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2010.05.22
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カテゴリ: カテゴリ未分類
大阪万博の跡地に出来た国立民族学博物館で時々話題の映画を開催しているという。今回は第5回目の上映会だと言うことだが、メインテーマは、民族と国境とかにまつわる問題を取り上げている。

今日、連れ合いは、友人の三回忌で、一緒に行くことが出来なかったのは残念である。
中東において今、最もホットな場所における長い一日を描いた作品である。シリアとイスラエルの国境であるゴラン高原にあるマシュダル・シャムスという小村で暮らすモナという無国籍の女性が、国境を越えて、写真でしか顔を見たことがないという男性のもとに嫁ぐという一日を描いた映画である。

そして、特異な事情として、無国籍の彼女は、一旦国境を越えると、愛する家族の居る、ゴラン高原へは帰れないという宿命を負っての嫁入りなのである。国境を挟んで行き来できないという特殊事情は、イムジン河を挟んだ南北朝鮮の分断家族で見たことがあるが、お互いに拡声器で呼び合うしかないという光景はよく似ている。

主人公の花嫁になるモナはイスラム教徒でも独特の宗派であるドゥールズとして生まれたと言う特殊事情がある。ドゥールズの決まりとしては、イスラム教徒に科せられた「ハッジ(巡礼)」や「サラー(祈り)」などを厳格に守る必要がない変わりに、結婚は、同族同士でなければいけないという規律がある。

従って同じイスラム教徒の中でも、異端児扱いされるという特殊な関係にあるという、孤高の民族である。ドゥルーズの居住地は、現イスラエルやシリアに分散して存在するが、この映画のゴラン高原地区のマシュダル・シャムス小村は、かつてはシリア領であったにも拘わらず、第三次中東戦争で、イスラエルの領土として組み込まれてしまったのである。

イスラエルは、ドゥルーズに対して、イスラエルの国籍を与えるとしたが、ドゥルーズはシリア帰属のアラブ人としての誇りから、この申し出を拒否し、敢えて、無国籍の道を選んだのである。

自らのアイデンティティーを捨て去ることは容易ではない。まして、ある日突然に帰属する国が変わるなど、我々日本人には考えられないことである。あの第二次世界大戦での敗北後も、実質的には、GHQのマッカーサーの指揮下にあったとはいうものの、日本人を捨ててアメリカ人になれとは言われなかった。

そのことを考えると、このドゥルーズの立場が如何に過酷であるかという事が図り知れる。


時あたかも、シリアの大統領が、親のアサド大統領から息子のアサド大統領に変わる時期と重なり、新アサド大統領は、ゴラン高原はあくまでシリア固有の領土という立場を変えない鷹派的な立場を取る。村中を挙げてこれを支持するデモが大々的に起こる。村の長老は、父親に対して、ロシアで異教徒と結婚して帰る長兄を受け入れるならば、娘の結婚のための見送りはしないという。

これまでは、父親は、ドゥルーズの中でも重要な役回りをし、時には、警察に拘留される経験までしている。警備の警官からはブラックリストに載せられ、非武装地帯までの見送りさえ許さないといった立場に置かれている。

最も妹思いの姉のアマルは、嫁いでしまったら二度と会えない妹に励ましと勇気を与え続けるが、悲しみは一筋縄ではない。警察によって見送りを許されない父親と、一方では世間体を気遣う父親によってロシア帰りの長兄も見送りが許されないのであるが、姉アマルは敢えて、みんなが送りに行く時をずらせて、追跡するのである。

ところがここから又長い一日は一層長くなる。今やゴラン高原地区はイスラエル領であり、イスラエル側の移民官は、パスポートに今まで押印しなかった、「イスラエル出国」と言うスタンプを、規則の変更と言って押すのである。

それを持って仲介の国連の事務官はシリア側の移民官に提出するが、シリアの移民官は、元々、そして今でもゴラン高原はシリアの領土だと言う考えであり、イスラエル出国というスタンプがあるパスポートを受け付けるわけにはいかないというにべもない返事である。

言い分は筋が通っているわけで、シリア内部の移動にわざわざイスラエル出国とは如何なる事かという言い分である。何気なくでもないが、我々が出国する時や入国する時に、イミグレーションで機械的にスタンプしていると思いがちだが、深い意味があるわけである。

特に、シリアはイスラエルを、イスラエルはシリアをお互いに国として認めていないのだから話は、ますます複雑である。お互いの係官の上司に電話をするが、何故か、どちらも夕暮れ前に事務所から居なくなっている。折しも自動車事故で起こった、アラブ人のイスラエルに対するインティファーダ(市民蜂起)の最中であり、国境の係官としても、おちおちしては居られないといった背景がある。

為す術もなく、何度も両国のイミグレーション間を往復する国連の係官の女性も、いらだちを増している。こんな時の国連の存在などというものは、殆ど無力であると言わざるを得ない。

上官を通り越して、大統領に電話を試みるが、電話は空しくコール音だけである。最終的に、シリア側の係官が、スタンプを消せば許可すると言うところまで譲歩した。皆の勢いに気押されたのか、インティファーダが気になるのか、イスラエル側の係官も修正液で、出国スタンプを消すことに同意し、白ペンでスタンプを消したのである。

これで、万事解決と、皆の歓呼の「シュクラン(ありがとう)」のかけ声の中シリア側の事務所にはいると、何と、許可した係官は交代していて、引き継いだ係官は何も聞いていないので、修正液で消したようなパスポートは受領できないとまたまた振り出しに戻ってしまう。

皆、がっくりと肩を落とし、非武装地帯のゲート近くからゾロゾロと引き上げるのである。今日うまくいかなければ、又最初からの手続きで、あと5ヶ月は掛かると言うことになる。



国より、国境より、先にあるべき個人の尊厳を、モナは体を張って貫き通そうとするところでこの映画は終わった。

ゴラン高原は、今なお戦争状態であり、同じような場所は、インドーパキスタンや、クルド人問題、南北朝鮮と世界中に存在する。日本人としても、これらをよく理解して、世界を眺める時が来ているのではないだろうか。





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Last updated  2010.05.22 22:56:04
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