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東京都中央卸売市場を築地から移転させる先の豊洲が化学物質で汚染されていることは最初から明らかだった。ベンゼンの場合、2008年当時、環境基準の最大4万3000倍に達している。その豊洲市場で東京都が行った地下水の調査で環境基準を超えるベンゼンとヒ素が検出されたという。 環境基準が安全基準でないことは、東電福島第一原発が事故で破壊された後にも指摘されていたこと。豊洲の場合、マスコミに言わせると「わずかに」超えたというが、超えなければ良いという問題ではない。原発事故の影響は予想以上に速いペースで顕在化しているが、それでも影響はないと言い張っているのが「エリート」や「権威」だ。遺伝子組み換え作物の問題でも同様。 化学物質の人体に対する影響の問題では「内分泌攪乱物質」、いわゆる環境ホルモンが有名。1996年に出された『奪われし未来』で知られるようになった現象だが、化学業界では遅くとも1970年代の半ばには噂されていた。その当時、測定限度ぎりぎり、おそらく測定不能なほど微量でも生殖機能にダメージを与える化学物質が次々に見つかっているという話を聞いた記憶がある。その話をしていた人物は、外でこのことを口にすると就職できなくなると付け加えていた。もし、企業から公的な研究機関に出向している研究者が所属している企業、あるいは業界にとって不都合な事実を発見した場合、それを発表することも難しいだろう。 今では有機水銀中毒だと知られている水俣病の場合、さまざまな「権威」が企業やその後ろに控えている集団にとって都合の良い仮説を宣伝していた。胎児性水俣病、つまり胎盤を通った有機水銀が胎児を病気にしていることも判明しているが、「専門家」は毒物が胎盤を通るはずがないと思い込み、事実から目を背けていた。既成の概念や知識から逸脱したり、支配層の利益に反することを口にしたなら「権威」になることはできない。 水俣病の場合、1956年5月にチッソ付属病院の細川一が水俣保健所に「原因不明の中枢神経疾患の発生」について報告、59年10月に動物実験で水俣病の原因は工場廃液だと確信するが、会社側の意向で発表はしていない。細川がこの実験について証言したのは死が間近に迫った1970年だった。その一方、1959年7月に熊本大学の水俣病研究班は、病気の原因物質は水銀化合物、特に有機水銀であろうと正式発表している。この熊本大学の説に反論するためにも細川の実験結果は隠蔽し、嘘を主張したわけだ。 おそらく、細川や熊本大学より早く有機水銀が環境中に放出されている可能性が高いことを知っていたのはチッソのエンジニアである。触媒として使われていた水銀が減少していることは化学反応を見ていれば明らかで、どのように物質が変化しているかを計算していたなら、おおよその見当はついていたはずだ。 実際、チッソの技術部門に所属していた塩出忠次は、合成中に有機水銀化合物ができることを会社側へ1950年に報告していたという。この人物はエンジニアとして当然のことを行い、その結果を報告していたのだが、それを会社の幹部は握りつぶしたということになる。会社の利益も問題だっただろうが、日本の産業界全体の問題でもあった。 有機水銀が水俣病の原因だということになると、日本の化学業界は困った状況に陥る。水銀を使った場合と同程度のコストで生産する技術を持っていたのはアメリカの企業で、特許料を支払うと日本の化学業界はアメリカと競うことができないからだ。日本政府が水俣病の原因をチッソの工場から出された有機水銀だと認めた1968年頃、そのアメリカの技術に対抗できる方法を日本企業も獲得したようだ。 こうした人びとより早く病気に気づいていたのは漁師だと言われている。1942年に水俣市月の浦という漁村で最初の患者が出て、53年から被害が大きくなったようだが、そうしたことを漁師は身を以て知っていたということ。「専門家」や「権威」は事態が深刻化しないと認識できない。身近な場所で「何かおかしい」ことが起こっていると「素人」が感じた段階で、何らかの対策を取る必要があるのだ。これは豊洲の問題でも言える。同じことが繰り返されるのは、これまで責任をとらずにすんできたからだろう。高を括っている。
2016.09.30
アムステルダムからクアラルンプールへ向かっていたマレーシア航空17便が2014年7月17日にウクライナ上空で撃墜され、乗員15名と乗客283名が死亡した。この事件を調べていたJIT(統合調査チーム)が調査結果を公表、ロシアから運び込まれたブーク・ミサイル・システムで撃墜され、そのシステムはロシアへ戻されたと主張した。 長さが五メートル弱で通常はトラックなどに乗せられたブークを移動させれば目立ち、アメリカのスパイ衛星も簡単にとらてしまう。しかも、このミサイル・システムをロシアから運び込んだルートが複雑で、それを裏付ける証拠もない。(証拠とされた写真は無関係の場所で撮影されたことがすぐに判明、アメリカのスパイ衛星が撮影したという写真は太陽の位置と影のでき方が矛盾し、偽造の痕跡も残っていると指摘されている。) しかし、それ以上に大きな疑問はミサイルの痕跡。ブークを発射すれば白い痕跡が残るため、住民に目撃されないとは考えられない。携帯電話が普及した現在、少なからぬ人が撮影していたはずだが、そうした事実はない。7月23日にBBCの取材チームはキエフ政権の治安機関SBU(ウクライナ保安庁)が主張するブーク説を確認するために現地入りしたのだが、そうした事実がないことを確認している。BBCはこの映像をすぐに削除したいる。 こうした情報を流したSBUは、反キエフ軍が航空機を撃墜したことを示すという音声を「証拠」として撃墜の直後にユーチューブへアップロードしたのだが、7月17日午後4時40分の会話であるはずなのだが、その音声がインターネット上に流されたのは16日午後7時10分(キエフ時間)であり、いくつかの無関係な会話をつなげたものだとする解析結果も明らかにされた。会話の中に出てくる地名は撃墜現場から100キロメートルほど離れた場所だとも指摘されている。 また、ブークが発射された事実はないと報じたBBCの映像では、住民が戦闘機の存在を証言(英訳)している。その戦闘機が撃墜したというのだ。ロシア国防省も旅客機と同じコースを同じ高度で近接航空支援機のSu-25が飛行していたと説明している。戦闘機と旅客機との距離は3から5キロメートルだったという。残骸から銃撃されたのではないかと推測する人もいるが、OSCE(欧州安全保障協力機構)の調査官も左右から銃撃された可能性が高いと考えている。 Su-25を実際に操縦した経験のある人びとによると、1万2000メートルから1万4000メートルの高度までは到達でき、MH17を撃墜することは可能だ。イスラエルのF-15戦闘機がトルコとジョージア(グルジア)を経由してアゼルバイジャンへ運び込まれている(イラン攻撃の準備と言われている)が、この戦闘機が何らかの役割を果たした可能性があると推測する人もいる。MH17とほぼ同じルートを40分弱の差でウラジミール・プーチン露大統領を乗せた航空機が飛行する予定だったとする未確認情報も無視できない。 JITの報告書には全く説得力がないのだが、そのメンバー国を見れば理由がわかる。アメリカの「友好国」であるオランダ、オーストラリア、ベルギー、撃墜した可能性があるキエフ政権、そしてマレーシアなのだ。報告書の情報源がSBUなどキエフ政権に偏っているのも当然だ。ジョン・F・ケネディ大統領暗殺を「調査」したウォーレン委員会と同じように、メンバーが決まった段階で結果も決まっていた。
2016.09.30
日米両政府は9月26日、外務省で「日米物品役務相互提供協定(ACSA)」の署名式を行ったようだ。安倍晋三政権は「集団的自衛権」という名目でアメリカの侵略戦争に協力する態勢を整えつつあり、その一貫と言えるだろう。このACSAは自衛隊とアメリカ軍が物品や役務を融通する際の取り決めで、物品には燃料や弾薬が含まれる。有り体に言えば、アメリカ軍の兵站線を自衛隊が担うということだ。 兵站は戦争の勝敗を大きく左右する。アメリカ軍が行ってきた「テロとの戦い」の間に「テロリスト」が勢力を拡大できたのは、アメリカ軍が「テロリスト」の兵站線を叩かなかったことが大きい。物資を「テロリスト」に「誤投下」してきただけでなく、高性能兵器をアメリカやその同盟国はアル・カイダ系武装集団へ供給している。最近ではそうした事実を隠していない。隠す必要がないほど知られているとも言える。 2012年8月にDIA(国防情報局)の作成した文書はシリアにおける反乱の主力をサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)だとし、西側、湾岸諸国、そしてトルコからの支援を受けているとホワイトハウスに報告、「穏健派」を支援するバラク・オバマ政権の政策が危険だと警告している。そうした警告を知った上でオバマ大統領は「穏健派」、その実態は「過激派」を支援してきた。目的は、言うまでもなく、バシャール・アル・アサド体制の打倒だ。その結果、ダーイッシュの支配地を拡大させ、破壊と殺戮につながった。 最近ではアメリカ軍も開き直り、例えば8月16日に広報担当のクリストファー・ガーバー大佐は記者会見で、自分たちが戦っている相手はダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)だけであり、アル・ヌスラ(アル・カイダ系武装集団)ではないと明言している。そのダーイッシュとアル・ヌスラの実態に大差はなく、違いはタグの種類だけ。 本ブログでは何度も書いてきたが、シリアでの戦闘が「独裁政権に対する民主主義を求める人民の蜂起」でないことは、2011年春に戦闘が始まった直後から少なからぬ人が指摘してきた。アサド体制を倒すためにアメリカの好戦派はリビアと同じようにアル・カイダ系武装集団を使い、そうした集団とNATOとの関係が広く知られるようになると、新たなタグとしてダーイッシュをつけただけだ。 9月17日には、そのダーイッシュを守り、シリア政府軍への攻撃を支援するため、アメリカ軍が主導する連合軍のF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機がシリア北東部の都市デリゾールで政府軍の部隊を攻撃、当初の発表では62名が殺された。その後でシリア政府軍は死者の数を80名以上としている。 ロシア軍との戦争が勃発する可能性が高まることを承知の上でアメリカ軍が前面に出て来たのは、手先の「テロリスト」が劣勢になったから。「停戦」で時間を稼ぎながら態勢を整えてのことだ。「テロリスト」でアサド政権を倒すことが困難になった一因は、アメリカ軍と違い、ロシア軍が本当に侵略軍の兵站線を攻撃したからだ。ロシア軍が出てくる前、アメリカ軍が兵站線を放置しているのは「テロリスト」を叩く意思がないからだと言われていた。それほど兵站線は重要だ。 アメリカ軍は東アジアでも軍事的な緊張を高め、安倍政権はそれに同調している。アメリカ軍が日本を従えて中国と戦争を始めたならロシア軍が出てくる可能性は高く、日米と中露の戦争になる。兵站線を担う自衛隊はアメリカ軍の軍事拠点と同じように攻撃されるだろう。そうした役割を安倍政権はACSAによって、アメリカ政府に約束したわけだ。
2016.09.29
アル・カイダ系武装集団にしろ、そこから派生したダーイッシュにしろ、自由シリア軍(FSA)にしろ、新しいタグのファテー・アル・シャム(レバント征服戦線)にしろ、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアを中心とする侵略勢力の傭兵にすぎない。アメリカ軍の元幹部、情報機関、副大統領も認めている事実だ。アル・カイダ系のアル・ヌスラの幹部は武器をアメリカから入手、アメリカは自分たちの味方だと認めたとドイツの雑誌が伝えている。雑誌の記事に目新しい事実が含まれているわけではないが、これまでアメリカの好戦派が主張することを宣伝するだけだったメディアが事実を伝えているのは興味深い。 戦争に消極的だったビル・クリントン政権を戦争へと導いたのがヒラリー・クリントンの人脈だということは本ブログですでに指摘した。その転換点は1997年1月。国務長官がウォーレン・クリストファーからマデリン・オルブライトに交代した時だ。オルブライトは大学時代にズビグネフ・ブレジンスキーから教えを受けた人物で、ヒラリーと親しい。オルブライトがユーゴスラビアへの先制攻撃を先導した。 ビル・クリントン政権には国務副長官の首席補佐官として、好戦的なネオコン/シオニストのビクトリア・ヌランドもいた。なぜ彼女がこの政権に入っているのかいぶかる人もいたが、その謎を解く鍵もヒラリー。ヌランドとヒラリーは親しい間柄だ。 つまり、ヒラリーは筋金入りの好戦派で、ネオコンだけでなく、戦争ビジネスや巨大金融資本を後ろ盾にしている。共和党の大統領候補であるドナルド・トランプが立派な人物だとは言わないが、危険度ではヒラリーが高い。 アメリカの好戦派はNATOをロシアとの国境へ近づけて挑発、ウクライナでは選挙で民主的に選ばれた政権を倒すためにネオ・ナチの暴力を使い、リビアやシリアではアル・カイダ系武装集団など「テロリスト」を利用している。 ユーゴスラビアではNATO軍を利用、イラクは2003年にアメリカ軍が率いる連合軍が戦争攻撃してサダム・フセイン体制を倒し、その後も破壊と殺戮を続けている。正規軍を使っての侵略だが、2008年に流れが変わる。 ジョージア(グルジア)では2001年からイスラエルの会社がロシアとの戦争に備えてグルジアに武器を提供、同時に軍事訓練を実施して戦争準備を進めていた。軍事訓練の責任者はイスラエル軍の退役したふたりの将軍、ガル・ヒルシュとイースラエル・ジブで、イスラエルからは無人飛行機、暗視装置、対航空機装置、砲弾、ロケット、電子システムなどが提供されていた。(Tony Karon, “What Israel Lost in the Georgia War”, TIME, August 21, 2008) また、ロシア軍のアナトリー・ノゴビチン将軍もイスラエルがグルジアを武装させていると非難している。2007年からイスラエルの専門家がグルジアの特殊部隊を訓練し、重火器、電子兵器、戦車などを供給する計画を立てていたというのだ。(Jerusalem Post, August 19, 2008) 当時、ジョージアにはヘブライ語を流暢に話せるふたりの閣僚がいた。ひとりは国防大臣で、もうひとりは南オセチア問題の担当大臣。それほどイスラエルとグルジアとの関係は深かった。 2008年7月10日にアメリカのコンドリーサ・ライス国務長官がジョージアを訪問、それから1カ月足らずの8月7日にサーカシビリ大統領は南オセチアの分離独立派に対して対話を訴え、その約8時間後の深夜に奇襲攻撃を開始したが、ロシア軍がすぐに南オセチアへ援軍を派遣、軍事侵攻していたジョージア軍を粉砕してしまった。この作戦はイスラエルが立てたと推測する人もいる。そして8月15日、再びライス国務長官がジョージアを訪れた。 約6年に渡って準備しての軍事侵攻であり、ロシア軍に粉砕されたことはショックだったろう。その2年前、フォーリン・アフェアーズ誌(CFR/外交問題評議会が発行)はロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できるようになる日は近いとするキール・リーバーとダリル・プレスの論文を掲載していた。南オセチアの一件で、アメリカの支配層がロシアの軍事力を過小評価していたことが明確になった。 2011年春にリビアやシリアに対して始まった侵略戦争は傭兵を使ったゲリラ戦。リビアではNATOの空爆も絡めて破綻国家を作り上げたが、シリアではロシアが空爆を許さない。しかも2015年9月30日にはロシア軍が空爆を開始、戦闘部隊が叩かれ、兵站線も攻撃されて侵略は目論見通りに進んでいない。 そこでロシアに停戦を認めさせ、その間に攻撃態勢を整えた。タグを付け替えて空爆させないような演出を試み、自国の特殊部隊を増派していくつもの拠点を作り、国境線から100キロメートル程度の地域はアメリカ側が支配しているようだ。しかも、60名とも80名とも言われるシリア政府軍の兵士を空爆で殺している。 シリア北部の要衝アレッポの山岳地帯にある外国軍の司令部を、シリア沖にいるロシア軍の艦船から発射された3発の超音速巡航ミサイルが9月20日に攻撃、約30名が殺されたとロシア系アラビア語メディアが伝えている。その外国人とはアメリカ、イギリス、イスラエル、トルコ、サウジアラビア、カタールから派遣された軍人や情報機関の人間で、シリア政府軍に対する攻撃を指揮していたのはここだとも言われている。 こうした情報が正しいなら、すでにアメリカとロシアの戦争は始まっていると言えるだろう。危機感を持つ人が増えるのは当然で、EUではそうした動きが見られる。
2016.09.28
シリアでアメリカとロシアは睨み合いから鍔迫り合いの段階に進んでいる。あくまでもバシャール・アル・アサド政権を倒して傀儡体制を築くという「予定」を実現しようとするアメリカの好戦派と話し合いで解決しようと努力しているロシアでは、ロシアが努力すればするほど事態は悪くなる。現在のアメリカに「憲法9条」のような考え方は通用しない。 イギリス下院の外交委員会は9月14日、リビア情勢に関する報告書を公表した。シリアと同じようにリビアの場合も最初から政府軍とイスラム武装勢力の戦闘で、「独裁者に対する虐げられた人民の蜂起」ではなかったことを明らかにしている。西側メディアの報道は嘘だったということだ。そうした西側メディアを信じている、あるいは信じている振りをしている人びとは、たとえ「権威」であっても、信用すべきでない。 リビアでの戦闘は2011年2月、シリアでは3月に始まっているが、夏になる前から西側メディアの「報道」が嘘だということは判明していた。そうした「報道」を信じたなら相当の愚か者であり、信じた振りをしたなら悪い奴だ。 2012年5月にホムスのホウラ地区で住民が虐殺された際、現地を調査した東方カトリックの修道院長は反政府軍のサラフ主義者(ワッハーブ派)や外国人傭兵が実行したと報告し、「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている。」と語っている。 サラフ主義者/ワッハーブ派はサウジアラビアが雇っている傭兵の中心で、2012年8月にアメリカ軍のDIA(国防情報局)が作成した報告書でも、サラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・ヌスラ)がシリアにおける反乱の主力であり、西側、湾岸諸国、そしてトルコが支援していると書いている。 当時、バラク・オバマ政権は「穏健派」を支援していたが、そうしたものは存在せず、その方針を変えなければ、シリア東部にサラフ主義の支配地が作られるとDIAは警告していた。その予測はダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)という形で現実になる。 アメリカ政府は勿論、西側のメディアもアメリカ軍がアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュと戦っているかのように主張してきたが、それが嘘だということは最初から明らかで、アメリカ軍の幹部や副大統領もそうした事実を認めている。 例えば、2014年9月に空軍のトーマス・マッキナニー中将はアメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで発言、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、同年10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語り、2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べている。 そして2015年8月、マイケル・フリン元DIA局長はアル・ジャジーラの番組へ出演した際、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領が行うと指摘している。つまり、オバマ政権の決定がダーイッシュの勢力を拡大させたというわけだ。 また、今年8月16日にはアメリカ軍の広報担当者、クリストファー・ガーバー大佐は自分たちが戦っている相手はダーイッシュだけであり、アル・ヌスラではないと明言している。2001年9月11日以降、「テロの象徴」として扱われ、侵略の口実に使われてきたアル・カイダ系武装集団は「穏健派」だというわけだ。 ウクライナにしろシリアにしろ、アメリカの支配層は傭兵を使って殺戮と破壊を繰り返してきた。ウクライナはネオ・ナチ、シリアはリビアと同じようにアル・カイダ系武装集団だ。 アル・カイダはロビン・クック元英外相が指摘したように、CIAに雇われて訓練を受けた数千人におよぶ戦闘員のコンピュータ・ファイル。「アル・カイダ」とはアラビア語で「ベース」を意味し、「データベース」の訳語としても使われている。この仕組みを作り上げた人物は、ジミー・カーター政権で大統領補佐官を務めていたズビグネフ・ブレジンスキーだ。 ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2007年3月5日付けのニューヨーカー誌で、アメリカがサウジアラビアやイスラエルと共同でシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始したと書いている。 2003年にイラクはアメリカ軍が主導する連合軍に先制攻撃を受けてサダム・フセイン体制は崩壊、その後も殺戮と破壊が続いている。それにシリアとイランを加えた3カ国を5年から10年で殲滅すると1991年に語ったのは、国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだ。 その年の12月にソ連は消滅、翌年の初めには国防総省のDPG草案という形で世界制覇プランが作成された。当時の国防長官はリチャード・チェイニーだが、作成の中心がウォルフォウィッツだったことから、ウォルフォウィッツ・ドクトリンとも呼ばれている。旧ソ連圏だけでなく、西ヨーロッパ、東アジアなどの潜在的なライバルを潰し、膨大な資源を抱える西南アジアを支配しようというものだ。 2001年9月11日に世界貿易センターと国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された10日後、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺では攻撃予定国リストが作成され、そこにはイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランが載っていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の話だ。(3月、10月) マスコミが言うところのアメリカとロシアの激しい遣り取りとは、アメリカ政府が自分たちの手下であるアル・カイダ系武装集団やダーイッシュを攻撃するなと叫んでいるのに対し、ロシアは「テロリスト」を支援するなと批判しているということだ。オバマ政権が「テロリスト」を育てたことはアメリカの情報機関でさえ指摘、ヒラリー・クリントンは同じ政策を進め、核戦争の危険性を高めようとしている。
2016.09.27
今年5月にあったブラジルの政変、あるいはクーデターで実権を握り、8月に上院の投票で大統領に就任したミシェル・テメルはアメリカ巨大資本の手先であり、クーデター派の中心グループは犯罪捜査の対象だった。そのテメルがクーデターの目的を語る映像をインターセプト誌が英訳付きでインターネット上にアップロードした。アメリカ巨大資本の代弁者でもあるブラジルのメディアは映像が改竄されていると宣伝したが、インターセプト誌はオリジナルの映像を示し、そうした事実がないことを明らかにしている。 テメルの発言はアメリカの巨大ビジネスや外交分野のエリートに対するもので、ジルマ・ルセフ大統領が新自由主義に基づく政策、つまり私有化や規制緩和によって富をアメリカやブラジルの富裕層や巨大資本へ集中させようという計画を進めようとしなかったことが懲罰の理由だとしている。その政策をテメルは「未来への架け橋」という文書にしていた。 テメルのクーデターには国際的な目的もある。例えば、アメリカを中心とする経済システムが揺らぐ中、ライバルとして台頭してきたのがBRICS、つまりブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ。BRICSを潰すには、その中で最も弱いブラジルが狙われるのは必然だ。 テメルがアメリカ支配層の手先だということは、内部告発支援団体WikiLeaksが公表した電文で明らかにされている。これは2006年1月11日にサンパウロ駐在のクリストファー・J・マクマレン米総領事が国務長官、南方軍、国家安全保障会議、中南米にある7つの大使館と領事館に宛てて出されたものだ。 その当時、テメルはブラジル民主運動党を率いていた。この政党はCIAの傀儡で、ルセフやルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバの労働党政権を倒すチャンスがあれば倒すことになっていた。4月の段階でルセフ大統領はテメルとエドアルド・クニャ下院議長がクーデターの首謀者だと批判していた。 クーニャ下院議長は最近、スイスの秘密口座に数百万ドルを隠し持っていることが発覚し、ルセル大統領の弾劾で先導役を務めたひとり、ブルーノ・アラウージョも巨大建設会社から違法な資金を受け取った容疑をかけられている。2018年の大統領選挙へ出馬するというジャイ・ボウソナル下院議員の場合、弾劾を問う採決の際、軍事政権時代に行った拷問で悪名高いカルロス・アルベルト・ブリリャンテ・ウストラを褒め称えていた。 WikiLeaksが公表したアメリカの外交文書によると、2006年にはベネズエラでもクーデターが計画されている。「民主的機関」、つまりアメリカの支配システムに組み込まれた機関を強化し、ウーゴ・チャベスの政治的な拠点に潜入、チャベス派を分裂させ、アメリカの重要なビジネスを保護し、チャベスを国際的に孤立させるとしている。 産油国のベネズエラはラテン・アメリカ自立の核になる国で、2002年にもクーデターが計画されている。イラン・コントラ事件でも登場するエリオット・エイブラムズ、キューバ系アメリカ人で1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、そして1981年から85年までのホンジュラス駐在大使で後に国連大使にもなるジョン・ネグロポンテが黒幕だと言われている。この計画は、事前にOPECの事務局長を務めていたベネズエラ人のアリ・ロドリゲスからチャベスへ知らされたため、失敗に終わった。 2009年6月にはホンジュラスでクーデターがあり、マヌエル・セラヤ政権が倒されている。第2次世界大戦の直後、1946年にアメリカ支配層は手先として使うラテン・アメリカ各国の軍人を訓練する施設、SOAをパナマに設置した。ホンジュラスのクーデターの中枢には少なくとも2名のSOA卒業生が含まれている。 アメリカ政府はホンジュラスのクーデター政権を容認しているが、現地のアメリカ大使館は国務省に対し、クーデターは軍、最高裁、そして国会が仕組んだ陰謀であり、違法で憲法にも違反していると報告している。つまり、クーデター政権には正当性がないと明言している。この正当性のない政権は翌2010年、最初の半年だけで約3000名を殺害したという報告がある。 SOAでは対反乱技術、狙撃訓練、ゲリラ戦、心理戦、軍事情報活動、尋問手法などを教え込まれ、その出身者は帰国後にクーデターを実行したり暗殺部隊を編成してきた。パナマから1984年に追い出され、今はアメリカのジョージア州フォート・ベニングに移動している。2001年には名称がWHISC(またはWHINSEC)へ変更された。
2016.09.26
正規軍の衝突では分が悪いと判断したアメリカの支配層はリビアやシリアへの侵略にアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュを傭兵として利用してきたが、イランのメディアによると、ここにきてアメリカ政府はシリア領内へ侵入させる特殊部隊を増やし、侵略拠点を建設しているようだ。 その報道では、シリア北部にある7つの基地に部隊を派遣、そのうちマブロウカには少なくとも45名、アイン・イッサには100名以上、コバネには300名以上、タル・アブヤダには少なくとも200名だとされている。こうしたアメリカ軍の軍事作戦はシリア政府が承認したものでなく、明白な侵略行為だ。 アメリカ軍が主導する連合軍は9月17日、シリア北東部の都市デリゾールでF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機を使って攻勢に出る直前だったシリア政府軍を空爆、60名とも80名とも言われる兵士を殺した。アメリカ側はミスだとしているが、これまで連合軍はこの地域でアル・カイダ系武装集団やそこから派生した空爆を実施したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)を攻撃したことはなく、現在の戦闘システムや現地の状況から考えても意図的な攻撃だった可能性が高い。 アメリカ軍主導の連合軍がシリア政府軍を空爆した7分後、ダーイッシュの部隊が地上でシリア政府軍に対する攻撃を開始、空と陸で連携していた可能性が高いことは何度も指摘してきたが、ミスであろうと意図的であろうと、侵略している事実に変わりはない。 こうした中、トルコ政府はアメリカとロシアを手玉に取ろうとしているように見える。 7月15日にトルコではレジェップ・タイイップ・エルドアン政権の打倒を目指す武装蜂起があったが、すぐに鎮圧されている。シリアのバシャール・アル・アサド政権を倒す目的で始められた戦争が長引き、トルコ経済は危機的な状況。そこでエルドアン政権はロシアへ接近していた。6月下旬にロシアのウラジミル・プーチン大統領に対してロシア軍機の撃墜を謝罪し、7月13日にはトルコの首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆している。こうした動きがクーデター計画に結びついたと見る人は少なくない。 武装蜂起を鎮圧した後、エルドアン政権はフェトフッラー・ギュレンを黒幕だとして批判している。このギュレンは1999年、ビル・クリントン政権の時にアメリカへ渡ってからアメリカ支配層の保護下にあるとされている。 このクーデター未遂でアメリカとトルコとの関係は険悪化したと思われたのだが、そう単純ではなかった。8月24日にジョー・バイデン副大統領がトルコを訪問しているが、副大統領がトルコの到着する数時間前に特殊部隊を含むトルコ軍の戦車部隊がアメリカ軍主導の連合軍による空爆の支援を受けながらシリアへ侵攻している。当然、シリア政府は侵略行為だと非難、ロシア政府も両国の合意に違反していると怒っている。ダーイッシュを攻撃するためという名目だったが、実際はクルド人勢力に対する攻撃だったようだ。その地域にいたダーイッシュの約半数はトルコ軍の兵士だとする情報もある。 トルコ軍はシリア北部に支配地を作り、アメリカの特殊部隊が侵入して基地を建設しやすい環境を作ったとは言えるだろう。その結果、アメリカとロシアとの軍事的な緊張は一気に高まった。 そうした環境を作り出したエルドアンは国連総会で演説するためにニューヨークを訪問、そこでユダヤ系アメリカ人のリーダーと会談している。そのリーダーにはイスラエル・ロビーのAIPACを率いるロバート・コーエンやADLのジョナサン・グリーンブラットも含まれ、トルコとイスラエルとの関係について協議したと言われている。
2016.09.26
アメリカのジョン・ケリー国務長官はシリア領空をロシアとシリアの航空機が飛行することを禁止、その一方でリビアと同じようにアメリカが主導する連合軍がシリア政府軍を空爆できるようにしようと提案、失笑を買った。飛行禁止空域を設定するということはアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)を支援することにほかならないからである。 こうした主張をアメリカ政府が主張する切っ掛けになった出来事が9月19日にシリアのアレッポで起こっている。国連の車列が攻撃されて12名が死亡したのだ。アメリカ政府は例によって証拠や根拠を示すことなくロシアやシリアを批判したわけだが、いつものようにその主張は早くも崩れ始めている。 攻撃の状況はアメリカ側が不利。シリア政府軍と国連の関係は悪くない上、車列は政府軍が支配している地域を通過していた。その車列をロシアやシリアが攻撃する理由が見当たらない。それに対し、侵略軍は攻撃の数日前に国連の行動を批判していた。 また、爆発の瞬間を撮影した映像の分析からアメリカ製の攻撃用ドローン、プレデターから発射されたヘルファイアー・ミサイルではないかという見方が出ている。ロシア国防省は車列の横を迫撃砲を引いて走る車両の映像を公表したほか、トルコのインシルリク空軍基地を飛び立った攻撃用ドローンが空爆の頃に車列の上空を飛行していたことを示す証拠を持っていると発表しているので、符合する。 ロシアやシリアがケリーの提案を受け入れるはずはなく、多くの人はこの提案を「冗談」と受け取ったようだ。アメリカがこのプランを強行したなら、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長が上院軍事委員会で語ったように、ロシアやシリアと戦争になる可能性が高いのだが、それでも設定したいと考えているのがジョン・マケイン上院議員のようなネオコン/シオニスト。 本ブログでは何度か指摘したが、NATOは関東軍化している。例えば、NATO欧州連合軍最高司令官だったフィリップ・ブリードラブ米空軍大将は2014年11月12日にロシア軍兵士と戦車のウクライナ侵攻したという偽情報を発信、彼の下で副最高司令官を務めたイギリス陸軍のリチャード・シレフ大将はロシアの周辺国で軍事力を増強してロシアを威圧するべきだと主張、またイギリスのマイケル・ファロン国防相は軍事的緊張の高まりをロシアに責任を押しつけている。 今年8月22日に国防総省で広報官を務めるピーター・クックは自分たちが中心になっている連合軍を守るために必要ならシリアやロシアの戦闘機を撃墜すると語った。アメリカの行動を見ると、その連合軍にアル・カイダ系武装集団やダーイッシュが含まれているとしか思えない。 そのほかFOXニュースの番組に軍事アナリストとして登場したロバート・スケールズ退役少将はロシア人を殺せと発言、最近ではマイク・モレル元CIA副長官も似たようなことを言っている。シリアを侵略して制圧するという計画をロシアやイランが妨害していることに怒り、ロシア人とイラン人を殺すべきだとインタビュアーのチャーリー・ローズに対して8月8日に語っているのだ。 こうした考え方は昨日今日に始まったことではない。バルバロッサ作戦でソ連に攻め込んでいたドイツ軍がスターリングラードの戦いでソ連軍に敗北、1943年1月31日に降伏する。慌てた米英は同年5月にワシントンDCで会議、同年7月にアメリカを中心とする部隊はシチリアに上陸し、9月にイタリアを制圧する。ハリウッド映画で有名なオーバーロード作戦(ノルマンディー上陸作戦)は1944年6月のことだ。米英の作戦はドイツではなくソ連が相手だと言うべきだろう。 1945年4月にルーズベルトは執務中に急死、5月にドイツが降伏したときにはウォール街がホワイトハウスの主導権を奪還していた。その直後、ウィンストン・チャーチル英首相はJPS(合同作戦本部)に対し、ソ連へ軍事侵攻する作戦を立案するように命令、そこで考え出されたのがアンシンカブル作戦。7月1日に米英軍数十師団とドイツの10師団が「第3次世界大戦」を始める想定になっていた。 チャーチルは1945年7月26日に退陣するが、翌46年3月5日にアメリカのミズーリ州フルトンで、「バルト海のステッティンからアドリア海のトリエステにいたるまで鉄のカーテンが大陸を横切って降ろされている」と演説、47年にはアメリカのスタイルス・ブリッジス上院議員と会い、ソ連を核攻撃するようハリー・トルーマン大統領を説得して欲しいと頼んでいたという。 アメリカの統合参謀本部が1949年に作成した研究報告にはソ連の70都市へ133発の原爆を落とすという内容が盛り込まれていたが、54年になると内容がより具体的になる。その年、SAC(戦略空軍総司令部)は600から750発の核爆弾をソ連に投下、118都市に住む住民の80%、つまり約6000万人を殺すという計画を作成したのだ。1957年初頭には300発の核爆弾でソ連の100都市を破壊するという「ドロップショット作戦」が作成されている。(Oliver Stone & Peter Kuznick, “The Untold History of the United States,” Gallery Books, 2012) SACが作成した核攻撃計画に関する1956年の報告書によると、モスクワ、レニングラード(現在のサンクトペテルブルク)、タリン(現在はエストニア)、キエフ(現在のウクライナ)といったソ連の都市だけでなく、ポーランドのワルシャワ、東ドイツの東ベルリン、チェコスロバキアのプラハ、ルーマニアのブカレスト、ブルガリアのソフィア、中国の北京が攻撃目標に含まれていた。 このように1950年代から核攻撃の準備は始まり、テキサス大学のジェームズ・ガルブレイス教授によると、ライマン・レムニッツァーJCS議長やSAC司令官だったカーティス・ルメイを含む好戦派は1963年の終わりに奇襲攻撃を実行する予定だったという。その頃になればアメリカはICBMを配備でき、しかもソ連は配備が間に合わないと見ていたのだ。この攻撃を成功させるためにもキューバを制圧し、ソ連の中距離ミサイルを排除する必要がある。この計画に反対していたジョン・F・ケネディは1963年11月にテキサス州ダラスで暗殺された。核戦争を始めるための大きな障害が排除されたということだ。 そうした流れの中でロシアに対する核戦争も語られている。シリアの「停戦」はロシア軍とシリア軍の手を縛り、アメリカ側が侵略部隊を立て直して新たな攻勢を始めるための時間稼ぎにすぎないことも本ブログで何度も指摘してきた。アメリカ政府の要求を受け入れるロシア政府の姿勢を懸念する声は西側の元政府高官などから聞こえてきたが、ロシア政府は話し合いで解決する道を探してきたのが実態だ。アメリカ政府のこうした姿勢から目をそらせるだけでも犯罪的である。 アメリカ支配層の一部は戦争への道を驀進している。予想されていた通り、アメリカ大統領選挙の投票日が近づくにつれ、軍事的な緊張が高まってきた。ヒラリー・クリントンの病状も今後の展開に少なからぬ影響を与えるだろう。万一、クリントンが病死した場合、「暗殺」が演出される可能性もある。
2016.09.25
アメリカ上院の軍事委員会にアシュトン・カーター国防長官とジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長が9月22日に登場、19日に国連の車列がアレッポで攻撃されて12名が死亡した攻撃について証言した。 ホワイトハウスの公式見解と同じように、ふたりはロシアかシリアの仕業だと主張したが、議員から質問を受けるとダンフォードは証拠を持っていないと答え、カーターは実行者かどうかには関係なくロシアに責任があると語っている。リビアと同じように飛行禁止空域を設けるべきだとする意見に対してダンフォードは、ロシアやシリアと戦争になるとしたが、これは正しい。 アレッポで車列が攻撃される2日前、シリア北東部の都市デリゾールではダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)に対する大規模な攻勢を準備していたシリア政府軍をアメリカが主導する連合軍のF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機が空爆、60名とも80名ともそれ以上とも言われるシリア軍兵士が殺された。しかも空爆から7分後にはダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)の部隊が地上でシリア政府軍に対する攻撃を開始、空と陸で連携していた可能性が高いことが明らかになっている。現在の戦闘システムや現地の状況から考えても「ミス」だった可能性はほとんどない。この出来事についてカーターとダンフォードは語っていない。 アレッポの出来事に絡み、ロシア国防省は車列の横を迫撃砲を引いた車両が走っている映像を発表、アレッポで空爆があった頃、トルコのインシルリク空軍基地を飛び立った攻撃用ドローンがその上空を飛行していたことを示す証拠を持っていると発表している。 この現場には「偶然」、「白ヘル」が現れた。人道的援助を行っているとグループだとされているが、アル・ヌスラによるシリア政府軍兵士の処刑に立ち会うなど、胡散臭い存在で、アメリカやイギリスのエージェントだとも言われている。CIAからカネが流れていることは確かなようだ。 国連の車列をロシア軍かシリア軍が攻撃したと言い始めたのはSOHR(シリア人権監視所)。この「団体」は2006年に創設された当時からひとりで運営され、その背後にはイギリスのMI5やアメリカのCIA、あるいはエドワード・スノーデンが所属していた(つまりNSAと関係が深い)ブーズ・アレン・ハミルトン、またプロパガンダ機関として有名なラジオ・リバティが存在していると指摘されている。 アル・カイダ系武装集団LIFGとNATOが連携して2011年10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制を倒し、その後に侵略戦争の中心舞台はシリアへ移動した。その際、リビア軍の倉庫から武器/兵器が持ち出されてトルコへ運ばれている。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、輸送の拠点になったのはベンガジにあるCIAの施設。運び出された武器/兵器の中に化学兵器も含まれ、これをシリアで使い、政府軍に責任をなすりつけてNATO軍が直接、介入する口実にしようとしたと言われている。輸送にはマークを消したNATOの輸送機が使われたとも伝えられていたという。そうした事実をアメリカ国務省は黙認していた。 この武器輸送にリビア駐在アメリカ大使だったクリストファー・スティーブンスも関与していたとハーシュは指摘している。スティーブンスは2012年9月11日、ベンガジのアメリカ領事館が襲撃された時に殺されたが、その前日に彼は武器輸送の責任者だったCIAの人間と会談、襲撃当日には武器を輸送する海運会社の人間と会っている。 襲撃当時、スティーブンスの上司にあたる国務長官はヒラリー・クリントンであり、こうした秘密工作を彼女も知っていた可能性は高い。何しろ彼女は好戦的な性格で、リビアのカダフィが殺されたとCBSのインタビュー中に知らされると、「来た、見た、死んだ」と口にして喜んでいる。 スティーブンス大使が殺された2カ月後にCIA長官を辞めたデイビッド・ペトレイアスはヒラリーと緊密な関係にあることで知られ、このルートからも秘密工作を知らされていたはずだ。 その後、西側の政府やメディアはシリアのバシャール・アル・アサド政権の残虐さを宣伝するが、その主な情報源はSOHRやダニー・デイエムなる人物。SOHRと西側情報機関との関係はすでに指摘した通り。 また、デイエムはシリア系イギリス人で、シリア政府による「流血の弾圧」を主張し、外国勢力の介入を求めていた。ところが2012年3月に「シリア軍の攻撃」を演出する様子を移した部分を含む映像がインターネット上へ流出してしまい、デイエムの正体が露見してしまった。その後も西側メディアは謝罪や訂正をせず、似たようなプロパガンダを続けている。 2012年5月にはホムスで住民が虐殺され、西側の政府やメディアはシリア政府軍が実行したと宣伝しはじめる。この出来事を利用してバシャール・アル・アサド体制を倒そうとしたわけだが、事実との間に矛盾点が多く、すぐに嘘だとばれてしまう。 例えば、現地を調査した東方カトリックの修道院長は反政府軍のサラフィー主義者や外国人傭兵が実行したと報告、その内容はローマ教皇庁の通信社が伝えた。ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙もキリスト教徒やスンニ派の国会議員の家族が犠牲になっていると伝えている。 その修道院長は、「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている。」と語っている。西側のメディアが破壊と殺戮を広めるため、偽情報を流しているというわけだ。現地で宗教活動を続けてきたキリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムも外国からの干渉が事態を悪化させていると批判している。 ローマ教皇庁はアメリカの好戦派に対して批判的な姿勢を続けているが、その一因はこうした現地からの報告があるだろう。何しろ、キリスト教徒を殺戮しているのはアメリカを後ろ盾とするアル・カイダ系武装集団やダーイッシュであり、守ろうとしているのがアサド政権だ。 日米欧の有力メディアはアメリカ支配層のシナリオに沿った話を拡散し、それを信じている、あるいは信じた振りをしている人も少なくない。ここにきて支配層の嘘に気づいた人は増えているようだが、西側世界の流れは嘘に基づいている。 日本が降服して間もなく、映画監督の伊丹万作はこんなことを書いている。 戦争が本格化すると「日本人全体が夢中になって互に騙したり騙されたりしていた」。 「『騙されていた』と言う一語の持つ便利な効果に搦れて、一切の責任から解放された気でいる多くの人々の安易きわまる態度を見る時、私は日本国民の将来に対して暗澹たる不安を感ぜざるを得ない。」 「『騙されていた』と言って平気でいられる国民なら、恐らく今後も何度でも騙されるだろう。いや、現在でも既に別の嘘によって騙され始めているに違いないのである。」(伊丹万作『戦争責任者の問題』映画春秋、1946年8月)
2016.09.23
ロシア系アラビア語メディアによると、シリア北部の要衝、アレッポの山岳地帯にある外国軍の司令部を、シリア沖にいるロシア軍の艦船から発射された3発の超音速巡航ミサイルが9月20日に攻撃、約30名が殺されたという。死亡者はアメリカ、イギリス、イスラエル、トルコ、サウジアラビア、カタールから派遣された軍人や情報機関の人間で、17日にデリゾールでシリア政府軍をF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機で攻撃させたのはこの司令部だとされている。 デリゾールでの攻撃では60名とも80名とも言われる兵士が殺された。アメリカ、そして攻撃に参加したことを認めているオーストラリアとイギリスはミスだとしているが、現代の戦闘システム、現地の状況から考えてありえない。しかも空爆から7分後、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)の部隊が地上でシリア政府軍に対する攻撃を開始、空と陸で連携していた可能性が高いことが明らかになった。 ロシア政府の広報官、マリア・ザハロワはアメリカ軍主導の連合国軍によるシリア政府軍空爆について、「どのように考えても、私たちは恐ろしい結論に到達してしまう。つまり、ホワイトハウスはダーイッシュを守っているのだ。疑いようがない。」と語っているが、アメリカやその「同盟国」がアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュを侵略の手先に使っていることは公然の秘密。当然のことながらロシア政府も熟知しているはずだが、これまで口にしてこなかっただけだ。 昨年、バラク・オバマ政権は好戦的シフトを強化した。国防長官と統合参謀本部議長はアル・カイダ系武装集団やダーイッシュの危険性を認識していた人物、つまりチャック・ヘイゲルとマーティン・デンプシーから、ロシアを敵国だとし、シリアではバシャール・アル・アサド体制の打倒を最優先する人物、つまりアシュトン・カーターとジョセフ・ダンフォードに交代させている。それを受け、ロシアはシリアで空爆を開始した。 アメリカの好戦派はロシア軍がシリアで空爆すると予想していなかったようで、慌てていた。シリア政府軍に対する攻撃を指揮したとされる外国人をロシア軍が攻撃、殺害したとする情報について西側メディアは沈黙しているようだが、間違った情報なら、それなりの反応があるはず。巡航ミサイルによる攻撃の情報は正しく、オバマ政権は大きなショックを受けているのだろう。 ロシア海軍の重航空巡洋艦(空母)クズネツォフ提督が10月にシリア沖に到着、シリアでの軍事行動に参加すると言われているのだが、これまでと違い、シリアに潜伏しているアメリカなど外国の軍人や情報機関メンバーも攻撃の対象になりそうだ。
2016.09.23
高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる動きが活発化、安倍晋三政権は「もんじゅ事業」の抜本的な見直し方針の表明を急ぐ方針だという。高速増殖炉自体が無謀な技術ではあるが、「もんじゅ」の場合は事故/トラブルの影響で再稼働はきわめて困難。プロジェクトを再始動させるためには「もんじゅ」を廃炉にして再出発する必要があると判断したのだろう。実際、政府は高速炉研究や核燃サイクル政策は維持する方針だとしている。一部で話題の一体型高速炉(IFR)も危険であることに変わりはない。 この「もんじゅ」は1991年から性能試験を始めたが、その4年後に2次冷却系のパイプが破裂、そこから2〜3トンと推定される放射性ナトリウムが漏出、当然のことながら火災が発生して運転を休止している。その際に動力炉・核燃料開発事業団(動燃)は事故原因が写ったビデオ映像を隠そうとして大きな問題になった。2010年には原子炉容器内に筒型の炉内中継装置(重さ3.3トン)が落下するという事故も引き起こしている。 安倍政権が「もんじゅ」の廃炉を考えているとするならば、それは核兵器製造の仕組みを作り上げたいという意思の反映だろう。1964年に中国が原発を手にした直後、佐藤栄作首相はアメリカのリンドン・ジョンソン大統領に対し、アメリカが核攻撃に対する日本の安全を保障しないなら、日本は核兵器システムを開発すると通告したとされている。今、朝鮮での核兵器開発が伝えられている。 ジョンソンは安全保障を約束し、日本の核兵器開発を思いとどまらせようとしたが、その後も日本側は核兵器開発を続けたとも言われている。少なくともアメリカの情報機関は日本が核兵器開発を続けていると考えている。 1977年に試運転を始めた東海村の核燃料再処理工場(設計処理能力は年間210トン)はそうしたプロジェクトの一環だと見られ、78年6月に開かれた「科学技術振興対策特別委員会」で再処理工場の建設について、ジャーナリストで市民運動家の山川暁夫は「核兵器への転化の可能性の問題が当然出てまいるわけであります」と発言、アメリカ政府はそこを見過ごさないと指摘した。実際、当時のジミー・カーター政権(1977年から81年)は日本が核武装を目指していると疑い、日米間で緊迫した場面があったと言われている。 日本が核武装を目指していると疑われている一因はRETF(リサイクル機器試験施設)の建設を計画したことにある。RETFとはプルトニウムを分離/抽出するための施設で、東海再処理工場に付属する形で作られることになった。 こうしたRETFの建設をロナルド・レーガン政権は支援する。同政権は兵器産業へ多額の資金を投入、テネシー州のクリンチ・リバー渓谷にあるエネルギー省オークリッジ国立研究所の実験施設では増殖炉を建設していた。増殖炉の開発には1980年から87年の間に160億ドルが費やされたものの、成功していない。そこで議会は予算を認めなくなる。 そこで増殖炉を推進していた一派はクリンチ・リバー計画の技術を日本の大手電力会社へ格安の費用で移転することにした。その際、日本の核兵器開発を懸念していたCIAはこのプロジェクトから閉め出されたという。当時、ソ連や中国との戦争を想定していたアメリカ軍の好戦派は日本を核武装させることで自分たちの負担は軽減されると考えていたようで、こうした動きを黙認していた。 日本側もクリンチ・リバーの計画に興味を持ち、毎年何十人の日本人科学者が施設を訪問、そこでの計画が打ち切られそうになると、以前にも増して多くの日本人が訪れたという。日本がアメリカ側に要求していたリストのトップに挙げられていた高性能のプルトニウム分離装置、つまり使用済み燃料から核兵器級プルトニウムを分離することができる装置が日本のRETFへ送られた。 そして現在、東アジアでは朝鮮が核実験に成功、アメリカの好戦派はロシアや中国に全面核戦争の脅しをかけている。そうした中、バラク・オバマ米大統領は保有する核兵器を増強するため、今後30年間に9000億ドルから1兆1000億ドルを投入する計画を打ち出した。日本に対して核兵器開発を要求してきても不思議ではない。
2016.09.22
アメリカの特殊部隊もアメリカ政府のシリア戦略に対する不満を高めているようだ。アメリカの秘密プログラムで訓練されているシリアの戦闘員が「聖戦主義者」だということを皆知っているとグリーン・ベレー(米陸軍の特殊部隊)の隊員は語っているという。 こうしたアメリカの特殊部隊員によると、一般に「テロリスト」と呼ばれている勢力を支援しているのはジョン・ブレナンCIA長官をはじめとするCIAの勢力で、アサド体制を打倒するために「聖戦主義者」を使っている。この「聖戦主義者」の大半はイスラムに関して無知だと言われている。つまり、単なる傭兵だ。歴史的にCIAと特殊部隊は関係が深いのだが、CIAやその黒幕たちは特殊部隊にも愛想を尽かされ始めたのだろう。軍隊内で好戦派に同調しているのは戦争ビジネスと結びついている、あるいは結びつきたいと考えている人びとのようだ。 シリアの要衝、アレッポにあるアル-ライからアメリカの特殊部隊の隊員が「自由シリア軍(FSA)」という衣装をまとったアル・カイダ系武装集団に追い出される場面とされる映像がインターネット上にアップロードされている(例えばココやココ)が、その背景にも特殊部隊のオバマ政権の政策に対する不満が反映されていそうだ。 本ブログでは繰り返し書いていることだが、バラク・オバマ政権はイスラエル政府やサウジアラビアなどと同様、最優先事項をバシャール・アル・アサド政権の打倒におき、その目的を達成するための手先としてサラフ主義者/ワッハーブ派やムスリム同胞団を中心とする武装勢力を育成、支援してきた。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制がNATOとアル・カイダ系武装集団の連携作戦で倒された後、リビア軍の倉庫から武器/兵器が持ち出されてトルコへ運ばれているのだが、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、輸送の拠点になったのはベンガジにあるCIAの施設。つまり武器の輸送はCIAが黒幕だった。運び出された武器/兵器の中に化学兵器も含まれ、これをシリアで使い、政府軍に責任をなすりつけてNATO軍が直接、介入する口実にしようとしたと言われているが、そうした事実をアメリカ国務省は黙認していた。輸送にはマークを消したNATOの輸送機が使われたとも伝えられている。 そして2012年9月11日、ベンガジのアメリカ領事館が襲撃されてクリストファー・スティーブンス大使も殺された。領事館が襲撃される前日、大使は武器輸送の責任者だったCIAの人間と会談、襲撃当日には武器を輸送する海運会社の人間と会っている。 西側の政府やメディアはシリアでの戦闘を独裁政権と民主化を求める人民の戦いだと宣伝、「内乱」と表現していたが、それが間違いだということは2011年3月にシリアで戦闘が始まって間もない段階で指摘されていた。 そうした情報を発信したひとりが東方カトリックの修道院長。2012年5月にホムズで住民が虐殺された直後に現地を調査、住民を殺したのは反シリア政府軍のサラフ主義者や外国人傭兵だとローマ教皇庁系の通信社経由で報告した。 その修道院長によると、「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている。」また、現地で宗教活動を続けてきたキリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムも外国からの干渉が事態を悪化させていると批判していた。 2012年8月にDIA(国防情報局)の作成した文書がシリアにおける反乱の主力をサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)だとし、西側、湾岸諸国、そしてトルコからの支援を受けていると報告していることも本ブログで何度も書いてきた。当然、この報告書はオバマ政権に提出され、そうした事実を知った上で反シリア政府軍への支援を続けてきたのである。 その報告書では、アメリカ政府が方針を変えなければ、シリア東部にサラフ主義の支配地が作られるとDIAは予測していたが、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)という形で現実になった。 アメリカ、あるいはその同盟国とダーイッシュとの関係はアメリカの副大統領が軍の元幹部も指摘している。例えば2014年9月、空軍のトーマス・マッキナニー中将はアメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで発言、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、同年10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語り、2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べている。 そして2015年8月、マイケル・フリン元DIA局長はアル・ジャジーラの番組へ出演した際、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領が行うと指摘している。つまり、オバマ政権の決定がダーイッシュの勢力を拡大させたというわけだ。 9月17日にアメリカ軍が主導する連合軍のF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機はシリア北東部の都市デリゾールで、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)を攻撃していた政府軍の部隊を空爆、当初の発表では62名が殺された。その後でシリア政府軍は死者の数を80名以上としている。アメリカ軍の攻撃はGPSを使っているので、誤爆はありえないとされている。つまり、意図的にシリア政府軍を攻撃したのだ。 しかも、空爆から7分後にダーイッシュの部隊が地上でシリア政府軍に対する攻撃を開始、空と陸で連携していた可能性が高いことが明らかになり、ロシア政府の広報担当官、マリア・ザハロワは「どのように考えても、私たちは恐ろしい結論に到達してしまう。つまり、ホワイトハウスはダーイッシュを守っているのだ。疑いようがない。」と語っている。こうしたことは遥か前から明らかだったが、核戦争の勃発を避けようとしてきたロシア政府もそうしたことを口にする事態になったということだろう。アメリカとの協調を図ってきたウラジミル・プーチン大統領に対する信頼を失わせ、ロシアを不安定化させることが攻撃の目的だと推測する人もいる。 世界を核戦争へ近づける攻撃をアメリカが仕掛けたその日、ニューヨークでは爆破事件が引き起こされて29名以上が負傷する。そしてシリアのアレッポでは19日に国連の車列が攻撃され12名が殺されたと伝えられた。 3年前、シリア政府軍が化学兵器を使ったという偽情報(この件に介しては過去に何度か触れているので、今回は割愛する)を流し、アメリカ主導の軍隊によるシリア攻撃を正当化する宣伝を展開した「人権擁護団体」は今回も登場、ロシア軍とシリア軍が空爆したとする話を流しているのだが、現場の状況は武器を使った攻撃ではなく、放火の可能性が高いことを示しているようだ。 この現場には「偶然」、「白ヘル」が現れた。人道的援助を行っているグループだとされているが、アル・ヌスラによるシリア政府軍兵士の処刑に立ち会うなど胡散臭い存在で、アメリカやイギリスのエージェントだとも言われている。(現在、アメリカ政府はアル・ヌスラ/アル・カイダ系武装集団を仲間として扱っている。) CIAが資金を供給するために利用しているUSAIDを通じ、アメリカの国務省は「白ヘル」に2300万ドル(総額か年額か不明)提供していることを認めている。しかも、シリアで活動している「白ヘル」の責任者ラエド・サレーはアメリカへの入国を拒否されている人物。FBIは彼を「テロリスト」だと認識しているようだ。その「白ヘル」を創設したジェームズ・ル・メジャーには出身国のイギリスだけでなく、日本、デンマーク、オランダの政府が資金を出しているようだ。 有力メディアを支配しているアメリカの好戦派は人びとを騙しきれると考えているかもしれないが、メディアの信頼度が大きく低下、彼らの幻術にはほころびが見える。騙された振りをしていた方が目先の個人的な利益になると考える人も、アメリカが崩壊を始めれば、「自分は騙されていただけだ」と叫び始めるのだろう。
2016.09.21
稲田朋美防衛相は9月15日、CSISで元気に講演した。司会進行はおなじみのマイケル・グリーン。その講演の中で彼女はアメリカ海軍が行っている「航行の自由作戦」への支持を表明、両国は共同で「巡航訓練」などを南シナ海で実行すると語っている。 「航行の自由作戦」に加わるようにも聞こえるが、そうなると日本と中国との関係は決定的に悪化する可能性がある。今年6月後半、中国の程永華駐日大使は南シナ海に関する要求で譲歩したり主権を放棄することは戦争が勃発する事態になってもありえないと日本側に警告したと伝えられている。アメリカの海洋支配を目的とした「航行の自由」作戦に自衛隊の艦船が参加した場合、軍事行動もありえ、そこから全面戦争に発展することもありえるとされているのだが、これを承知の上での発言であり、挑発と言われても仕方がない。 本ブログでは繰り返し指摘しているように、日本と中国との関係を悪化させ、軍事的な緊張を高める引き金を引いたのは日本である。検察とマスコミの力で小沢一郎と鳩山由紀夫は表舞台から引きずり下ろされ、菅直人が首相になって3カ月後の2010年9月、尖閣諸島付近で操業していた中国の漁船を海上保安庁が「日中漁業協定」を無視する形で取り締まったのが始まりだ。この逮捕劇の責任者は国土交通大臣だった前原誠司。田中角栄首相の時代、日中友好を促進するため「棚上げ」にされていた尖閣諸島の問題に火がつけられたのである。 2011年3月11日に東北の太平洋側で巨大地震が起こり、日本と中国の対立は緩和されたかに見えたが、その年の12月に石原慎太郎都知事(当時)の息子、石原伸晃が「ハドソン研究所で講演、尖閣諸島を公的な管理下に置いて自衛隊を常駐させ、軍事予算を大きく増やすと発言、12年4月には石原知事が「ヘリテージ財団」主催のシンポジウムで尖閣諸島の魚釣島、北小島、南児島を東京都が買い取る意向を示して日中対立の流れに戻されてしまった。 中国が推進している「一帯一路」、つまりシルク・ロード経済ベルトと21世紀海のシルク・ロードのうち海のシルク・ロードの始まる場所が南シナ海。「一帯一路」を潰すためにアメリカは南シナ海の軍事的な緊張を高めている。その手先として想定されているのが日本、ベトナム、フィリピンで、そこへ韓国、インド、オーストラリアを結びつけようとしている。 2015年6月1日に開かれた官邸記者クラブのキャップとの懇親会で安倍晋三首相は「安全保障法制」について「南シナ海の中国が相手」だと口にしたというが、その背景にはこうしたアメリカの戦略があるということだ。安倍の盟友、稲田の発言もアメリカ、というよりマイケル・グリーンたち好戦派の戦略に基づいている。 しかし、ここにきてアジアの東岸でもアメリカを公然と批判する国が出て来た。例えば、中国の杭州でG20サミットが開催された際、中国は空港でバラク・オバマ米大統領にタラップや赤い絨毯を用意していない。オバマは航空機に格納されている階段で降り、そのまま自動車で空港を後にしている。勿論、アメリカ以外の国の首脳には用意されていた。 また、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は中国との関係修復を図る一方、オバマ大統領に対し、「自分を何様だと思っているのだ。私はアメリカの操り人形ではない。主権国家の大統領であり、フィリピンの人びとに対してのみ、説明責任がある。」と発言している。 フィリピンの外務大臣は9月15日、CSISで、つまり稲田と同じ日に同じ場所でアメリカに対し、自分たちはいつまでも「ちびで茶色い仲間」であるわけにはいかないと講演後の対談で述べていた。子ども扱いするなということだろう。明らかにフィリピンの現政権は安倍晋三政権より格は上だと言える。追加 日米両国軍と中国軍が軍事衝突した場合、ロシア軍が中国を支援する可能性が高い。本ブログで書いたように、9月12日から8日間にわたり、中露両国は南シナ海で艦隊演習を行っている。タイミングから考えて、稲田発言がこの演習と無関係とは言えないだろう。先日、アメリカ軍はダーイッシュを守るためにシリア軍を攻撃し、100名とも言われる兵士を殺した。ロシアとの軍事的な緊張を一気に高めたわけだが、東アジアでも似たような動きをしている。安倍晋三政権は中露と戦争体制に入りつつあると見なされても仕方がないだろう。
2016.09.20
サウジアラビア国内の不安定化が進んでいるようだ。2014年に390億ドルの財政赤字が生じ、15年には980億ドルへ膨らんだことは本ブログでも伝えたことだが、そうした状況が改善される兆候は見えない。財政赤字を生み出した最大の要因は原油価格の大幅な下落だが、これはアメリカとサウジアラビアがロシアの不安定化を狙って仕掛けたと言われている。ところが、そのダメージはロシアよりアメリカやサウジアラビアの方が遥かに大きかったのだ。 伝えられるところによると、サウジアラビア政府から巨大建設企業へ支払われるべきものが支払われず、兵士や労働者の中には賃金を7カ月の間、受け取っていない人もいるという。この兵士はインド、パキスタン、スリランカの出身者が多く、労働者の大半も出稼ぎ。賃金の支払いが滞れば国際問題になる。 サウジアラビア経済を窮地に陥れているもうひとつの要因は侵略戦争。ネオコン/シオニストの世界を制覇するという戦略を実現するためにアル・カイダ系武装勢力やネオ・ナチが傭兵として利用されているが、その資金源はサウジアラビアをはじめとするペルシャ湾岸産油国。これだけでも負担だが、イエメンでも戦争を始めてしまった。 こうした破滅的な政策を仕切っている人物は、国王の息子で副皇太子のモハンマド・ビン・サルマン。国防大臣も兼任しているため、戦争を引き起こすことは容易だった。 ビン・サルマンはネオコン流の新自由主義に毒され、コンサルタント会社だというマッキンゼーの提案に基づいて「ビジョン2030」を作成している。基本は例によって私有化の促進や弱者の切り捨て。国をヘッジファンド化するつもりのようにも見える。これで経済が再生される見込みは薄く、アメリカのメディアも内部崩壊の可能性を指摘している。 これは新自由主義を導入した国で共通して引き起こされる現象。サウジアラビア王室は富の独占を狙っているのかもしれないが、そうなると権力基盤が崩れる。奴隷制を維持することもできなくなるだろう。国民や出稼ぎの人びとの不満が高まる中、パキスタン出身者の多い兵士が反旗を翻したなら、国を維持することができなくなる。当然、世界の石油取引は大混乱になるだろう。 欧米の巨大資本はサウジアラビアを直接統治するつもりかもしれないが、そう簡単ではない。今のところアル・カイダ系武装勢力やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)へは賃金が支払われているようだが、これが滞るようなことになると戦闘員は盗賊集団と化し、サウジアラビアでも反乱を起こす可能性が高い。 一部の人間が不公正な手段で富を独占、生産活動を放棄したアメリカを生きながらえさせているのは基軸通貨を発行する特権。1971年8月に金との交換を停止して以来、何の裏付けもないドルの評価を維持するため、アメリカの支配層は流通量を調整する仕組みを作り上げた。そのひとつがペトロダラーだ。 つまり、サウジアラビアなどOPEC諸国に石油取引をドル決済だけにさせ、集まったドルでアメリカの財務省証券や高額兵器などを購入させる。その代償としてアメリカは油田地帯や国を軍事的に守り、必要とする武器を売却、おそらく最も重要なことだが、各国の支配者の地位を保障することになった。サウジアラビアとアメリカは1974年に協定を結び、他の国も続いたという。現在、ドルは投機市場が吸収、ハイパーインフレをバブルに擬装させているが、その投機市場もサウジアラビアが資金を回収し始めたなら混乱する。 サウジアラビアが揺らいだなら、この国を支配システムの柱のひとつにしてきたアメリカ支配層も無事では済まない。1月の後半から2月の前半にかけてイスラエルの高官に率いられた代業団が秘密裏にサウジアラビアの首都リアドを訪問、その後にサウジアラビアのアデル・アル・ジュベイル外相がハリド・アル・フマイダン総合情報庁長官を伴ってイスラエルを極秘訪問するなど両国は同盟関係にある。イスラエルにとってもサウジアラビアの状況は懸念材料だろう。言うまでもなく、日本にとっても深刻な事態だ。 こうした危機に備えるための方策を歴代日本政府はとろうとしなかった。その方策とはロシアや中国を含む東アジア諸国との関係強化だ。(日本の「エリート」たちは支配関係しか考えていない)エネルギー源の問題に限っても、ロシアと結びついていれば危機を乗り切ることは遥かに容易だった。それが合理的な政策だが、それを妨害してきたのが「日米同盟幻想」である。おそらく、サウジアラビアとアメリカとの間で結ばれたような関係があるのだろう。
2016.09.19
シリア北東部の都市デリゾールでダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)を攻撃していたシリア政府軍をアメリカ軍が主導する連合軍のF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機が空爆、シリア政府軍の兵士に多くに死傷者が出ている。当初、62名が殺されたとされていたが、その後、シリア政府軍は死者の数を80名と発表している。ロシアは緊急安全保障理事会を開催するよう、国連に対して要求した。アメリカ政府は謝罪したものの、安全保障理事会の開催要求を「扇情的行為」だと非難している。 アメリカがイスラエルやサウジアラビアなどと同様、アル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュを手先の傭兵として使ってきたことは本ブログで何度も指摘してきた。その傭兵を使ってシリアを2011年3月から侵略、昨年9月までは侵略部隊が支配地域を拡大させていたのだが、9月30日にロシア軍がシリア政府の要請を受けて空爆を始めると状況は一変、侵略軍は劣勢になった。 この侵略軍には背後の外国勢力が高性能兵器、例えば携帯型の防空システムMANPADや対戦車ミサイルTOWなどを大量に供給、戦闘員も増派してきた。トルコからシリアの前線へ伸びている兵站線はトルコの情報機関MITが管理、シリアやイラクで盗掘された石油はそのトルコへ運び込まれ、売りさばかれてきた。 しかし、トルコは戦争の長期化で経済が苦境に陥り、アメリカとの関係がここにきて微妙になっている。今年6月下旬にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はロシアのウラジミル・プーチン大統領に対し、昨年11月24日のロシア軍機撃墜を謝罪、7月13日にはトルコの首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆した。 その2日後、トルコでは武装蜂起があり、エルドアン政権はアメリカ政府を非難する。シリア侵略でも拠点として使われているトルコのインシルリク基地はクーデター未遂後、約7000名の武装警官隊に取り囲まれ、基地の司令官が拘束されたと伝えられている。7月31日にはアメリカのジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長が急遽、トルコを訪問していた。 トルコを失うことを恐れたのか、アメリカはそれまで連携していたクルド人を裏切り、トルコ軍を支援してクルド人部隊への攻撃に参加している。ダーイッシュに対する攻撃だとトルコ側は主張しているが、これは嘘のようだ。 2013年2月から15年2月にかけて国防長官を務めたチャック・ヘイゲル、2011年10月から15年9月まで統合参謀本部議長を務めたマーティン・デンプシー大将、12年7月から14年8月までDIA(国防情報局)の局長を務めたマイケル・フリン中将のようにアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ、つまりワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団を中心とする戦闘集団を危険視する人びともいたが、現在のアシュトン・カーター国防長官やジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長はシリアのバシャール・アル・アサド体制の打倒を最優先事項とする人びと。 デンプシーがシリア政府と秘密裏に情報を交換していた当時、2013年9月に駐米イスラエル大使だったマイケル・オーレンはシリアのアサド体制よりアル・カイダの方がましだと公言している。このオーレンはベンヤミン・ネタニヤフ首相の側近で、この発言はイスラエル政府の立場を代弁したものだと考えられている。そのイスラエルと同様、アメリカのネオコン/シオニスト、あるいはサウジアラビアもアサド打倒を最優先にしている。アメリカの大統領候補のうち、ヒラリー・クリントンはその仲間である 今回の攻撃はロシア政府とアメリカ政府がシリアにおける停戦協議を続ける中で引き起こされた。こうした動きを壊したいと考えている勢力がアメリカ政府内にいることは確かで、そうした思惑があるのだろう。 多くのシリア政府軍兵士が殺されたことから、シリア国内だけでなく、ロシアでも対米強硬論が強まる可能性があるが、これはアメリカの好戦派が望んでいることだろう。彼らは外交でなく軍事的に決着をつけたがっている。アメリカ大統領選の投票日までの期間、軍事的な緊張が高まる可能性がある。追加 アメリカ軍主導の連合軍がシリア政府軍を空爆した7分後、ダーイッシュの部隊が地上でシリア政府軍に対する攻撃を開始、空と陸で連携していた可能性が高いことが明らかになった。リビアではNATO軍の空爆と地上のアル・カイダ系戦闘部隊が連携していたが、ロシアとアメリカとの直接的な軍事衝突を覚悟の上で、シリアでも同じ戦法を強行し始めたのかもしれない。追加2 ロシア政府の広報担当官、マリア・ザハロワはアメリカ軍主導の連合国軍によるシリア政府軍空爆について、「どのように考えても、私たちは恐ろしい結論に到達してしまう。つまり、ホワイトハウスはダーイッシュを守っているのだ。疑いようがない。」と語った。 アメリカ政府がダーイッシュを作り上げる上で重要な役割を果たしたことはマイケル・フリン元DIA局長が2015年にアル・ジャジーラの番組で語っている。危険性をDIAが警告、それを承知で反シリア政府軍を支援、DIAの懸念したとおりの展開になったのだ。フリン以外にもアル・カイダ系武装勢力やそこから派生したダーイッシュを生み出したのはアメリカやその同盟国だとアメリカ軍の元幹部や副大統領なども指摘している。 アル・カイダ系武装集団がアメリカの好戦派が手先の傭兵として使っていることは以前から知られている話で、ダーイッシュについても同様。これまでロシア政府はアメリカとの関係悪化を避ける目的で口にしなかったのだが、今回の出来事で踏ん切りがついたのだろう。追加3 デリゾールにおけるシリア政府軍に対する攻撃にオーストラリア軍とイギリス軍が参加していたことが明らかにされた。攻撃の直前、ダーイッシュに対する攻撃に備えて現地にはシリア政府軍の精鋭部隊が到着していたという。そうした動きを止めるためにアメリカ軍は攻撃したと見られている。
2016.09.18
シリアの要衝、アレッポで戦闘が続いている。そのアレッポにあるアル-ライからアメリカの特殊部隊の隊員5ないし6名が「自由シリア軍(FSA)」に追い出される場面とされる映像がインターネット上にアップロードされている。(例えばココやココ) シリアを侵略してバシャール・アル・アサド政権を倒すため、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアの3国同盟を中心とする勢力が軍事介入したのは2011年3月のこと。「独裁者に対する虐げられた民の武装蜂起」に伴う「内戦」というシナリオを西側の政府やメディアは宣伝、その「反乱軍」は「自由シリア軍(FSA)」というタグが付けられた。 このFSAに参加している戦闘員の大半は外国の侵略勢力に雇われた人びとで、シリア人は少ないと言われていた。侵略戦争が始まった直後からアメリカ/NATOはトルコにある米空軍インシルリク基地で反シリア政府軍を編成、戦闘員を訓練し、武器/兵器を提供している。教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員が務め、侵略軍への兵站線はトルコの軍隊や情報機関MITが守ってきた。 戦闘員の中心はサウジアラビアなどペルシャ湾岸産油国が雇ったワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団で、「アル・カイダ系」と呼ぶべき集団だと言われていた。アメリカ軍の情報機関も味方は同じで、2012年8月にDIA(国防情報局)が作成した文書によると、サラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)がシリアにおける反乱の主力であり、西側、湾岸諸国、そしてトルコが支援しているとも書いている。 こうした構図はシリアで戦闘が始まった直後から同じで、民衆の蜂起、シリア政府軍による虐殺、化学兵器の使用などはアサド体制の打倒を正当化するため、侵略勢力が流した偽情報だということを本ブログでは繰り返し、書いてきた。リビアと同じように「飛行禁止空域」を設定するという口実でNATO軍による空爆を実施、地上の傭兵部隊と連携してアサド体制を倒すつもりだったようだが、その途中で偽情報が露見、ロシアの抵抗もあって侵略勢力の思惑通りには進まなかった。 2012年の報告書が作成された当時のDIA局長、マイケル・フリン中将が退役後の2015年8月にアル・ジャジーラの番組へ出演した際、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領が行うと指摘している。つまり、オバマ政権の決定がダーイッシュの勢力を拡大させたというわけだ。アル・ジャジーラはシリア侵略に荷担しているカタールの放送局。フリンを言いこめて報告書の信頼度を低めようとしたのかもしれないが、そうした展開にはならなかった。 シリア侵略ではトルコが重要な役割を演じてきた。侵略の拠点を提供、シリアの戦線へ物資を運ぶ兵站線の出発点でもある。トルコが拠点の提供を止め、兵站線が断たれたならば、シリアで戦闘を続けることは困難になってしまう。 トルコはNATOの一員であり、アメリカやイスラエルとも友好的な関係を築いてきた。1980年代からネオコン/シオニストがイラクのサダム・フセイン体制を倒すべきだと主張、イラクのクウェート侵攻を受けて実施された1991年1月の湾岸戦争でアメリカ政府がフセインを排除せずに停戦したことに怒り、ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官によると、ネオコンの中核グループの属しているポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はイラク、シリア、イランを5年から10年で殲滅すると口にしていたという。 イラクに傀儡政権を樹立できれば、ヨルダン、イラク、トルコの「親イスラエル国帯」ができあがり、シリアとイランを分断することができるとネオコンやイスラエルは考えていたようだ。つまり、トルコは「親イスラエル国」だと考えられていた。 一方、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン体制が最も重視しているのはクルド人の殲滅。シリアでの戦闘が長引き、経済的な関係の深かったシリアやロシアとの関係が悪化して厳しい状況に陥る中、エルドアン大統領は6月下旬にロシアのウラジミル・プーチン大統領に対してロシア軍機の撃墜を謝罪し、7月13日にはトルコの首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆している。 内部告発支援グループのWikiLeaksによると、エルドアン大統領がロシア軍機の撃墜を決めたのは10月10日で、トルコ軍のF-16戦闘機が待ち伏せ攻撃でロシア軍のSu-24爆撃機を撃墜したのは昨年11月24日。(詳細は割愛する。)トルコのアンカラではトルコ軍幹部とポール・セルバ米統合参謀本部副議長が11月24日から25日にかけて会談しているので、ロシア軍機撃墜の黒幕はアメリカの好戦派だったことを疑わせる。この推測が正しいなら、トルコはそうした内幕を説明したことだろう。 7月15日にトルコでは武装蜂起があったが、すぐに鎮圧されてしまう。クーデター未遂後、インシルリク基地を約7000名の武装警官隊が取り囲み、基地の司令官が拘束されたとも伝えられている。この基地の主な利用者はアメリカ空軍とトルコ空軍で、イギリス空軍やサウジアラビア空軍も使っているとされている。 この武装蜂起の真相は不明だが、アメリカを黒幕とするトルコ軍の協力者が実行した可能性が高いと見られている。7月31日にはアメリカのジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長がトルコを訪問、8月24日にはジョー・バイデン副大統領がトルコへ派遣されている。副大統領がトルコへ到着する数時間前、トルコ政府は特殊部隊を含む戦車部隊をシリアへ侵攻させたが、その際にアメリカ軍が主導する連合軍が空爆で支援したという。 この攻撃でターゲットになったのはアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISLIとも表記)ではなく、クルド人部隊だったと言われている。それまでアメリカ軍はクルド人部隊を支援していたのだが、状況が変わってアメリカ政府はクルド人を裏切ったと見られている。 ロシアとアメリカとの停戦で空爆の恐れが減少する中、アル-ライでアメリカの解く主部隊員が追い出された一因はアメリカとクルド人との関係が影響している可能性がある。勿論、「自由シリア軍(FSA)」という名称に大きな意味はない。どのようなタグが付けられていようと、その実態はワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団を中心とする傭兵集団だが、信仰が厚いわけではない。イスラムやコーランについての知識がない戦闘員も少なくない言われている。 傭兵が忠誠を誓っている対象は信念でも理想でもなくカネだが、アメリカ支配層も傭兵や「同盟者」を仲間だとは考えていない。アメリカも目的はカネだ。クルド人はアメリカを信頼していたようだが、その幻想が自らを窮地へ追い込むことになった。そのアメリカが送り込んだ特殊部隊員を傭兵が追い出したのは興味深い。
2016.09.17
コリン・パウエル元国務長官と多額の政治献金をしているジェフリー・リードとの間で遣り取りされた電子メールをDCLeaksが公表しているが、ここにきてイスラエルが保有する核弾頭の数に関する記述が話題になっている。 その電子メールでは、アメリカのネオコン/シオニストやイスラエル、あるいは西側メディアが声高に脅威を強調していたイランの核兵器開発について、パウエルは否定的な見解を示している。もし、核弾頭をひとつ持ったとしても、使うことはできないとしているのだ。なぜなら、イスラエルは200発の核弾頭を保有、アメリカは数千発を持っていることをイランは知っているからだとしている。 イスラエルの核兵器開発に対して「国際社会」、つまりアメリカ支配層は寛容な姿勢を示し、実態は明らかにされてこなかった。そうした秘密の壁を破ったのは1977年から8年間、技術者としてイスラエルの核施設で働いた経験のあるモルデカイ・バヌヌだ。その経験に基づいて86年10月に同国の核兵器開発をイギリスのサンデー・タイムズ紙で内部告発している。 彼は原爆用のプルトニウム製造を担当、その生産ペースから計算すると、イスラエルは150から200発の原爆を保有していることが推定されるとしていた。そのほか水爆に必要な物質、リチウム6やトリチウム(三重水素)の製造も彼は担当、別の建物にあった水爆の写真を撮影したという。イスラエルは中性子爆弾の製造も始めていたとしている。 イスラエル軍情報局のERDに所属した経験があり、イツハーク・シャミール首相の特別情報顧問を務めたこともあるアリ・ベン・メナシェもイスラエルは水爆を保有していると語っている。彼によると、1981年頃にイスラエルはインド洋で水素爆弾の実験を実施、その時点で同国が実戦配備していた原爆の数は300発以上だったという。イスラエルが保有する核弾頭の数は400発だとする推測もあった。 ところで、イスラエルの核兵器開発は1952年に始まったと言われている。この年にIAEC(イスラエル原子力委員会)が国防省の下に設置され、イスラエルにおける核兵器開発の父とも言われる核科学者のエルンスト・ダビッド・ベルクマンが初代の委員長に選ばれている。 核兵器の開発に必要な資金は欧米の富豪から提供されていたようだ。例えば、アメリカのエイブ・フェインバーグやフランスのエドムンド・ド・ロスチャイルド。フェインバーグはベングリオンの信頼厚い人物で、資金を提供するだけでなく、ロビー活動を展開、ハリー・トルーマン米大統領のスポンサーとしても知られている。 エドムンド・ド・ロスチャイルドが存在しているためなのか、フランスの少なからぬ著名な科学者は技術面からイスラエルの核兵器開発に協力していた。そのひとりがベルトランド・ゴールドシュミット。この人物はライオネル・ネイサン・ド・ロスチャイルド(イギリスのロスチャイルド家)の娘と結婚している。核兵器の開発ではフランシス・ペリンも重要な役割を果たした。ペリンはCEA(原子力代替エネルギー委員会)で1951年から70年まで委員長を務めている。 1956年にはシモン・ペレスがフランスでシャルル・ド・ゴールと会談し、フランスは24メガワットの原子炉を提供することになり、1957年にはフランスからイスラエルへ技術者が送り込まれている。核兵器の開発には重水が必要だったが、この重水をイスラエルはノルウェーからイギリス経由で秘密裏に入手する。 1958年になるとアメリカの情報機関はイスラエルが核兵器を開発している可能性が高いことを察知、CIAの偵察機U2がネゲブ砂漠のディモナ近くで何らかの大規模な施設を建設している様子を撮影、それは秘密の原子炉ではないかという疑惑を持っている。 そこで、CIA画像情報本部の責任者だったアーサー・ランダールはドワイト・アイゼンハワー大統領に対してディモナ周辺の詳細な調査を行うように求めたのだが、それ以上の調査が実行されることはなかった。 1960年3月にコンラッド・アデナウアー独首相はニューヨークでベングリオン首相と会い、核兵器を開発するため、61年から10年間に合計5億マルク(後に20億マルク以上)を融資することを決めた。後にドイツは核ミサイルを搭載できるドルフィン型潜水艦をイスラエルへ提供することになる。 アイゼンハワーの次に大統領となったジョン・F・ケネディはイスラエルのダビッド・ベングリオン首相と後任のレビ・エシュコル首相に対し、半年ごとの査察を要求する手紙を送りつけ、核兵器開発疑惑が解消されない場合、アメリカ政府のイスラエル支援は危機的な状況になると警告している。(John J. Mearsheimer & Stephen M. Walt, “The Israel Lobby”, Farrar, Straus And Giroux, 2007)そのケネディ大統領は1963年11月22日にテキサス州ダラスで暗殺され、この警告は実行されていない。
2016.09.17
東京都中央卸売市場を築地から移転させる先の豊洲が大きな問題を抱えていることは当初から指摘されていた。ベンゼン、シアン化合物、ヒ素を含む有害物質に汚染され、ベンゼンの場合、2008年当時、環境基準の最大4万3000倍に達していた。しかも床の耐荷重が弱く、仲卸店舗の1区画の間口が狭くてマグロ包丁が使えないうえ、交通アクセスが貧弱で円滑な輸送は望めそうにないといったことが指摘されている。汚染対策として盛り土をすることになっていたのだが、実際はコンクリートで囲まれた空間になっていたことが明らかにされ、移転を予定通りに行うことは不可能だろう。 盛り土するべきだと2008年5月19日に決定したのは専門家会議。その決定から11日後に石原慎太郎知事(当時)は定例会見で、「海洋工学の専門家がインターネットで『もっと違う発想でものを考えたらどうだ』と述べていると紹介。土を全部さらった後、地下にコンクリートの箱を埋め込み『その上に市場としてのインフラを支える』との工法があると『担当の局長に言った』と説明していた。」 市場を築地から豊洲へ移転させると石原が強引に決めたのは2001年と言われているのだが、この年、臨海副都心開発の赤字を誤魔化すために「臨海副都心事業会計」を黒字の「埋立事業会計」や「羽田沖埋立事業会計」と統合、帳簿の上で赤字と借金の一部を帳消しにするという詐欺的なことを東京都は行っている。勿論、地方債と金利負担がなくなるわけではない。築地の土地を叩き売っても問題は解決できそうにない。 都の財政にとって大きな負担になっている臨海副都心開発は鈴木俊一知事の置き土産である。1979年に初当選した鈴木は巨大企業が求める政策を打ち出し、新宿へ都庁を移転させて巨大庁舎を建設したほか、江戸東京博物館や東京芸術劇場も作り、臨海副都心開発の検討を開始、1989年には臨海副都心で建設を始めている。 ちなみに、この臨海副都心に含まれる台場エリアにカジノを建設しようと目論んでいる人物がいる。イランを核攻撃で脅すべきだと2013年に主張していたシェルドン・アデルソンだ。日本にもカジノを合法化したいと考える人びとが昔からいて、2010年4月には超党派でカジノ議連(国際観光産業振興議員連盟/IR議連)が設立された。 アデルソンは日本でカジノ・ビジネスを展開するため、2013年11月にIS議連の細田博之会長にプレゼンテーションを行い、東京の台場エリアで複合リゾート施設を作るという構想の模型を披露しながらスライドを使って説明、自民党などは、カジノ解禁を含めた特定複合観光施設(IR)を整備するための法案を国会に提出した。「順調に手続きが進めば、カジノ第1号は2020年の東京オリンピックに間に合うタイミングで実現する可能性がある。」とも言われた。 そして2014年2月にアデルソンは来日、日本へ100億ドルを投資したいと語る。世界第2位のカジノ市場になると期待、事務所を開設するというのだ。そして5月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は日本政府高官に対し、アデルソンへカジノのライセンスを速やかに出すよう求めたとイスラエルのハーレツ紙が今年2月5日付け紙面で伝えている。臨海副都心にはネオコンやイスラエルも食い込もうとしている。 中央卸売市場の移転問題で中心的な役割を果たしたのは石原だが、問題を知りながら黙認していた都庁の役人や都議会の議員、そしてマスコミも責任を免れない。今回、この件を問題にした小池百合子も東京を地盤とする自民党の有力議員だったわけで、彼女を「正義の味方」として扱うべきではない。 関係者は豊洲が危険だと思っても私的な利益を優先して推進したわけだが、原発や日米軍事同盟でも日本の「エリート」たちは高を括り、同じようなことをしている。原発の場合、東電福島第一原発が2011年3月11日に大事故を起こし、今でも環境を汚染し続けている。 今年7月、同原発の2号機の原子炉圧力容器内を「ミュー粒子」を使って東電は調査、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の大部分が圧力容器の底に残っているとみられるとする報道があった。原子炉底部に存在する物質の総量は推計で200トン前後と判明したという。1号機と3号機は確認できなかった、つまり地中に潜り込み、地下水がそれを冷却している状態。チャイナ・シンドローム状態になっているということだろう。 そのデブリを回収することは至難の業。イギリスのタイムズ紙は廃炉までに200年という数字を出しているが、数百年はかかると見るのが常識的だ。その間のコストは膨大で、リスクは高い。今後、健康、環境への影響も顕在化し、人類の存続が問題になることも考えられる。 事故の引き金になった地震は11日の14時46分に発生、全電源喪失になり、メルトダウン、翌12日の15時36分に1号機で爆発、14日11時1分には3号機で爆発、15日6時10分に2号機で「異音」、そして6時14分に4号機の建屋で大きな爆発音があったという。状況から判断すると、最も損傷が激しかったのは3号機、次いで1号機。2号機は比較的、損傷は少なかったように推測できる。その2号機でさえ、核燃料の大半が原子炉の底部へ落下していたということだ。 原発の元技術者であるアーニー・ガンダーセンによると、福島のケースでは燃料棒を溶かすほどの高温になっていたわけで、原子炉が健全な状態ならば99%の放射性物質を除去することになっている圧力抑制室(トーラス)の水は沸騰状態で、ほとんどの放射性物質が外へ放出されたはずだと指摘する。(アーニー・ガンダーセン著『福島第一原発』集英社新書) また、水が存在したとしても、解けた燃料棒や機械が気体と一緒に噴出、水は吹き飛ばされていたとも推測でき、圧力容器内の放射性物質はダイレクトに放出された可能性が高い。ガンダーセンは、少なくともチェルノブイリ原発事故で漏洩した量の2〜5倍の放射性物質を福島第一原発は放出したのではないかとしているが、10倍と考えることもできる。こうした状況であるにもかかわらず、安倍晋三首相は「アンダー・コントロール」と主張したわけだ。 ところで、この地震が起こる3日前、つまり2011年3月8日付けのインディペンデント紙に掲載された記事の中で、石原慎太郎は日本が「1年以内に核兵器を開発することができる」と主張、外交力とは核兵器なのだと語っている。彼によると核兵器を日本が持っていれば中国は尖閣諸島に手を出せないだろうという。脅せば屈すというネオコン的な発想。2012年4月に石原は「東京都が尖閣諸島を購入することにした」と発言、日本と中国との関係悪化を加速させている。 中央卸売市場の移転で問題を引き起こし、東京の財政悪化を促進しただけでなく、日本と中国との関係を壊して軍事的な緊張を高め、日本経済に大きなダメージを与えたのが石原。その石原を大半の都議会議員、役人、そしてマスコミは長い間支えてきたということを忘れてはならない。東京の有権者も、そうした人物を支持してきた責任がある。
2016.09.16
9/11の記念式典に出席した後、自力で立つことができなくなったヒラリー・クリントンの様子を撮影した映像がインターネット上に流れている(例えばココやココ)が、民主党の周辺からは候補者をジョー・バイデン副大統領かジョン・ケリー国務長官に替えるべきではないかという話が出てきた。ただ、バーニー・サンダースという名前は挙がっていないようだ。 国務長官時代にヒラリーがハッキングされた電子メールが外に漏れだした頃、バイデンを大統領選に参加させようという話はあったので、そうした案が再浮上したということになる。事実上、機密情報の取り扱いに関する法規違反の疑惑はFBIが捜査を拒否して起訴しないと判断した。ハッキングされた電子メールの中には、武器や戦闘員をリビアからシリアへ運ぶという秘密工作に関係するものもある。 彼女は3万2000件近い電子メールを削除し、それによって証拠がなくなったことがFBIが起訴しない理由のひとつに挙げられていたが、全ての電子メールはNSAが記録しているので、FBIがその気になれば入手できるとNSAの不正を内部告発したウィリアム・ビニーは指摘する。クリントンが何をしたかに関係なく、FBIは彼女を起訴する意思はないということになる。 その後もハッキングされた電子メールの公表は続き、民主党の幹部はロシアを非難しているのだが、例によって根拠、証拠が提示されているわけではない。神経病理学者として有名なベネット・オマルはヒラリー・クリントンの血液を検査するべきだとtwitterに書き込んだが、これもそうした宣伝活動の一環で、ロシア攻撃の布石かもしれない。 オマルはNFL(全米フットボール連盟)に所属していた元プレーヤーのスポーツ事故保障問題の裁判で有名になった。この人物をモデルにしたとされる映画「コンカッション」(脳震盪)がウィル・スミス主演で制作され、日本でも10月に公開される予定だという。 ハッキングされた電子メールの公表に関し、NSAからリークされている可能性が指摘されていたが、民主党の内部ということも考えられる。昨年3月にコリン・パウエル元国務長官と多額の政治献金をしているジェフリー・リードがヒラリー・クリントンの健康状態を懸念する内容の遣り取りをしている電子メールが表に出てきた。今とは違うだろうが、心配するような状態ではあったようだ。そうした健康状態を懸念、候補者を交代させたいと考える人が民主党の内部にいても不思議ではない。
2016.09.15
ヒラリー・クリントンは1990年代、夫のビルが大統領だった時代に政権を戦争へと向かわせる上で重要な役割を果たしていた。そのヒラリーが大統領になった場合、好戦的な政策を打ち出して核戦争の危機が高まると予想されている。彼女は非常に危険な人物だということだが、今年に入って健康状態に問題があると言われるようになり、その病状が深刻化しているように見える。もし彼女が大統領に選ばれたならアメリカは不安定化しそうなのだが、ここにきて大統領選を戦い続けられないのではないかという見方も出てきた。 これまでアメリカの有力メディアはヒラリーの宣伝機関に徹してきたが、ここにきて健康問題にも触れるようになっている。9/11の記念式典に出席していたヒラリー・クリントンが引き揚げる途中、自力で立つことができなくなり、左右から支えられてワゴン車へ運び込まれる様子を撮影した映像(例えばココやココ)が流れていることは決定的だ。 8月8日にリークされたヒラリー・クリントンの2014年の医療記録のコピーとされる書類には、彼女が初期の皮質下血管性認知症だと書かれていたという。ヒラリー陣営は偽物だとしているが、以前から彼女が咳き込み、バランスを崩すことは話題になっていた。 今回はバランスを崩すというようなものではなく、立っていることができない状態だった。暑さで熱中症になったという話も流されたが、この日は過ごしやすい天候で、説得力はない。肺炎という説明も、これまでの経緯を考えると首を傾げざるをえない。 そうした中、1991年から2003年にかけてシークレット・サービスのエージェントとしてヒラリー・クリントンを護衛していた人物が違った見方を明らかにしている。血栓症ではないかというのだ。原因が何であれ、本来ならすぐに病院へ連れて行くはずだが、娘のアパートへ運ばれたという。これについて、ヒラリーの個人的な医療専門家に治療させることが目的だったのではないかと推測している。 ヒラリー自身のためにも選挙キャンペーンを中止、バーニー・サンダースを民主党の候補者にすべきなのだろうが、アメリカの支配層はあらゆる手段を使ってサンダースから候補者切符を奪ったわけで、そうした事態は避けたいだろう。何とか投票日までたどり着かせ、大統領に当選させ、後は副大統領に任せるということを考えているのではないだろうか。 1901年9月にウィリアム・マッキンリー大統領が暗殺されたことを受けて副大統領から大統領へ昇格したシオドア・ルーズベルト(棍棒外交)、45年4月にフランクリン・ルーズベルト大統領が執務室で急死したことを受けて副大統領から昇格したハリー・トルーマン(原爆投下)、63年11月にジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたことを受けて副大統領から昇格したリンドン・ジョンソン(ベトナムへの本格的軍事介入)、74年8月にウォーターゲート事件でリチャード・ニクソン大統領が失脚した後に継いだジェラルド・フォード(ネオコンの台頭とデタント派の粛清)といった例もある。【追加】 CBSニューズのチャーリー・ローズに対してビル・クリントンはヒラリーの病状について語っている。自力で立てなくなるという症状について、「しばしば、いや、しばしばではなく、ほとんどないのですが、何年もの間には一度ならず、ひどい脱水症の時は似たようなことが起こった」と語ったのだが、放送では「しばしば」という表現が削除されていた(放送された映像)と話題になっている。CBSは時間の都合だと弁明しているようだ。
2016.09.14
中国とロシアは9月12日から8日間にわたり、南シナ海で艦隊演習を始めたようだ。その内容は防空、艦船の救援、対潜水艦戦、島への上陸作戦などで、18隻の艦船(ロシアから5隻)と21機の航空機が参加するという。南シナ海で戦争が始まったなら、ロシア軍は「集団的自衛権」を行使して中国軍と一緒に戦うという意思表示だろう。当然、戦争の相手はアメリカと日本が想定されているはずだ。 昨年6月1日に安倍晋三首相は官邸記者クラブのキャップと懇親した際、「安全保障法制」、いわゆる戦争法制は「南シナ海の中国が相手」だと口にしたという。この話は週刊現代のサイトで取り上げられ、国外でも問題になった。そして今年6月後半、中国の程永華駐日大使は南シナ海に関する要求で譲歩したり主権を放棄することは戦争が勃発する事態になってもありえないと日本側に警告していたと伝えられている。 この海域では資源支配をめぐってアメリカ資本と中国とが対立している。例えば、エクソン・モービルが中国の警告を無視して掘削を強行、それに対して中国は2014年5月2日に石油掘削装置「海洋石油981」を南シナ海のパラセル諸島に持ち込んでいる。 そうした資源争いだけでなく、海上輸送路の問題もある。何度も書いているように、中国は「一帯一路(シルク・ロード経済ベルトと21世紀海のシルク・ロード)」という交易ルートの構築を計画、その海上ルートが始まる場所が南シナ海である。 中国の計画が実現した場合、世界経済の主導権をアメリカは奪われてしまうため、どうしても潰したい。そこで、アメリカは海上ルートの出発点である南シナ海を支配し、陸上ルートが通過する中央アジアをアル・カイダ系武装集団などを使って不安定化させようと目論んでいると見られている。 南シナ海でアメリカは「東アジア版NATO」を創設、その中核として日本、ベトナム、フィリピンを考え、そこへ韓国、インド、オーストラリアを結びつけようとしている。7月8日には韓国へTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムを配備することが決まったが、これもその一環。「防衛」という文字が含まれているが、このシステムは攻撃用へすぐに変更できる。 アメリカ側の戦略は今年6月に揺らぎ始める。フィリピン大統領がアメリカの傀儡と言われたベニグノ・アキノ3世から自立派のロドリゴ・ドゥテルテへ交代したのだ。新大統領は先日、バラク・オバマ大統領に対して「あの野郎(son of a bitch)」という表現を使っている。オバマの両親が東南アジアで行ったことをドゥテルテが知っていることも、そうした発言の背景にあると言われている。その一方、ドゥテルテ政権は中国との交渉を進め、中国はフィリピンのインフラを整備するために多額の投資を提案しているという。 中国の杭州でG20サミットが開催された際、空港でオバマ大統領にはタラップが用意されず、赤い絨毯も敷かれていなかったことは本ブログでも紹介した。中国政府のアメリカ政府に対するメッセージではあるが、それだけでなく、世界に対してそうした中国の姿勢を見せるという意味もあっただろう。「脅せば屈する」というネオコン/シオニスト流の戦術は機能しないという警告にも見える。 本来なら、ネオコンのような好戦派の動きを日本政府は諫めねばならないのだが、同調どころかエスカレートさせるようなことをしてきた。正気とは思えない。
2016.09.13
9/11の記念式典に出席していたヒラリー・クリントンが引き揚げる途中、自力で立つことができなくなった。彼女は左右から支えられてワゴン車へ運び込まれ、その様子を撮影した映像がインターネット上にアップロードされている。(例えばココやココ)肺炎が原因で、抗生物質が処方されたと発表されているが、疑問を持つ人は少なくないようだ。 クリントンがひどい咳をしていると言われるようになったのは今年1月からで、その原因が肺炎だとするならば、これまで治療してこなかったのは不自然。今回の症状と咳が別だとするならば、咳の理由は何かという疑問が残る。彼女はバランスを崩すようにもなっていた。8月8日にリークされた彼女の2014年における医療記録のコピーとされる書類には、初期の皮質下血管性認知症と書かれていた。クリントン陣営はその医療記録を偽物だとしているが、真偽は不明のままである。
2016.09.12
1990年代、ボリス・エリツィンが大統領だった時代のロシアで政権の中枢と手を組んで国民の富を略奪、巨万の富を築いて「オリガルヒ」と呼ばれるようになった一団が存在する。その象徴的な人物だったボリス・ベレゾフスキー(亡命後に「プラトン・エレーニン」へ改名)は2013年3月23日にイギリスで死亡する。ロシアへ戻る動きを見せた直後のことだった。ベレゾフスキーの背景にはチェチェンの戦闘集団や犯罪組織が存在した。 そのベレゾフスキーに焦点を当て、エリツィン政権の腐敗を明らかにしたアメリカのジャーナリスト、ポール・クレイブニコフは2004年7月にモスクワで射殺されている。「全ての悪事はウラジミル・プーチンの為せる業」だと唱える人もいるが、暗殺の背後にベレゾフスキーがいたのではないかと疑う人も少なくない。(Paul Klebnikov, "Godfather of the Kremlin", Harcourt, 2000) ベレゾフスキーの下で働いていたアレクサンドル・リトビネンコは2006年11月に放射性物質のポロニウム210で毒殺されたとされているが、このリトビネンコもロシアへ帰国する動きを見せた直後の死だった。ポロニウム210は放射性物質であり、明白な痕跡を残す。何十年も前から痕跡を残さないで人を殺せる薬物は開発されていると言われているので、ポロニウム210を使ったというのは不自然。殺害には別の毒物が使われ、ポロニウム210は追跡させるために利用されたのではないかというのだ。 その死について、兄弟のマキシム・リトビネンコはアメリカ、イスラエル、イギリスの情報機関に殺された可能性があると主張している。死の数週間前、ロシアの石油会社ユーコスの元幹部レオニド・ネフツーリンと会うためにイスラエルを訪れていていたことも知られている。 リトビネンコの体調が悪くなった日、ロンドンの「寿司バー」で彼と会っていたというのがイタリア人のマリオ・スカラメッラ。事件後、イタリアで逮捕されているが、この人物はイタリアのカンパニア州を拠点としていて、ECCP(環境犯罪防止プログラム)という組織を運営、その一方でナポリの犯罪組織、カモッラともつながっていた。 それだけでなく、スカラメッラはイタリアの情報機関とも緊密な関係にある。2002年5月にはローマの近くで開かれた秘密会議に出席しているのだが、同席者の中には情報大臣だったフランコ・フラティニ、SISDE(治安機関)のマリオ・モッリ長官、SISMI(対外情報機関)のニッコロ・ポッラーリ長官、ルイジ・ラムポーニ元SISMI長官も含まれていた。 ポッラーリ長官はその後、CIAによる拉致事件に絡んで解任されるのだが、この拉致にはスカラメッラも協力していたと言われている。スカラメッラとつながっていたロバート・セルドン・レディはCIAのミラノ支局長だと噂されている人物だ。 ところで、9月7日付けのサン紙はイギリスの情報機関が殺害したとする主張を紹介、その理由として挙げられているのはエジンバラ公(フィリップ・マウントバッテン)の「ポルノ写真」。1950年代に彼の友人が「木曜クラブ」で撮影したもので、イギリスの当局へ提出ずみだったという。ベレゾフスキーは自身の悪事が明らかにされることを防ぎたかったというのだが、王室サイドはそうした話が漏れることを恐れ、情報機関が動いたという説である。真偽は不明だが、説得力に欠ける印象は否めない。 ベレゾフスキーはエリツィンと親しかったが、西側では「メディア王」とも呼ばれるルパート・マードック、1980年代に「ジャンク・ボンド」を売りまくってウォール街の敵対的買収を下支えしたマイケル・ミルケン、ジョージ・W・ブッシュの弟でS&L(アメリカの住宅金融)スキャンダルで名前が出てきたニール・ブッシュ、ジェイコブ・ロスチャイルド卿、その息子のナサニエル(ナット)・ロスチャイルドらと親しくしていた。 エリツィン時代からロシアで西側勢力とつながり、富の略奪を続けているグループの中心人物はエリツィンの娘であるタチアナ。飲んだくれで心臓病を抱える父親に代わり、クレムリン内外の腐敗勢力と手を組んでロシアを食い物にしていた。1996年に父親のボリスはタチアナを個人的な顧問に据えている。彼女は2000年、ウラジミル・プーチンから解雇された。 ウラル・エネルギーのCEOだったアレクセイ・ドゥヤチェンコと離婚したタチアナは2001年、エリツィンの側近で広報担当だったバレンチン・ユマシェフと再婚した。その娘であるポリナ・ユマシェバと結婚したオレグ・デリパスカはロシアのアルミニウム産業に君臨するイスラエル系オリガルヒで、ナット・ロスチャイルドから「アドバス」を受ける一方、ロスチャイルド系の情報会社ディリジェンスの助けで世界銀行から融資を受け、政治面でも西側との関係を強めている。 タチアナの利権仲間に属すひとり、アナトリー・チュバイスは1992年11月にエリツィンが経済政策の中心に据えた人物で、HIID(国際開発ハーバード研究所)なる研究所と連携していた。ここはCIAとの関係が深いUSAIDから資金を得ていた。言うまでもなく、USAIDはCIAが資金を流す際に使う機関だ。(Natylie Baldwin & Kermit Heartsong, “Ukraine,” Next Revelation Press, 2015) エリツィン時代の経済政策はジェフリー・サックスを含むシカゴ派の顧問団が作成、今でも影響力を保持している。基本的に新自由主義に基づく政策を推進、西側巨大資本がロシアを揺さぶるための手先でもある。中央銀行総裁エリヴィラ・ナビウリナ、経済開発大臣アレクセイ・ウリュカエフや、新旧財務大臣のアントン・シルアノフとアレクセイ・クドリンもその仲間だ。こうした勢力を排除できないところにプーチンの弱点があると言われている。 ベレゾフスキーがプーチンとの和解に成功してロシアへ帰国した場合、今でもロシア経済に大きな影響力を持つ親西側資本勢力のネットワークが明らかになる可能性があった。すでにロスチャイルドを中心とするネットワークと強く結びついていることは判明しているが、ロシア国内のつながりが露見した場合、ロシア制圧は今よりさらに難しくなる。ベレゾフスキーが死んだことにより、西側支配層にとって最悪の事態にはならなかったと考えることができるだろう。
2016.09.12
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領とアメリカのバラク・オバマ大統領との関係を悪化させる引き金はフィリピン政府が進めている「麻薬戦争」にあるのだが、その背景には1965年インドネシアでスカルノ政権を倒したクーデター、いわゆる「9月30日事件」があると指摘する人がいる。 オバマは1961年8月、ハワイで生まれたとされている。母親はアメリカ生まれのスタンリー・アン・ダンハム、父親はケニヤ生まれのバラク・オバマ・シニア。ふたりはハワイ大学で1959年に知り合い、61年2月に結婚しているのだが、オバマ・シニアにはケニアへおいてきた身ごもった妻と幼い子どもがいた。その当時、アフリカのリーダー候補者をCIAはアメリカへ留学させ、アメリカ支配の手先を養成していたが、オバマ・シニアはそのひとりだ。 1962年にオバマ・シニアはハーバード大学へ移り、64年に離婚して別のアメリカ人女性と結婚して帰国、CIAの協力者として活動することになる。彼の友人のひとりはケニヤで大きな影響力を持っていたトム・モボヤで、彼もCIAと結びついていた。この人物のライバルだったガーナの初代大統領クワメ・エンクルマは1966年2月、CIAによるクーデターで失脚している。モボヤは1969年に7月に暗殺された。 母親のダンハムはハワイ大学の東西センターでインドネシアから来ていたロロ・ソエトロと1965年3月に結婚しているが、この年に東西センターのトップにハワード・ジョーンズが就任する。1958年から65年までインドネシア駐在アメリカ大使を務めた人物だ。後にインドネシアでの虐殺を擁護している。 結婚した直後、ソエトロはインドネシアへ戻る。1966年7月とする記述もあるが、65年7月ともされている。帰国後、政府の地形調査の仕事をしたとされているが、スハルトの下で反対勢力の粛清に加わっていたとも言われている。 ソエトロが結婚相手を置いて帰国した頃、インドネシアは大きく揺れていた。1965年9月30日にインドネシアでは小集団の若手将校が6名の将軍を誘拐のうえ殺害、ジャカルタの主要箇所を占拠、その武装蜂起を鎮圧するという形でスハルトがクーデターを実行、スカルノ体制を倒すことに成功しているのだ。 クーデターの切っ掛けを作った若手将校は自分たちがCIAの支援を受けている反乱軍の一部だと放送、スカルノから権力を奪取すると宣言したとする話も流れているが、後に蜂起軍を率いていたウントゥング・シャムスリ中佐は違ったことを言っている。スハルトとCIAが1965年10月5日にクーデターを計画していることを知り、先手を打とうとしたのだというのだ。 これに対し、ジョーンズは「典型的コミュニストのプロパガンダ」だと主張しているのだが、大統領だったスカルノは将軍殺害に関してコミュニストを非難していない。そのスカルノを排除することに成功したアメリカは粛清を開始、1966年3月まで30万人から100万人を殺したと言われている。現在では、CIAがスカルノを排除するために仕掛けたクーデターだと信じられている。 前にも書いたことだが、アメリカはスカルノが1955年の総選挙で勝利して以来、スカルノ体制の打倒を企てていた。その年、インドネシアのバンドンで開かれた会議では、基本的人権と国連憲章の目的と原則の尊重、全ての国の主権と領土の尊重、あらゆる人種の平等と全ての国の平等権の尊重、内政への不介入と不干渉など「平和十原則」を打ち出している。アメリカの支配層にとって許しがたい内容だった。しかも、スカルノ政権は外国資産の国有化を始める。 選挙の際、プロパガンダでコントロールしようとしたが失敗、暴力での打倒に切り替える。1957年から沖縄、フィリピン、台湾、シンガポールなどで戦闘員を訓練、兵站基地も設置した。そして1958年、スカルノが日本を訪問しているときにインドネシアで最初の蜂起が決行される。 反乱グループの中心は旧貴族階級と地主で、スマトラ島を拠点としていたインドネシア軍の将校が参加していた。さらに学生の懐柔にも力を入れる。例えば、フォード財団は貴族階級出身のインドネシア人をアメリカの大学に留学させて訓練している。育成された「近代的エリート」は、後に「バークレー・ボーイズ」とか「バークレー・マフィア」と呼ばれているようになった。 1965年9月30日以降、こうしたグループが反対勢力の殺戮でも中心的な役割を演じるが、その際、イスラム教徒もアメリカ支配層の側につき、虐殺にも参加していた。クーデターに先立ち、イスラム系の新月星党はCIAから資金を受け取り、コミュニスト、中国系の人びと、キリスト教徒などを攻撃することになる。この政党の主張はサラフ主義者/ワッハーブ派に近い。 1967年8月にダンハムはハワイ大学を卒業、10月に息子を連れてインドネシアへ渡って英語を教え始め、その後は金融の仕事を始めるが、CIAと緊密な関係にあるUSAID(米国国際開発局)が背後に存在していた。 1971年に後の大統領はハワイへ戻り、祖母のマデリン・ダンハムに育てられる。その当時、マデリンはハワイ銀行の副頭取を務め、CIAがフィリピンに君臨していたフェルディナンド・マルコスや南ベトナム大統領だったグエン・バン・チューなどに対するカネの支払いに利用する口座を管理していたという。 オバマを愚弄する発言をしたフィリピンのドゥテルテ大統領は1988年2月にダバオ(ミンダナオ島の港湾都市)市長に就任しているが、そこではサウジアラビアを後ろ盾とするワッハーブ派の武装集団が活動していた。クーデター直後のインドネシア、あるいは現在のイラクやシリアと同じ問題を抱えていたということである。ドゥテルテはオバマ大統領の子ども時代にイスラム教徒としてモスクで礼拝していたこと、彼の義父や実母、そしてCIAの活動についての情報を持ち、快くは思っていないようだ。
2016.09.11
アメリカのジョン・ケリー国務長官とセルゲイ・ラブロフ外相は新たな停戦計画について合意したという。スイスのジュネーブで13時間にわたって討議した結果だというが、両国の目指している方向が全く違うわけで、先行きは明るくない。 今年2月10日にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問してウラジミル・プーチン露大統領と会談、22日にはシリアで停戦の合意が成立したのだが、アメリカの好戦派はシリアのバシャール・アル・アサド政権を打倒するという目標を放棄せず、停戦を戦闘態勢の立て直しに使ってきた。アメリカ支配層の常套手段だ。 ズビグネフ・ブレジンスキーもアメリカが地球規模の帝国ではなくなったと認めているように、アメリカを「唯一の超大国」と位置づけるネオコン/シオニストの世界制覇計画は破綻、軌道修正すべきだと考える人がアメリカ支配層の内部にもいるようだが、ネオコンを含む好戦派は1992年の初めに作成された世界制覇計画を諦めていない。この計画は国防総省のDPG草案という形でまとめられ、作業の中心には国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツがいた。 その前年、この人物はシリア、イラン、イラクを5年から10年で殲滅すると口にしていた。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官の証言だ。1991年1月にアメリカ軍を中心とする連合軍はイラクを攻撃したが、ネオコンの思惑とは違い、サダム・フセインを排除せずにジョージ・H・W・ブッシュ政権は停戦してしまった。それに怒ったウォルフォウィッツはイラクなど3カ国の殲滅を口にしわけだ。 この湾岸戦争の経験はネオコンをそれまで以上に好戦的な集団にした。アメリカが軍事力を行使してもソ連は出てこないと考えるようになったのだ。ソ連消滅後はロシアに対しても同じ見方をしている。それだけに、昨年9月30日にロシア軍がシリアで空爆を始めたことは彼らにとって衝撃的だったのだろうが、ここにきて再びロシアを甘く見始めているようだ。そうした見方を引き出したひとつの理由は、戦乱の拡大を避けたいロシアがアメリカに対して協力を求めていることにある。これを「弱さ」と考えるネオコンは凶人理論や狂犬戦術で押し続ける。 アメリカ、イスラエル、サウジアラビアを中心とする勢力の目的は一環してアサド政権を打倒することにあり、ロシアは戦乱の終結にある。公正な選挙が実施されればアサド大統領が勝利することを知っているロシアはアサド体制の維持を主張していない。シリアのあり方はシリア人が決めるべきだという立場だ。 西側の政府やメディアが描いてきたストーリーは、独裁者に虐げられていた民衆が蜂起したというもの。ドラマやプロレスで好まれる典型的なパターン。虐げられた人びとが革命で救済されのは必然だと信じる人びとにとっても魅力的である。そのストーリーをアメリカの支配層は侵略や略奪を正当化するために使っている。事実を検証するならば、シリアの戦乱は侵略だということがわかる。決して「革命」でも「内戦」でもない。 これも繰り返し書いてきたが、遅くとも2012年夏の段階でアメリカ政府はシリアに「穏健派」など存在しないとする情報をDIA(国防情報局)から得ていた。 この情報機関が2012年8月に作成した文書の中で、シリアにおける反乱の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)だと指摘、2011年3月に戦闘が始まったときから反シリア政府軍はAQIと結びつき、その反シリア政府軍を西側(アメリカ/NATO)、湾岸諸国、そしてトルコが支援しているとも報告している。シリア東部にサラフ主義者の国ができる可能性も指摘されていた。この報告書はホワイトハウスに提出されている。 サラフ主義者の国が作られるという見通しは、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記される)が2014年1月にファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言して現実のものになる。その年の6月にはモスルを制圧、その際にトヨタ製の真新しい小型トラック「ハイラックス」を連ねた「パレード」を行い、その様子を撮影した写真が配信されてこの戦争集団は広く知られるようになった。 その際、アメリカ政府はスパイ衛星、通信の傍受、あるいは人的なスパイ網などでダーイッシュの動きを把握していたはずだが、動いていない。小型トラックの車列などは格好の攻撃目標だったはずだ。 DIAの文書が公表された後、作成時にDIA局長だったマイケル・フリン中将はアル・ジャジーラの番組へ出演、その後の展開を見通していたにもかかわらず、阻止しなかったのかと詰問され、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領の役割だとしている。ちなみに、アル・ジャジーラはカタール王室の放送局。国策に反しない限り自由に放送できるのだが、シリア侵略にはカタールも関与している。 2013年9月、駐米イスラエル大使だったマイケル・オーレンはアサド体制よりアル・カイダの方がましだと公言している。この人物はベンヤミン・ネタニヤフ首相の側近で、イスラエル政府の考え方だと言えるだろう。 サウジアラビアは勿論、アメリカ政府も同じように考えてきた。事実が知られ、問題になるとアメリカの支配層はタグを付け替え、ごまかしてきた。最近では、アル・ヌスラなどタグを「ファテー・アル・シャム(レバント征服戦線)」へ替えている。今回の合意でもアメリカは同じことをするだろうが、そうしたタグの付け替えすら、最近はしない傾向が見られる。例えば8月16日、アメリカ軍は記者会見で広報担当のクリストファー・ガーバー大佐は自分たちが戦っている相手はダーイッシュだけであり、アル・ヌスラではないと明言している。 また、ロシアを敵視、協力すべき相手と見ていないことを隠さない人もいる。FOXニュースの番組に軍事アナリストとして登場したロバート・スケールズ退役少将はロシア人を殺せと発言していたが、最近ではマイク・モレル元CIA副長官も似たようなことを言っている。シリアを侵略して制圧するという計画をロシアやイランが妨害していることに怒り、ロシア人とイラン人を殺すべきだとインタビュアーのチャーリー・ローズに対して8月8日に語っているのだ。 こうした発言を承知でロシアはアメリカと協調する道を探っている。それをアメリカの好戦派は弱さと理解、もう少し押せば屈服させられると考えて軍事的な緊張が高まる可能性がある。
2016.09.10
東アジアは言うに及ばず、全世界にとって最大の脅威はアメリカである。自国の軍隊を使って侵略することもあるが、NATO軍、アル・カイダ系武装集団、ネオ・ナチなどの手先を利用することも少なくない。各国に築いた手先のネットーワークを使ってクーデターも繰り返してきた。 アメリカ支配層が最終的に使う脅しの手段は核攻撃。本ブログでは何度も書いてきたように、第2次世界大戦後、アメリカは先制核攻撃を計画している。例えば、JCS(統合参謀本部)は1949年に出した研究報告の中で、ソ連の70都市へ133発の原爆を落とすと想定、54年にSAC(戦略空軍総司令部)は600から750発の核爆弾をソ連に投下、118都市に住む住民の80%、つまり約6000万人を殺すという計画を考えていた。そして1957年初頭には300発の核爆弾でソ連の100都市を破壊するという「ドロップショット作戦」が作成されている。(Oliver Stone & Peter Kuznick, “The Untold History of the United States,” Gallery Books, 2012) テキサス大学のジェームズ・ガルブレイス教授によると、ライマン・レムニッツァーJCS議長やSACの司令官だったカーティス・ルメイを含む好戦派は1963年の終わりにソ連を先制核攻撃する予定だった。その頃にアメリカはICBMを配備でき、しかもソ連は配備が間に合わないと見ていたのだ。この攻撃を成功させるためにもキューバを制圧し、ソ連の中距離ミサイルを排除する必要があった。1963年11月、この計画にとって最大の障害だったジョン・F・ケネディ大統領はテキサス州ダラスで暗殺され、暗殺の背後にソ連やキューバがいるとする噂が流されたが、新大統領のリンドン・ジョンソンはFBIからの情報もあり、核攻撃を承認していない。 そして現在、アメリカはロシアや中国に対し、自分たちに従属しなければ核戦争を始めると脅しているのだが、効果はなく、アメリカの好戦派は挑発をエスカレートさせ、核戦争勃発の可能性は高まっている。戦争ビジネスや巨大金融資本を後ろ盾にし、ネオコン/シオニストやイスラム同胞団とも緊密な関係にあるヒラリー・クリントンが大統領になった場合、かなり危険な状態になるだろう。 そうした中、先制核攻撃の放棄をバラク・オバマ大統領は考えたようだが、断念したという。アシュトン・カーター国防長官やジョン・ケリー国務長官を含む政府高官の反対、あるいは日本や韓国の首脳から懸念が表明されたことなどが理由として挙げられている。こうしたアメリカの動きに呼応するかのようにして、9月9日に実施されたのが朝鮮の核実験だ。ちなみに、アシュトン・カーターは好戦派として有名な人物で、2006年にはハーバード大学で朝鮮空爆を主張している。 1963年や83年などに核戦争の可能性は高まったが、そうした時期に比べても、今は非常に危険な状態にある。そうした状況になった最大の原因はソ連の消滅にともない、アメリカ支配層が自分たちを「唯一の超大国の支配者」だと思い込んだことにありそうだ。 1991年12月にソ連が消滅したことを受け、1992年の初めに国防総省で作成されたのがDPGの草案。旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなどの潜在的なライバルを潰し、ライバルを生む出すのに十分な資源を抱える西南アジアを支配すとしていた。この草案は国防次官だったポール・ウォルフォウィッツを中心に作成されたことから、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれ、今でもその方針に従ってアメリカ政府は動いている。 このドクトリンが作成された2年後、国防大学のスタッフだったマイケル・グリーンとパトリック・クローニンがカート・キャンベル国防次官補を介してジョセフ・ナイ国防次官補やエズラ・ボーゲルに会い、日本が自立の道を歩き出そうとしていると主張、そして1995年に発表されたのが「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」。1997年には「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)」が作成された。 「周辺事態法」が成立する前年、1998年にアメリカでは金正日体制を倒し、朝鮮を消滅させて韓国が主導する新たな国を建設することを目的とした作戦、OPLAN 5027-98が作られている。この年の8月、朝鮮は太平洋に向かって「ロケット」を発射、翌年の3月には海上自衛隊が能登半島の沖で「不審船」に対し、規定に違反して「海上警備行動」を実行した。 1999年になると、金体制が崩壊、あるいは第2次朝鮮戦争が勃発した場合に備える目的でCONPLAN 5029が検討され始めた。日本は朝鮮戦争に備えるためにアメリカ軍が日本や太平洋地域に駐留することを認めたという。なお、この5029は2005年にOPLAN(作戦計画)へ格上げされたという。このほか、朝鮮への核攻撃を想定したCONPLAN 8022も存在している。 2003年3月にアメリカ軍はイギリス軍などを引き連れてイラクを先制攻撃するが、その頃に空母カール・ビンソンを含む艦隊が朝鮮半島の近くに派遣され、また、6機のF117が韓国に移動、グアムには24機のB1爆撃機とB52爆撃機が待機するという緊迫した状況になった。 こうした動きを韓国の盧武鉉やアメリカ支配層の一部がブレーキをかけるのだが、その盧大統領は2004年3月から5月にかけて盧大統領の権限が停止になり、08年2月には収賄容疑で辞任に追い込まれた。次の大統領は軍需産業と結びついている李明博だ。 2009年7月に作成されたアメリカの外交文書によると、韓国の玄仁沢統一相はカート・キャンベル米国務次官と会談、朝鮮の金正日総書記の健康状態や後継者問題などについて説明した。なお、この文書は2010年11月にWikiLeaksが公表している。 玄仁沢統一相の説明によると、金総書記の健康は徐々に悪化、余命はあと3年から5年だとしたうえで、息子の金正恩への継承が急ピッチで進んでいると分析していた。金総書記は2011年8月に死亡している。 この会談で玄統一相は朝鮮が11月に話し合いへ復帰すると見通していたのだが、実際は10月に韓国の艦艇が1日に10回も領海を侵犯、11月に両国は交戦、話し合いどころではなくなった。玄統一相の分析が正しいなら朝鮮が自ら軍事的な行動に出る可能性は小さく、同相もそうした流れを望んでいるように読めるのだが、そうした流れを止めるようなことを韓国軍はしている。 そして2010年3月、韓国と朝鮮で境界線の確定していない海域で韓国の哨戒艦「天安」が爆発して沈没する。米韓が合同軍事演習「フォール・イーグル」を実施している最中の出来事だった。この沈没に関して5月頃から韓国政府は朝鮮軍の攻撃で沈没したと主張し始めるが、CIAの元高官でジョージ・H・W・ブッシュと親しく、駐韓大使も務めたドナルド・グレッグなど、この朝鮮犯行説に対して疑問を投げかける人もいる。 そして11月には問題の海域で軍事演習「ホグク(護国)」が実施され、アメリカの第31MEU(海兵隊遠征隊)や第7空軍が参加したと言われている。そして朝鮮軍の大延坪島砲撃につながった。 1990年代にはアメリカの情報機関とも緊密な関係にあるとされている某宗教団体から多額の資金が朝鮮へ流れ込んでいると言われているので、アメリカと朝鮮が敵対関係にあると単純には言えないのだが、2000年頃からアメリカが朝鮮で戦争を始めようと考えていることは確かだろう。そうなれば、戦果は中国や日本を含む東アジア全域に広がる。見方を変えると、朝鮮はアメリカにとって重要な「火種」だということだ。
2016.09.09
安倍晋三政権は着々とTPP(環太平洋連携協定)を批准する準備を進め、国のあり方もTPPに合わせて変え、巨大資本が望むようなカネ儲けしやすいシステムにしようとしているが、アメリカではTPPへの反発が強まり、共和党の大統領候補ドナルド・トランプは一貫して反対、ヒラリー・クリントンも否定的な発言をせざるをえなくなっている。EUが対象のTTIP(環大西洋貿易投資協定)もEU内部で拒否すべきだとする声が高まり、この2協定とセットのTiSA(新サービス貿易協定)に対する反発も強い。 こうした流れにあるとはいうものの、巨大資本を含むアメリカの支配層がTPP的な支配システム、つまりフランクリン・ルーズベルト大統領が定義したファシズム体制を目指すという計画を放棄することはないだろう。彼らが存在している限り、何度でも仕掛けてくる。 本ブログでは何度も指摘してきたが、そのルーズベルトが率いていたニューディール派は巨大企業の活動を制限し、労働者の権利を認め、ファシズムや植民地に反対すると主張していた。その主張が自分たちの利益に反すると考え、ルーズベルトが大統領に就任した1933年から34年にかけてクーデターを計画したわけだ。 クーデターの中心はJPモルガンだったようで、彼らはドイツのナチスやイタリアのファシスト党、中でもフランスの「クロワ・ド・フ(火の十字軍)」の戦術を参考にしていたという。彼らのシナリオによると、新聞を利用して大統領を攻撃し、50万名規模の組織を編成して大統領をすげ替えることになっていたという。 このクーデター計画を成功させるため、軍の内部で人望の厚かった伝説的な軍人、スメドリー・バトラー退役少将をウォール街は懐柔しようとしたのだが、拒否されてしまう。クーデター派にカウンター・クーデターの意思を伝える一方、議会で計画を明らかにしたのである。当然、その証言は公式の記録として残っているので、容易に確認できる。 バトラーからクーデターの話を聞いた知り合いのジャーナリスト、ポール・フレンチはクーデター派を取材、「コミュニズムから国を守るため、ファシスト政府が必要だ」という話を引き出している。これも議会証言として記録に残っている。 クーデターを実行すればバトラー少将がカウンタークーデターで対抗、内戦になることは必至だったが、ルーズベルト大統領がクーデター派を摘発すれば、やはり内戦になる可能性が高かった。そこで有耶無耶のうちに幕引きになったが、この時代を研究している学者や記者が知らないはずはない。 第2次世界大戦の終盤、ドイツが降伏する前の月にルーズベルトは急死、ウォール街が主導権を奪還する。その後はニューディール的な要素を消し去る作業が始まり、1999年11月にはグラス・スティーガル法の求めていた銀行業務と証券業務の分離がグラム・リーチ・ブライリー法の成立で撤廃され、その目的の大半は達成された。そうした作業の総仕上げと言うべきものがTPP、TTIP、TiSAだ。これらの協定によって巨大資本が国を支配することが可能になる。その間、1970年代のアメリカでは「多国籍企業」が問題になっていたが、その時点で巨大資本による世界支配を懸念する人はいたということだろう。 巨大資本が世界を支配するという形は新しくない。例えば、ラテン・アメリカ諸国はアメリカの巨大資本に支配され、「バナナ共和国」と呼ばれるていた。また、イギリスなどヨーロッパ諸国は19世紀までインドを私企業である東インド会社が実行している。 インドを支配するためにイギリスは傭兵を使っている。全兵力23万8000人のうちイギリス兵は3万8000人、残りの20万人はシパーヒー(またはセポイ)と呼ばれる傭兵だった。シパーヒーは上級カースト出身者が多く採用されたという。そのシパーヒーが1857年に反乱を起こした。「インド大反乱」、あるいは「第一次インド独立戦争」と名づけられているが、かつては「セポイの反乱」と呼ばれていた。 当時、イギリスは技術革新にともなって工場制生産に移行している。いわゆる産業革命だが、中国(清)との貿易でイギリスは大幅な輸入超過に苦しむことになる。近代的な工場が作り出す製品が中国の絹や茶に負けたということだ。 その苦境から脱するため、東インド会社はインド産のアヘンを中国へ密輸するのだが、それを中国側が禁止するとイギリスは武力による制圧に乗り出した。アヘン戦争(1840年から42年)である。この戦争で中国における利権を手にするが、まだ不十分だと考えたようで、1856年から60年にかけてはアロー戦争を仕掛けている。 1865年にはイギリスが麻薬取引の拠点にしていた香港で香港上海銀行が創設され、66年に横浜へ進出、さらに大阪、神戸、長崎にも支店を開設している。1867年には「大政奉還」、長州藩と薩摩藩を中心とする新政府が誕生した。 この当時、イギリスの支配層はライバルのフランス、ドイツ、ロシアに対抗するために約14万人の兵士が必要だと考えていたが、実際の兵力は7万人。そこで目を付けられたのが日本で、1902年には「日英同盟協約」が結ばれる。日本人を一種の傭兵にしようというわけだろう。この同盟は1921年、日本、アメリカ、フランス、イギリスの4カ国条約の成立によって廃止が決まるまで続いた。 1904年に日本はイギリスのライバル、帝政ロシアと戦争を始めるが、戦費とし約2億ドルを融資したのはロスチャイルド系のクーン・ローブ。この金融機関を率いていたジェイコブ・シフと日銀副総裁だった高橋是清は親しい。言うまでもなく、ロスチャイルドはイギリスの動きと深い関係にある。日清戦争の後、日本は戦艦の建設に力を入れているが、その際にイギリス海軍が協力している。ロシアと日本との戦争を見通してのことだろう。 その当時、日本はイギリスやアメリカの傭兵として動いている。シパーヒー、最近ではNATOの秘密部隊やアル・カイダ系武装集団と同じ立場だ。菅直人政権で尖閣諸島の棚上げを反故にし、石原慎太郎都知事が「東京都が尖閣諸島を購入することにした」と発言して中国や台湾を挑発、また野田佳彦首相は「尖閣を含む領土・領海で不法行為が発生した場合は、自衛隊を用いることも含め毅然と対応する」と発言、防衛大臣だった森本敏は尖閣諸島で「自衛隊が活動することは法的に確保されている」としている。こうして日本と中国との間で軍事的な緊張が高まった。 こうした事態に対し、尖閣諸島で日本と中国が衝突してもアメリカは出てこないと主張する人もいるが、それは正しくない。尖閣諸島で軍事的な緊張を高めたのはアメリカ好戦派の意向を受けてのことであり、日本の支配層は自分たちの雇い主の命令通りに動く。アメリカが軍事介入するかどうかはアメリカ支配層の事情次第だ。
2016.09.08
今から15年前、2001年9月11日にアメリカではハリウッド映画を彷彿とさせる攻撃があり、それを切っ掛けにして国内では憲法が機能不全になってファシズム化が進み、国外では侵略が本格化した。この攻撃でターゲットになったのは、ニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンにある国防総省本部庁舎(ペンタゴン)だが、アメリカはこの攻撃と無関係のアフガニスタンとイラクをまず攻撃した。 ドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺では、9/11から10日後の時点で攻撃予定国リストが作成されている。そこに載っていた国はイラクのほか、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイラン。この事実は2007年3月と10月にウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官が明らかにした。 オサマ・ビン・ラディンの周辺がアメリカに対する攻撃を計画していることをFBIはイラン情報機関の協力者から知らされていたと2009年8月に宣誓供述したのはFBIで翻訳間を務めていたシベル・エドモンズ。彼女によると、航空機でアメリカの4ないし5都市を攻撃することになっていたようだ。 また、2001年4月の段階でアメリカの情報機関はカリフォルニアやニューヨークで「テロ活動」があることを知っていたとCIAの協力者だったスーザン・リンダウアーも語っている。NSAが5月から7月の期間に傍受した通信から「テロ攻撃」が近いこともわかっていたという。 それだけでなく、例えば、1999年にイギリスの対外情報機関MI6はアル・カイダが航空機を「空飛ぶ爆弾」として利用する攻撃を計画していると警告、2001年8月にはハイジャックの可能性を指摘している。勿論、アル・カイダは傭兵リストであり、アル・カイダ系の武装集団が攻撃を目論んでいたということだ。さらに、エジプト、ドイツ、ロシアなども攻撃が迫っていると警告していたという。 証券市場でも直前に不自然な動きがあった。アレックス・ブラウンという会社がプット・オプションを大量に買って(値下がりを予想)いるのだが、1998年まで同社の会長を務めていたバジー・クロンガードはその後、CIAの幹部になっていた。事件の数日前には、航空会社やその関連企業の株式が大量に売られている。 9/11の攻撃では4機の航空機が利用された。アメリカン航空11便は8時46分にノースタワーへ、ユナイテッド航空175便は9時3分にサウスタワーへそれぞれ激突、アメリカン航空77便は9時37分にペンタゴンへ突入し、ユナイテッド航空93便はピッツバーグとワシントンDCとの中間で10時3分に墜落したことになっている。 しかし、状況から見てペンタゴンへ旅客機が突入したとは考えられない。そのためにはペンタゴンの周りを大きく旋回し、地表に痕跡を残さずに大型旅客機が超低空で飛行しなければならず、防衛システムが機能しなかったことにする必要がある。93便の墜落にも疑問がある。オサマ・ビン・ラディンの周辺がアメリカでの攻撃を計画していたとしても、計画の立案者が実際の攻撃を実行したグループと同じだとは限らない。計画を知り、それを利用して攻撃したとも考えられる。その可能性の方が高いだろう。 ノースタワーは10時58分(激突の2時間12分後)、サウスタワーは9時58分(激突の55分後)、爆破解体されたように崩れ落ちた。不自然ということだ。17時20分には航空機が激突したわけでない世界貿易センター7号館も同じように崩壊したが、これはテレビ局が番組の中で事前に「予告」していた。 財務長官だったポール・オニールによると、9/11の半年前、3月に彼らはイラクへの軍事侵攻と占領について具体的に話し合い(Oliver Stone & Peter Kuznick, “The Untold History of the United States,” Gallery Books, 2012)、NSC(国家安全保障会議)でイラク侵攻計画を作成していることを知ったという。(Len Colodny & Tom Shachtman, “The Forty Years War,” Harper, 2009) ちなみに、この3月には人気シリーズ「Xファイル」のスピンオフ、「ローン・ガンメン」の第1話「パイロット」が放送されているのだが、そのプロットが9/11を彷彿とさせると話題になった。旅客機がハッキングされてコントロール不能になり、世界貿易センターへ突入させられそうになるというストーリーだったのである。 9/11の攻撃はアル・カイダ系武装集団の能力を超えていると主張する人は少なくないのだが、その集団の象徴であるオサマ・ビン・ラディンは重度の腎臓病を患い、2001年7月には腎臓病を治療するため、アラブ首長国連邦ドバイの病院に入院していたとル・フィガロ紙は報道している。 しかも、その入院患者を見舞うため、彼の家族だけでなくサウジアラビアやアラブ首長国連邦の著名人が訪れ、CIAのエージェントも目撃された。しかも、エジプトで出されているアル・ワフド紙の2001年12月26日付け紙面にはオサマ・ビン・ラディンの死亡記事が掲載されている。その後、ビン・ラディンの映像と称するものが流されたが、怪しげなものばかりだった。9/11の直後、オサマ・ビン・ラディンは自分たちが実行したのではないとする声明を出したとも伝えられている。 アメリカの支配層は1980年代から進められていたCOGという極秘の戒厳令プロジェクトが9/11によって始動し、1992年の初めに国防総省のDPG草案としてネオコン/シオニストが作成した世界制覇プラン、いわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンも動き出した。 これで世界を自由にできるとネオコンは考えたかもしれないが、属国化したはずのロシアがウラジミル・プーチンたちによって再独立、中国との関係が強まってネオコンの世界制覇プランは目論見通りに進んでいない。
2016.09.08
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はアメリカのバラク・オバマ大統領に対して「あの野郎(son of a bitch)」という表現を使ったが、翌日になってアメリカの反発を鎮めるため、発言を後悔していると語ったという。オバマ大統領に対して深い尊敬と親愛の情を持っているとも発言したが、最大の貿易相手国であり、軍事費の支援を受けているアメリカを必要以上に刺激したことを反省したということだろう。 しかし、ドゥテルテ政権が中国へ接近している流れに変化はなさそうで、フィデル・ラモス元大統領を中国と交渉するために派遣、中国はフィリピンのインフラを整備するために多額の投資を提案しているという。 前大統領のベニグノ・アキノ3世はアメリカ支配層の意向を受け、南シナ海における領有権の問題をオランダのハーグにある「常設仲裁法廷(PCA)」へ持ち込み、フィリピン(アメリカ)が望むような仲裁を出したようだが、その後、フィリピンと中国との関係は改善されつつある。 2014年にクーデターがあったタイでもアメリカ離れが見られる。このクーデターで倒されたインラック・チナワット首相は亡命中のタクシン・チナワット元首相の妹であり、傀儡。タクシンが首相だった2001年から06年にかけての時期、反タクシン系新聞社の社長の自宅が家宅捜索され、香港の新聞社と記者が国外追放になっている。唯一の非タクシン系放送局と言われたiTVはタクシンの企業グループに呑み込まれた。露骨なメディア統制、言論弾圧があったのだ。 このチナワット家はアメリカの支配層、特にブッシュ一族と深く結びつき、巨大ファンドのカーライル・グループとも関係が深い。アメリカ軍が2003年3月にイラクを先制攻撃した際、タクシンは軍部や国民の意思に背いてイラクへ派兵したのも、そうした背景が影響したと見られている。こうしたチナワット家の影響力が排除され、アメリカ離れを起こしているのが現在のフィリピンだ。 東南アジアにおけるアメリカの影響力は低下傾向にあるのだが、そこでアル・カイダ系武装集団が活動を始めるのではないかと警戒する声が出てくる。本ブログでは何度も書いているように、1997年から2001年にかけてイギリスの外務大臣を務めたロビン・クックによると、「アル・カイダ」はCIAから軍事訓練を受けた戦闘員のコンピュータ・ファイル。アラビア語でアル・カイダは「ベース」を意味し、「データベース」の訳語としても使われている。そうした傭兵で揺さぶりをかけてくるのではないかというわけだ。 アメリカ政府はドゥテルテ政権を批判するために「人道」を持ち出しているが、アメリカ支配層と最も近い関係にあるふたつの国は人道にもとることをしていることで有名。そのひとつの国、イスラエルは虐殺と破壊で住民を追い出して「建国」し、今でも虐殺と破壊を繰り返している。もうひとつのサウジアラビアは奴隷制国家であり、当然、民主的でも人道的でもない。アル・カイダのような傭兵を雇い、世界規模で「テロ」を行っている国でもある。2001年9月11日以降、アメリカでは憲法の機能が停止、ファシズム化が進んでいる。 そうしたアメリカに日本の「エリート」たちは従属している。アメリカの支配層に従属することで自分たちの地位と富が守られていると思っているのだろう。彼らが権力欲と物欲を持っているのは確かだろうが、おそらく、国を動かす才覚はない。
2016.09.07
アメリカを中心とする反中国同盟に参加しているはずのフィリピンだが、同国のロドリゴ・ドゥテルテ大統領とバラク・オバマ大統領との関係が険悪化、予定されていたラオスでの会談が取り消されたとローターの記者がTwitterに書き込んでいる。引き金はフィリピン政府が進めている「麻薬戦争」にあるようだ。 ドゥテルテが大統領に就任したのは6月だが、この人物は前任者のベニグノ・アキノ3世とは違い、アメリカの言いなりになっていない。中国を敵視する政策も軌道修正、話し合いを進めている。国内では麻薬業者の摘発に力を入れ、司法手続きを無視する形で400名以上の容疑者をすでに殺害、逮捕者は約4400名にのぼるという。選挙で公約した麻薬撲滅を実践しているのだが、その遣り方に対する批判が国連から発信され、ドゥテルテ大統領は反発していた。 オバマ大統領との会談に先立ち、ドゥテルテ大統領は記者からオバマ大統領に麻薬取引の容疑者を殺害していることをどのように説明するかと問われ、オバマは「自分を何様だと思っているのだ。私はアメリカの操り人形ではない。主権国家の大統領であり、フィリピンの人びとに対してのみ、説明責任がある。」と応じていた。 アメリカ人は自分たちが特別な存在であり、何をやっても許されると考えていると批判されているが、司法手続きを無視した殺害はオバマ政権が公然と実行してきたこと。無人機(ドローン)は殺害の道具だ。しばしば一般市民を殺害している。 本ブログでは何度も書いてきたが、アメリカでは1997年にマデリーン・オルブライトが国務大臣に就任して以来、偽情報でターゲットを悪魔化しながら軍事侵略を進め、破壊と殺戮を繰り返してきた。ジョージ・W・ブッシュが大統領に就任した2001年の9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンにある国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されると、この攻撃に無関係だったイラクを先制攻撃している。その時に攻撃の口実に使われた大量破壊兵器の話も嘘だった。 攻撃の直後、詳しい調査が行われていない段階でブッシュ・ジュニア政権は「アル・カイダ」が実行したと断定、「アル・カイダ」のメンバーで旅客機をハイジャックしたことになっているモハメド・アッタがチェコのプラハでイラクのエージェントと会ったとする情報も流れたが、この情報は間違っているとチェコの情報機関は認めている。イラクのサダム・フセイン政権は「人権無視」でアル・カイダ系武装集団を弾圧していた。 イラク攻撃は「9/11」と無関係で、ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官によると、1991年の段階でネオコン/シオニストのポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はイラク、シリア、イランを殲滅すると口にしていた。湾岸戦争でアメリカがサダム・フセインを排除しなかったことに怒っての発言だったようだ。 アメリカの支配層は自分たちにとって都合の悪い体制を破壊し、その国の人びとを虐殺している。そこに「正当な手続き」などはない。アメリカ自体の歴史も先住民の虐殺から始まっているわけで、人権を口にするなどおこがましいのだ。 麻薬取引に関しては、CIAが深く関与していることが明らかになっている。ベトナム戦争の際には東南アジアの山岳地帯、いわゆる黄金の三角地帯で栽培されるケシを原料とするヘロイン、ニカラグアの革命政権を倒す目的で始めた秘密工作ではコカイン、アフガニスタンでの戦争ではパキスタンとアフガニスタンにまたがる山岳地域で栽培されるケシを使ったヘロイン生産、いずれもCIAが関係している。アメリカでは麻薬取引を取り締まったロサンゼルス市警の捜査官が司法省によって警察から追放されている。 この取り引きをテーマにした連載記事をサンノゼ・マーキュリー紙のゲイリー・ウェッブは1996年に書いているが、それが話題になるとロサンゼルス・タイムズ紙、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙を含む有力メディアから事実を無視した激しい攻撃を受け、新聞社から追放され、自殺に追い込められている。(こうしたアメリカの有力紙ブランドを有り難がるのは愚の骨頂ということ。) 1998年にCIAの監察総監室はこの問題に関する報告書(IGレポート)を公表、ウェッブの記事が正しいことが確認されたが、有力メディアはこのレポートを無視、自分たちの記事を訂正せず、行為を謝罪していない。アメリカの政府機関が麻薬取引に手を出しているとは言えないのだろう。麻薬取引がアメリカの世界戦略と結びついていると言え、そのアメリカの政府が展開してきた「麻薬との戦争」はインチキだということでもある。 現在、アメリカ政府は中国を封じ込めるための枢軸として日本、フィリピン、ベトナムを考え、そこへ韓国、インド、オーストラリアを結びつけようとしている。その一角を占めるフィリピンがアメリカから自立する意思を示しているわけで、何らかの工作で従属させようとする可能性はあるだろうが、アメリカの支配力が衰えていることも確かだ。
2016.09.06
アメリカの国防総省系シンクタンクRANDは昨年に続き、アメリカと中国との軍事衝突をテーマにしたレポートを発表している。両国が戦争を始めた場合、アメリカは中国に比べれば少ない損害ですむものの、それでも規模は大きいとしている。状況次第でアメリカ軍はグアム、ハワイ、アラスカ、オーストラリアなどへ退くこともできるわけで当然だろうが、日本は逃げられない。前の報告書では、開戦の直後に沖縄の嘉手納空軍基地は弾道ミサイルの攻撃を受け、2週間ほどで壊滅すると推測していた。 中国が進めている「一帯一路」、つまりシルク・ロード経済ベルトと21世紀海のシルク・ロードのうち海上ルートは戦争で断たれ、経済的に中国は大きなダメージを受けるが、その影響はアジア大陸東岸の全域に広がる。原発もアメリカ軍基地も中国軍が破壊しなかったとしても、経済的に日本は破綻する。 ロシア軍が出てこなくても、ロシアから提供された高性能兵器は大きな威力を発揮するだろう。すでに中国はロシアから地対空ミサイルS-300を購入している。これはシリアでアメリカやイスラエルが神経を尖らせているミサイルだが、その能力を上回るS-400が提供されるとも言われている。その射程距離は40N6が400キロメートル、48N6は250キロメートル。48N6の速度はマッハ6.2だとされている。状況によっては、さらに高性能の兵器、また電子戦の装置が提供される可能性もある。 ロシアは千島列島の松輪島にある放棄されていた軍事施設を復活させ、ロシア軍の太平洋艦隊の基地にできるかどうか調べ始めたというが、これも太平洋西岸の軍事的な緊張が高まっていることに対応しているのだろう。 ロシア軍は超音速で飛行し、西側の防空システムでは対応できないイスカンダル・ミサイルを配備、昨年11月にロシア軍がリークした戦略魚雷も注目されている。この核魚雷は潜水艦から発射され、遠隔操作が可能。海底1万メートルを時速185キロメートルで進むことができ、射程距離は1万キロに達する。空母など艦船は勿論、日本やアメリカの海岸線にある都市を攻撃することが可能。爆撃機もアメリカ周辺に飛行させ、警告している。 2010年11月上旬にはカリフォルニア沖で海中から発射されたミサイルが目撃されている。アメリカ軍によるものではなく、中国の潜水艦が弾道ミサイルを発射したとも言われている。つまり、アメリカが中国を巻き込む戦争を始めた場合、アメリカの沿岸から中国が核攻撃する可能性もある。 フォーリン・アフェアーズ誌(CFR/外交問題評議会が発行)の2006年3/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文で、アメリカ軍は先制第1撃でロシアと中国の長距離核兵器を破壊できると主張していた。 その論文が出た2年後、7月10日にアメリカのコンドリーサ・ライス国務長官はジョージア(グルジア)を訪問、8月7日にミヘイル・サーカシビリ大統領は分離独立派に対して対話を訴え、その8時間後の深夜に南オセチアを奇襲攻撃した。 2001年以降、イスラエルの軍事会社がジョージアへ無人飛行機、暗視装置、対航空機装置、砲弾、ロケット、電子システムなどを含む武器/兵器を提供、軍事訓練も行い、08年1月から4月にかけては、アメリカの傭兵会社MPRIとアメリカン・システムズが元特殊部隊員を派遣していた。 アメリカやイスラエルは周到に準備した上でジョージアに南オセチアを奇襲攻撃させている。この攻撃はイスラエルが作戦を立てたと推測する人もいる。フォーリン・アフェアーズ誌の論文を読んでも、この計画で南オセチアを制圧できると考えていたように思えるのだが、ロシア軍がすぐに反撃、侵略軍は惨敗した。その後、アメリカはアル・カイダ系の武装集団やネオ・ナチを使って侵略を始める。 こうした傭兵を使った侵略でターゲット国を破壊することには成功したが、アメリカもさまざまな形で衰退することになった。中国やロシアとの戦争でアメリカが勝つことは難しく、得るところはほとんどない。 しかし、それでもアメリカ軍が中国やロシアと戦争を始める可能性はある。現在、アメリカを動かしている勢力はアメリカの衰退や破滅を意に介していない。 1967年6月5日にイスラエルはエジプトを空爆、第3次中東戦争を始めている。その際にアメリカは上空から撮影した写真をイスラエルへ提供、政治的にも支援していた。(Alan Hart, “Zionism Volume Three”, World Focus Publishing, 2005) 支援の条件としてエジプトを攻撃することだけを認めていたが、イスラエルを信用できないこともあって情報収集船のリバティが派遣される。そのリバティをイスラエル軍は6月8日に攻撃する。 まず3機のミラージュ戦闘機が攻撃を開始、ロケット弾やナパーム弾を発射、最初の攻撃で通信設備が破壊された。それでも通信兵は寄せ集めの装置とアンテナで第6艦隊へ遭難信号を発信することに成功する。イスラエルはジャミングで通信を妨害し、その後もイスラエル軍は執拗にリバティに対する攻撃を繰り返した。 遭難信号を受信した第6艦隊の空母サラトガの甲板には、すぐに離陸できる4機のA1スカイホークがあり、艦長は戦闘機を離陸させる。イスラエルが攻撃を開始してから15分も経っていない。そこからリバティ号まで約30分だ。 リバティが攻撃されたことはリンドン・ジョンソン大統領へすぐに報告されたが、ロバート・マクナマラ国防長官は第6艦隊に対して戦闘機をすぐに引き替えさせるようにと叫んだという。(Alan Hart, “Zionism Volume Three”, World Focus Publishing, 2005)このとき、在欧アメリカ海軍の司令官だったジョン・マケイン・ジュニア、つまり後のジョン・マケイン3世上院議員の父親も事実の隠蔽に荷担している。 3時5分になってアメリカ側がリバティへ戦闘機と艦船を派遣すると至急電を打ち、3時16分には空母サラトガと空母アメリカがリバティを救援するために8機の戦闘機を派遣するように命令する。39分に艦隊司令官はホワイトハウスに対し、戦闘機は4時前後に現場へ到着すると報告、その数分後にイスラエルの魚雷艇は最後の攻撃をしている。 アメリカ側の通信はイスラエルに傍受されていたが、意図的に傍受させていた可能性もある。そして4時14分、イスラエル軍はアメリカ側に対し、アメリカの艦船を誤爆したと伝えて謝罪、アメリカ政府はその謝罪を受け入れた。この時の交信を記録した大量のテープを電子情報機関のNSAは破棄したという。(前掲書) 最近では知られるようになったが、このイスラエルによる攻撃とアメリカ側の対応をアメリカ政府は秘密にしてきた。2003年にアメリカが中東で始めた戦争がアメリカの利益に反することは最初からわかっていたが、それでも侵略を始めている。中国やロシアとの戦争がアメリカどころか人類の存亡に関わることを理解してもアメリカ軍は戦争を始める可能性があるのだ。その戦争に安倍晋三政権は参加しようとしている。
2016.09.06

G20サミットに出席するため、各国の首脳が中国の杭州に集まっている。そのひとり、バラク・オバマ米大統領に対する中国側の扱いが話題になっている。タラップが用意されず、赤い絨毯も引かれていなかったのだ。オバマは航空機に格納されている階段で降り、そのまま自動車で空港を後にした。勿論、杭州の空港にタラップや赤い絨毯がなかったわけではない。例えばロシア、イギリス、韓国、インド、日本を含むほかの国の首脳にはタラップが用意され、赤い絨毯も敷かれていた。 現在、アメリカの支配システムは大きく揺らいでいる。1970年代から経済は疲弊、それを投機の拡大で誤魔化してきたのだが、すでに限界に達している。しかも、投機を拡大させる過程で自国における生産を放棄してしまった。同じ問題をイギリスや日本も抱えている。そうした流れを加速させ、固定しようとしている協定がTPP(環太平洋連携協定)、TTIP(環大西洋貿易投資協定)、TiSA(新サービス貿易協定)だ。 本ブログでは何度も書いてきたが、ソ連消滅直後の1992年初めにネオコン/シオニストは国防総省のDPG草案という形で世界制覇プランを作成した。世界の支配者になることで全ての問題を解決しようと考えたのだろう。 ライバルのソ連を倒して自分たちは唯一の超大国を支配していると認識、それ以降は潜在的なライバルと見なされた旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなどを押さえ込み、膨大な石油資源を抱える西南アジアを支配しようとする。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたことを利用し、アメリカの支配層は中東/北アフリカに対する軍事侵攻を開始、選挙で選ばれたウクライナの政権もクーデターで倒した。プランにしたがっての侵略だろうが、現在、そのプランは破綻している。それにもかかわらず、軍隊や情報機関を使って世界制覇を実現しようとしている。 ロシアが核戦争を回避しようとしていることを利用、軍事的な圧力を強めて核戦争へ向かう姿勢を見せることで恫喝、その一方で中国に対しては、その基本戦略である一帯一路(シルク・ロード経済ベルトと21世紀海のシルク・ロード)を破綻させようとしている。その海上ルートの始まる南シナ海で軍事的な緊張を高めている目的はそこにある。 陸上ルートは中央アジアを通過するが、その中央アジアでアメリカは傭兵のアル・カイダ系武装集団を使った工作を進めているようだ。9月2日にウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領が死亡、混乱の引き金になるのではないかと懸念する声もある。 メディアや映画を使ったプロパガンダ(一種の幻術)、自国の軍隊や情報機関だけでなく傭兵を使った暴力、投機市場(カジノ)を利用した資金操作、そして基軸通貨を発行できるという特権などでアメリカは維持されているのだが、庶民の生活は惨憺たるもの。統計数字の操作では騙しきれなくなっている。 しかも、すでにプロパガンダの実態は知られはじめ、暴力装置もロシア軍によって思惑通りには機能していない。カジノは新たな資金の流入がなければ破綻する。日本だけで支えられるものではない。すでにロシアや中国はドル決済をやめているようで、そうした流れが世界に広がる可能性は小さくない。こうした苦境をアメリカの好戦派は暴力を使って強行突破しようとしているが、それはアメリカへの反発を強めることになり、自らの首を絞めることになりそうだ。 アメリカは自分たちが圧倒的な力を持ち、誰も逆らえないという幻想を作り出すことで他国を威圧してきた。今回、中国が行った行為はそうした幻想を打ち砕くことを目的としているのかもしれない。アメリカは大したことがないと気づく国が増えたなら、その支配力は急速に弱まる。
2016.09.05
安倍晋三首相をナショナリストだと言う人がいる。ネイション(国民、民族、共同体など)を一体のものだという考え方をナショナリズム、そうした考え方をする人をナショナリストだとするならば、安倍は富と権力を一部の人間に集中させ、圧倒的多数を被支配者として食い物にしようとしているだけでなく、国民や国土をアメリカの支配層へ贈呈しようとしているわけで、ナショナリズムとは相反する思想の持ち主だということになる。 ちなみに、ネイションは一体でなく、支配者としての資本家、被支配者としての労働者に分かれると考えるのがコミュニズムや社会主義である。日本では天皇を崇拝する人をナショナリストと呼ぶこともあるようだが、それは天皇派、あるいは皇党派。ナショナリストにとって一部の特権階級が庶民を食い物にするシステムを肯定する人びとは敵である。 本ブログでは何度も指摘しているように、戦前の日本はウォール街、つまりアメリカの巨大資本に支配されていた。その切っ掛けは1923年の関東大震災。その復興資金を調達するため、日本政府はアメリカの巨大金融資本、JPモルガンに頼ったのだが、それ以降、日本はウォール街の影響下に入り、最近の用語を使うならば、新自由主義を導入する。 その当時、日本で最もJPモルガンと親しくしていたのは井上準之助だと言われている。「適者生存」、つまり弱者切り捨てを主張していた井上がJPモルガンとの関係を深めるのは1920年の対中国借款交渉以降。浜口雄幸内閣と第2次若槻礼次郎内閣で大蔵大臣を務めている。 震災後、1925年に「治安維持法」が制定されて思想統制が本格化、27年には第1次山東出兵、翌年に第2次山東出兵と張作霖爆殺。日本共産党関係者らが大量に検挙されたのも1928年だ。 1931年には、関東軍参謀の石原莞爾中佐(当時)と板垣征四郎大佐(当時)が立案した計画に基づいて満鉄の線路が爆破され、いわゆる満州事変が勃発、32年には日本の傀儡国家である満州国の建国が宣言された。 この1932年にアメリカでは大統領選挙があったのだが、ウォール街が支援していた現職のハーバート・フーバーがニューディール派を率いていたフランクリン・ルーズベルトに敗れてしまう。ニューディール派は資本主義を延命させるため、大企業の活動を制限、労働者の権利を拡大しようとしていた。ファシズムや植民地にも反対している。それに対し、ウォール街はファシズム化で支配体制を維持しようとした。 そうした事態に慌てたウォール街はJPモルガンを中心として、1933年から34年にかけて反ニューディール派のクーデターを計画する。これは海兵隊の伝説的な軍人、スメドリー・バトラー退役少将の議会証言などで発覚、記録に残されている。 1932年には、アメリカ大使としてジョセフ・グルーが日本へ赴任してくる。この人物のいとこはジョン・ピアポント・モルガン・ジュニアの妻、つまりJPモルガンは自分たちの強力な代理人を日本へ送り込んできた。グルーと最も親しかった日本人のひとりが松岡洋右。松岡の妹が結婚した佐藤松介は岸信介や佐藤栄作の叔父にあたる。 1932年までの日米関係は基本的に今と同じで、日本政府の新自由主義的政策は不況を深刻化させた。そのころ、東北地方では娘の身売りが増え、欠食児童、争議などが問題になっている。支配層は裕福になり、庶民は貧困化、つまり貧富の差が拡大している。 こうした政策を推進した浜口雄幸首相は1930年11月に東京駅で銃撃されて翌年の8月に死亡し、32年2月には大蔵大臣だった井上準之助が本郷追分の駒本小学校で射殺された。その翌月には三井財閥の大番頭だった団琢磨も殺され、5月には五・一五事件が引き起こされている。そして1936年2月には二・二六事件だ。 ウォール街の戦略に従うならば、攻撃する相手はソ連。1939年に日本軍は中国東北部とモンゴルの国境地域でソ連軍と衝突している。ノモンハン事件だ。参謀本部と陸軍省の意向に反して関東軍が戦闘を拡大したが、ソ連軍の機械化部隊が攻撃で日本軍は壊滅してしまった。このソ連軍との衝突は日清戦争、日露戦争、韓国併合、シベリア派兵、満州事変という流れの中で引き起こされている。 ドイツがソ連に攻め込むのは1941年。「バルバロッサ作戦」だ。当初、ドイツ軍が優勢だったが、この時にアメリカやイギリスの支配層は傍観している。ルーズベルト大統領はソ連を支援する意思があったようだが、実行できなかった。 ところが、1942年の冬に形成は逆転、43年1月にドイツ軍はソ連軍に降伏する。これを見てアメリカは慌てて動き出し、1944年6月にはノルマンディー海岸に上陸する。オーバーロード作戦だ。これを「反攻」と呼ぶのは適切でない。この時点でドイツ軍の主力は崩壊していたからだ。 バルバロッサ作戦が始まった半年後、日本軍はハワイの真珠湾を奇襲攻撃してアメリカとの戦争に突入するが、その翌年までグルーは日本に滞在、離日の直前に岸信介からゴルフを誘われて一緒にプレーしている。(Tim Weiner, "Legacy of Ashes," Doubledy, 2007) グルー/JPモルガンという座標軸で流れを見るならば、松岡も岸も井上も浜口もウォール街の協力者、あるいは手先にすぎない。つまり、ナショナリストの敵だ。こうした戦前の日米関係を安倍晋三政権は目指している。
2016.09.04
ロシアのウラジオストクで9月2日から3日にかけて「東方経済フォーラム」が開催された。参加者は日本、中国、韓国、インド、ベトナム、シンガポール、オーストラリア、アメリカから集まったというが、中でも重要な国は日本、中国、韓国の3カ国だろう。中国はすでにロシアと緊密な関係を築いているので、残るは日本と韓国ということになる。日本からは安倍晋三首相、韓国からは朴槿恵大統領が出席した。 日本で語られる「北方領土」が主要テーマになることは考え難く、日本政府も考えていなかったはずだ。フォーラムの開催に合わせ、ブルームバーグはロシアのウラジミル・プーチン大統領にインタビュー、そのなかで、日本との経済関係を大きく進展させるために千島列島のひとつと交換するような取り引きはあるかと聞かれ、プーチンは領土の取り引きはしないと答えた。(ブルーバーグがアップロードした映像のタイトルは適切なものでなく、中身を見ていただきたい。) 続けて、プーチンは平和条約が重要な課題だとしている。かつて、ロシアを訪問した岸田文雄外相に対してセルゲイ・ラブロフ露外相は平和条約締結の前提として、日本政府が歴史的な事実を認めることを求めている。 そうした歴史的な事実には日本の降伏も含まれている。言うまでもなく、日本が連合国に降伏したのは1945年9月2日。この日、政府全権の重光葵と軍全権の梅津美治郎が東京湾内に停泊していたアメリカの戦艦、ミズーリで降伏文書に調印したのだ。降伏したということはポツダム宣言を受け入れたことを意味する。 ポツダム宣言は「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」と定めている。「カイロ宣言」の条項を履行し、日本の主権は本州、北海道、九州、四国と連合国が決める周辺の小さな島々に限定するとしているのだ。確定しているのは本州、北海道、九州、四国だけである。この段階で日本は千島列島の領有権を放棄したことになる。 また、カイロ宣言には「千九百十四年ノ第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国ガ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト竝ニ満洲、台湾及膨湖島ノ如キ日本国ガ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト」とある。 鳩山一郎や田中角栄にように、ソ連/ロシアや中国と友好的な関係を築こうとした政権もあるが、基本的に消極的。アメリカの支配層に逆らいたくないからで、菅直人、野田佳彦、そして安倍晋三の3政権は積極的に中国との関係を破壊してきた。当然、経済活動にも支障を生じさせた。 こうした政策は日本企業の利益にも反するもので、トルコと同じように、アメリカへの従属と利益の確保で生じた矛盾が拡大、限界が近づいている。日本経済団体連合会もロシアとの経済交流を盛んにしたいと考えている。当然のことだ。戦争ビジネス、原発ビジネスで問題は解決できない。 ロシア側は日本に対し、具体的な行動を求めている。経済界向けのパフォーマンスはロシアに通用しない。まして、「おもてなし」でロシアを懐柔できるとは到底思えない。
2016.09.03
トルコはアメリカの戦略にとって重要な位置にあり、シリア侵略の拠点としても使われてきた。そのトルコとアメリカとの関係が揺らいでいる。背景には長引く対シリア侵略戦争によるトルコ経済の疲弊、直接的には7月15日のクーデター未遂がある。 日本でもアメリカの好戦派に従属している一派が田中角栄時代から続く中国との友好的な関係を破壊、経済に大きなダメージを与えた。ロシアからエネルギー源を購入すればコスト的にも大きなメリットがあるが、アメリカの巨大資本が怖くてできていない。そのアメリカの好戦派は中東で戦乱を拡大しようとしているわけで、そうなると日本は完全に破綻する。本来なら中東に平和をもたらし、ロシアや中国との交易を拡大する必要があるのだが、安倍晋三政権も直前の民主党政権と同じように、やっていることは逆だ。 経済の破綻を避けるため、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は6月下旬にロシアのウラジミル・プーチン大統領に対してロシア軍機の撃墜を謝罪し、7月13日にはトルコの首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆、その2日後の武装蜂起だった。 シリアの体制転覆を目的とした侵略で重要な拠点として機能した来たのがトルコにあるインシルリク基地。主な利用者はアメリカ空軍とトルコ空軍で、イギリス空軍やサウジアラビア空軍も使っているとされている。クーデター未遂後、その基地を約7000名の武装警官隊が取り囲んだと伝えられ、基地の司令官が拘束されたと伝えられている。7月31日にはアメリカのジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長が急遽、トルコを訪問した。 このインシルリク基地には戦闘機や爆撃機に搭載できる核爆弾B61が50発から80発ほど保管されていると言われていたが、それらをルーマニアの基地へ移動させつつあるという。トルコを信頼できなくなったことが理由だとされているが、ルーマニアは大きな問題を抱えている。新たなミサイル基地の建設だ。 防衛が目的だとしても、先制核攻撃で破壊し損なったミサイルの報復に対応するために使えることは明らかだが、攻撃的なミサイルの切り替えることも難しくない。ロシアのウラジミル・プーチン大統領はこうしたミサイルに関し、今は射程500キロメートルでもすぐに1000キロメートルへ伸ばすことができ、2400キロメートルの攻撃的なミサイルへ切り替えることができると批判している。そうしたミサイル発射施設のある国へ大量の核兵器をアメリカは持ち込みつつあるわけだ。 現在、ヒラリー・クリントンを担いでいる勢力は核戦争でロシアや中国を脅しているのだが、アメリカ支配層の内部には別の流れもある。それが顕在化した一例が、ネルソン・ロックフェラーと親しいヘンリー・キッシンジャーのロシア訪問。2月10日にキッシンジャーはロシアでウラジミル・プーチン露大統領と会談、22日にはシリアで停戦の合意が成立した。 デイビッド・ロックフェラーと親しいズビグネフ・ブレジンスキーもアメリカが地球規模の帝国ではなくなったと認めている。1992年の初め、国防総省のDPGという形で作成された世界制覇プランに執着できる状況ではないと認識しているのだが、ヒラリー・クリントンを担いでいる勢力は核戦争の脅しでロシアや中国を屈服させるという凶人理論、狂犬戦術をあくまでも推進しようとしている。 キッシンジャーがロシアを訪問した直後に成立した合意では「テロリスト」を除外しているが、アメリカの好戦派はアル・カイダ系武装集団を「自由の戦士」に仕立て上げようとしている。 8月16日には、アメリカ軍の広報担当のクリストファー・ガーバー大佐が記者会見で、自分たちが戦っている相手はダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)だけであり、アル・ヌスラではないと明言している。最近、アメリカはダーイッシュを悪役として残す一方、アル・ヌスラなどのタグを「ファテー・アル・シャム(レバント征服戦線)」という新しいタグに付け替え、「善玉」に仕立て上げようとしている。 武装蜂起が鎮圧され、アメリカとトルコとの関係は悪化したが、トルコを手放すことのできないはアメリカは8月24日にジョー・バイデン副大統領をトルコへ派遣するが、副大統領がトルコへ到着する数時間前、トルコ政府は特殊部隊を含む戦車部隊をシリアへ侵攻させた。その際、アメリカ軍が主導する連合軍が空爆で支援したようだ。 ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)やクルド人勢力(民主統一党)を攻撃し、ジャラブルスなどを制圧することが目的だというが、戦闘らしい戦闘はなかったとも伝えられている。「テロリスト」を攻撃するという名目でシリアの一部を制圧しようとした野ではないかとも言われている。 こうした軍事侵攻に対し、シリア政府は侵略行為だと非難、ロシア政府も両国の合意に違反していると怒っている。そこでトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は27日にロシアのウラジミル・プーチン大統領へ電話して話し合ったという。エルドアン大統領は窮地を利用して国内の反対勢力に対する弾圧を強化、ロシアとアメリカを手玉にとって自らの利益を図ろうとしているのかもしれないが、それが命取りになる可能性もある。 アメリカ支配層の内部で、キッシンジャーやブレジンスキーのようにネオコンの戦略が破綻していることを認識している人も出たきた。マイケル・フリン元DIA局長のように、シリアで政府軍と戦っているのはサラフ主義者/ワッハーブ派、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団だとし、バラク・オバマ政権が宣伝してきた「穏健派」は存在しないと考え、ダーイッシュの勢力を拡大させたのはオバマ政権の決定が原因だと指摘する人もいる。最近、ハッキングされた電子メールが公表されているが、これはアメリカの情報機関の内部からリークされていると推測する元NSA幹部もいる。 大統領選の投票日が近づいているが、アメリカ支配層の内部で対立が激しくなる可能性があり、劣勢の勢力が何らかの事件を仕掛ける可能性もあるだろう。2001年9月11日の前、ネオコンは決して圧倒的な力を持っていたわけではない。
2016.09.02
1983年8月31日18時26分(UTC。日本時間9月1日3時26分)、サハリン上空で大韓航空の旅客機KAL-007がソ連のSu-15戦闘機に撃墜されたとされている。公式見解に対する疑惑は少なくないが、ソ連だけでなくアメリカも日本も情報を隠しているため、詳細は今でも明らかになっていない。 この旅客機はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港から韓国の金浦空港へ向かう予定だったが、中継地のアンカレッジを飛び立ってから10分も経たないうちに航路からそれはじめ、アメリカ軍が民間機の飛行を許していない「バッファー・ゾーン」、そして「飛行禁止ゾーン」を通過し、ソ連領空を侵犯したのである。 NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)のアラスカ航空指揮規則によると、飛行禁止空域に迷い込みそうな航空機を発見した場合はすぐに接触を試み、FAA(連邦航空局)へ連絡しなければならないと定められているのだが、アメリカ軍は撃墜も予想される飛行禁止空域へ向かう民間機に対して何もアクションを起こしていない。アメリカ軍のスタッフが信じがたいほど怠慢だったのか、NORAD側を誤認させる機材が搭載されていたのか、事前に飛行許可を受けていたということになるだろう。これを含め、この領空侵犯事件には謎が多い。 その当時、アメリカの支配層はソ連との戦争を始めていた。そのひとつの舞台がアフガニスタン。1950年代の初めにアメリカはムスリム同胞団とつながる勢力と結びつき、50年代から60年代にかけてCIAはカブール大学を支援し、イスラム共同体と手を組んで活動を開始、パキスタンのバナジル・ブット首相の特別補佐官だったナシルラー・ババールによると、アメリカは73年からアフガニスタンを不安定化させるため、反体制派へ資金を援助している。(Robert Dreyfuss, “Devil’s Game”, Henry Holt, 2005) そして1978年、まだ王制でイスラエルと緊密な関係にあったイランの協力を得て、アフガニスタン政権を揺さぶる工作をCIAは本格化させた。1977年からアメリカの大統領はジミー・カーターになっているが、その国家安全保障担当補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキーはソ連/ロシアを憎悪、その征服を夢想してきた人物で、その意向が反映されているだろう。1979年4月からCIAはイスラム武装勢力への支援プログラムを開始、その工作が功を奏し、その年の12月にソ連軍の機甲部隊がアフガニスタンへ軍事侵攻してきた。そのソ連軍と戦うために編成された武装集団の戦闘員はムスリム同胞団やワッハーブ派/サラフ主義者が中心だ。 1979年6月にカーター大統領とソ連のレオニード・ブレジネフ書記長は第2次戦略兵器制限交渉(SALT II)に調印したのだが、ソ連軍がアフガニスタン侵攻を理由にして、アメリカ議会は批准を拒否した。カーター大統領はデタントを放棄、ブレジンスキーのアドバイスに従ってソ連の行為を激しく非難する。 カーターの前任者であるジェラルド・フォード大統領の時代、政府内ではリチャード・ニクソン大統領が進めたデタント(緊張緩和)政策に加わっていたグループが排除されている。その粛清で中心的な役割を果たしたのはドナルド・ラムズフェルド大統領首席補佐官とリチャード・チェイニー。この政権でネオコン/シオニストが台頭してくる。 デタント政策に反発したグループの中心にはポール・ニッツェやアルバート・ウールステッターがいた。ウールステッターは核の専門家として国防総省系シンクタンクのRANDで働いていたことがあり、シカゴ大学で教えた学生の中にはポール・ウォルフォウィッツも含まれていた。 粛清では1975年11月にジェームズ・シュレシンジャーが国防長官を解任されてラムズフェルドが就任、ラムズフェルドの後釜にはチェイニーが座った。1976年1月のCIA長官交代は一連の粛清劇の中で最も重要だとされている。ウィリアム・コルビーが解任され、ジョージ・H・W・ブッシュになったのだ。ブッシュをCIAはエール大学時代にリクルート、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された当時にはCIAの要職に就いていた。 コルビーは長官時代、議会でベトナム戦争における住民虐殺作戦「フェニックス・プロ1984年にコルビーは最初の妻と別れ、元外交官のサリー・シェルトンと再婚、それから核兵器凍結運動などに関する講義をするようになったが、96年の春、カヌーで出かけたまま行方不明になり、数日後に遺体が発見されている。 カーター政権の時代、ラルムズフェルドやウォルフォウィッツを含むネオコン系の人びとはフリッツ・クレーマーなる人物の自宅に集うようになる。クレーマーの同志のひとりが国防総省のONAで室長を務めていたアンドリュー・マーシャル。冷戦時代にはソ連脅威論、ソ連消滅後は中国脅威論を主張していた人物で、ネオコンの戦略はこの人物に負うところが大きい。(Len Colodny & Tom Shachtman, “The Forty Years War,” Harper, 2009) 現在、ネオコンは1992年の初め、国防総省内でウォルフォウィッツ次官を中心に作成されたDPGの草案に基づく世界制覇プランに従って動いてきた。いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」だが、それもマーシャルの戦略に基づいている。 ところで、ブレジンスキーがアフガニスタンでの秘密工作を本格化させた1979年にはソ連を悪魔化するプロパガンダも本格化する。その一環として7月にエルサレムでアメリカとイスラエルの情報機関関係者が「国際テロリズム」に関する会議を開いている。 会議にはイスラエル側から軍の情報機関で長官を務めた4名を含む多くの軍や情報機関の関係者、アメリカ側からはブッシュ元CIA長官(後の大統領)、CIAの内部でマーシャルの戦略に従ってソ連に関する誇張した、あるいは間違った情報を流していたチームBを率いていたリチャード・パイプス、「ジャーナリスト」のアーノウド・ド・ボルクグラーブやクレア・スターリングを含む人びとが参加していた。 この後、アメリカは国内のファシズム化を念頭において、ロナルド・レーガン政権では一種の戒厳令計画であるCOGプロジェクトをスタートさせ、2001年9月11日の出来事を切っ掛けにして実際に動き始めた。国外では1960年代から1980年代にかけてイタリアで実行された爆弾攻撃が有名。イタリアの情報機関から協力を受け、「NATOの秘密部隊」であるグラディオが実行していた。 そして1990年代からウォルフォウィッツ・ドクトリンの時代に入るわけだが、その前提はソ連が消滅してアメリカが唯一の超大国になったということ。21世紀に入り、ロシアでウラジミル・プーチンのグループがロシアを再独立させ、この前提は崩れた。ネオコンにとって想定外の展開になったのだが、それでも当初の目論見通り、世界を制圧しようともがいているのがネオコンだ。 2001年からアメリカは「アル・カイダ」というお化けを作りだし、そのお化けを退治するという名目でアメリカに従わない国々を侵略、破壊、そこに住む人びとを虐殺してきた。 1997年から2001年にかけてイギリスの外務大臣を務めたロビン・クックが説明しているように、このアル・カイダはCIAから軍事訓練を受けた「ムジャヒディン」、つまり戦闘員のコンピュータ・ファイルにすぎず、アル・カイダという組織は存在しない。アラビア語でアル・カイダは「ベース」を意味し、「データベース」の訳語としても使われているのだ。 その仕組みを作り上げたのはブレジンスキー。彼はフランスのヌーベル・オプセルヴァトゥール誌からインタビューを受け、ソ連を挑発するために実行した秘密工作について質問された。それに対し、彼は後悔はしていないとした上で、「秘密工作はすばらしいアイデアだった」と答えている。ジミー・カーター大統領に対し、ソ連に「ベトナム戦争」を贈呈する機会が訪れたと伝えたともいう。(Le Nouvel Observateur, January 15-21, 1998) そうした戦争の中で大韓航空機事件は引き起こされたということを忘れてはならない。
2016.09.01
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