漫望のなんでもかんでも

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まろ0301

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2005.11.13

言葉メモ帖　27　便所掃除

(8)

カテゴリ：カテゴリ未分類

　便所掃除　　　浜口国雄

　扉をあけます。
　頭のしんまでくさくなります。
　まともに見ることが出来ません。
　神経までしびれる悲しいよごしかたです。
　澄んだ夜明の空気もくさくします。
　掃除がいっぺんにいやになります。
　むかつくようなババ糞がかけてあります。

　どうして落ち着いてくれないのでしょう。

　それともよっぽどあわてたのでしょう。
　おこったところで美しくなりません。
　美しくするのが僕らの務です。
　美しい世の中もこんな所から出発するのでしょう。

　くちびるを噛みしめ、戸のさんに足をかけます。
　静かに水を流します。
　ババ糞に、おそるおそる箒をあてます。
　ボトン、ボトン、便壺に落ちます。
　ガス弾が、鼻の頭で破裂したほど、苦しい空気が発散します。
　心臓、爪の先までくさくします。
　落とすたびに糞がはね上がって弱ります。

　たわしに砂をつけます。
　手を突き入れて磨きます。
　汚水が顔にかかります。
　くちびるにもつきます。
　そんなことにかまっていられません。

　その手でエロ文、ぬりつけた糞も落とします。
　大きな性器も落とします。

　朝風が壺から顔をなぜ上げます。
　心も糞になれて来ます。
　水を流します。
　心に、しみた臭みを流すほど、流します。
　雑巾でふきます。
　キンカクシのウラまで丁寧にふきます。
　社会悪をふきとる思いで、力いっぱいふきます。

　もう一度水をかけます。
　雑巾で仕上げをいたします。
　クレゾール液をまきます。
　白い乳液から新鮮な一瞬が流れます。
　静かな、うれしい気持ですわってみます。
　朝の光が便器に反射します。
　クレゾール液が、糞壺の中から、七色の光で照らします。

　便所を美しくする娘は、
　美しい子供をうむ、といった母を思い出します。
　僕は男です。
　美しい妻に会えるかもしれません。

　『詩の中にめざめる日本』真壁仁編　岩波新書・青版610　ではじめてこの詩に触れた。
　その後、『詩のこころを読む』茨木のり子　岩波ジュニア新書　を手に取ったときに再びこの詩と出会うことが出来た。
　プリントして生徒の前で読んでみたこともある。クスクス笑っている生徒も、徐々にプリントに見入っていく。

　「これまで読んだ詩の中で一番良かった」と書いた生徒もいた。

　真壁は、<行為で築く倫理・叡智>とタイトルをつけている。1955年に国鉄詩人賞を受けた作品で、作者の浜口は、1920年生まれ。兵隊として中国、フィリッピン、サイゴン、ニューギニアを転戦、復員してすぐに国鉄に就職した。金沢車掌区で荷物輸送の専務車掌を長く続け、1976年に亡くなっている。

　この詩とは、『男はつらいよ　寅次郎かもめ歌』(26作)で出会えます。二代目おいちゃんであった松村達雄さんが、定時制高校の教師に扮してこの詩を朗読します。さて、それを教室で聞いている寅さんは・・。お楽しみに。

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Last updated 2005.11.13 00:07:41
コメント(8) | コメントを書く

■コメント

Re:言葉メモ帖　27　便所掃除(11/13)

SEAL OF CAIN さん

これ、どこかで読んだ記憶があります。その時も爆笑したよーな。傑作ですよね～。
寅さん楽しみにしてますね♪

トイレは今はナチュロンのトイレ洗いで掃除してます。天然成分で安心です。 (2005.11.13 01:13:06)

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いまも公衆トイレでは

たつおさん

　これはひと昔前の｢汲み取り式」のトイレでしょうね。詩のような作業を、各家庭の女性たちは黙々とやっていました。向田邦子さんの｢父の詫び状」にも、父の来客が玄関に吐いた汚物を、母に処理させる父に怒って、娘が掃除する場面があります。
　人間の身体から出たものを、なんとか見えないように手に触れないように、処理する。そんな「ご清潔な文明」が、人の痛みすら見えなくしてしまった。
　ところが、いまでも、公衆トイレでは、この詩のような光景がみられる。そして管理者は「みんなのトイレです。清潔にしましょう。」と空しく張り紙を続けます。 (2005.11.13 09:49:47)

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教科書では・・

まろ0301 さん

SEAL OF CAINさん
＞これ、どこかで読んだ記憶があります。その時も爆笑したよーな。傑作ですよね～。
＞寅さん楽しみにしてますね♪
＞
☆教科書で読んだ記憶はありません。載せても良いと思うんだけどなぁ。
　茨木さん、それまでの積み重ねで、最後の四行が光る、と評価されていますがその通りですね。 (2005.11.13 10:27:40)

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書き込みありがとうございました。

まろ0301 さん

たつおさん
＞向田邦子さんの｢父の詫び状」にも、父の来客が玄関に吐いた汚物を、母に処理させる父に怒って、娘が掃除する場面があります。

☆文春文庫「父の詫び状」最初に集録されている同名の一文の最後の部分、良いですね。メモしておきます。

＞そんな「ご清潔な文明」が、人の痛みすら見えなくしてしまった。

☆検定で、「戦争の悲惨さには触れない」という意見がつく国ですから。

＞そして管理者は「みんなのトイレです。清潔にしましょう。」と空しく張り紙を続けます。

☆この詩そのものを貼ってあるトイレもありました。結構綺麗だったような。管理している人の努力ですが。 (2005.11.13 10:33:39)

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見つけた～

SEAL OF CAIN さん

後でＴバックさせていただきますねー。 (2006.09.13 23:52:34)

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見つかったー

まろ0301 さん

SEAL OF CAINさん
＞後でＴバックさせていただきますねー。

☆いつもいつもありがとうございます。
　トラックバックのやり方を忘れてしまった・・。 (2006.09.14 00:21:18)

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Re:見つかったー(11/13)

SEAL OF CAIN さん

日記で紹介させていただきましたー(^^) (2006.09.14 23:35:33)