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2012.02.17
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随分長きにわたって美術講座を聴講して来たが、1回1時間半ほどの講義時間ではあるが、集中して美術に浸れるというのもなかなか得がたいものである。

今日はグスタフ・クリムトについてだった。

グスタフ・クリムトは、帝政オーストリア時代の画家である。1862年ウィーン郊外に金の工芸師である父のもとに生まれ、博物館付属の工芸学校に進んだ。当時は、美術学校と工芸学校の差は歴然としていて、壁画や本の装飾、建築装飾は工芸の方に分類され、美術学校の方は絵画専門という狭い範囲であったようだ。しかし、工芸学校と雖もレベルは大学並みであり、高度な内容であったが、ステータス的には美術学校の方が上だという感覚だった。

1879年に弟エルンストと友人の3人共同で会社を設立し、美術やデザインの請負や劇場装飾を中心とした仕事は順調であった。ウィリアム・モリスやフランスのアールヌーボーに影響を受けた。

最初の作品は「牧歌」である。寓意と実話の本の挿絵として描かれた。真ん中の円の中には、ミューズが子供達に鳥の巣を見せている。両端の男はそれぞれの表情であるが筋骨隆々と描かれていて、クリムトのデッサン力の力を見る思いだ。しかしクリムトは徐々にこのデッサンを壊す方向に向かうのである。芸術というものは、何かを壊し、新しいものを見つけることなのかという感じだ。「守・破・離」というところだろうか。

次は「旧ブルグ劇場の観客席」である。この作品は、ウィーン市からの依頼を受け描かれた作品で、遠近法を巧みに使い、観劇する当時のウィーン社交界の人々を正確に描き第一回皇帝賞をうけるなど高く評価された。これにより、クリムトの名は広まったと云って良い。
その環境で、ウィーン大学大講堂の天井画の制作を依頼されたが、出来上がった作品は、依頼者が意図したテーマに反し、理性の優越性を否定する寓意に満ちたものであったので、多くの人の不評を買う事になる。その果てに、之を依頼した文部大臣が攻撃される事態にまで発展した。あまりの論争の大きさにクリムトは契約の破棄を求め、事前に受け取った報酬を返却した。その後この絵はナチスによって没収され、ナチスが撤退するとき放火により焼失し、現存はしていない。

この事件を契機に保守的なウィーン美術家組合を嫌った芸術家達と共にウィーン分離派(アカデミズムからの分離)の結成に参画した。美術が曲がり角に来たときであった。



次は「パラス・アテナ」第2回の分離派展に出された作品で、アテナ(アテネ)はギリシャ神話において最高の女神で、知恵と諸芸術、そして戦いを司る女神である。ホメロスの時代からよく取り上げられる女神である。神話的逸話通り恐々しく威厳に満ちている。パラスは女神アテネが倒した巨人族バラスに因んで付けられて美称であり、胸で舌を出した黄金仮面は見た者を石にするという逸話で知られるゴルゴンだ。この舌は、分離派への理解を示さない保守的な伝統主義者たちへの侮蔑・挑戦と解釈されている。黄金を多用したところはいかにも工芸学校出身という感じだ。堂々とした挑戦的なこの絵自身が、アカデミズムへの挑戦であるのかも知れない。
黄金の槍を左手に持ち、腕の部分に描かれる梟はアテネの象徴であるほか、右手には勝利の神ニケを持って描かれている。

次は「ユディット」である。ユダヤの裕福の家に生まれたユディットはホロフェルネス率いるアッシリア軍に町を包囲された時、アッシリアの陣地へ行き、町の攻略方法を教えると言って偽って、敵将ホロフェルネスに近づき、ホロフェルネスに招かれた酒宴で、酔いつぶれて寝込んでしまったホロフェルネスの首を切り落とした。そして、将軍のいなくなったアッシリア軍を敗退させたのである。
左手に半分だけ描かれたホロフェルネスの首は生々しい。顔の部分はアカデミックな手法で描かれている。

次は、「ベートーヴェン・フリーズ」(部分)である。第九のシラーの詩をテーマにしている。中世美術を思わせる作品で、花咲く楽園の中で歌う少女達の前で抱き合っている男女である。
屋根の上に、丸い黄金の球を載せたような分離派会館の中に収蔵されている。
之に関連してか、イタリアのサン・ヴィターレ聖堂のことが紹介された。

次は、「希望1」である。クリムトのモデルであったヘレマが望まぬ妊娠をした。その姿を描いたものだが、上には、ドクロなども描かれていて、生まれ来るもの死んでいったものという具合に人の一生は、決められたものであると言うことであろうか、当初不評であったこの作品も、クリムトならではの斬新性が見られる。

次は、「人生の三段階」である。生まれてきた赤ちゃん、それを抱く母親、そして2人をうなだれるように老婆が見ていると言った構図で、全員が裸で描かれている。人生には段階があるが、皆平等であるという西欧に於ける死生観を描いたものである。

次は「ソニア・クニップスの肖像」である。クリムトは女性に持てたようで、沢山の庶子を残している。背景にあしらった花など、この絵にも日本美術の影響が見られる。クリムトの絵は、正方形の作品が多い。この画面も正方形で背景を暗くし、ピンクの華やかな衣装の女性は右端に寄せられ、横向きのシルエット、右上方に顔、背後に花と明らかに装飾的な効果で溢れている。
正方形を使うのは、従来使われた長方形のものに比べて、敢えて遠近法を破るといった手法を採るからである。


次は「エミリエ・フレーゲの肖像」である。クリムトが精神的な意味も含め、最も親しくしていた女性であり、縦長の絵は、日本の掛け軸の影響なのかも知れない。ここで、クリムトの写真を紹介されたが、絵を描くための仕事着姿であり、さほど魅力的とは思えなかった。エミリエ・フレーゲは長くクリムトと一緒にいたが、子供は作っていないというか、プラトニックだったのか、子供の出来ない身体であったのかも知れない。

次は「フリッツア・リードラーの肖像」である。フリッツア・リードラーの夫は高級官僚であり、彼女自身クリムトのパトロンの一人であった。顔や手は写真のように写実的で、知的な容貌が的確に描かれているが、背景の平面化、装飾化、幾何学的図形化がはっきりしてくる。頭部の櫛形の模様。髪飾りのようでもあり、壁の装飾のようでもあって、クリムト特有の装飾である。

次は「アーデレ・ブロッホ・バウアー」の肖像である。この絵はクリムト展の表紙を飾っていた。夫は銀行家であったが、アーデレはクリムトの恋人の1人でもあったようだ。顔だけが写実的であるが、後は装飾をふんだんに取り入れ、金も多用されているので、いかにも豪華に見える。

次は「ダナエ」である。「ダナエ」は見るからにセクシーなポーズは説明の言葉が不要な位官能的である。ダナエの足の間には黄金の雨に姿を変えたゼウスが忍び寄り、ダナエと交わってしまうのである。そしてダナエはそれを恍惚の表情で迎え入れているのだ。表情からは、エクスタシーに浸る顔を優美に表現している。ゆたかな顔の表情は、数多くの女性像の中でも秀逸であるといえる。この絵の裏には、ギリシャ神話が隠されている。

次は「接吻」である。あまりにも有名な作品だと私は感じている。黄金とその周りの装飾に彩られた、そしてそれも金をふんだんに使った接吻は、世界一豪華な接吻なのかも知れない。良く見ると、女性が膝をついている足先は、絶壁となっている。究極の状態に於けるこの絵は何を云いたかったのであろうか。

この女性もエミリエ・フレーゲだと云われ、最も親密であったときの絵なのだそうだ。
この絵は、ウィーンに於いて恋人達のメッカになっているようで、15分間隔で、予約をし、この前でプロポーズするという事が流行っているのだという。

次は「死と生」である。この絵には金は使われていない。金で表現する手法が飽きられたこともあるが、当時有名になってきたエゴン・シーレの影響もあると言われている。右には生きている様々な状態を、抽象的に描き、それを左の黒マントを着たドクロが招いているという構図である。黒マントにもクリムト独特の装飾画為されている。ドクロは招くと言うより手の棍棒で、誰を殺そうかと狙っているようである。当時の暗い世相を反映した作品である。

次は「エウゲニア・プリマヴェージの肖像」である。黄色をベースにした作品だが、ここでも金は使われていない。

次は「アダムとイヴ」である。全裸のイヴの後ろにアダムは背景のように描かれている。晩年の作品で、明るい女性像を描き、之もまた縦長である。

次は「ひまわりの園」である。クリムトがよく行ったアッター湖の庭に咲くひまわりを描いた作品である。遠近感をわざと殺して平面的に描いている。緑の背景の中赤、白、黄色の花が咲き乱れる様は美しいと感じる。

最後は「アッター湖畔のカンマー城」である。クリムトが、エミーリエとよく避暑を過ごしたアッター湖畔の風景である。ここで彼は生涯の恋人エミーリエと安息の日々を過ごしたのであろう。
望遠鏡を使うと遠近感が消されるが、それと同じ意味で、彼は四角いフレーム越しに見てこの絵を描いたという。

ここでの何点かは、ベルヴェデーレ宮殿で見ることが出来るだろう





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Last updated  2012.02.20 11:47:44 コメントを書く


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