遠恋しながら読書の日々。

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Jan 24, 2004
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Nemesis (確か邦題は、復讐の女神)
Sleeping Murder (スリーピング・マーダー)
At Bertram’s Hotel (バートラムホテルにて)
The Murder at the Vicarage (牧師館の殺人)
の4作。

あたしって一時ホントにクリスティ凝ったし、結構読んだはずだったんだけど、この中で牧師館の殺人以外は読んだことなかった。(でも、牧師館の殺人はジョーンヒクソン主演のテレビ映画版をビデオに持ってるぜ。)

Anyway,クリスティに出てくる探偵と言えば。
エルキュール・ポアロ
ミス・マープル
トミーとタッペンス
パーカーパイン(←これ意外に好き。異色で)
ハーリー・クイン
etc…。(あと思い浮かばない。なんか他にあったりするかしらん。あ。バトル警視。)

その中でも昔はポアロが一番好きだった。その次がトミーとタッペンスかな。ポアロは個性的で、うぬぼれてて、滑稽で、一流の探偵で、だから事件も派手でいかんせん面白かったのだ。だから、最終作でポアロがあんな死に方をした時には、唖然としたし、かんなり悲しかった。最終作でミスマープルが生きてることを知ってたので尚更むかついたものでした。

しかし。最近になって、ミスマープルが断然面白いような気がしてきた。まあ、ポアロに飽きたのもあるんでしょうが。

ミスマープルはSt.メアリ・ミードという小さな村に住む独身のお婆さん。やせてて背が高く、真っ白な髪にピンクの頬青い目の(確か)一見典型的な優しそうな老婦人で、村からほとんど離れず、静かな生活を好み、庭いじりと近所のご婦人達とのお茶の時間のゴシップが専らの趣味。一般的な若者や時代に関するものの見方はかなり古風(ビクトリアン?エドワーディアン?まあいいや。)。

で、この一見ぼんやりしたお婆さんが実は名探偵と言う設定。彼女が始めて登場する「13の謎」(もしくは「火曜クラブ」)は傑作だ。実際の事件を元に推理ゲームをする6人。集った堂々たる各界代表者達(推理小説家、芸術家、元警視総監、医師、牧師)尻目に全ての謎をたった一人ですばやく解いてしまったのは(安楽椅子探偵ですな)隅に座って編物をしていたミス・マープル!!
始めは彼女は村から一歩もでたことがない、彼女の人生には何も起こらなかった、自分はもっと人生経験をつんでいる、と思い、彼女がゲームに参加するのにあっけに取られていたほかの面々も次第に彼女の才能に驚いていく…。

それはともかく。
ミスマープルの推理法は常にシンプルだ。
彼女は人間観察に優れている。小さな村という人間社会の縮図で様々な人の種類をつぶさに見てきたからだ。そして似たような事件や人、行動パターンをすぐ思い浮かべることができる(修正可能)。
人の醜い部分や悪人を冷静につぶさに観察し、どんなに善人の中にも同じような心の揺らぎがあることをこれ以上無いほど知っている。
もっとも彼女にいわせると、大抵の人間は「極端に悪者などではなく、只愚かなのだ」とのことだが。
また、「人がこういった」り、「自分で自分をこういう人物だといってる」等の発言を信じない。
何人かの人物が同じ証言をしてるか、自分で聞いたかして、はっきりとしたことを集めてそれの上に推理を積み重ねていく。
彼女がゴシップ好きな老婦人と言うことは、彼女が情報を集めるのに非常に有利だ。大抵の人は警察には話さないことも彼女には話してしまう。

そして何より犯罪の解決には小さなこと、例えば、洗濯婦の廻ってくる時間や、お庭の手入れ方、髪の染め方、プディングのお料理方法、そんな知識が大きな役割を果たすことをも知っている。

この優しそうな老婦人の人生観は妙に厳格で、冷徹である。おそらくクリスティが年を経るとともに、彼女の作風もまた徐々に深く、暗くなっていく。その作者の人生観の変化に、ポアロもミス・マープルも影響されるが、それが一番大きく花咲いたのはミスマープルにおいてだと思う。後半になるに従って、ミス・マープルの話は少しずつ深みを増し、人の弱さ、邪悪さに対する静かな厭世観ともいえるものに彩られていく。「バートラムホテル…」などはもはや推理小説ですらない。

マープル嬢は、人の本性について「常に最悪の事態」を想定する。「大抵それが一番賢い」からだ。そして、かすかな苛立ちと悲しさを軽く頭をふって追い払うと、老嬢とは思えぬ綿密さと容赦のなさで犯人を追い詰めていく。「復讐の女神」の中では、「邪悪をかぎつける天性の感覚がある」とMr.Rafielに評されたミス・マープルは淡々と数年前の悲しい暗闇に隠された犯罪を暴露し、

「pink fluffy shawl round her neck and perfectly placid face, twittering away and talking like an elderly school marm.
ピンクのフワフワしたショールを首に巻いて、完璧に落ち着いて、年老いて学校の女教師のようにさえずって」犯人に対峙し、

その場にいた全員を「gave them a quite turn (恐ろしさで)ヒヤっとさせ」、警察官に「so gentle- and so ruthless (あんなに穏やかで、にもかかわらずあんなに無慈悲な)」「the most frightening woman i ever met(今まで会った中でもっとも恐ろしい女性」と評される。

つまり、暖かい気持ちを持ちながらも、そして彼女は人間の弱さを認めながらも、その結果起こされた邪悪な出来事を、人の愚かさを、そして不正義を決して許さない。性善説か性悪説かと言ったら間違いなく性悪説だ。


明るくコミカルに颯爽と登場したクリスティのもう一人の探偵ポアロは、やせ衰えしわだらけになり、裁くものと裁かれるもの、罪と許しの業を背負って最期を遂げる。読者はその一生の明から暗へとゆっくりとした移り変わりを、最後まで見届ける。明で始まった人生は、クリスティの老境の人生観にはもう合わない。その一生を終わらすより他はなかったのだ。それ以外のいかなるふさわしい結末があっただろう。

逆にミスマープルは「もう彼女はとうに死んだと思ってたわ!」と言われながらも、依然として、生き続け邪悪さを見据えることをやめない。そんな彼女には死は必要なかったのだ。





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Last updated  Jan 26, 2004 12:12:13 AM
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