HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

July 20, 2010
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テーマ: 本日の1冊(3696)
『妖精の国の住民』 (井村君江訳、研究社)がありますが、妖精の出てくる民話や伝説の紹介や「妖精小辞典」が収録されていて、W・B・イエイツの 『ケルト幻想物語』 (ちくま文庫)とともに、西洋ファンタジーの基礎知識、みたいに思って愛読しています。

 彼女は研究書だけでなく創作物語も出していて、それが 『妖精ディックのたたかい』 なのです。
 舞台は17世紀のイギリス・コッツウォルズ地方。でも有名な観光地のストラトフォード・アポン・エイボンやバースではなく、東の方のバーフォードあたり。表紙の裏にある地図には、当時の村々のほか、有史前の土塁や古墳、ウィッチウッド(「魔女の森」)、「しばり首の丘」などという場所がしるしてあり、見ているだけでわくわくします。

 主人公のホバディ・ディックは、農場の手伝いを知らない間にしてくれる、ぼろをまとった“家つき妖精”で、ホブとかロブ、ブラウニーなどという種類だそうです。日本で言うと座敷わらしなんかが近いイメージでしょうか。
 物語では、清教徒革命後、空き家になってしまったある旧家の農場を守るホバディ・ディックが、引っ越してきた新しい住民を迎えて、何とか農場の伝統的な暮らしをとりもどそうと奮闘する様子が描かれます。

 イギリスの風俗や歴史になじみのない日本人が読むにはちょっとわかりにくいところもありますが、訳者の注釈がきちんと入っているし、わからないなりに読み進んでいくと、だんだんその時その場所の雰囲気が読めてきて、いつしかぐいぐいストーリーにひっぱられていきます。


 最後に妖精ホバディ・ディックが善行によって宗教的に“解放”されるのが、ちょっとキリスト教的でやはり日本的にはなじみにくいけれど、これはやはり西洋の宗教的伝統なのでしょうね。日本の座敷わらしはほとけ様になったりしないでしょうけど・・・
 ただこれもあからさまには書かずに、暗示的に示されているので、説教臭さはありません。

 一つだけ私が気に入らなかったのは、「妖精ディックのたたかい」という邦題(原題はHOBBERDY DICK)で、だってどう読んでもディックは戦ってはいないのです。もちろん具体的な戦闘行為でないことを示すためにたぶん「たたかい」とひらがなになっているのでしょうが、だとしてもこれは何のたたかいなのでしょうか。
 妖精であるディックには、生存競争的な「たたかい」は似合わないし、“解放”を勝ち取るために日々スローガンを叫んで努力しているわけでもない。妖精はもっと自然体で本能や古い習慣のままにひっそりと生きているのであって、時々がんばる場面はあるけれど、「たたかい」という言葉の持つ雰囲気とはちがうのに・・・ と、私は思うのでした。

 ともあれ、妖精の権威のえがいた、まちがいのない妖精譚ですから、イギリスの田園や妖精の好きな人にはお薦めの作品だと思います。





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Last updated  July 21, 2010 12:09:39 AM コメント(2) | コメントを書く
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