はにわきみこの「解毒生活」

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2005.04.21
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 滝のように水が流れ落ちるフロントガラスの前にたち、ドライバーズシートに寄りかかる龍一の注意を引いた。龍一は慌ててドアを開けて飛び出してくる。

「どこ行ってたの? そんなに濡れて」
「まあ、ちょっと、散歩ってところよ。スコールってこんなに凄いものだと思わ…」

ピカッ! 海の色が一瞬にして白に変わるほどの閃光がグレイの空を切り裂いた。続いて、ガラガラ、ドカアンという轟音が響く。

 体がびくりと反応し、しゃべりかけていた言葉が引っ込んだ。
 龍一は傘を開くこともせず、私の体に手を回すと屋根のある場所を目指して走り出す。
 二人揃って部屋に入ったときには、龍一の体もまだらに濡れていた。

「ずいぶん早かったじゃない、車を持ってきてくれるの」
「雨が来そうだったから、早めに上がったんだ。それより阿南、ちゃんときがえな」


 シャワーを浴びるついでに着ていたものを洗濯し、水を絞る。

 部屋に戻ると、龍一は奈々のノートを開いて読んでいた。

「阿南、これ、読んでみた?」
「それが…。あんまりたくさんは読めなかったの。昼間あれだけ寝たのに、あれからもまた眠気が来て。ビールなんか飲んだせいかしらね?」

 龍一はほほえみの消えた固い表情で言った。

「オレ、阿南に聞きたいことがあるんだよ」
「なあに?」
「阿南の誕生日っていつだ? 生まれたのは何時?」

「やだ、龍ちゃんだって知ってるでしょ。1月1日、元旦よ。時間は夜の8時で、場所は川越。ホロスコープを作るのに必要なのよね?」

「ああそうだ。東華の誕生日は知ってるよね」
「もちろん。8月5日、東華は獅子座の女よ」


「え?」

奈々の誕生日はいつ?

 一つ年下の妹、奈々。
 私があの子と疎遠になったのは、あの子が20歳の時だった。それまではそれなりに仲良くしていたはずだった。






「阿南は知らないだろう。奈々がいつ、どこで生まれたのか」

 頭の奥が白くかすんで、立っていることがつらくなってきた。地面が揺れる。

「しらない…」

 龍一は、奈々のノートに挟んであった写真をとりだして、私に見せた。

 子供時代の私たちが写っている。真ん中にスポーツ刈りの龍一。
 右にはおかっぱ頭の東華。左側にいるのは…私だ。
 これは、夏休みに田舎に行ったときの写真。

「奈々は写ってる? どうして奈々がいないのか知ってる?」

 確かにいない。一つ違いなら共に行動していてもおかしくないはずなのに。それともこの写真は、奈々がシャッターを切ったのでは? 慌てる必要もないのに、私の心臓はドキドキと音を立てた。

「阿南は昨日、奈々の夢を見たって言ってたね。奈々のヘアスタイルは? 奈々はどんな顔をしてる?」

「奈々は…。長い髪をしてる。顔は私によく似てる」

 口は開くのだが、ゆっくりとしか言葉がでない。どうしてこんなに重苦しく感じるの?

「阿南、どうして今まで奈々のことを避けてたか、わかる? どうして思い出さないでいたのか、わかる?」

 私は力無く首を振った。考えないようにしてきたもの、あんな子の事なんか。

「奈々の誕生日は、1月1日だ」

 え? どういう意味? 偶然1年後の同じ日に生まれた? それとも私たちは双子だったとか? そんな大事なことを忘れるわけがないじゃない!

 頭が混乱して、膝がふるえる。
 龍一は一歩踏みだして私の肩を両手でつかむと、真剣な眼差しで言った。

「奈々は、きみだ。阿南が、奈々なんだ」

 稲妻が一瞬部屋の中を白く照らし、その後を追うように、轟音が鳴り響いた。





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最終更新日  2005.04.22 09:40:19


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