音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2009年07月25日
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陰の立役者は「正真正銘の天才」だった


 リトル・スティーヴン、またの名をスティーヴ・ヴァン・ザント。単独では知名度は決して高くないかもしれない。経歴をいくつか挙げると、サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークスの創設メンバー、ブルース・スプリングスティーンのバンド(E・ストリート・バンド)のメンバー、反アパルトヘイトソング「SUN CITY」の呼びかけ人。
 ソロとしては、1982年の『メン・ウィズアウト・ウィメン』(リトル・スティーヴン&ザ・ディサイプルズ・オブ・ソウル名義)を皮切りに、E・ストリート・バンドを脱退(後に復帰)してから、1984年以降、さらに何枚かのアルバムをリリースしている。
 その中で、今回取り上げるのは、3枚目に当たる『フリーダム ―ノー・コンプロマイズ(Freedom-No Compromise)』(1987年)だ。曲目からも見てとられるように、歌詞の内容は政治的メッセージが強い。そのことの賛否両論はあるだろうが、ここではいったんメッセージ性は脇に置いて、音楽性そのものに注目したい。
 気持ちよくロックしている。アレンジがよい。ヴォーカルには彼にしかない個性がある。本来はギタリストなので、ギタープレイも見事。本作のいいところを挙げ始めるときりがない。敢えて難を言えば、打ち込みが80年代っぽくて耳に障るところぐらい。別に一人で全部吹き込んだわけではないが、実際にアルバムを通して聴いていると、何もかもスティーヴの責任の上で、彼の頭の中にあるイメージ通りに仕上げられたアルバムなのだろうと想像する。
 頭の中にある音をズバリ表現することの難しさは、ジミ・ヘンドリックス(ギター)やマイルス・ディヴィス(トランペット)の試行錯誤からもよくわかることだ。いや、音楽を演奏するという行為そのものが、どんなジャンル、どんな楽器であっても、「頭の中の音を実際の音にすること」と同義なのかもしれない。そう考えると、スティーヴは天才なのだろう。
 よく考えれば、スティーヴが天才なのは、彼のキャリアからも証明される。サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークス(余談ながら、ジョン・ボン・ジョビのアイドルで、ビデオで見た共演ライブの様子は実に嬉しそうだった)のベストに数えられるいくつかの楽曲は、スティーヴの作で、なおかつこのバンドのアレンジも務めていた。ブルース・スプリングスティーンの曲にもスティーヴが単なるバンドメンバーではない(例えばツイン・ヴォーカル)スタイルの曲がライヴのここぞという場面で登場し、盛り上がりどころとなる。「縁の下の力持ち」が実は天才で、たまに露出するのだが、サウスサイドやスプリングスティーンだけを見ていると、何だか当り前で見逃してしまう。
 さらに、スティーヴに別の才能があることを知ったのは、10年ほど前のこと。米ドラマ「ソプラノズ」の出演で、役者としての才能まで発揮してしまった。
 話がアルバムからどんどん逸れてしまったが、お許しを。そんなスティーヴも今や58歳。だけど、政治的メッセージを音楽に乗せて発し続けた頃と変わらず、攻撃的だ。最近では「最近のロック音楽はほとんどが二流クラス」と発言し、ライブをやらない若い世代のミュージシャンを批判したと言う。もうろくした年寄りのたわ言ではない。ここまでの天才ぶりを、天才であることをひけらかすことなく発揮してきた人物が言うからこそ、先の見えにくい音楽シーンへの警鐘だと思えるのだ。『ウィー・アー・ザ・ワールド』に浮かれていた頃、1人称複数の「私たち」ではなく、1人称単数形で「俺はサン・シティでは演奏しない」(「SUN CITY」の詞より)と主張したときと同じように、スティーヴは真剣なのだろうと感じる。



1. Freedom 
2. Trail of Broken Treaties ←おすすめ!
3. Pretoria
4. Bitter Fruit
5. No More Party's
6. Can't You Feel the Fire
7. Native American
8. Sanctuary  ←おすすめ!






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Last updated  2009年07月25日 01時07分13秒
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