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まもなく、群集の力強い歓声に包まれながら、逞しい白馬に跨ったトゥパク・アマルが広場に現れた。
豪華な金糸の刺繍が施された、いつにも増して厳かな黒ビロードのマントと黒服を身に纏い、膝と靴には朝陽を受けて鋭い閃光を放つ金の留め金が付けられ、彼の備える高貴な風貌にいっそうの輝きを添えていた。
胸元では、あの黄金の太陽の紋章が、眩い朝の光の中で、まさしく太陽さながらに煌いている。
そして、彼の周りでは、やはり美しい金糸の入った格調高い黒服に身を包み、艶やかな黒馬に跨ったいつもの側近たちが、トゥパク・アマルを堅く護衛しながら進み来る。
白馬に跨ったまま威風堂々たる身のこなしで壇に上り、トゥパク・アマルは、集まった大群衆を深い礼を込めた眼差しではるばると見渡した。
よくぞ集まってくれた!!
――侵略以降200年間の永きに渡り、徹底的に虐げられ、自尊心を奪われ、すっかり縮こまっていたインカの地の人々が、今、自ら立ち上がらんとしている…――!!
その勇姿が、彼の目には、どのように映っていたことだろうか。
トゥパク・アマルにとっても、その瞬間は、心に激しく迫り来るものがあったに相違ない。
彼は朝の瑞々しい太陽が輝く蒼い天空に向けて、高々と右腕を振り上げた。
「インカの地のすべての民の復権のために!!」
トゥパク・アマルの地底から湧き上がるような、厳かな、ゆるぎなき声が、天空に、大地に、力強く響き渡る。
それに呼応して、激しく強烈な気迫が、混成の軍団の間に嵐のごとくに波立ち、うねり、漲っていく。
「これより、進軍を開始する!!」
トゥパク・アマルの声に、「オオー!!」と猛々しく呼応する軍団の声は、遥かコルディエラ山脈までをも揺るがすほどの怒涛の力強さで響き渡っていった。
こうして、代官アリアガを処刑した翌11月11日、インカ族、混血児、当地生まれのスペイン人、そして少数の黒人たちから成る混成のインカ軍は、トゥパク・アマルの指揮のもと、一路キスピカンチ郡首府キキハナに向かって進軍を開始したのだった。
ところで、キスピカンチ郡は隣接郡といえども、アンデスの山々を越えながらの進軍は、そう容易なものではない。
その日の晩は野営をし、翌朝のキキハナ到着を目指すことになっていた。
南半球の11月は晩春とはいえ、アンデス高地の夜の冷え込みは厳しい。
この季節、この地では、まだ時に雪に見舞われることさえあるのだ。
インカ軍幹部たちにとって、兵に加わった人々が慣れない環境の中でも安全に休息が取れるよう、寝所の確保や食糧面の補給など、手配しなければならぬことは多かった。
トゥパク・アマルの指示のもと、各連隊の長たちは、兵たちの野営が滞りなく進むよう手配に忙しく動いていた。
特に、戦など無縁だった義勇兵たちへの目配りは、細やかになされなければならない。
経験が無いのはアンドレスも同様で、ビルカパサが細かな点まで丁寧に彼に助言を行っていた。
今やアンドレスも一人の長として、配下の兵を――哨戒に立つ者、天幕を張る者、炊き出しをする者などを――適切な指示によって統率し、迅速に動かしていかねばならぬ立場である。
そんな彼の仕事が一段落する頃には、月もすっかり高くなっている。
「ふう…。」と、白く光る月を見上げながら小さく一息ついたアンドレスの傍で、ビルカパサがあたたかい眼差しを送っていた。
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