか。いいですか、鉄さん。あまり動くんじゃないですよ。縛れないじゃないですか」 鉄の体はタコに縛り付けられていた。「いいですか、空軍のだんな方。絶対タコの糸を切り離さないでくださいよ」「おお、心得ておる」 鉄と対照的に、話の経緯に、にこにこしながら答える兵士たち。「で、お助けをしてくださらないんで」 鉄は足をがくがく痙攣させながら、マリアや空軍兵を一通り見渡した。皆知らぬ顔である。「貴公、一人で充分だろう」 佐久間空軍大尉が言う。「徳川の御前から、早乙女主水殿の配下優れた戦闘ロボットだ。そう聞いている。」「鉄さん、震えているんじゃないでしょうね」「え、姐さん、こいつは武者奮いって奴で」「それじゃ、いいかですか。そうれ。外ですよ」 鉄の乗ったタコは飛行船から押し出される。「ま、まってくだせえ。まだ心の準備があ…」 言葉を言い終わる前に、鉄はタコごと空中に浮遊していた。 真下は関が原らしい。雲の間から復旧しつつある東海道がぼんやり見えた。「いっ一体、どうやって動かしゃいいんだ、これは」 鉄は独りごちた。『鉄さん、早く敵の方へ行きなさい』 耳のレシーバーから、マリアの声が入って来た。「あっ、姐さん。姐さんの声を聞けるだけでも、たくましい限りだ」『いいから。ほら、奴らの方が、もうやって来ていますよ』 そういっているうちに、鉄のタコのまわりを、ロボ忍のタコが囲んでいた。「や、やい。俺を誰だと思っていやがるんだい。東京じゃ、ちょっと知られたお兄さんだぞ」 ひびりながらしゃべる鉄。相手のロボ忍が笑いながら言う。「ほほう、威勢だけはよいのう」「あ、あっしの頭(かしら)を聞いて驚くな。早乙女主水のだんなだぞ」「何、早乙女主水だと」 ロボ忍の数人が、あきらかに顔色が変わっていた。「どうだい、驚いたかい」 鉄はいばるが、逆効果だった。相手の様子が険しい。「早乙女の使い番ロボとあらば、尚のこと、生かしてはおけぬ」 逆にロボ忍の殺意をたぎらせてしまった。「早乙女主水の旦那は評判悪いねえ。いや、その、あの、生かしてはおけぬなんて。もちょっと…」 慌てて、何とかごまかそうとする鉄。「各々方かかれい」 ロボ忍の一人が命令する。「助けてくれ」 鉄はとうとう悲鳴を上げていた。悲鳴にもかかわらずタコが近づいて来る。刀を動かす音が数秒続く。鉄は思わず、目を瞑った。「うっ、ややられた。おいらもここで終わりか…。早乙女のだんな、許しておくんなさい。鉄は役に立ちませんでした」「本当に役立たずですよ。鉄さん、目を開けてご覧なさい」 マリアの声だった。目を開く。まわりのロボ忍は、すべて倒され、タコの上でぶらぶら動いている。目の前にマリアが浮いている。「こりゃ、一体、マリアのお姐さんが」「当たり前ですよ。私のサーベル『ジャンヌ』の錆になっていただいたのです」 マリアは小型のジェット推進機を背中に背負っている。愛用のサーベル「ジャンヌ」を手に持っていた。「じゃあ、あ、あっしは餌って訳ですかい」 鉄は気づいた。「相手を油断させる、、、そういう訳ですよ」「そいつは姐さん、あんまりだ」「何いってるのですか。お陰でロボ忍を片付けられたのですよ」 徳川空軍・飛行船は、すでに西日本都市連合の領土上空に入っていた。 ◆「さて、さて、松前さん。あなたはどの試合に出るつもりですか」西日本都市連合の御用商人大黒屋は、主水相手にどんどん話を広げていく。大乗り気なのである。「いやいや剣闘士といっても、日本武道のことです。いろいろなコースがある。相撲、弓道、剣道、槍術、薙刀、鎖鎌など。なんでもござれだ。それにこの特殊技術を練習する道場があるのですよ。道場の経営は西日本都市連合が当たっておるから、心配はしなくてもよろしいですよ。そこらの偽者の「ロボット道場」とは違いますからね。さあ、どれを選びなさる。ロボット空手か、あるいはロボット柔道か。またはロボットレス(ロボットレスリング)か」 大黒屋は顔を真っ赤に興奮している。「大黒屋どの、やはり私は…」 冷たく断ろうとする主水だが、「何を選びなさる、思うとおりおっしゃってくださいな」 とうとう大黒屋に押し切られる形となった。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.13
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ロボサムライ駆ける■第32回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training ■第四章 剣闘士(5-1)「姐さん、よい眺めですぜ。さすが徳川様の空軍飛行船てわけだ」 鉄が飛行船の窓から眺めている。「まあ、鉄、いい年をした大人ロボットが、それほどよくはしゃげるものですねえ。飛行船に乗ったというくらいでねえ」「だって、姐さん、私しゃこう見えても、空を飛んだのは初めてなんですよ」「さようですか、よく高所恐怖症じゃなかったことですね。それに私たちは、これから物見遊山に行く訳じゃないのですよ。西日本のロボットと、ひょっとしたら戦わなきゃいけないんですからねえ」「戦いですって。ああ、胸が高鳴りまさあ。おまけに姐さんの前で、いい格好ができるなんて、最高じゃありませんか」「鉄さん、あなた、ひょっとして、私に惚れてる訳じゃないでしょうね」「ね、姐さん。何を言い出すんですか。姐さんがだんなの内儀だってのはよくわかっていまさあ。ははあっ」 と笑いでごまかす鉄。「そうですか。それならいいんですけれど。あなたのはしゃぎの一因は、私と旅行できるからではないかと考えましてね」「そりゃないですぜ、姐さん」 内心ドキッとする鉄。といいながらも、顔を赤らめる鉄であった。「大変です」 ドアをノックして、徳川空軍の佐久間大尉が入って来る。 空軍の軍服は空色のモンペ服の上に陣羽織を羽織っている。肩章には階級が示されている。また、背中には三つ葉葵が白で染め抜かれていた。 佐久間は面長で彫りの深い顔をしていた。どうやら徳川公廣の親戚筋らしい。「どうかいたしましたか、佐久間大尉」「現在、本船は西日本と東日本の境界近くまで飛行してきておりますが、敵が現れました」 佐久間は顔を高潮させていた。「敵だって、そいつはいけねえや」 鉄が起き上がり、片腕をまくりあげた。「気の早い人ですね。空のうえで殴り合う訳じゃないんだから、なんですか、その腕まくりは」「すみません、つい、地の上の戦いと間違いまして」 鉄はぼりぼりと頭をかいていた。「ともかく、お二人とも飛行船操縦室のモニターをご覧ください。どうぞこちらへ」 佐久間は二人を案内する。二人は佐久間に従い、通路を歩む。「鉄さん、うれしいでしょう。コックピットを見せてくれるんですからね」「そりゃ、うれしいでさ。願ったり叶ったりとはこのことだ」「鉄さん…」 いいながら、急にマリアは立ち止まり、鉄の顔を見た。「何ですか、姐さん」 何事かと期待してマリアを見返す。「では戦いが始まったら、あなたの男っぷりてものを見せていただけるのでしょうね」「がってんしょうちのすけでえ」 佐久間大尉は鉄の様子を見て首を竦めた。こいつはだいじょうぶかという顔付きである。「どうぞ、こちらです」 ドアを明けた。コックピットに入る。たくさんの徳川軍の空軍兵士が働いている。「うわっ、思っていた以上に広いや。ねえ、姐さん」 鉄が突拍子もない声を張り上げて、片手で額を打った。「うるさいですわねえ、私はヨーロッパから日本へ来たとき、小型気球に乗ったり、飛行船に乗ったりして、うんざりしているのです」「どうぞ、あれが敵の姿です」 佐久間大尉が操作卓の上にあるモニターを指し示した。「何だ、ありゃ」「どうやらタコのようです」 佐久間の間の抜けた返事である。「タコだって、タコってのは海の底にいりゃいいものおよ」 鉄は強がっていた。軽量で張力のある高密度繊維で編み上げられたタコが、境界線上にずらっと揚げられていた。西日本都市連合があげているタコだ。上空からの侵入を防ぐためらしい。「姐さん、何かタコの下に見えますぜ」「何かの重しでしょうね。見せていただけますか、佐久間大尉」 その物体に飛行船の監視カメラがズームした。「これはひどいですねえ…」 思わず顔の表情が強張るマリアだった。「こいつはあんまりだ」 鉄も表情が変わった。 国境から逃げようとしたロボットの首が、各々のタコの飾りにつけられているのだった。「数枚のタコには、どうやらロボットが乗っているようです。しかもロボ忍です」 佐久間大尉が告げた。「おもしろいじゃないですか」「たぶん、あやつらは、この飛行船の気球部分に爆発物を飛ばすつもりでしょう」 佐久間が述べた。「それじゃ、あやつらに、火器じゃなく、火気厳禁と言ってやらなきゃなりませんねえ」「鉄さん、あなた…何を。私の怒りが爆発しますわよ」 たしなめるマリア。が、しゃれを言った鉄に、コックピットの全員から、冷たい視線が投げ付けられた。「へい、どうもすみません」 縮こまる鉄。「さあ、ここが正念場ですよ、鉄さん。あなたに働いて貰いましょう」 鉄にとっては目が覚めるような言葉だった。「ええ、姐さん、私が何を」「こちらもタコを飛ばすのですよ」 にっこりしながら言うマリア。「それで、まさか…」 悪い予感が鉄の頭をかすめる。眼を白黒させる。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.12
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ロボサムライ駆ける■第31回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training■第四章 剣闘士(4) 主水は、立ち上がり、右手を握り締めて身構えた。勢いづいたクラルテの一足が、主水の方に蹴りかかろうとする。 その一瞬、主水の握りこぶしがその一足を殴る。クラルテ接合足の一番脆い部分だった。パワーとパワーがぶつかった。グキッといやな音がした。 主水の体は右横に投げ飛ばされる。主水の右肩の蝶番が半分ねじまがった。が、クラルテの一足も折り曲がる。バランスを失ったクラルテは、ドウと地響きをあげて、そばに倒れる。 主水は投げ飛ばされたところから、子供を目がけ走った。主水は左手で子供を抱え、その場から逃げ去る。クラルテの残り七足が跳ね回っている。 警備のロボが刀でクラルテの頭脳部分を切っていた。「大丈夫か」 倒れている主水の方にやってきた男が言う。「お手柄だな」 主水は安堵のため息をつく。主水は、休息所に連れて行かれた。 その夜、休息所で寝ていた主水は、たたき起こされる。顔見知りの看守だった。「おい、ここからでるのじゃ」 看守が言った。「一体、どこへ」「しっ、お前をここから出してやろうというんだ」 長い通路を看守に連れられて歩く。機械城から出た主水を、ロボ馬車が待っていた。看守は、きびすを返してすぐに消える。「いかりの長介さんだね」 立ち尽くす主水に、馬車のドアが開いた。中にいる男がいった。四十からみのにがりばしったいい男である。「いえいえ、私はけっして怪しいものじゃありません。大黒屋昭八と申します。どうぞ内へお入りください」「その大黒屋どのが」「いえ、昼間のお礼でございます。いいですか、『いかりの』さんは死なれた。そう全ロボットデーターベースには打ち込まれているはずです。今夜から、手前どものロボット剣闘士、松前さんになつていただきます」「ロボット剣闘士ですと」「おいやなのでございますか」 が、主水はうれしくはない。ロボット剣闘士の試合は人間に見せるためのロボットの潰しあいだ。「その件について検討したいといっても、許すあなたではありますまい」「そういうことですな」 大黒屋は主水のシャレに真面に答えた。機会馬車は、西都市連合の御用商人、大黒屋の家にたどりつく。かなりの家作である。大黒屋の富のほどが知れた。主水が昼間クラルテから助けたのは、御用商人大黒屋の子供、竜之介だった。この商人大黒屋は、西都市連合政府に顔がきくらしく、お陰でこの商人直属のロボット剣闘士の身分にとりあげられたのだ。「松前さん、都市連合主催の剣闘士大会に出てみないか」 ある日、大黒屋は急に話を投げかけてきた。大切な話を事もなげにである。「長介、僕も応援するからね。がんばってね」 側に擦り寄ってきた、息子竜之介が頼もしげに言う。主水が助けた子供である。主水に懐いていた。「竜之介もこう言っているんですよ。主水さん、ひとつお頼み申し上げます」「大黒屋さん、その戦いによってあなたも利を得るわけですか」「えっ、と申しますと…」「賭けか利権か何かあるんだろう。大黒屋さんが動くからには、、」「松前のだんな、慧眼ですね。そのとおりです。だからお願いしたいのです」(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.11
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ロボサムライ駆ける■第30回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training第四章 剣闘士 (4) 主水が、ぼんやり地上リクライニングゾーンで休んでいると、あるものが目に飛び込んできた。土煙が上がっている。一体あれは……。 八足歩行タイプロボットのクラルテが疾駆してくる。乗り手はいない。それが途方もないスピードで走っている。文字どうり爆走であった。「危ないぞう」「みんな、逃げろう」 人々は口々に叫んでいた。 主水の目は何かに気付く。 進行方向に逃げ遅れた人間の子供がいる。体を強張らせている。その子の姿に主水は気付く。その子は道の真ん中で立ちすくんでいる。「あれは…」 高い階級に属しているらしく金のかかった服装をしている。日よけ傘がそばに落ちている。それを持っていた子供のお供のものどもは、我先に逃げてしまっている。「ううん、何て奴らじゃ。主人をほおって逃げてしまうとは」 主水は助けようと決意する。助けるには作業ロボットのリクライニングゾーンと通常世界の結界である電磁ビームの中を突き切らねばなかぬ。 主水の疑似皮膚がバチバチと音を立てていた。いままで経験したことのない痛みの感覚が、主水を襲った。「待て、こやつ逃げるでない」 逃げると勘違いし、見張りをしている警備ロボットが飛んで来る。主水はそのロボットを殴る。「むぐう、何のこれしき」 主水は意識を失いながら、電磁バリアを突き切っていた。 痛みより、その子供を救おうとする意志のほうが強かったのだ。主水は子供のほうに走り出していた。 背後から警備ロボットのレイガンの光条が追いかけて来る。 目の前に子供が見えた。主水の体が飛び出す。眼前にクラルテの足が見えていた。主水は「クラルテ」の走る一瞬前に、体を投げ出し子供をかかえ横に転がる。 クラルテは主水はの上を走り抜ける。地響きがした。クラルテの八足のうち二足が主水の体の上を走り抜ける。 瞬間、火花が散る。「くくう」 数トンの重みが一瞬主水の上を通り過ぎたのだ。さすがの主水もこれは効いた。「指圧よりすごいのう」 負けず嫌いの性格である。子供は気をうしなっている。 クラルテは主水を一度はねた後、急に止まっていた。後ろを振り返る。再び主水はと子供の方に探査アイを向けた。何かと間違えたのだろう。 すでに狂っているクラルテの電子頭脳は、主水を敵と勘違いしたようだ。「わしはロボットじゃ、気付かぬか、このクラルテめ」 が、クラルテはそんな主水の言葉を無視して、反動をつけて主水の方へまっすぐ向かってくる。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.10
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ロボサムライ駆ける■第29回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training「神聖ゲルマン帝国のルドルフ大王の宮廷で、何度かお目にかかっております」マリアは顔色一つ冷静に話す。「どうじゃ、お主はゲルマンロボット。いざというとき、つまり、もしロセンデールと戦わなければならなくなったとき、そちは徳川、いや日本のために戦ってくれるかのう」「もちろんのことでございます。私を受け入れてくれました日本こそ、今の私の故郷でございます」「それは、ありがたい」 といいつつも、不安を隠せない徳川公廣だった。もしマリアが変身するような事があったらどうなるのだ。マリアの変身は世界に恐ろしい効果を及ばす。マリアの体に秘密があるのだ。その心配が幸いに徳川公廣の心を占めていた。が、他に方法はないのだ。「鉄、よいか。今からお前は旗本に回状を出して皆を集めよ。一丸となって、大阪湾に向かうのじゃ。ロセンデールの野望を崩せ。頼むぞ、マリア」「わかりました殿様。お望みの通りにいたしましょう」 ◆ 三時間後、鉄、マリア、そしてロボット旗本組の面々は、徳川空軍機「高千穂」「飛天」に乗り込み、西日本へと向かった。 徳川空軍基地から飛行船が飛び立つのを見送る男が一人。「これで仕事がやりやすくなったわ」 その影は走り去った。 ◆ その日の夜、東京城の建物は、夜風が吹いてビューツと唸っている。上層から東京の夜景が奇麗に見える。徳川公廣は、その夜景を楽しんでいた。「徳川公でござるか」 急に声がした。「誰じゃ」 徳川公は回りを見る。数十メートルの高さにある、東京城展望オフィスの窓から侵入して来るものがあった。展望オフィス警報装置は作動していない。その男は黒い服で身を固めている。顔も覆面で隠れている。「貴様、何奴」 徳川公は小刀を引き抜いていた。「やつがれは、西日本都市連合に仕えるロボ忍。花村一去(いっきょ)。お見知りおきいただきたい」 ぐいと徳川公に近づいて来る。「その一去とやらが、余に何用がある。また、この東京城の展望オフィスまで、どうやって上がってきたのじゃ」 あとずさりしながら徳川公は問いただす。「ふっふ、ロボ忍にとってはたやすいこと」「が、我らが護衛いかがいたした」「全員、眠っていただいており申す」「くそっ、肝心のおり役にたたない奴らじゃ」「何しろ、ロボ忍者は、西日本が本場にて。徳川公、お体お預かり申す」「何を申すか」 一瞬後、徳川公は当て身を食らわされていた。「ふふっ、たわいもないのう」 にやりと笑う花村の笑みに折から上がる月の光が凄絶な凄みを与えている。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training
2011.12.09
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ロボサムライ駆ける■第28回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training第四章 第四章 剣闘士(2)「何でございます」マリアが、叫ぶ。「落合レイモン閣下はいかがなされたですか」マリアは尋ねた。「レイモン殿も行方不明じゃ」 「た、大変だあ」 鉄が飛び上がった。「何の手掛かりもないのでございますか」 マリアが続いて尋ねる。「そうなのじゃ、行列だけはかえってきよった」「大変だよ。だんながバラバラにされちゃって、今頃は大阪のロボットごみ捨て場だよ」 急に鉄が泣き声を上げて人工涙をよよと流し始める。「おい、おい」 徳川公が驚いている。「鉄、騒ぐなというに。それでお前たちに助けて欲しいのじゃ」「わかりました。がってんだ。西日本都市連合め、眼にものを見せてくれるってんだ。ねえ、姐さん」「鉄さん、落ち着きなさいませ。あなた、頭のボルトが三本くらいおっこちているんじゃございませんか」「あーあ、姐さんも酷いことをおっしゃる。私がこんなにだんなのことを心配しているってえのに」「鉄、頼むから、静かに私の話を聞いてくれ」 徳川公が呆れている。「だから、静かに聞いてるじゃありませんか。あっしのどこがうるさいってんいすかい」「この、へらず口」「あーあ、どうせ、あっしはへらず口でござんすよ。あっしはこの体に生まれつく前から口だけでしゃべってたってことで有名なロボットでござんす」 鉄もしゃべりだすと止まらない。「わかった、鉄。お前とマリアで、主水を探しに行ってくれ。そしてレイモン殿をな」「わかりやした。さすがは殿様だ。家来の難儀をほってはおけない。さすが名君。世界で一番偉い殿様ってのは、徳川公のことだね。地球史に残る。ほんとに、この…」 しゃべりのエンジンがかかって、どんどんがなっているのだ。「マリア、この男、大丈夫かのお。役にたつ、、、」「お任せくださいませ」 マリアは、鉄の首の一点を急につかむ。「な。何をするんですかい。姐さん」「あなたのその役たたずの口を塞ぐつもりです」「それはいけねえや。ロボット人権を認め…」 あとは無音となる。鉄は口をパクパクさせているが、声は聞こえて来ない。マリアが鉄の声のアンプを切ったのだ。「あ、これで、そちと話ができる」「いかようにして私たちは西日本へ参りましょうか」「済まぬが、徳川空軍の飛行船で行ってくれぬか」「飛行船でございますか」「そうじゃ、陸上を移動すると、どうも眼につくのでのう。それに、お前は外国ロボットじゃ、よけいにのう」「わかりました。もし主水様を見つけましたら、いかがいたしましょう」「捕らわれておれば助けだし、二人でもってロセンデールの野望を探って欲しいのじゃ。おお、そういえばマリアは、ロセンデール卿を知っておったのう」「さようでございます」 マリアは顔色一つ変えなかった。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.08
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ロボサムライ駆ける■第27回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training第四章 剣闘士 (2) 東京島。 『鉄』が再び主水の部屋を訪れてようとしていた。エレベーターに乗っている。 主水の屋敷は旗本ロボットが居住している公国アパートである。ストリップエレベーターからは、遠く、静岡や房総半島などが眺められる。 間取りは一二畳、一二畳、六畳、バス・トイレ付である。家賃は200万円。家賃は徳川公からの給与から差し引かれている。 ロボットにバス・トイレが必要かという疑問があるが、ロボットは体の外部、内部の洗浄が常に必要であった。 押し入れには、体の各部分の部品の予備が常備されているのである。 ロボットは食事はしない。が、かわりに栄養液が必要であり、そのため水道の蛇口と並んで、栄養チューブが常備されていた。 家具も必要ないと思われるであろう。が、ロボット標準設備としては、修理用ベッド、自己精製用コックピット、レーダー精製装置、武器・弾薬整備セット、油圧調整モジュールなど、人間の家具より重量があり、かつ容積を取る家具が必要なのである。当然、ロボット整備中の爆発事件も微量ではあるが起こるので各部屋の壁・床は合金システムとなっている。 マリアは、整備用のベットで眠っていたようだった。「何か御用ですか、鉄さん」「だって姐さん、だんなが西日本へ行って日数が立ちやすんで、何か伝言が情報モジュールにでも入ってやしないかと思いましてね」「鉄さん、あなた、主人思いの方ですよね。でも、まさかホモ友ってわけじゃないですわね」「マリアねえさん。め、めっそうなこと、いっちゃいけませんぜ」 と、いいながら、顔を赤らめる鉄であった。ロボット顔面には人工皮膚が使用されており、人間と変わりがないほどの表情を示すことができる。「まあ、そうおっしゃるのなら調べて見ましょう」 マリアは、奥の部屋にある情報モジュールを操作してみる。 情報モジュールには、インターネットは始め、電話、FAX、パソコン、オーディオ、ラジオ、有線放送などすべての情報ラインが纏めてある。モニターには情報が入っていなかった。「何の情報も入ってはいませんわ。お生憎様ですわね、鉄さん」「だって、姐さん、何の心配もなさらないんですかい」「じゃまいたすぞ」 そのとき、玄関先で声が聞こえる。「悪いけど、お客様を見て来てくださる」「へい、がってん」 が、急にマリアの元に戻って来る鉄。「て、ていへんだよ、姐さん」「どうしたのですか、そんなにあわてておられて。まあ、あなたのあわて者ぶりはロボット界じゃ有名ですけれど」「これが驚かずにいられますかってんだーい」「ラブ・ミー・テンダー」 それを受けてマリアが言った。「姐さん、俺のしゃれを先に言っちゃいけねえよ」 急に不機嫌になる鉄。「そんなことをいってる場合じゃないんだ、殿様がここへお出でなんで」「じゃまするぞ、マリア」 徳川公廣だった。供の者を2名連れている。徳川家康そっくりの笑顔をして入ってくる。「ええ、汚い、狭いところですが。どうぞ、殿様」 鉄が答える。「おやおや、何をおしゃられるの。ここはあたしの家ですよ」「苦労をかけるのお、マリア。こんなアパート暮らしをロボ旗本たちにさせたくないのじゃが、いかんせん、徳川公国の予算というものがあってのう」「いや、お上の言葉、ありがとうございます。あたしどもはお上からそう言っていただけましたら、何の悩みもございません。本当にいい殿様にお仕えさせていただき、ありがたき幸せ」「ちょっと、鉄さん。何をおっしゃってるの。それを言うのは私ですよ」 今度はマリアが怒った。「まあ、よいではないか、マリア。ところでそちは日本の暮らしになれたかの」「ええ、ありがとうございます、お陰様で大分。それに主水様がよくしてくれます。それとこの鉄もよく仕えてくれますので、何の不満などありますものか…」「また、鉄さん、先走りするんじゃありませんことよ」「で、殿様。今日は何の御用で、このあばらやへ」「あばらやでわるうございましたわね」 マリアが鉄の顔をゆっくりとぐっとつねる。「いていて、あっしの家じゃないからよござんしょ」「よけいにわるうございます」「ちと、困ったことが起こってのう」 二人の戯れを見ながら徳川公は顔を曇らせた。「どうしたんですかい、だんなが何か」「これこれ、鉄。先を急がすものではない。実は…」「実は…何なんですかい。徳川公国が借金のかたに東京島から追い出されるとか」「鉄さん、言って良いことと悪いことがございます」 マリアが、鉄の頭に洗浄皿を投げ付けた。「実は、主水が行方不明になったのじゃ」徳川公が呟く。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training
2011.12.07
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ロボサムライ駆ける■第26回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training「私は東日本から来た者だ。この西日本の風習になじんでおらぬ。教えてくれぬか」主水が言う。「いいかい、あっしは町人ロボットだ。だから、あまり詳しくは知らないけどね。ここにいるロボットたちはね、皆、労役に使われるのさ。これまでの身分にかかわりなくね」擦り寄って話しかけてきた一人のロボットが言った。「労役だと、どのような仕事だ」「へへっ、本当に西日本に詳しくねえな、お前さん。いいかい、今、西日本じゃ、こういう話があるのだ。西日本は外国人に支配されている。水野なり、斎藤ってのは外道だよ。外国人の配下になっている。その現象を『みはしら』様がお怒りだってな」「みはしら様、それが労役にどのようなかかわりあいが」「いいかい、みはしら様に向かって、俺たちは掘らされるのさ。みはしら様のある地下を一生懸命にな。この西日本エリアでは、ちょっとした不法でも皆、地下行きさ。ともかく、みはしら様に近づくってのは容易じゃないらしい。何人ものロボットがスクラップになっているようだよ」「誰もおかしいと反対しないのか」「へへっ、やはり東日本の人だねえ。西日本では、ロボットは奴隷なんだよ。ご主人様である人間に対していくら言ったって、話を聞く人間などいるものか」「いわれるままか」「そういうこった。だからお侍さんも、あきらめるこったなあ」「あきらめるだと、何をだ」「そりゃね、ここだけれどね。生きてお日様を拝むことをあきらめるこったね」「何だと、死ぬまでここで」「そうだよ、ロボットの死亡率は、そりゃひどいもんさ。地下道では落盤が日常茶飯事だからね。それにそこを掘り返して、ロボットを助けてやろうなんて殊勝な気持ちなんて、人間が持っている訳ないさ。ロボットは皆消耗品なのさ」「うるさいぞ、だまれ、五郎左。よけいなことをしゃべるな」 別のロボットから罵声が飛んだ。五郎左と呼ばれたロボットは急に黙る。そのとき、二人の役人が現れていた。蛍光カンテラを持って牢内を照らす。「こらこら、お前ら、下がれ、下がれ」「うっぷ、ここに汚れた機械油の匂いがするのお」「仕方があるまい、ご同役。ロボットのどぶだめだからのう」「どぶだめだと、貴公なかなかおもしろい言い方をなされるのお。はっはっは」「ここに主水と名乗るロボットはおるか」「主水とやら、獄から出よ」 主水はゆっくりと立ち上がった。獄の中のロボットの眼が注がれている。 主水は廊下を通って、別の取り調べ室へつれていかれた。机の中にまわらされる。「名前と登録番号を申せ」「何度もいってるだろう。拙者、早乙女主水…」 名前を名乗った瞬間、電磁ムチが飛び、主水の首に絡み付いた。「ぐっ…」「我々人間をバカにするのは止めるのじゃな、いかりの長介。よいか、お前のデータは揃っておるのじゃ。全ロボットデータベースで、すべてわかっておる。二度とそのような口を叩けないようにしてやろうか、長介」 役人の一人が言った。どうやら、主水は、いかりの長介という名前にされたようだ。ロボットデータベースは、日本全国にいるロボットについてのデータがすべて入力されている。いわばロボットの戸籍である。「俺はそういう名前ではない」「まだ言うのか」 電磁ムチから高電流が流れ、主水は気を失った。(続く)■ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(1)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training
2011.12.06
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ロボサムライ駆ける■第25回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training第四章 剣闘士1) ゆっくりと主水の意識が戻ってきた。両眼が開く。体の下の冷たさが感じられた。「気が付いたかね」 見知らぬロボットの顔が主水の前にある。「ここは」 周りを見る。ぼんやりと薄暗い冷たい石の壁。蛍光灯の照明が、天井からぶら下がって揺れていた。厳重な扉がロボットの後ろに見える。このロボットは僧服をきていた。 死二三郎に切り取られた左腕はそのままで、応急に処置されているだけだ。着物も剥ぎ取られていた。まるで奴隷扱いだ。「ここか。ここは機械城の中だ」 相手は高飛車に言う。「お主は」「私か。自己紹介しよう。私はロボット懐柔師サイモンだ」「懐柔師だと、止めてくれ、私は由緒正しいロボザムライだ」 懐柔師とは、品行の良くないロボットを悔い改めさせるロボットである。聖職であった。「これは、これは、世迷い事を、お主言っておるのう。どこにその証拠がある」 サイモンは驚きながら言う。「この私の右肩にある桜吹雪マークと、製造コードを調べてくれればわかる」マークとコードはロボットのアイデンティである。 サイモンは念入りに主水の体を自分を見てみる。「そのようなものはない」「そんなはずは」主水も調べる。確かにない。 マークとコードは知らぬ間に削り取られている。身分を証明するものがないのだ。さらに、主水は続けた。「新京都ホテルにお泊まりになっておられる、落合レイモン閣下に連絡をとってくれれば、すべてはわかる」 サイモンは連絡を取るために外に出て行ったが、やがて戻ってきた。「レイモン閣下のご一行は、すでに京都を離れ、東日本に帰られたと聞いている。東日本政府にも連絡をとったが、早乙女主水なるロボザムライ、現在、東京市にいるとの連絡があった。我々に無駄な労力をかけさせたな。このお返しはたっぷりとしてくれる」 サイモンは、冷たく笑った。「待ってくだされ。それは何かの間違いでござる。今一度、お調べくだされ」 サイモンは無言で、別のロボットに主水を引き渡した。「こやつを例のところへ」 主水は、機械城の地下にあるロボ獄につれていかれる。ロボット専用の獄舎である。 暗い。照明がない。太陽の光りも差し込んでこない。機械油のすえた匂いがした。加えて、何かが腐敗しているようだ。 獄の中には数体のロボットがすでに入っている。「ここで待っておれ、いずれご沙汰がある」 ロボットは言い置いた。獄の中は、不法を働いたロボットで一杯だった。ここに連れ込まれる折、手荒なことをされたらしく、各々のボディはかなり痛んでいる。手足のもぎ取られているロボットも何体かある。「お前さん、どんな悪事を働いたのかね」 ドアが閉まると一人のロボットが擦り寄って話しかけてきた。「失礼ながら、貴公は」「貴公ときたか、お前さん、服装を剥ぎ取られているからわからないが、お侍さんかい」「さようじゃ」「へっへっへっ、よけいにかわいそうにね」 言葉の裏には何かを隠しているようだ。「待て、その笑いはどういう意味だ」「知らないのかね。かわいそうにね」 はっきりとは答えぬ。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.05
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ロボサムライ駆ける■第24回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training■第3章11)「サイ魚法師、なぜしくじったのですか」 ロセンデールが、空母「ライオン」の士官部屋で詰問していた。サイ魚法師は、ロセンデールの怒りの前でただただ恐縮しているばかりであった。「いかんせん、主水の方が強すぎました」 ぼそりと言う。まるで先生に起こられている生徒である。「強すぎたとですと、それは聞けませんねえ。あなたが、私たちに最初売り込んだ言葉を、お忘れですか。あなたは主水の弱みを握っていると言ったでしょう」ロセンデールの言葉がチクチクとサイ魚法師の体をさす。「そのとおりです」「ですが、あなたは主水の始末を東京湾でしくじってしまった。おまけに潜水艦を一隻なくしまった。さらには潜水艦をもう一隻貸せとおっしゃる。何を考えておられるですか」 ロセンデールは、美しい顔に怒りの表情を表していた。急にロセンデールの顔は醜くなる。冷たい暗い表情である。「もうよろしいです。契約は終了です。すでに、主水は我々の手にありますからね」「何ですと、主水が……」 絶句する法師。顔色が変わっている。「おや、どうかされましたか」「いえ、何でもありません。が今どこに」 法師としては自分の手で主水と戦いたかったのである。「そんなことは、あなたには関係ないでしょう。あなたはもう、おはらい箱です。もうあうこともないでしょう」 ケープを翻してロセンデールは、法師の前から去った。ロセンデールの部屋から出て、「こなくそ、今にみておれ、ほえずらかかせてやるわ」 つぶやくサイ魚法師だった。「が、主水め、一体どこに」 首を傾げるサイ魚法師だった。サイ魚法師は、本日の都市会議での騒ぎを知らなかったのである。(続く)■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.04
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ロボサムライ駆ける■第23回■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training■第3章(10) 新京都ホテルのレイモンの部屋をノックするものがある。 レイモンは何とか夜叉丸に助けられ、ホテルまでたどり着いていた。主水の行方は連絡が入っていなかった。「レイモン閣下でございますか」 裃を着た見知らぬロボットが、レイモンの部屋の前に立っていた。「どちら様かな」 夜叉丸が尋ねた。「我々は西日本都市連合の使い番でござる。レイモン閣下の今昼の会議での発言は波紋を呼び起こし、レイモン閣下を狙う者多しと聞き及びます。どうぞ速やかに、我々の保護下にお付きくださいませ」「西日本都市連合の使い番じゃとすると、水野殿よりの使いか」 レイモンが尋ねた。「さようでございます」「どうするかのう、夜叉丸」 レイモンは背後に控える夜叉丸に尋ねた。「せっかくのお召しでございます。お断りになられては角が立ちましょう」 夜叉丸は少し考えて答えた。「そういうことじゃな。それではその方々とまいろうか。のう、夜叉丸」 が、使い番ロボットは異をとなえた。「お待ちください。その夜、叉丸殿の保護、我々は聞いておりませぬ」 その物言いにレイモンは、顔を曇らせる。不快なのだ。「それは困った。この夜叉丸は俺の体の一部でのう。手や足と一緒なのじゃ。切り離されては俺が動けのうなる」 使い番ロボットはしばらく考えていたが、「わかりました。夜叉丸殿のこと、我々は聞いてはおりませぬが、とりあえず一緒にお越しくださいませ」 レイモンと夜叉丸は、政庁のまわした、かご型小型バンに乗り込んだ。「閣下、いよいよ我々の思いどおりに」 夜叉丸が言う。「そうじゃ、そのように進んでおる」 レイモンは薬タンクからのコードをジャリといわせた。 バンがたどり着いたところは、政庁である。会議室に入る。「お待ち申しておりましたぞ、レイモン閣下」 水野が議長席に座っている。「こちらも待ち兼ねたぞ、水野殿。早く我々にいつ心柱を見せて欲しいのう」 レイモンはにやりと笑いながら落ち着いていった。が、その言葉はの先制攻撃はかなり効いたらしい。「……」 絶句する水野。「わからぬと思うたか。どうせ今おまえたち西日本の霊能師が困っておるのは、化野(あだしの)の存在であろう。そのようなこととっくにお見通しだわ」 レイモンは続けた。 突然、背後から新たに声が飛んできた。「それでは、いよいよ、私たちを助けていただけますか。かっての打ち合わせのとおり」 見目美しい男が、パーテーションの背後から現れて言う。ロセンデールだった。「これはロセンデール卿か、おひさしゅうござる」 レイモンが頭をたれた。水野は、目を白黒させている。続く090901改訂作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」you tube manga_training
2011.12.03
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ロボサムライ駆ける■第22回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training「何、東日本のロボットが、人間の議場にいるじゃと」 ロボザムライを目がけて、いろいろなものが飛び交う。まるでレスリング会場だ。主水は思わず左腰に手を当てる。が、刀はそこにない。「むっ、しまった」(しまったのは、西日本の役人だが…) むろん、主水はムラマサを抜くわけにはいかない。西日本に入るとき、関が原で刀は預けさせられている。 主水としては、立ち塞がる暴徒たちを当て身で倒していかねばならない。 但し、人間に傷を負わせるとこの西日本エリアでは重罪となる。 すばやくなぐりたおした人間が山となっている。レイモンのところへようやくたどりつく。 数十人の人間に囲まれているレイモンは、まるで団子だ。主水は一人一人をレイモンからはぎとっていく。ようやくレイモンの顔が見えた。「レイモン閣下、ともかくこの場をお離れください」「おお、夜叉丸に主水か、助けにきてくれたか。どうも私の言葉は人気がないようじゃのう」 レイモンは我と落ち着いている。「主水、御前を連れて先に逃げてくれ」「夜叉丸どのは……」「私は、後ずめじゃ」「こころえもうした」「レイモン様、お体を持ち上げますぞ」「わしの薬品混合タンクを忘れるなよ」 一言付け加えるレイモン。 主水は、レイモンの体を、薬品タンクつきで持ち上げ跳躍した。「レイモンが逃げるぞ」数人がそれをとめようとする。「待て、待て。おまえ達の相手は私だ」夜叉丸が名乗りをあげる。「何物じゃ、お前は……」「こおいうものじゃ……」 数人の議員があっと言うまに床に倒されていた。 その間に、主水は議席の背もたれの約十センチ幅の部分を、次々と跳びはねて、ようやく議会室外へ逃げ出していた。 いまや、議場は「レイモンを追え」の罵声に満ちている。パニック状態である。 ようやく議場外の回廊に出た。が、そこに男がいる。まったく唐突にその男は現れていた。蓬髪に、羽織りのロングコートで顔ははっきりわからぬ。「レイモン、まて、売国奴め」 男はナイフを手にしている。レイモンにぶち当たってくる。どうしてこの議会に武器が……「いかん」 主水はナイフの前に自らの身を投げた。 が、その一瞬主水の持病が出た。その時精神が空白となる。主水の体は倒れる。主水の体重は並の重さではない。人間の三倍はあるのだ。 ナイフを突き出す男の腕ごと、主水の体で圧しつぶしていた。「ぐわっ」男の腕はボキボキと折れ、気を失う。「なんと、レイモンの護衛ロボットが人間を傷つけたぞ」 まわりの人々が走り寄る。 警備員がようやく気付き走ってくる。「何だと」 人々は殺気立っている。「待て、待ってくれ。この男はレイモン様を殺そうとしたのだ」 再び意識を取り戻した主水は叫んでいる。「うそを申すな。その証拠がどこにある」 口々に人は糾弾する。「この男がナイフを…」 が、男のつぶれた手には肝心のナイフがない。「レイモン様、ご助言を」 振り向いた主水。が、レイモンの姿も消えている。 呆然とする主水。「これは、一体……」「ロボザムライめ、おとなしく捕縛されよ」「何をいうのじゃ」 主水は戦う姿勢をみせた。こうなれば戦わざるを得ない。「こやつは我々人間に刃向かうつもりじゃぞ」「死二三郎、狼藉者である。出番じゃ」「ようし、我々も、究極兵器を使うのだ」 議会の護衛が大声でどなる。回廊にジャーンと音が響く。 廊下の床が割れ、そこから何かが急にが起き上がってきた。それは何と刀を持つ侍ロボットであった。 ドラキュラかおまえはと思う主水。侍ロボットは、かっと眼を開く。「おおう、久しぶりで、わしの出番か。ありがたし」 声はかすれている。あまり、出番などないのであろう。 そのロボットは、ブルーの着物をきて、髪は、後ろは束ね、前は垂らしている。曇った虚無的な眼差しをしている。体の大きさは、主水と同等である。主水の方をゆーるりと見る。「貴公か。人間の命令を聞かぬロボットなど、生きながらえる意味なし、死にそうらえ」 冷たい声音であった。 恐るべき雰囲気がそのロボットから発されている。 死二三郎は刀を構えるが、あることに気付く。「うむ、貴公、東日本のロボザムライか」「そうだといえばどうする」 ニヤリと笑う死二三郎。「ふふう、相手にとって不足なし。お相手されよ」 主水に武器がないことに気付く。「剣には剣でじゃ。剣を取られよ」 そのロボットは、自分がはい出てきた床の下の収蔵庫から剣を取り出し、主水にその剣を投げる。「かたじけない」 主水は、剣を受け取ろうとした。主水に隙が生じている。 そう言った瞬間、相手は動く。「ぐっ」 ごとりと何かがころがった。思わず、主水は右手で切り口を触る。「ひきょうなり」 主水の左腕が見事に切り離されていた。習練の早業である。痛みの感覚が後から、主水を襲ってきた。「ひきょうという言葉は俺にはない。勝負がすべてじゃ。次なる剣は貴公の首か、あるいは右腕か、どちらか決められい。そのように料理してくれよう」 この対峙する死二三郎は主水があったロポザムライの中で、一番の使い手だった。「まて、死二三郎。そやつには聞きたいことがある。死に至らしめるな」 護衛がまわりから遠く離れて叫んでいる。誰も危険なところには近づきたくないのである。 死二三郎は、主水に視線を置きながら、護衛たちの方へ怒鳴っている。「お言葉でございますが、ロボザムライにはロボザムライの義というものがござる。ここは義に免じていただきたい。剣の敵に助けられたとあっては、武士としての面目が潰れ申す。我が手で、このロボザムライ死に際をきれいにいたし申す」「ならぬ、死二三郎。命令である。このロボザムライを助けよ、さがれ」 護衛は呼ばわった。「死二三郎殿とやら、拙者も生き恥をさらしとうはない。どうか一刀のもとに貴殿の手で」と主水はつぶやきながら、チャンスを見ている。こやつには狂人の論理で立ち向かわねば。こやつは剣のことしか考えておらぬロボットだ。「お覚悟されよ、そういえばお名前を聞いておらなんだな。何と申されるのだ」「拙者、早乙女主水。徳川家直参旗本ロボット」「おお、貴殿が噂に高い主水殿か。相手にとって不足はない。さらにお覚悟召されよ」「死二三郎、待て」 護衛全員が叫ぶ。切りかかろうとする死二三郎。 その一瞬、天井から電磁網が死二三郎の体を襲う。電磁網は魚をとらえる投網のようなものである。魚のかわりに、ロボットだ。死二三郎は黒焦げになって倒れる。議会護衛がいいことを聞かぬ死二三郎を処分したのだ。「こやつは狂犬か」 護衛の一人が倒れている死二三郎の体を蹴る。「いいや、狂犬より始末に悪い」「だから申したであろう。気違いに刃物。ロボットに刃物と」 護衛同志の会話である。左腕を失った主水は、まだ戦う姿勢を見せていた。「ええい、このロボットもからめとれい」 電磁網が天井から降りてくる。 電撃が主水の体を走る。「いかん、わしも魚か」主水の意識がフェイドアウトした。(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
2011.12.02
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ロボサムライ駆ける■第21回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」■第3章 (9) それは巨大なガラス箱に見える。 西日本都市連合の議場は、京都郊外にある新京都ドーム都市の中に造られていた。 この議場全体は透明強化プラスチックフレビレンガラスのドームで覆われている。中から近畿の外界がよく見えた。西日本の各市を代表する代議員が、--各市の場合、市長が多いのだが、--その一人一人がこの議場に送り込まれていた。 近畿新平野がフラットだけに、ドームからはすべての町々がよく見える。レザー光線がよく届くのだ。 各議員は、丁髷の上にヘッドベルトを巻いている。その後半分にレザー光線集約装置がついている。レザー光線は各都市の市議会との連絡ができる。直接アクセスができるので、嘘の発言はできない。 各都市の市章が、各々の羽織りに鮮やかに描かれている。 各々武士階級の出身者が多い。がしかし、腰の大小は議会場内の持ち込みはご法度となっていた。 いよいよ、全国都市会議が開催されたのだ。 が、いかんせん意見の一致するところは少ない。 二十年前に起こった「霊戦争」の影響で、日本は東西に大きくわかれていた。ロボット奴隷制の西日本と、ロボット自由主義の東日本である。 霊戦争のおり、東日本では人間が数多く亡くなり、社会のシステムとして、ロボットに人権を与えなければ立ち行かないエリアとなっていた。それゆえ、統一国家としての日本の態をとるのは非常に難しい。それは「霊戦争」以後、どの国も同じであった。 落合レイモンは、東日本を代表してこの会議に出席している。 東日本側の立場としては、統一を望んでいるのが事実だ。現在の関が原関所により人的交流、ロボット的交流が阻害している現在では、日本国家としての発達は望めなかった。加えて、レイモン、あるいは、徳川公国の徳川公廣にとって、心を曇らせているのは、ロセンデールの動きである。 ロセンデールは神聖ゲルマン帝国の後援を受けて、日本へ来ている。 神聖ゲルマン帝国は、日本が再び統一国家として国力を充実するのを望んでいない。極東の分裂国家として存在してもらう方が、有り難かった。つまり、支配しやすいと言う訳だ。 落合レイモンは、議場で訴えていた。「日本は、心柱(しんばしら)によって統一されるべきです」「その心柱というのは、実際どこに存在するのだ」 議場のあちこちから罵声が飛んでいた。レイモンは声をおとした。「西日本の方々、真実を申し上げましょう。その場所はすでに発見されておるはずです」 レイモンの顔は自信に満ちている。レイモンのこの発言の後、会場は一瞬無言となり、それから蜂をつついた騒ぎとなった。人の頭があちこちしている。熱気がドームを包む。「どういうことだ」「説明しろ」 がなり声がつづいた。 続けてレイモンは、指で指し示しながら「西日本都市連合の議長、水野栄四郎殿がすべて、ご存じのはずだ」 『議長団席』の一角に占める水野の方に、人々の眼が集まる。議員の一人が言った。「本当ですか、水野様」 水野は二メートルもある長身を急に立ち上がらせた。場内は水を打った静けさとなる。皆聞き耳をたてているのだ。「諸君、落合レイモン殿の諌言に惑わされてはなりませぬ。レイモン殿は、我々西日本の纏まりを壊すためにこの会議に派遣されてきたのだ。我々が、その心柱を探すために何年かけてきたと思う。ここで説明しておこう。ロセンデール卿に心柱を探すことをお手伝いしていただいておるのは、卿が優れた霊能力者であり、かつて各国の心柱の幾つかを発見なさっておるからだ」 水野は断固とした口調で、すべてを締めくくった。会場が落ち着く。が、再び、「まて、水野殿。ロセンデール卿は各国の心柱を発見することによって、その国を神聖ゲルマン帝国の支配地にされなかったか。ロセンデール卿こそ、新しい帝国主義のまわしものであるこに、諸君は気がつかれぬのか」 レイモンは言い切った。再び、爆弾発言である。「誹謗だ。誹謗だ」 議席のあちこちから声が上がり、レイモンに向かって人々がこぶしを振り上げ殺到してくる。議会はパニック状態になる。「いかん、主水。レイモン様をお助けしろ」 夜叉丸は立ち上がった。議場の控室にいた主水の耳のレシバーから、レイモンの付け人夜叉丸の叫びが響いた。「レイモン様を無事に議場から脱出させよ」「が、夜叉丸殿。議場警備員たちに任せた方がよいのではないか」「馬鹿者。あの議場の暴徒の中に、ロボ忍が交じっておったらどうする。あやつら、レイモン様を誘拐し、心柱の利用にレイモン様の力を使うつもりだ。わたしの後に続け」「道を開けろ」 主水は叫んで、飛び出して行った。「こやつは」議場の警備員が罵声をあげる。 議会は混乱状態だ。そこに主水が飛び込む。「ロボザムライだ」(続く)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」
2011.12.01
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