♪ 芸人の悲しき性と生きざまの上に築かるる芸といふ華
「話の特集」という雑誌に五年間連載していたものを、「芸人」「役者」「タレント」の三部に分けて出版したもの。昭和40年に芸人のエピソードをコレクションしようとメモしたのが始まりだった。
単行本として持っていたが知人に貸して紛失してしまい、随分後になってからネットで検索して文庫本を手に入れた。
その内容がとてつもなく面白い。極一部を抜粋してみると・・・・
横目屋助平という芸人。自分の入れ歯が調子がいいというので愛犬を総入れ歯にしてしまった。
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ある歌舞伎役者のところに藤山寛美から楽屋見舞いがとどいた。とどいたのは美しい芸者で、その衿のところに「楽屋見舞い」と、書いてあった。
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桃中雲右エ門という人。弟子にしびんを持たせて、人前でも平気で小便をした癖のある人。その横紙破りの自信は舞台の横に「拍手喝采御無用!」という紙を張り出していた。
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「アイスキュロス”縛られたプロメテウス”とアテナイ民主政についての一考察」早大文学部史学科西洋史を卒業した吉永小百合の卒業論文である。
大学を卒業することを奇行というのはあてはまらないだろうが、あえてここに書いたのは、芸人の世界における奇行というのが世間一般の常識では理解できないだけで当人たちは奇をてらっているのではなく、人間本来のあり方だと信じているからである。
女優が大学に行ったって何の不思議はないし、ましてや卒論を書くのは当然のことなのに、それが吉永小百合だと週刊誌に書きたてられる。
その書き方の精神は奇行としかみていないのである。他人の行動が奇行にみえることは、イメージの貧困以外にない。
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ドライブしていて、大きな川岸に出た大橋巨泉。
この川幅はどのくらいあろうという言葉に、車を停めるとトランクからゴルフクラブをとりだし、ボールを置くとスウィング一閃、そのボールの行方をながめて”川幅は250ヤードである”。
芸人、このぐらい気障でありたい。
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男子用化粧品がよく売れる今日この頃、だが明治の男性でマニキュアまでした洒落男がいる。
その名を滝廉太郎。彼が『荒城の月』や『箱根八里』を作曲したのは22歳の時である。ついでながら、日本で最初にアイ・シャドウをつけた女性は淡谷のり子。
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小学生がたった一人、中国の青島から東京へやってきた。
背負ったランドセルの背中に、東京での宛名が書いてあり、彼はそれを寝る間もはずさなかった。
生きていた小包、中村八大である。
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中山晋平は無名時代の美空ひばりがビクターに売り込みに来た時、テストして落としている。
その後、彼女はコロムビアのドル箱になった。
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浅草オペラの全盛時代。
金竜館の楽屋口に貼ってあった注意書き。「犬、猫、刑事入るべからず」
楽屋はアナーキストのたまり場でもあった。
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坂東妻三郎は、若い頃、その他大勢で出演していても、決してカメラに顔を写させなかった。将来、主演俳優たらんとしていた彼は端役で出ている自分の顔を観客に覚えられないように努力していたのだ。
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近藤勇が首を斬られる時、竹矢来を囲む大勢の観衆の前でゆっくりと、ヒゲを剃ってみせたという。
また、死刑台に登る死刑囚にカメラを向けると冷静に堂々と歩くという。実際の観客、レンズを通した観客の目を意識すると人間は精一杯の演技をしてみせるのだろうか。
となると芸人は芸人意識を持った時から人生を演じるのだろうか。素顔まで演じているとすれば、実際の演技に関してもっともっと反省、修行してほしい。せめて私生活と同じ程度に。
ほんの一部を抜粋してみたが、ことほど左様に珍談奇談が満載で、芸人の性とその凄まじい生きざまに驚かされること多し。
今の若い人には分からない話も多いが、邦画が洋画を凌ぐ人気の今、却って新鮮な驚きがあるだろうと思う。
こういう先人がいて今の芸能界がある。それにしても今の芸能界が如何に恵まれているか、或いは別な見方をすれば如何にぬるま湯的な世界はが分かる。
仲間うちで受け合って、拍手し合って大金がもらえ、言いたい放題してはちやほやされるタレントたち。
浄瑠璃や歌舞伎の世界は、今も昔と変わらぬ厳しい世界を維持している。それらを同じ鍋に入れて「芸能人」呼ばわりするのは憚りたいもの。
この本の巻末には、出典の元になった資料の一覧が載っている。その数840以上。
他の「役者その世界」「タレントその世界」もこれに劣らず面白い。芸能史としても興味も広がるし、人生の参考になる話もたくさん出てくる。
「永六輔」は、六八コンビで多くのヒット曲を作詞しているのはご存じの通り。
黒い花びら (作曲:中村八大、歌:水原弘 他)
黄昏のビギン (作曲:中村八大、歌:水原弘 他)
上を向いて歩こう (作曲:中村八大、歌:坂本九 他)
帰ろかな (作曲:中村八大、歌:北島三郎 他)
見上げてごらん夜の星を (作曲:いずみたく、歌:坂本九 他)
おさななじみ (作曲:中村八大、歌:デューク・エイセス)
いい湯だな (作曲:いずみたく、歌:デューク・エイセス 他)
女ひとり (作曲:いずみたく、歌:デューク・エイセス 他)
筑波山麓合唱団(作曲:いずみたく、歌:デューク・エイセス)
こんにちは赤ちゃん (作曲:中村八大、歌:梓みちよ 他)
遠くへ行きたい (作曲:中村八大、歌:ジェリー藤尾 他)
二人の銀座 (歌: 和泉雅子・山内賢 他)
ザ・ベンチャーズの "GINZA LIGHTS"が原曲。
今夜はヘンな夜 (作曲:もりばやしみほ、歌:もりばやしみほ + ハイポジ)
夜はひとりぼっち (作曲:もりばやしみほ、歌:もりばやしみほ + ハイポジ)
故郷のように (作曲:中村八大、歌:西田佐知子)
初めての街で (作曲:中村八大、歌:西田佐知子) - 菊正宗酒造のコマーシャルソング
万葉集(作曲:中村八大、歌:植木等)
レット・キス (ジェンカ) (作曲:ラウノ・レティネン、歌:坂本九)
フィンランドの楽曲 "Letkiss" (または"Jenkka") が原曲。
若い季節 (作曲:櫻井順、歌:ザ・ピーナッツ)
NHKのテレビドラマ『若い季節』の主題歌。
明日咲くつぼみに (1997年、作曲:久米大作、歌:三波春夫)
近鉄の歌(作曲:中村八大、近畿日本鉄道の社歌)
様々な言動で世間を騒がせた人だが、この「芸人、役者、タレント」のエピソードを集めた本の出版は彼の最も大きな功績だ、と私なんかは思っている。
◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」と
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題してスタートすることにしました。
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