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心を支える天風語録 その4
9 本心・良心に立って生きる
-- 『叡智のひびき』 箴言二十九
頭で考えるな、心身で生きよ
《語録》
本心良心に従うという事は、時とすると理性の判別と混同し易い故に注意せねばならない。
天風は「本心良心」というものに対して、理性や感情よりも絶対的な価値を見出している。同じ『叡智のひびき』の箴言二二では、次のように説いている。
「理性や感情は理智に相対し、理智は教養と経験に相対する。 然 し本心良心は徹頭徹尾絶対である」
つまり理性や感情は理智によって支えられ、理智は教養と経験によってつくられるという関係にそれぞれあるから、それ自体は相対的なもので絶対的なものではない、ということだ。
理性の判断は、ありふれた常識の判断、また感情的な判断に比べれば、はるかに論理的で価値あるものを含んではいる。
しかし、仮にその判断が論理的で的確なものであったとしても、理性の判断である限り、それは相対的なものであって、絶対的な判断とは言えない。
ところが私たちの多くは、理性的な判断こそが論理性を持っていて、正しい判断のように思っている。
一例をあげよう、「戦争が正しいかどうか」
といった問いに対して自分なりの判断をする場合、「正当性があるならよい」と考える人もいるだろう。
彼らの中には、「相手方の不義や暴虐性に対するものであれば正当性がある」と理性で考え、それを論理化して戦争の合法性を唱える人もいるであろう。
ところが少し考えれば、まったく反対の考え方にも正当性が成り立つことがわかるはずだ。それを理性的かつ論理的に判断して、戦争は間違いだという結論を下すこともできる。
このように、理性による判断は、あくまで相対的なものなのだ。
もちろん戦争は一例であって、天風はこうした事例を説いているわけではないが、理性の判断は理屈さえ間違っていなければ、何を行ってもよい、という独善に陥ってしまいかねないことが、この例からもわかるはずだ。
しかし、私たちが疑っても疑うことのできない心の奥底にあるもの、真実の心から発せられる声(「戦争は人が殺しあうことであるから、それは人間の本心からも、良心からも許されるものではない」など)は、絶対的であるがゆえに、それには無条件で従わなければならない、と天風は考える。
もちろん理性は大切だ。ただ、それを絶対化することなく、本心良心に忠実になることが、より真の生き方というべきものなのである。
10 日常生活では「善」を行え
-- 『真理のひびき』 箴言二十三
絶対的な「愛」で生きる
《語録》
日常生活を行う際、 能 う限り、善なることを行おうと心かけることは、人生の最も尊いことである。
天風は宇宙の真理であり、人間が行うべき普遍的な真理である「真善美」について、こう解している(『叡智のひびき』箴言二十五)。
真 --ありのままの「誠」
善 --絶対的な「愛」
美 --完全な「調和」
真理としての「真善美」は、絶対的で不変である。それは、どれほど時代が変わり社会が変化しても不変的なもので、厳然として実行すべきものである。
「真善美」について天風は、日常の生活で私たちがとるべき態度は「善」を行うことであると説いている。その「善」とは、絶対的な「愛」を持って生きるということだ。
「善」というと、私たちはすぐに「悪」と対比して考えがちだ。これは善悪の道徳律で、人為による規範である。それは時代の推移によって変化しうるものだ。人為的な道徳律では、極端にいえば、咋日の悪が今日には善になったり、逆に今日の善が明日には悪になったり、といったことさえありうる。
また、哲学では「いかなる言動でも肯定される価値を有する」ことが「善」であるとされる。しかしそれには「厳格に客観的な法則に合致すること」といった条件がつけられていて、極めて難解であり、かつ価値と法則が何であるかを考えなければならない。
そうした道徳律や哲学で説かれている善ではなく、もっと深くにある不変なものとしての「善」を行え、と天風は説いている。
それは天為となる「不変不易」なものだ。それを天風は、こう教え示している。「日常の人生生活を、自他のいずれに対しても独りぎめのわがままな自己本位の気持ちではなく、お互い人間同士の間柄を極めて円満に融和するような、普遍的妥当性のある言葉と行為のみで行おうと心がけて、かつそれを確実に実行することなのである。そうすれば、それが期せずして、一切すべてがそのまま善なるものに共通するからである」
要約すれば、これは「善は愛の実践」ということになる。この愛は、もちろん人為的なものではなく、不変不易なものであることは言うまでもない。
「誠」の本当の解釈と教え
ちなみに「真」すなわち「誠」について、天風は次のような詩句を読んで解釈している。天風の大切な教えだから、そのまま転載しておく(『叡智のひびき』箴言二五)。次ぺージ以降を参考にしてほしい。
このエッセンスを要約するとこうだ。
「誠」とは、その精神に向かって語り、かつ行うことである。語っても行わなければ、それは「誠」とは言えない。
「誠」は言行一致させることによって、さらに向上し深まってくる。「誠」の精神の極致を「至誠」という。この「至誠」にいたると、人は神の心を感応して、すべてが順調にいく。
「誠」は日本の根本的な精神となる「大和魂」であり、中国の文天祥が説いた「正気」、孟子が教え示した「浩然」といった天地にみなぎる精気と、まったく同じものである。
「至誠」の二文字を自分のものとして受け止め、その精神を失わないことだ。「至誠」のもとで身を修して、家をつくる支えとすることである。
「至誠」の徳を積めば、その光明は世界を覆って、明るく照らすことは間違いがない。
11 真の平和は「和合」なり
-- 『叡智のひびき』 箴言二十八
宇宙の原理は和合から成り立つ
《語録》
真の平和とは、理屈を超越して、その心の中に「和合」の気持を 有 つ事である。およそ感情で争う人位醜いものはない。
天風によると、「アトミック・カルパスクル」という、万物創造のエネルギーの素で「ブランク常数H」と名づけられるものがある。これは、人間の五感官能では認識することのできないもので、極微粒子である。
この「プランク常数H」は、エネルギーそのもので、このエネルギーの結合・融合の結果によって、万物万象がそれぞれの存在として現れる。つまり、この極微粒子の作用を通した結合・融和によって万物万象は形づくられているのだ。
その極微粒子の作用を天風は「縁」と表現する。
物事が変遷し推移するのは、それを完全化しようとする「アトミック・カルパスクル」の「調和の復元」という作用の現れである。
この宇宙の真理をとらえると、すべてが「和合」という「縁」で成り立っていることがわかる。
この原理に立つ天風は、「和合」「調和」こそが、人間が拠って立つところであり、それゆえに平和の原点となるものである、と説いている。また、こうした原理がわからず、そこに立脚することがないために、本当の平和を考えることができない、とも指摘している。
人は皆、平和を望んでいるはずだ。にもかかわらず、それが実現しないのはなぜか。
天風によると、それは「和合」する根本原理を知らないからだ。宇宙の原理となる「和合」を心底からとらえていないから、平和を唱えても、お互いの利害関係や条件本位の解決方法で平和を実現しようとしているのだ。それが平和の実現を拒んでいる原因である、というのが天風の考え方だ。
天風は「和合」を「和の気持ち」とも表現するが、それは「思いやりの心」に通じるもので、その崇高な心に立つことが平和の実現の第一歩とする。
「和合」が宇宙の原理であることをしっかり腹の底にとらえれば、利害や条件などを問題にすること自体が大きな誤りであることに気づくはずだ。
天風は、平和ということを考える場合でも、必ず宇宙の原理や原則から、その根本を引き出して説明する。その姿は、高い普遍的な次元に立ちながら、私たちの日常の生き方に光を与えてくれている貴重な教えではないだろうか。
12 三勿三行を励行せよ
-- 『叡智のひびき』 箴言三十一
生活で心がける行いとは何か
《語録》
人生は現在只今を尊く活きる事である。それは理屈なしに 三勿 三行 を専念厳守するべきである。
「人間が万物の霊長たる尊厳を確保して生きるのには、(中略)恒に『随処に主となるべし』といった、この心がけを如実に実行することが、何をおいてもそのもっとも必要とする先決問題である」
ここに出てくる「随処に主となる」とは、中国唐代の禅僧である臨済義玄が説いた「随処に主となれば、立つ処皆真なり」(『臨済録』)という一句である。
「いつでも、どこでも、いかなる状況にあっても、自分を信じて主体性を持って行動すれば、あなたがいるところは、すべて真実に包まれている」という意味である。
天風は言う。
「人間が随処に主となるには、第一に肝要な心得は、『物』にも『人』にもわずらわされないことである」
わずらわされるとは、その対象物に心が従うことである。それは、対象物によって「主」の座を奪われてしまうことを意味する。それでは「随処に主」となって、「立つ処すべてが真実となる」ということにはならない。
ところが私たちは、いつも何かにわずらわされている。その根本的な原因は何かというと、天風は、「感情統御の未完成」の一言で説明している。そして、感情を統御して、「随処に主」となり、真実を体現するための秘法として、「三勿三行」の教えを説いている。
〔三勿〕
1怒らず
2恐れず
3悲しまず
〔三行〕
1 正直
2親切
3愉快
この「三勿三行」を日々の生活の中で実行していくこと--それが天風哲学の実践であり、自己と他者の幸福、さらには本当に健康な生活を送る基本的な姿勢となるものでもある。
中村天風は、私たちの人生を豊かに、かつ心身ともに健康に生きる実践哲学を説き尽くしている、と言えるだろう。
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