やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2008年01月18日
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カテゴリ: 読書メモ

 良好な多くの書評と、最近のリンク友のブログに取り上げてあったのとあわせて、矢も盾もたまらず読みました。

 そんな時、えてしてそんな結果になるのですが、わたしの感想は良好ではありません。期待しすぎ?いえ、冷静に読んだつもりなんですが。

 良い、感動したという評はたくさんありますから、あえて違和感のあったところをメモします。

 まず手紙文形式、漱石の「こころ」の後半も「先生」の分厚い手紙でこころをえぐりとって見せてくれるんですけど、わかったようなわからないようないらだたしさがわいてきたものです。

 元夫と偶然再会して、往復書簡をとりかわす、心情の吐露のやりとりです。そういう形式が胡散臭いと思ったらもうこの小説は読めないんですけど。

 ヒロイン「亜紀」の自己の無さ。これも「人形の家」のヒロインのように「父」の手から「夫」の手の渡されるだけの確立のない性格が、すべての原因をつくっていていらいらさせられるのです。最初の夫の心の奥まで理解できなかった想像力の無さもそこから来ていると思います。

 そういう性格だからこの小説のテーマがあるということなら、彼女の手紙にある次の文章は唐突です。

 モーツアルトのシンフォニー39番を聴いて「生きていることと、死んでいることはもしかして同じこと」(これがいいたかった作者だと思いますが)と哲学的な感想をいう彼女。同じ女性とは思えません。カンがするどいということになっていますが。

 元夫「靖明」の現在の恋人、「玲子」の尽くしかたも男性に都合のいい女にみえて嫌です。

 とこうわたしの好き嫌いを言ってしまったら、テーマがなくなるということですね。宮本輝という作家のあたたかい「再生へのまなざし」が台無しになるということです。

 別の話ですが山本周五郎はよくダメな人間にあたたかいまなざしをそそぎ、感動の物語にしました。(例えば「さぶ」)

 若い時はそれはそれは好きでしたが、今しっくりとはこない思いです。こころがカサカサになっているのかもしれないですね。

錦繍改版






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最終更新日  2008年01月18日 10時06分17秒
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Re:『錦繍』 宮本輝(01/18)  
msk222  さん
宮本輝は、「泥の河」「蛍川」「青が散る」「花の降る午後」「優駿」など、主なものは読んでいますから「錦繍」もたぶん読んだと思います。
僕にとって感情移入しやすい作品が多いのですが、なぜか印象に残らないものもあります。
「錦繍」も読んだときには、それなりに感情移入したとは思いますが、別れた夫婦が再会する手紙の導入部分のほかは記憶が飛んでいます。
もしかしたら全部読まずに、読んだつもりになっていたのかも知れません。
男にとって都合のいい設定というのは、渡辺惇一などもそうですが男性作家の陥りやすいところだと思います。
僕も、ちょっと気合いを入れて文章を書こうとすると、家族がいない時と場所で、思い切り(都合のいい)空想を働かせます。
妻が少しでも視界に入るともうダメです。ぜんぜん理想と反して、現実に引き戻される(書くときの)天敵にさえ思えてくるわけですから…。
もちろん、冷静になって考えれば妻の存在や言い分のほうに理があるのは、そのとおりなんです。
宮本輝さんの、若い頃の作品の鮮烈さが強く印象にあって、中年になってからの作品への過度の期待とのギャップがあって、あまり印象に残らなかったのかとも考えましたが、女性ならではの視点で弱みを捉えられたという気がします。
ちょと支離滅裂になりました。
(2008年01月18日 10時53分17秒)

Re[1]:『錦繍』 宮本輝(01/18)  
ばあチャル  さん
msk222さん
>宮本輝は、「泥の河」「蛍川」「青が散る」「花の降る午後」「優駿」など、主なものは読んでいますから

わたしもいろいろ読んでから感想を書こうと思ったのですが忘れないうちにというわけです。「青が散る」はすがすがしかった覚えがありますが、やっぱりヒロインのお嬢様がわがままで気になったような…そんなひとが好きなんですかね、宮本さん(失礼)

>男にとって都合のいい設定というのは、渡辺惇一などもそうですが男性作家の陥りやすいところだと思います。

そう、他にもたくさんの作家がそんな風に。でもそれは仕方ありません、女性作家も男性がうまく書けているとは限りませんから。

>僕も、ちょっと気合いを入れて文章を書こうとすると、家族がいない時と場所で、思い切り(都合のいい)空想を働かせます。

そうですね、いちいち家族だの、性別だのを気にしていたら自由な文章がかけません。時空を超えて、性別を超えて、想像の世界に飛んで遊ぶのが文学ですもの。あとは同感を得るかどうかで(笑)

>ちょと支離滅裂になりました。

いいえちっとも。すっごくよくわかりました!

(2008年01月18日 15時22分16秒)

Re:『錦繍』 宮本輝(01/18)  
きいぼ  さん
この小説は読んでないのですが、あら、蔵王が舞台ですか。
おぉ、わが山形県ではありませんか。興味がわいてます。
でも別れた元妻に偶然出会って、手紙がくるという設定が、もう男の人らしいな、と思ったり。
別れた元妻は、たぶん元気に自分の人生を歩いてる。
女性は強いんだもの。元夫に偶然会っても「どーも」程度よ。
なんて全く別のことを考えてしまいました(笑)。
元妻は、いつまでも自分のことを想ってる(それが憎悪にしろ愛情にしろ)なんて、男の妄想です、たぶん。
往復書簡なんてありえない!胡散臭いとちょっと思ってしまった私、やはり宮本輝さんを読むには、まだ修行が足りないようで・・・(笑)。


(2008年01月18日 19時24分01秒)

きいぼさん  
ばあチャル  さん
『錦繍』 というきらびやかで哀愁を縫いこめてあるような小説の題が小憎いんですよね。女性はもうメロメロになりそう(ってなにいってんだか)

むかし、わたしが立原正秋に夢中だった時「残りの雪」にやはり紅葉の燃えるような情景が女の情炎と重なって描かれていて印象深かったのでした。やはり女性をある形に閉じ込めていたと思います。それが心地いい時もあったのです。

だから、きいぼさんいつの日かこの作品も読んでご自身の感想を持ってくださいね。ばあチャルがあんなこと言っていたとなー、と思い出してくださいね(笑)

(2008年01月18日 20時28分44秒)

Re:『錦繍』 宮本輝(01/18)  
ぱぐら2  さん
あ、私のことだあ!ありがとうございます。
私もばあチャルさんの感想を読んで、うんうん確かに。そう言われればそうだなあ、と納得してしまいました。
特に主人公の女性、お嬢様育ちで、離婚再婚を経て成長したということなのかもしれません。が、確かに違和感ありますね。モーツアルト39番は、他の曲に比べてそんなに深い感じもしないし・・・(これは個人的好みでしょうけど)
令子の登場は、観念的な主人公二人の存在を超えて、現実的に生きるということを強調しているのだと感じました。私は逆に、令子が主人公のぐずぐずを利用しているように受け取りました。

私も、人が絶賛している本を読んで、逆の感想を持つということがよくあります。私がけなした「クローズド・ノート」も、感動の涙にくれたという人も多いらしいです。いろんな人がいろんな感想を持ち、それをお互いに知ることができるって、すごく楽しいですね。ブログのおかげですね。 (2008年01月19日 14時34分08秒)

ぱぐら2さん  
ばあチャル  さん
>あ、私のことだあ!ありがとうございます。

そう、ばぐらさんのブログを拝見して積んでいた本をさっそく読みました!こちらこそありがとうございます。

漱石の「こころ」もそうですけど人間の心のさまようさま、矛盾に満ちての理不尽な動きは永遠のテーマでこれが正解ということはないのだ、と理解してます。だからこの小説も様々な読み取り方が出来るのでしょう。

>私も、人が絶賛している本を読んで、逆の感想を持つということがよくあります。私がけなした「クローズド・ノート」も、感動の涙にくれたという人も多いらしいです。いろんな人がいろんな感想を持ち、それをお互いに知ることができるって、すごく楽しいですね。ブログのおかげですね。

この文章はものすごく嬉しいと共に、わたしが学ばなければならないと思い感激いたしてしております。

率直に言おうとすれば誰かが傷つき、誰かが落ち込んだり悩んだりする、でも意見は意見、感想は感想、それぞれの表現なのですよね。おたがいに聞きあってそのなかからまた新たなものを得る、それが知恵ですよね♪

宮本輝氏もまた他の小説でわたしに思いもかけない何かを下さるかもしれない、ということがあると信じます。

だからブログは素晴らしい!とおっしゃるばぐらさんに賛成!!
(2008年01月19日 19時50分41秒)

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