やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2009年05月03日
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カテゴリ: 読書感想

 前のブログ 「あっさり味」 の引き合いに出した『恋する女たち』、こってり味なのは読み応えがあったが、ロレンスの思想には頷けないところがある読後感だ。

 簡単に言えば、性格の違う聡明で美しい姉妹が、相手を出会って結婚したのは姉、しなかったのは妹というストーリー。

 教師である姉の恋人、後に夫、は『チャタレイ夫人の恋人』の森番を彷彿させる男、自由人で自然人、作者の分身らしい。

 いっぽう彫刻家を目指している芸術家肌の妹。恋人は炭鉱主の跡継ぎ、やり手で能力がある合理主義者。だから作者の意に添わず消えていく運命。

 ロレンスの考える男女間のあり方は、男性が主導権を握って女性が服従するのが理想で、性も思想もそうでなくてはいけないというものである。

 男によって目覚めさせられる女という図式は『チャタレイ夫人の恋人』もそうだった。

 しかし、この小説の姉妹は聡明で自立した考えを持っているから、すんなりとは行かないところが文学になっている。それが完結したような『チャタレイ夫人の恋人』より価値があるのかもしれない。

 もちろん芸術的に文芸的に目に浮かぶような表現、美しい描写の深さは、さすが。

 姉妹の服装の彩り、とくにストッキングの色と服の取り合わせの描写がきれいで目に鮮やか。例えば 「襟と袖口にブルーとグリーンの麻レースのひだ飾りをつけた濃紺の服のエメラルドグリーンのストッキング」 などと。

 旅行中、列車の窓から見るヨーロッパの田舎のうらぶれた景色の描写から、幼い日を思い出してくる場面のなど印象深く共感できる。

 さりとて、わたしにその思想が理解できたというわけではない。反発すら覚える。

 『息子と恋人』と『チャタレイ夫人の恋人』の間の作品で、ロレンス一時代の文学の証として読めばいいのかもしれない。

 なにしろ長大なページ量で(二段組、440ページ、字のポイント小さい)しかもこれで省略部分があるというから、よほどの物好きか、もうこれは研究家しか読まない本だろう。

 わたしは古本屋で珍しい本を安く見つけたという根性から読んだような、芸術と程遠い心境で満足したのだけれども(笑)






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最終更新日  2009年05月04日 07時35分07秒
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Re:こってり味(05/03)  
Rinn さん
読んだことあるのは「チャタレー夫人の恋人」だけです。いつ頃だったかなあ?高校か大学か。。
私には夫はそれほど悪い男には思えなくて、当時のその階級の人なら当然のことかもしれず、妻を干上がらせて親戚から養子を得ることもできるのに、嫉妬をおさえて他の男の種を宿してこい、というのもマシ(かなり複雑だが)に思えました。
今なら逆手にとって遊び回って、子供ができたら夫の子として、うまくやる女として描くこともできますね。(笑)どうやら、そんなこともできない純粋でまじめな女性として描くのも、ロレンスの好みか。
森番の男がそれほど魅力的なのは、性的に健康だからなのか、階級に関係のない教養があるからなのか。
確か2人は駆け落ちのように新生活を求めていきますね?そこでも明るい未来というより、こんな生活力のない上流階級の女は、果たして本当に幸せになれるのか、疑問でしたね。
これ以上ロレンスを読む気がしなかったのは、意識が違いすぎて共感できなかったからかもしれません。それと、炭鉱町の煤けた風景が陰鬱でたまらなかった。としたら、その描写力は大したものですね。
先日書いたケータイ小説でもそうですが、結局自分の意識とピッタリ合うものでないと、共感しにくく、普遍の文学性とはなんだろうと考えてしまいますね。
私が学生の頃は「飛んでる女」という言葉が流行ったり、男に盲従する女からの脱皮が言われて、さかんにそういう映画や本ができた。
そこで世代が劇的に変わったのでもないと思いますが、影響は受けてるでしょうね。
古い「演歌の女」も、自分の中に残ってますけどね。(*mskさんの「ひまじんさろん」記事参照)^^
(2009年05月04日 17時19分03秒)

Re[1]:こってり味(05/03)  
ばあチャル  さん
Rinnさん

頷けない=

わたしが育った時代は男が女を導き指導するという殻が残っている時代だったのですよ。いくら進駐軍が民主的とさけんでいてもね。

それで逆説的なのですが、めらめらと内なる反骨精神が目覚め、自分で見つけてやるとがむしゃらに向かっていく者が出るわけです。だから男には添わない。

わたしもそうでしたね。しかし自分でもよく結婚できたと不思議です。はねっかえりを慣らすというのも男の本能だったのかも。もちろん老年になって後悔しても、もう方途がありません(笑)

もしかして「演歌の女」もそのうちなる反発の裏返しの作戦かもしれませんよ。(ここまで明かしていいものか!)

(2009年05月04日 18時03分12秒)

Re:こってり味(05/03)  
bonbon さん
以前に書いたと思いますが,ゴッホとゴーギャンの耳切り事件の原因の6つのポイントをレポート文を作成したことを。

なんと昨日ドイツの2人の美術史家と言われる人たちが,何とゴッホの耳を切ったのはゴーギャンであるという400ページの本を出版しました。それもゴーギャンが海軍出身でサーベルが使えるので、ゴッホの耳を削ぎおとしのだと。ご丁寧にそのサーベルをローヌ川に捨てたと。それも口論の原因は馴染みの娼婦を巡ってらしい。と付け加えている。

売名行為というのか,いわゆる「こってり味」のどんな事でも自分の都合のいいデータを集め,自説を押し付けるこの肉食人種たち。

ドイツ語しか出版されていないので、まだ全面戦争にはなりませんが、頭がいたいです。

私のレポートはどうなるのか、
(2009年05月06日 20時50分13秒)

Re[1]:こってり味(05/03)  
ばあチャル  さん
bonbonさん

>以前に書いたと思いますが,ゴッホとゴーギャンの耳切り事件の原因の6つのポイントをレポート文を作成したことを。

はい。覚えております!
ゴッホが自然を見て描くのに対し、ゴーギャンは観たものを一旦自分の脳細胞の中の芸術性によって描く、つまり小説におけるフィクションのようだということでしたね。ゴッホも晩年はそのようになったとのこと。

それで私は感動しました。その後たまたま松本清張の「駅路」という短編にもゴーギャンが出て、おもしろくない使われ方だったりして(笑)

論文を完成なさっていらっしゃいましね!

>なんと昨日ドイツの2人の美術史家と言われる人たちが,何とゴッホの耳を切ったのはゴーギャンであるという400ページの本を出版しました。それもゴーギャンが海軍出身でサーベルが使えるので、ゴッホの耳を削ぎおとしのだと。ご丁寧にそのサーベルをローヌ川に捨てたと。それも口論の原因は馴染みの娼婦を巡ってらしい。と付け加えている。

>売名行為というのか,いわゆる「こってり味」のどんな事でも自分の都合のいいデータを集め,自説を押し付けるこの肉食人種たち。

>ドイツ語しか出版されていないので、まだ全面戦争にはなりませんが、頭がいたいです。

>私のレポートはどうなるのか、

それで思い出しましたが、モームも「月と六ペンス」でゴーギャンの伝記を下敷きにしており、それも印象に残っています。

やはりいろいろと創作欲(笑)を湧かせる画家なのでしょうね。

(2009年05月07日 06時59分45秒)

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