やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2005年11月16日
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カテゴリ: 名作の散歩道
時代背景や書かれた時期も大正末期であるが、内容も構成も古さを感じさせない普遍的精神模索の小説である。



人間として成長したい彼女は内に秘めた自由と独立へ希求を持っていた。つまり、彼女は自己に目覚めていた女性だったのだ。

彼女は若かった。15歳も歳の差がある苦学生「佃」と自分の情熱のほとばしりのまま恋をし、結婚してしまう。しかし、ふたりを結婚で理想の精神的上昇の同志としたい彼女の思いは裏切られる。

それはそうだろう、生まれも育ちも違い、気質も違う男女であることに彼女は気づいていなかったのだ。否、気づいていたとしても愛の力で矯正できると信じていた、若さの愚かさであった。

「佐々伸子」は情熱的で前向きの性格。一途な気質で自分の理想を「佃一郎」に幻想した。ないものを無理に引き出せると自分の力を過信した。

「佃一郎」は15年の放浪苦学の末、世間ずれし労なくつかめる安定を求めて小さく小さくまとまり、避難してしまっていた。消極的で守りの気質になってしまったのも仕方がない。

ふたりが精神的不一致に悩むのに加えて、時代背景の「家」制度、階級制度にも苦しまされる。そしてその葛藤は苦闘となって深い淵へなだれ落ちていくのである。

結婚とは何ぞや?

宮本百合子は作家魂のかぎりをつくして誠実に、正直にそして克明に綴っていく。文章も上品で潤いがある。80年近く経った作品とは思えない。



若い人これ読むべし、熟年これ読んで熟考せよ、と思うよ。

「女性は一途、男性はずるい」という言葉があると思った方がいいのではないか。いえいえ、この節は「男性は一途、女性はずるい」から、まとまるものもまとまらないのかな?

「ずるい」とは経験を積んでいい意味、悪い意味推し量れない、精神構造になっているのではないかと思う。

宮本百合子(1899~1951)は後に共産党委員長もした宮本顕治とも結婚、めざましい活躍のかたわら、いい文学も書かれた。これに続く長編「二つの庭」「道標」や「播州平野」





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最終更新日  2005年11月16日 21時39分11秒
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Re:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
☆かよ  さん
「女性は一途、男性はずるい」という言葉があると思った方がいいのではないか。いえいえ、この節は「男性は一途、女性はずるい」から、まとまるものもまとまらないのかな?

「ずるい」とは経験を積んでいい意味、悪い意味推し量れない、精神構造になっているのではないかと思う。
・・・・・・・・・・・
確かに、「女性は自分の精神的夢を男性に依存する」所が有りましたよね。
活動もさながら、医学生や画家の経済的支えとなる女性の話をよく聞いたり読んだりします。
そして、「医者や画家やアーティストなどとして成功した時には、支えてくれた女性を捨てる。」って、在り来たりな・・そしてよくある話でした。
苦労は、人を成長もさせるかもしれませんが、多くは醜いい部分を多く見すぎれば、「ずるさ」も染み付く。
勿論、その人の心の持ち方ですが、人は弱いものですからね。。。。

昨今は、男女逆転ですかね~?
男性の一途って、ちょっと事件に繋がりそうな怖い部分があります。
潔さが無いというか・・・
そして女性の方が精神的成長が早いですからね。
良いも悪いも。。。 (2005年11月16日 21時56分34秒)

Re:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
う~む。この場合、依存度によって夫婦によってもその人間としての成長に偏りがでるかもしれませんね。
私は男性ではないのでわかりませんが、確かに女性は最初男性に夢見ることがあるようですが、実生活によってよりシビアに独り立ちしていくのは女性の方なのかもな~と思ったりしています。特に現代の女性は、そうかもしれませんね。 (2005年11月16日 22時01分33秒)

Re:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
志穂音  さん
ばあチャルさま、ご無沙汰しています。
播州平野はわたしが住んでいる街が舞台なんですよ。百合子が生前よく通ったといわれている「紅本陣」という料亭も私の家のすぐ近くにあります。
それで宮本百合子は昔からわたしの中では特別な存在でした。次女は彼女の名前をいただきました。
うちの子はひらがなですけど。
むずかしいといわれる百合子の文学にも挑戦してみたいなあと思いつつ。
読書自体が忙しくて出来ない毎日です。
読書三昧のばあチャルさんがうらやましいです。
(2005年11月16日 22時36分51秒)

Re:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
msk222  さん
>「ずるい」とは経験を積んでいい意味、悪い意味推し量れない、精神構造になっているのではないかと思う。

う~ん、深いナー。
確かに男はずるい。女もずるい。
男のずるさは表に現れ、女のずるさは内部に向かい表に出ない。
という傾向はありますね。ぼくですか、あのその…。
(2005年11月16日 22時48分22秒)

80年前!  
凪ぎ  さん
最近、フェミの本をよく読むのですが
80年前にもこういう事を考え、書いていた方が
いらっしゃったとわ!
是非、読んでみたいです。

そうそう、私は最近「世間様教」の考えから
少しづつですが離れつつあります。
『男は強くて。感情は出さず、黙って耐えてこそ
強い男だ。』
それは、幻想であり、実は繊細だったり弱かったりする。
前は大嫌いで仕方のなかったオジさんが可愛く見えるようになりました。電車の中のオジさんは臭くてヤだな~って思うけれど、、、(笑)
がんばって『男らしく』してるんだな~
そんな風に思えるようになりました。

これ、読んでみます!! (2005年11月16日 23時05分39秒)

☆かよさんへ Re[1]:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
ばあチャル  さん
>確かに、「女性は自分の精神的夢を男性に依存する」所が有りましたよね。
>活動もさながら、医学生や画家の経済的支えとなる女性の話をよく聞いたり読んだりします。
>そして、「医者や画家やアーティストなどとして成功した時には、支えてくれた女性を捨てる。」って、在り来たりな・・そしてよくある話でした。

ありますよねぇ。人のこと言えません。私も自分の能力がない分、夫に頼っています。情けないです(笑)

>苦労は、人を成長もさせるかもしれませんが、多くは醜いい部分を多く見すぎれば、「ずるさ」も染み付く。
>勿論、その人の心の持ち方ですが、人は弱いものですからね。。。。

この小説でもそこは同情的というか、「伸子」は理解するのですが、自身の独立独歩の魂の希求が鎮められないんですね。

>昨今は、男女逆転ですかね~?

女性の活躍が華々しいように思えますが、ほんとうはどうなんでしょうね。

>男性の一途って、ちょっと事件に繋がりそうな怖い部分があります。
>潔さが無いというか・・・
>そして女性の方が精神的成長が早いですからね。
>良いも悪いも。。。

ほんとうに!女性が気づいた時、事件にならなければいいと願います。そんな例が沢山ありますものね。
(2005年11月17日 11時17分32秒)

みなみな6714さんへ Re[1]:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
ばあチャル  さん
>う~む。この場合、依存度によって夫婦によってもその人間としての成長に偏りがでるかもしれませんね。

この小説の「伸子」は一緒に成長したい、否、引っ張ってもらいたかったのですね。精神的に空っぽな夫に幻滅したのです。勝手ですけど。なぜってフェミニストではあるのですから。

>私は男性ではないのでわかりませんが、確かに女性は最初男性に夢見ることがあるようですが、実生活によってよりシビアに独り立ちしていくのは女性の方なのかもな~と思ったりしています。特に現代の女性は、そうかもしれませんね。

個々の人間として頼らず自立していれば、悩みも深くないかもしれません。現代の結婚の光明かもしれないです。うーん、みなみなさんすごい!

この小説の「佃」が気の毒になってきたわ。 (2005年11月17日 11時28分15秒)

志穂音さんへ Re[1]:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
ばあチャル  さん
>ばあチャルさま、ご無沙汰しています。

わたくしこそ、書き込み有難うございます。

>播州平野はわたしが住んでいる街が舞台なんですよ。百合子が生前よく通ったといわれている「紅本陣」という料亭も私の家のすぐ近くにあります。

おお、文学史跡ですね。行ってみたいです!

>それで宮本百合子は昔からわたしの中では特別な存在でした。次女は彼女の名前をいただきました。
>うちの子はひらがなですけど。

そうなんです。文学史に重鎮されている大作家さんです。あやかって利発で聡明なお嬢様でしょうねぇ。

ほんとうに志穂音さんのブログを拝見していると、ご活躍です!しかも、毎日欠かさない日記!応援しています! (2005年11月17日 11時36分35秒)

msk222さんへ Re[1]:「伸子」宮本百合子(岩波文庫)(11/16)  
ばあチャル  さん
>う~ん、深いナー。
>確かに男はずるい。女もずるい。
>男のずるさは表に現れ、女のずるさは内部に向かい表に出ない。

ということは「大人」になったということかしら。
(笑)こんなこと言うとみも蓋もありませんねぇ。

>という傾向はありますね。ぼくですか、あのその…。

msk222さんはもちろん、フェミニストでいらっしゃいますでしょ(笑) (2005年11月17日 11時48分02秒)

凪ぎさんへ Re:80年前!(11/16)  
ばあチャル  さん
>最近、フェミの本をよく読むのですが
>80年前にもこういう事を考え、書いていた方が
>いらっしゃったとわ!
>是非、読んでみたいです。

ネタバレかもしれないけど、付け加えますね。まず、この「伸子」は宮本百合子の自伝的要素の濃い小説です。失敗した最初の結婚を清算するつもりで書いたのです。

当時、海外留学などは特権階級しか出来やしないです。行くのだってごくごく一部。「佃」は宣教師につれられて必死の渡航でした。

それに加えて彼女は当時ではとても特殊というか認められない、女性が人間として精神的にも、物質的にも独立解放されたい欲求の性格だったのです。だから現代にも通じる普遍なのですが。

そして彼「佃」も階級的枠を超える勇気(利用するずるさ)もあるが、ある意味でフェミニストであったというのも特殊でした。

という小説です。

>そうそう、私は最近「世間様教」の考えから
>少しづつですが離れつつあります。
>『男は強くて。感情は出さず、黙って耐えてこそ
>強い男だ。』
>それは、幻想であり、実は繊細だったり弱かったりする。
>前は大嫌いで仕方のなかったオジさんが可愛く見えるようになりました。電車の中のオジさんは臭くてヤだな~って思うけれど、、、(笑)
>がんばって『男らしく』してるんだな~
>そんな風に思えるようになりました。

そんなところあります!あります!(笑)
(2005年11月17日 11時56分59秒)

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