ゆうさんの日記

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2026.05.28
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「お姉さん、ハンバーグと、あまーい卵焼きと、タコさんウインナーが大好き!」
あの嘘つきな朝食の席で、樹里が小さな指を折り曲げながら教えてくれた大好物。あの子が旅立ってから数日後、うちの店のメニューに新しいお弁当が加わった。
名前は『樹里スペシャル』。
仕切りからはみ出しそうな大ぶりの煮込みハンバーグに、智恵子さんのアイデアを借りた出汁たっぷりの甘い卵焼き、そして真っ赤なタコさんウインナーをふんだんに詰め込んだ、子ども夢の詰め合わせ弁当だ。ワンコインの五百円を少し超えて六百円に設定したけれど、「女将さんの思い出の味」として若い男の子たちにも大人気になり、毎日真っ先に売り切れる看板メニューになった。
でも、そんな風に健気に働く私の姿を見て、周りの大人たちは気が気じゃなかったらしい。
「明美ちゃん、一人になると変な考え事しちゃうでしょ」
「そうですよ。こういう時は、身体を動かして余計なことを考える暇をなくすに限ります」
店の片付けをしていると、智恵子さんと大吾さん、そして透の三人が、深刻な顔をして厨房に押し寄せてきた。私のことを心配してくれているのは痛いほど伝わるけれど、差し出されたのはなんと「お弁当五十個」の大量注文のメモだった。
「ちょっとみんな、これどういうこと!?」

透がニヤニヤしながら財布を叩く。彼らなりの、本当に不器用で、全力の励まし方だった。泣き言を言わせないくらい、私を仕事でこき使おうというわけだ。
「よし……やってやろうじゃないの!」
翌朝、私は午前二時に起きて厨房に立った。
フライヤーの前に立ち、大量の鶏肉を揚げ、ハンバーグを焼き、ご飯を巨大なしゃもじで混ぜていく。狭い厨房の中は戦場だった。けれど、智恵子たちの狙い通り、額から汗を流して無心で手を動かしている間だけは、樹里を思い出して胸が締め付けられるあの寂しさが、綺麗に消え去っていた。
「はい! お待たせ、特製から揚げ&ハンバーグ弁当、きっちり五十個!」
お昼前、汗だくの私がお弁当の山を差し出すと、三人は「本当によくやったわ!」と大はしゃぎ。もちろん、いくら大食いの透や大吾さんがいたところで、五十個のお弁当を食べきれるはずがない。
「さあ明美、みんなでこれを配りに行くわよ!」
智恵子さんの車にお弁当の山を積み込み、私たちは下町のあちこちへ配達に向かった。
まずは、近くの河川敷。泥だらけになって白球を追いかけている、地元の草野球チームの男たちのもとへ。
「おーい、差し入れだよー!」と割烹着姿の私たちが叫ぶと、お腹を空かせた男たちが「え、明美さんの弁当!? マジすか!」と目の色を変えて群がってきた。
次は、小学校の体育館。熱気の中で声を掛け合っている、ママさんバレー部のみなさんのところへ。

お弁当は一瞬でなくなり、残ったのは空っぽの段ボール箱と、たくさんの「ありがとう」の笑顔だった。
「ふふ、みんな凄く喜んでくれたね」
夕暮れの河川敷で、私は心地よい疲労感に包まれながら呟いた。
「でしょ? 明美ちゃんの作ったご飯は、みんなを元気にするんだから。だから、寂しい顔しちゃダメよ」
智恵子さんが私の肩を優しく抱き寄せ、大吾さんが黙って温かい缶コーヒーを差し出す。透は「僕、野球部のイケメンと連絡先交換しちゃった!」と一人で大はしゃぎしている。

相変わらずわけのわからない関係の三人だけど、私の隣には、こんなにも温かくて不器用な応援団がついている。
(お母さん、やっぱり私の手は、人を幸せにする手だね)
夕日に照らされる川面を見つめながら、私は心の中で小さく呟いた。
海外に行った樹里の元へ、私の声は届かないかもしれない。けれど、私の作った『樹里スペシャル』は今日も誰かを笑顔にしている。その積み重ねの先に、いつか必ずあの子との再会が待っていると信じて、私は明日もまた、真っ白な割烹着を着てシャッターを開けるのだ。





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Last updated  2026.05.28 19:53:30
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