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鮮血が緑の芝生に飛び散り、白い獣に襲われたユーリアは右肩を押さえて芝生の上に蹲った。“人間の血は美味くないな・・”白い獣はそう言って唸ると、摩於の方を見ながら舌舐めずりした。「あんた・・一体何者なの?」“我は・・”白い獣が忽然とその姿を消し、代わりに銀髪の美女が立っていた。「妾は鶯蘭。吾子を迎えに来た。」ゆったりとした薄紫の衣を纏った美女は、そう言うと真紅の瞳でユーリアを見た。「吾子・・?」「ユーリに決まっておろう。あの子は何処におる?」「解らないわ。どうして今更あなたは現れたの?」「そなたには関係のないことじゃ。」美女はユーリアに背を向けると、摩於をじろりと見た。「このような所に我が同族がおるとは、奇遇じゃのう。」彼女は衣擦れの音を立てながら、ゆっくりと摩於へと近づいていった。「若君、お下がりください!」槙野はそう言うと、刀の鯉口を切った。「退け、人間よ。そなたには用はない。」「黙れ、妖が!」槙野は刀を上段に構え、美女に斬りかかろうとした。だが彼女はひらりひらりと彼の攻撃をかわしていた。彼女が動く度に領巾(ひれ)が風に舞い、太陽の光を受けたそれはキラキラと美しく輝いた。「おのれ・・」槙野は攻撃をかわされ続け、肩で息をしながら美女を睨みつけた。「どうした、まだやるかえ?」口端を歪め、美女は馬鹿にしたような笑みを槙野に向かって浮かべた。「お主、何を企んでおる?」「妾は吾子に会いたいだけじゃ。」美女はちらりと辺りを見渡しながら、我が子の姿を探した。「ユーリは此処にはいないわ。」「嘘を吐くでない。ここに来れば妾は吾子に・・ユーリに会えると思うて来たのじゃ。ユーリを何処に隠した?」芝生に蹲り、肩を押さえて呻くユーリアの金髪を美女は勢いよく掴むと、彼女はそう言ってユーリアの脇腹を蹴った。「言え、ユーリを何処に隠したか、言え!」「知らないわよ・・」「おのれ・・妾を愚弄しよって、人間風情が!」美女は鋭い爪をユーリアに向けようとした。「お待ちください。」背後から凛とした声が聞こえ、ユーリア達が一斉に振り向くと、そこにはアベルの姿があった。「アベル・・あなた・・」ユーリアは信じられないような表情を浮かべながら、アベルを見た。「ユーリ様が何処におられるのか、知っております。」「そうか。では案内致せ。」美女がそう言うと、アベルは彼女ににっこりと微笑んだ。「ええ。」「アベル?」ユーリアは何処かアベルの様子がおかしいと思い始めていた。「槙野・・アベルさんに、何か黒いものが・・」摩於がアベルを指すと、彼の全身から黒い瘴気が漂っていた。「まさか、彼が・・」槙野は呆然とした様子でアベルの背中を見た。「そなた、名は?」「アベルと申します、鶯蘭様。」アベルはいつものように、美しい笑顔を美女に浮かべると、そっと彼女に手を差し伸べた。「アベル、か・・良い名じゃのう。」美女―ユーリの実母・鶯蘭はそう言うと、目の前に立っている天使のような青年をじっと見た。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月30日
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ユーリが消え、その行方が判らぬまま、数ヶ月が過ぎた。まだアベルの意識は戻らないままだ。「ねぇ、本当に・・本当にユーリの居場所がわかるの?」ユーリアはそう言って、自分と向かい合って座る麗真国皇子・摩於を見た。「うん。多分これを使えば・・」摩於は首に提げていた紅玉を掲げてユーリアに見せた。「ちょっと、見せて頂戴。」「いいよ。」摩於は首から鎖を外すと、それごとユーリアに紅玉を渡した。ユーリアはそれを、太陽の光を時折翳しながら見た。何も仕掛けがないが、これで一体どうやってユーリの居場所が判るというのだろう?「あのね、太陽の光じゃぁユーリ様の居場所は解らないよ。」「そう。じゃぁ月の光では?」「多分解るかもしれない。でも普通の月じゃだめ、紅い月の光でないと。」血の色をした宝石に、紅い光を当てる―妖狐の紅い髪と瞳と同じ色。「ねぇ、アベルの方はどうなっているの?」「あのままよ。意識が全く戻らないの。医者はあのまま植物状態になるんじゃないかって・・」ユーリアは溜息を吐きながら椅子から立ち上がると、太陽の下美しく輝いている白薔薇の生け垣を見つめた。 それは、ユーリのように清浄で美しいものだった。彼の瞳は幻の薔薇と呼ばれた蒼い薔薇のように、神秘的でいて翳りがある蒼い光を帯びていた。だがその瞳は緋に染まっているだろう―もし“妖狐”のユーリが覚醒めていたのなら。「ユーリア様、僕は思うんだけど・・ユーリ様はアベルを傷つけたくなかったんだ。多分、“妖狐”の本性が覚醒めてしまって抑えがきかなくなってしまったんだと思う。」「そう・・」摩於は、テーブルに置かれた紅玉を鎖ごと掴むと、またそれを首に提げた。「紅い月の晩は、確か明後日だったわね? その時に試さないと・・」「うん。」摩於はそう言って、ユーリアを見た。「若君、こちらにおられましたか。」槙野が摩於の元へと駆けてきた。「槙野、どうしたの?」「落ち着いてお聞きくださいませ・・お松の方様が・・身罷られました・・」「母上が!?」摩於の真紅の瞳が、驚きで見開かれた。「ええ。槙に殺されたと。槙は、その罪を己の命で贖(あがな)ったようです。」「そう・・姉上達は?」「ご無事です。あれほど精気を失われていた上様も、お元気になられました。」「良かった。」摩於はほっと溜息を吐いて、涙を流した。その瞬間、彼の銀髪がみるみる漆黒へと戻っていった。「え・・どうして・・?」「何ということだ、変幻が解けるとは!」槙野がそう叫び、幼い主を抱き締めた。「どうしたの、何が起きたの!?」「摩於様の変幻が解けてしまったのです。昔から半妖の者の変幻が解けると、不吉の兆しだと我が国では言い伝えられております。」「不吉の・・兆し・・」その言葉を聞いた時、ユーリアは悪寒が走った。何かが距離を計りながら、ゆっくりと近づいて来る気配がした。間合いを詰めながら、ゆっくりと・・「ユーリアさん、危ない!」摩於の鋭い声とともにユーリアが振り向くと、そこには鋭い牙を剥き出しにした白い狼が彼女へと飛びかかってきた。ユーリアは呪文を唱えようとしたが、遅かった。鮮血が、緑の芝生を濡らした。 同じ頃、集中治療室で生命維持装置に繋がれているアベルの全身を、黒い光の膜が包み始めた。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月29日
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ユーリはうとうとしながら匡惟の帰りを待っているが、彼は一向に帰ってこない。仕事が忙しいのだろうか。「大変ですわ、ユーリ様!」慌ただしい足音がして、式神の綾乃がユーリの部屋に入ってきた。「どうしたんです?」「匡惟様が、槙の方様を殺害したと!」「え・・」突然の知らせに、ユーリは言葉を失った。「それで、匡惟は?」「大丈夫ですわ、きっと帰ってこられますわ。」綾乃はそう言ってユーリに微笑んだ。 一方、正室が自害し、更に側室である槙が殺されたと知った国王の顔は、どこか穏やかだった。「そうか、槙が死んだか・・」そう言った彼の目には、久しぶりに生気に満ちていた。「いかがなされますか、上様? 下手人を・・」「良い。槙は死んで当然の事をしたまで。あのような女に惑わされていた余が馬鹿であったのだ。」槙の妖力によって惑わされ、操られていた国王は、彼女の死によって漸く正気を取り戻した。「美津をここへ。母を目の前で亡くした悲しみは計り知れぬものであろうから、久しぶりに娘と積もる話をせねばの。」「ははっ!」 匡惟は、紅龍を握り締めながら、呆然と槙の骸を見ていた。冷酷無比な心を持ち、今まで悪辣な振る舞いをして国を混乱させた妖女であった彼女の死に顔は、その悪行に似合わず穏やかなものであった。彼女の胸には、紅龍の刃が埋もれていた。匡惟がそっと柄を握り締めてひくと、刃が絡まった肉を断ちながらずるりと抜け、彼女が纏っていた美しい衣を赤黒く穢した。「お前は、わたしを愛していたのか・・それほどまでに・・」彼女が死ぬ直前、匡惟は彼女の涙と、笑顔を見た。そして、彼女が最期までどのような想いを自分に、実父に抱いていたのかを匡惟は初めて知った。 彼女は他人から愛される事を望んでいたが、愛はいつも彼女が手に入れたと思った瞬間に、指の隙間から零れ落ちていった。幾度も、幾度も。「匡惟。」澄んだ声が背後から聞こえて匡惟が振り向くと、そこには美津姫が立っていた。「姫様・・」「わたくしはこれから父様の元に参ります。」「わたしは、どうなるのですか?」「いいえ・・この女の死によって、父様は正気に戻られた。だから誰も、あなたの罪は咎めません、安心なさい。」美津はにっこりと匡惟に微笑むと、守り刀を握り締めながら、彼の元を去っていった。 匡惟がユーリの元に帰って来たのは、もう日付が変わる頃であった。「匡惟・・」夫婦の寝室に入り、ユーリの顔を見た瞬間、匡惟は彼を抱き締めた。「どうしたの、匡惟?」「ユーリ様・・」ユーリはそっと、匡惟の手に触れると、それは冷たくかじかんでいた。「こんなに手が冷たくなって・・暖めてあげる。」ユーリの白くて美しい手が、大きくて逞しい匡惟の手と重なった。彼の優しい体温が、徐々に匡惟の冷えた心と身体を癒してゆく。「ユーリ様、もうわたしにはあなたしかいないのです・・あなたしか・・」「わかってるよ、わたしだってお前しかいないんだ・・」“ユーリ様”また聞こえてくる謎の声をユーリは無視し、夫を優しく抱き締めた。彼の手が自分の衣にかかり、ゆっくりと脱がしてゆくのを、ユーリは見ていた。蝋燭の仄かな灯りが、2人の密事を静かに照らしていた。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月29日
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「今頃あの男はお松の亡骸を抱えて泣いておろうな・・」 お松の方が自害したという報せを受け、宮廷中が大騒ぎになっている中、その犯人である槙の方―槙は、そう言って自室でほくそ笑みながら、お松の方を殺害した懐剣を弄っていた。彼女の脳裡には、彼女が最期まで守ろうとしたあの半妖の子の顔が浮かんだ。人間と妖狐との間に産まれた、穢れた血の子。子が授からぬ自分にとって、いずれは麗真国の王となる摩於は厄介な存在であった。ダブリスへと向かう摩於付の女官に金子を握らせ、彼を殺すように仕向けたのに、あの忌々しい男が邪魔をした。(父上、何故妾の邪魔ばかりするのです? 実の娘よりも赤の他人を選ぶとは・・) 槙は、憎い男―血が繋がった実父である槙野清之介の顔を思い出したが、父の顔はどれも自分に向けられたものではない笑顔を浮かべているものだった。その笑顔は、どれもあの半妖―摩於に向けられたものだった。 父は、自分が幼い頃からあの半妖に付きっきりだった。母・千陽(ちよ)はいつも自分に優しく接してくれていたが、槙はいつも父を求めていた。友人達の父親のように、自分を抱き締めてくれる大きくて逞しい手や、おんぶをしてくれる大きな背中、自分を乗せてくれる力強い肩に、彼女はいつも飢えていた。何故自分の父親は、殆ど家に帰ってこないのか。一度槙は、その事を母に聞いてみた。すると母は、こう言った。“槙、あなたの父君はあなたを愛しておられるのと同じように、摩於様を愛しておられるのですよ。”その時の彼女の笑顔は、どこか寂しげで何かに耐えているように見えた。幼い槙は、父が母を苦しめているのだと勝手に思い込み、父への憎しみを募らせていった。やがて彼女は美しく成長し、入内して国王の側室となった。だが彼は槙の肉体を欲するが、彼の心は正室であるお松の方と、遅くに産まれた摩於だけに向かっていた。父を自分から奪った摩於は、愛する男の心も自分から奪っていったのだ。(妾を愛してくれぬ者はおらぬのか!)愛に飢えた槙は、宮廷陰陽師である匡惟と恋に落ちた。だが匡惟もまた、お松の方に惹かれていき、次第に槙から離れていった。父への憎しみは日に日に深くなり、それとともに自分から何もかも奪っていったお松の方への憎しみが槙の心を浸食していった。(妾は誰にも愛されぬ・・誰にも愛されぬのなら、他人の幸せを奪うまでじゃ!)人から愛されなければ、他人の幸せを奪えばいい―槙はもう、憎しみという名の鎖に雁字搦(がんじがら)めになっていた。その事に気づきながらも、槙は他人を害することを止めなかった。虚ろな心を憎しみで埋める事しか、今の彼女が出来る唯一のことなのだから。極楽よりも自分には地獄が似合いだ―槙はそう思いながら口端を歪めて笑った。「槙ぃ!」ふと顔を上げると、そこにはかつて恋焦がれていた匡惟が怒りで美しい顔を歪ませ、緋の髪をなびかせながら自分を睨みつけていた。「妾を殺しに来たか、匡惟。」そう言って槙は、匡惟を見た。「地獄へ行け、槙ぃ!」匡惟はそう叫ぶと、腰に帯びていた剣の刃先を自分に向けた。その剣が何なのか、槙には解った。それは魔物の血を浴びた退魔の剣―紅龍。かつて愛した者に殺されるとは、自分はなんという果報者だろうか。匡惟は獣のように唸りながら、槙の胸に紅龍の切っ先を沈めた。その時、槙はうっとりとした表情を浮かべながら匡惟を見た。「そなたに、殺されるとはの・・」磨き上げられた極上の黒曜石のような瞳で、彼女は匡惟を見ながらふっとにこやかに笑った。(匡惟・・父上・・妾はそなたらの愛が欲しかった・・)死に間際になって、槙の脳裡に浮かんだのは、父の笑顔だった。「ま・・き・・?」刃を胸に沈め、自分の腕の中で息絶えた女の穏やかな死に顔に、匡惟は驚いた。「お前は、そこまでわたしに愛されたかったのか・・?」妖女として麗真国を恐怖に陥れた女の最期は、呆気ないものであった。だが彼女は、ただ愛情に飢えていただけであったのだ。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月26日
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“ユーリ様”また、あの声が聞こえる。匡惟のものではない、誰かの懐かしい声。“ユーリ様”まるで自分を思い出してくれと言わんばかりの声を、ユーリはそれ以上聞きたくはなかった。(・・煩い・・)わたしはお前なんて知らない。わたしを呼ぶな。“ユーリ様”どんなに念じても、どんなにその声を拒絶しても、その声はユーリの脳内に直接響いてきて離れない。(煩い煩い煩い!)腹立ちまぎれに、ユーリは枕上(まくらがみ)を掴んで床に押し倒した。派手な音がして、それが床に転がった。「ユーリ様、いかがなされました?」音を聞きつけた匡惟の式神が部屋に入って来た。彼女は床に転がっている枕上と、ユーリを見つめた。「大丈夫・・少し、疲れてて苛々していただけだから・・」「そうですか、お怪我はありませんか?」式神はそう言うと、ユーリの白い手を掴んだ。「大丈夫だから。」不意に寒さを感じて身を震わせながらユーリが外を見ると、雪が激しく降り始めており、それが部屋の中に入ってきていた。「蔀戸を閉じて参ります。」「ありがとう。」式神にそう言ってユーリが微笑むと、あの声はもう聞こえなかった。(あの声が誰かのものなんか思い出さなくてもいい・・わたしは今、幸せなんだから・・) 同じ頃、出仕した匡惟は、後宮内を包む黒い不気味な霧を見て寒気がした。「おや、匡惟殿ではないですか?」背後から声を掛けられて振り向くと、そこには職場の同僚が立っていた。「後宮を黒い霧のようなものが包んでいるが・・一体あれは何だ?」「霧、ですか? わたしには見えませんが?」同僚はそう言ってきょとんと首を傾げた。(一体何が、後宮で起きているのだ?) 後宮では、お松の方と槙の方が向かい合っていた。「あなたがこちらにおいでになるとはお珍しい事。お話とは何かしら?」お松の方はきっと槙の方を睨んだ。「あの守り刀は何処にあるの?」「何の事かしら?」「とぼけても無駄よ、あなたが持っているのは解っているのよ。大人しく守り刀を渡せば、許してあげる。」そう言って槙の方は、お松の方を冷たい目で睨んだ。まるでそれは、情を持たぬ蛇のような目であった。「わたくしは何も知りません。」「そう・・」槙の方は諦めたかのようにお松の方に背を向け、隠し持っていた懐剣で振り向きざまにお松の方に向かってその刃を首筋に立てた。お松の方は頸動脈から大量の血飛沫を上げながら、几帳に倒れ込んで動かなくなった。几帳に母の血が飛び散り、その陰に隠れていた美津は思わず声を上げそうになったが、必死に両手を口元で覆い、それを堪えた。「馬鹿な女・・半妖の若君がそこまで愛おしいか? ならばそやつを殺してやる。」槙の方は昏い笑みを浮かべると、部屋から出て行った。「匡惟殿、大変です!」「どうかしたのか?」匡惟が仕事をしていると、同僚が慌てて部屋に入って来た。「お松の方様が・・自害されたと!」「自害だと!?」その報せが嘘であるように祈りながら、匡惟はお松の方の部屋へと向かった。そこには、無残にもちぎれたロザリオと、几帳にもたれかかるようにして息絶えているお松の方の姿があった。(槙め、許さぬ!)母のように慕った女性を殺され、匡惟の髪が怒りで緋に染まった。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月26日
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「え・・今何と?」「何度も同じことを言わせないでいただけるかしら? わたくしはアベルの母親よ。」黒髪の女性はそう言ってユーリアを見た。「あなたがアベルと実の親子だという証拠は何かお持ちですの?」「疑り深い方ね。まぁいいわ。」女性はバッグの中からロザリオを取り出した。ユーリアはそのロザリオと同じものをアベルが持っている事を思い出した。「ここでは何ですから、少し静かな所でお話ししません?」「ええ。」ユーリアはちらりと槙野達に視線を送ると、彼らはユーリアと女性を残して集中治療室の前から去って行った。「ねぇ槙野、あの人が本当にアベルのお母様なのかな?」「さぁ、どうでしょう?」槙野はそう言って、主の肩を叩いた。 病院内のカフェで、ユーリアと女性は向かい合って座り、互いの顔を見ていた。「ねぇ、わたくしはアベルの実母よ。あなたとお話しすることは何もないわ。」「あなたがそうお思いになられても、何故あなたが突然アベルの母親として名乗りを上げたことを聞きたいのよ、わたしは。」「もしかして、金目当てでわたくしが現れたと思っているのね? 安心して頂戴な、そんな事をしなくてもわたくしは裕福だから必要ないわ。」女性はそう言うと、胸をツンと反らして挑むようにユーリアを見た。「アベルは孤児院の前に捨てられていたと、マキノさんから聞いたわ。」「あの頃は、事情があってアベルを捨てたのよ。あの頃わたくしはまだ10代の、馬鹿な少女だったの。奥さんと別れて結婚するという男の言い訳にまんまと騙されてアベルを産んだのよ。でも結局彼は奥さんと離婚せず、わたしは路頭に迷ってあの子を捨てたの。それは今でも後悔しているわ。」女性の言葉を、ユーリアは慎重に聞いた。彼女が嘘を吐いていないかどうか疑っていたが、彼女の目はじっとユーリアを見つめている。「あなたは何故、20年以上経った今になって、アベルの元に来たの?」「わたくしはアベルを産んだ後、親が決めた男と結婚したわ。彼との間に娘を2人産んだけど、跡継ぎは産めなかったの。」「だから、アベルを引き取ると? それは無理よ、アベルはあなたの存在を知らないし、知ったとしてもあなたの元には行かないでしょう。」「どうしてそんな自信満々にそういうことを言い切れるのかしら? アベルとわたくしは血が繋がった親子なのよ?」「一度アベルを捨てておいて、自分の都合が悪くなると彼を引き取るの? そしてあなたの身勝手で彼を捨てる気でいるの?」「腹を痛めて子を産んだことがないあなたに、母親の何が解って? 上から目線で偉そうな事ばかり言わないで。」女性は荒々しく椅子から立ち上がると、カフェから出て行った。ユーリアは、湯気が立ったコーヒーを見つめながら、女性の言葉を思い出していた。確かに自分は“女”になったが、“母親”には一生なれない。妊娠・出産の辛さや痛み、苦しみは女にしか解らない。それを彼女から指摘されて、ユーリアは悔しかった。だが、子どもを捨てておいて平気な顔をして自分の都合が悪いと子どもを引き取りたいと言い出す母親の無神経さには、怒りを通り越してあきれてしまった。(アベルにはアベルの人生があるわ。)アベルの意識がまだ戻らない今、彼を守るのは自分しかいない―ユーリアはそう思い、コーヒーを一口飲んだ。 カフェを出ると、槙野と摩於が外で待っていた。「彼女との話し合いはどうでしたか?」「全く駄目。アベルが意識を取り戻さない限り、あの女と話しても無駄だわ。」「そうでしょうね。アベルさんはこのまま、母親の存在を知らない方がいいかもしれません。」「わたしも、そう思うわ。」ユーリアはそう言って溜息を吐いた。「それよりも、ユーリ様は何処へ消えたのでしょうか?」「さぁ・・解らないわ。」「僕なら、解るかもしれない、ユーリ様の居場所。」摩於は首から提げた紅玉を掲げながら言った。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月26日
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「匡惟様、起きていらっしゃいますか?」御簾の向こうから女の声がしたので、匡惟は夜着を羽織って部屋の外に出ると、そこには彼の式神・綾乃がいた。「綾乃か、どうした?」「あの女が、何かを企んでいるようです。」「あの女とは、槙の方か?」匡惟の言葉に、綾乃は頷いた。「そうか。摩於様が槙野殿とともにダブリスへと向かって以来、妙な動きをしていると思っていたが・・」「お松の方様のお命が危のうございます。彼女に護衛を付けますか?」「いや、それは必要ない。それよりも綾乃、ユーリ様の母親はどうしている?」「鶯蘭様の消息は未だ解っておりません。それよりも匡惟様、いつまであの方をお傍に置いてゆくおつもりですか?」綾乃はそう言って主を見た。「それは、どういう意味だ?」「あの方には妖狐の血が流れております、あなた様と同じように。」「わたしはユーリ様を同族ではなく、1人の人間として愛しているのだ。だから、ユーリ様を妻にした。」「そうですか・・では、これで失礼致します。」綾乃は匡惟に頭を下げると、彼の元から去っていった。匡惟はそっと御簾を捲り、御帳台の中で眠るユーリを見た。この28年間の中で、彼は匡惟が唯一手に入れた、得難い宝だった。 彼もユーリと同じように、妖狐の母と人間の父との間に産まれた半妖であった。妖狐の母は匡惟を産んですぐに亡くなり、父は妻の忘れ形見である自分を目に入れても痛くないほど可愛がった。だが世間は半妖の子に対して冷たい視線を送り、親達は匡惟を怖がって自分の子どもを匡惟と遊ばせなかった為、彼には同年代の友人はいなかった。使用人達や親戚連中は匡惟に妖力が覚醒めると、すぐにそれを封印しようとした。だが、無駄だった。 孤独な思いを抱えながら、匡惟は生きてきた。それが、ユーリとの出逢いで全て変わった。自分と同じ境遇に置かれているユーリと、何か通じるものがあった。戦場で本能に任せて戦う彼の姿を見て、匡惟は瞬時に彼に心を奪われた。欲しいものは全て手に入れる―それは匡惟が28年間生きてきた中で得た自分なりの考えだった。匡惟はゆっくりと部屋の中に入り、眠っているユーリの髪を撫でた。「ア・・ベ・・ル・・」彼の唇を塞ごうとした時、ユーリは“彼”の名前を呼んだ。アベル―ユーリの心を捉えて離さない“彼”。ユーリの中から“彼”の記憶を消した筈なのに、何故かユーリは“彼”のことを時々呼ぶ。“彼”はユーリにとってどういう存在なのか気になるが、今はどうでもいい。ユーリが自分の傍に居れば、それでいいのだ。「ん・・」ユーリの真紅の瞳が、ゆっくりと開いて自分に焦点を合わせた。「お目覚めですか?」「匡惟、起きてたんだ・・」ユーリはそう言って低く呻くと、ゆっくりと起き上がろうとした。「まだ寝ていなければいけませんよ、ユーリ様。昨夜は無理をさせてしまったので。」匡惟の言葉に、ユーリは昨夜の出来事を思い出して顔を羞恥で赤く染めた。「これから出仕します。」「そう・・じゃぁ何か手伝いを・・」夜着を羽織ったユーリは、匡惟の身支度を手伝った。「今日はなるべく早く帰れるようにします。もっとあなたを抱き締めていたいですから。」匡惟はそう言うと、ユーリの唇を塞いで部屋から出た。 一方、匡惟に瀕死の重傷を負わされて集中治療室で意識不明のアベルに、今日もユーリアや槙野達が見舞いに来ていた。「まだ目覚めないわね。」「ええ。」ユーリアが溜息を吐いていると、菫色のドレスを着た黒髪の女が集中治療室の前を通りかかった。「あの、あれがアベルさん?」「ええ、そうですけど、あなたは?」「わたくしはエリザベト、彼の母親です。」にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただければ嬉しいです。
2010年10月26日
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一部性描写が含まれております、苦手な方は閲覧をご遠慮ください。 匡惟の手にひかれ、ユーリが部屋へと入ると、そこには彼の親族がじっと自分を見ていた。「匡惟、これがお前の妻か?」「はい、叔父上。紹介いたします、わたしの妻の、ユーリです。」匡惟はそう言うと、ユーリを親族に紹介した。「初めまして、ユーリと申します。」「匡惟が妻にと思った者はどんな方かと思ったが、これほどまでに美しい方だとは。」匡惟の父親と思しき男がそう言ってユーリに微笑んだ。ユーリが部屋の中を進むと、そこには祝膳が設けられており、自分達が座る高砂席には餅が置いてあった。「今日は目出たい席だ、大いに飲み交わそうぞ!」親戚達の言葉で、匡惟とユーリの所顕(披露宴)が盛大に行われた。 子の刻になり、ユーリと匡惟が寝殿から出て夫婦の寝室へと向かうと、そこには真新しい寝具が置かれていた。「ユーリ様、足元にお気をつけて。」ユーリが内袴と打衣を捌きながらゆっくりと御帳台へと向かうと、後ろから匡惟に抱き締められ、首筋を吸われた。「ん・・」「やっと、あなたをこの腕に抱く事が出来る・・」匡惟はそう言うとユーリの髪を自分の方へと振り向かせると、彼の唇を塞いだ。「んふぅ・・」匡惟の舌が生き物のように自分の口腔内を蠢く感覚に、ユーリは気が狂いそうになった。匡惟の大きくて逞しい手が、ユーリの白い肌の上を優しく這い、愛撫してゆく。「あ・・匡・・」「大丈夫です、怖がらないでください。」匡惟はそっと、ユーリが纏っている衣を脱がし始め、御帳台の上に彼を押し倒した。彼の乳首を舌で愛撫すると、彼は眉根に皺を寄せて声を出さないようにしていた。「嫌・・」「嫌じゃないでしょう? もうこんなに蜜が溢れ出ているのに・・」匡惟はそう言うと、ユーリの袴の帯を解くと、それを一気に脱がしてしまい、奥の蜜壺に指を入れて中を掻き回した。「ああ~!」快感が電流のように全身を襲い、ユーリは大きな声を上げた。匡惟は荒い息を吐きながら、纏っていた直衣を乱暴に脱ぎ、ユーリに覆いかぶさった。その時、指とは違うものが腰に押し当てられ、ユーリは少し恐怖に震えた。「力を抜いて・・大丈夫ですから・・」匡惟はユーリの銀髪を梳きながら、彼の唇を塞いだ。匡惟が自分の中に入ってくるのを感じたユーリは、痛みの余り彼の背中に爪を立ててしまった。だがやがて、痛みは快感へと変わり、ユーリの中でそれが激しく渦巻き始めた。「ユーリ様、愛しています・・誰よりも・・」匡惟が腰を振る度に、ユーリの内部が彼自身を締め付け、それが快感の波となって彼に襲い掛かる。「あああ・・もう・・」ユーリが口端から涎を垂らしながら甘い声で喘いだ。「ユーリ様、愛してます・・」匡惟はユーリの中で絶頂に達した。その瞬間、視界が全て白く染まり、ユーリは意識を失った。“ユーリ様”匡惟のものではない、誰かの懐かしい声がする。それが誰なのか、ユーリは思い出せないでいた。何度も聞いた声なのに。今はただ、匡惟の大きくて逞しい腕や手に抱かれながら眠りたかった。外から冷たい風が部屋に入って来て、ユーリは人肌の温もりを改めて感じながら、ゆっくりと眠りに落ちた。新婚夫婦の寝室には、粉雪が月光に煌めいて白く光った。「匡惟様、起きていらっしゃいますか?」御簾の向こうから女の声がして、匡惟はゆっくりと目を開けた。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月25日
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槙野が摩於とともにユーリアの部屋へと向かうと、そこには暗い表情を浮かべているユーリアの姿があった。「ユーリア様、アベルさんは何処に?」「マキノさん、意識を取り戻されたのね、よかった・・」ユーリアはそう言うと、深い溜息を吐いた。「一緒に来て、アベルの所へ案内するわ。」ユーリアとともに王宮を出て、槙野達は馬車で病院へと向かった。「ここは・・?」病院内に入ると、そこには消毒液の匂いが染み込む廊下を槙野達はユーリアに続いて歩いていった。角を曲がると、そこは「集中治療室」と書かれていた。槙野が窓硝子越しに見ると、そこには生命維持装置に全身を繋がれているアベルの姿があった。「アベルさんに、一体何があったんですか?」「ユーリが、“妖狐”として覚醒めたの。あたし達がユーリの内部から出た時、ユーリは何処にも居なかった。」「ユーリ様が、覚醒めたと・・?」槙野は思わず拳を握った。「槙野、どうしたの?」槙野の隣に立っていた摩於がそう言って怪訝そうな顔で彼を見た。「何でもありませんよ、若君。」「アベルはいつ起きるの?」「さぁ、暫くは眠っていますが、きっとお目覚めになる日が来るでしょう。」「そう・・今日から僕、アベルの為に祈るよ。」摩於はそう言うと、ロザリオを握り締めた。(アベル、早く起きて・・あなたの事を待っている人達が、こんなに居るのよ。)ユーリアは硝子越しに眠っているアベルに向かって語りかけた。 同じ頃、麗真国の後宮では、摩於の実母・お松の方が不穏な気配を感じて怯えていた。「お母様、どうかなさったの?」「何だか嫌な予感がするわ・・美津、こちらに来なさい。」美津は母の言葉に従い、衣を捌きながら彼女の傍へと向かった。「あなたに、これを預けるわ。」そう言うとお松の方は、懐から守り刀を取り出した。それは美しい細工が施されたもので、職人が精魂込めて作った一級品だというのが美津にはわかった。だがそれ以上に、その守り刀の意味を、美津は知っていた。「これは、確か・・」「摩於の本当の母君様のものよ。もし何かあったら、この刀を抜いてあの方をお呼びなさい。そうすれば、あなた達を助けてくださることでしょう。」「はい、お母様・・」美津は母の手から、守り刀を受け取った。彼女は、母が自分の死期を悟っていると感じた。 同じ頃、奉奠に居を構える貴族の邸には、ユーリの姿があった。身に纏っているものは菊の刺繍が施された蘇芳色の打衣で、彼が動く度に衣擦れの音が板張りの床に響いた。「ユーリ様、ご用意は出来ましたか?」「ああ。」ユーリがそう言って御簾を少し捲って外を見ると、そこにはあの喪服姿の男がいた。今日は白の内衣に、海老染めの直衣を纏い、腰下まである長い黒髪は結い上げて立て烏帽子の中へと収めてある。「とてもお似合いですよ、ユーリ様。」「ありがとう、匡惟(まさただ)。」「では、参りましょうか。」男の大きくて逞しい手を、ユーリはそっと握って彼とともに部屋から出た。寝殿には、彼らの為に一族が集まっていた。「あの匡惟が惚れた女とは、一体どのような女だろうなぁ?」「さぁ、あの変わり者を好いた女子も、また変わり者。変わり者同士なら似合いだろう。」一族の者達が色々と話していた時、寝殿に新郎新婦が入って来た。新郎に手をひかれ、恥ずかしげに俯く新婦の姿は、まるで月の女神の化身のようだった。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月25日
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「あなたは一体、誰なのですか?」アベルは、喪服姿の男を見た。「わたしか? わたしは彼の同族だ。君はアベルだね?」「何故、わたしの名を知っているのですか?」「彼の内部を探るうちに、何度も君の名前が出て来たよ。どうやら君は彼に取って大切な存在だったんだね。」血腥い戦場において、涼しげな表情を浮かべながら男はそう言うと、アベルの顔を覗き込んだ。彼の切れ長の黒い瞳が、この状況を楽しんでいるかのように見えて、アベルは腹立たしくてならなかった。「これは一体、どういうことなんですか? この惨状は・・」「彼が引き起こしたものだ。いや、正しくは彼の奥底に眠っていた妖狐の血と力が引き起こしたというべきか。」男は目にかかっている漆黒の前髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、ちらりとユーリの方を見た。 ユーリは長い銀髪を血で染め、揺らしながら次々と敵を斬っていた。彼が纏っている白い服は赤く染まり、紅い瞳を狂気で輝かせながら剣を振っている。(何て楽しいんだ・・人を殺すのは。)ユーリは次々と自分が振う剣の刃に倒れてゆく人間達を見ながら笑った。人間なんて、皆滅びてしまえばいいのだ。誰かがしなければ、自分が彼らを殲滅するだけだ。「ユーリ様、おやめください!」遠くから、誰かの声が聞こえる。その声は、懐かしいものだった。だが、誰の声なのか解らない。「ユーリ様!」再び声が聞こえたが、ユーリは構わず怯える人々に向かって刃を振り下ろした。銃弾の雨をかいくぐり、発砲している兵士達が恐怖に慄く顔を嬉しそうに見ながらユーリはためらいなく彼らに刃を向けた。「ユーリ様!」「無駄だよ。彼はもう君が知っている“人間”の彼ではない。彼はもう我々の仲間だ。だから、君には此処で消えて貰うよ。」男はそう言ってアベルに向かって腕を伸ばしたかと思うと、彼の腹部を貫いた。「ここで暫く寝ておいてね。」アベルはゆっくりと地面に倒れ、意識を失った。 ユーリは夥しい死体の山の上に立ち、肌に付いた人間の返り血を舌で美味そうに舐めた。「随分と、楽しまれたようですね?」闇と同化していた男が、そう言ってユーリの前に姿を現した。「ああ。だってこんなに沢山のご馳走、食べるの初めてだったから。」ユーリは男に抱きつきながら、彼を見た。「お前も食べない?」ユーリは近くの死体から心臓を抉り出し、それを男に差し出した。「遠慮しておきます。それよりもユーリ、もうここから離れた方が良さそうですね。」こちらに向かってくる村人達の気配を感じて、男はそう言うとユーリの華奢な腰を掴んだ。「そうだね。もうお腹一杯だし。」ユーリは男に微笑んだ。男はユーリとともに戦場を後にした。アベルは、腹部に空いた穴から血を流しながら、静かに横たわっていた。「アベル、しっかりして!」ユーリアが瀕死のアベルと共にユーリの内部から脱出した時、そこにはベッドに横たわっているユーリの姿がなかった。「ユーリア様・・」「お願い、アベルを助けて!」医師達は腹部に穴が開いたアベルの返り血を浴びたユーリアの姿に呆然としながらも、手術をした。「一命は取り留めましたが、後は本人の生命力に頼るしかないでしょう。」「アベル、頑張って・・」ユーリアは硝子越しに、生命維持装置に繋がれてベッドに横たわっているアベルに声を掛けると涙を流した。 その頃、喀血し一時意識不明となっていた槙野が目を開けると、そこには心配そうに自分を見つめる主の姿があった。「大丈夫、槙野?」摩於はそう言うと、槙野の手を握った。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月23日
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「ユーリ様のご容態は?」アベルがユーリアに呼ばれ、ユーリの部屋へと向かうと、そこには深刻そうな表情を浮かべたユーリアが、未だ眠り続けているユーリの手を握っていた。「全然よ。脈も呼吸も弱くなっているわ。これ以上放っておいたら死んじゃう。」ユーリアは溜息を吐くと、アベルを見た。「アベル、これからユーリの内部に潜るけど、あなたも来て欲しいの。」「ユーリ様の・・中に?」アベルはユーリアの言葉に目を丸くした。「ええ。もしかしたら、あの子の内部で何かが起こっているのかもしれない。完全にユーリとわたし達が戻れる保障はないわ。それでも、わたしと一緒に行く?」アベルは、ユーリを見た。彼に一体何が起こったのか、何故未だ眠り続けているのかを知りたい。「行きます。」「・・あなたなら、そう言うと思ったわ。」ユーリアはそう言ってアベルに微笑むと、呪文を唱え始めた。「わたしの手を握って。」「はい・・」アベルは、ユーリアの手をしっかり握り、ユーリの内部へと潜った。 目を開けると、そこには緋の炎が辺りを包んでいた。時折化け物の咆哮と、人々の悲鳴が聞こえてくる。「さぁ、ユーリを探すわよ。」「は、はい・・」ユーリアとともに、アベルは血と炎で赤く染まった戦場の中を走った。どこもかしこも無残な死体が転がり、アベルはそれらを見て吐き気を催した。(一体、誰がこんな酷い事を?)「何処にもユーリは居ないわね。一体何処に・・」ユーリアがそう言った時、一発の銃弾が彼女の胸を貫いた。「ユーリアさん!」アベルが慌ててユーリアを抱き留めた。「居たぞ、化け物だ!」「殺せ!」「火あぶりにしろ!」突如2人の前に、狂気で瞳を輝かせた人々が手に鎌や鍬を持って現れた。「やめろ、わたし達は化け物なんかじゃ・・」「煩い、黙れ!」村人の1人が手に持っていた鉈をアベルに向かって振りおろそうとした。アベルが死を覚悟して目を瞑ったが、何も痛みが走らなかった。そっと目を開けてみると、腰下まである銀髪をなびかせながら、ユーリが剣を振っていた。「ユーリ様・・?」アベルの声に、ユーリがゆっくりと彼に振り向いた。ユーリは全身返り血を浴び、白い肌も、銀髪も何もかもが緋に染まっていた。「ユーリ様、一体何があったのですか?」ユーリはアベルににっこりと笑うと、一歩彼の方へと近づいた。「ユーリ様、良かった、ご無事で・・」アベルはユーリの背中に両腕を回し、そっと彼を抱き締めた。その瞬間、ユーリは鋭い犬歯でアベルの首筋に噛みつき、その肉を食い千切ろうとした。「ユーリ様、おやめください!」アベルがユーリを突き飛ばした時、彼の瞳が紅くなっていることに彼は気づいた。「ユーリ様・・?」目の前に居るユーリは、いつも自分に笑顔を向けているユーリではない。「一体あなた様に何が・・」「彼はやっと覚醒(めざ)めたのだ。」緋に染まる戦場の中から、凛とした声が響いたかと思うと、黒の喪服に身を包んだ長身の男がアベルの前に現れた。「覚醒めた・・?」「そうだ。もう誰にも彼は止められない。」男はそう言うと、ユーリがアベルに背を向けて再び戦場へと向かった。「よく見ておくことだ、君が敬愛してやまぬ主の真の姿を。」男はアベルの肩を叩くと、愉快そうに笑った。ユーリは剣を振い、動くもの全てを斬っていった。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月22日
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「誰か、ここを開けてくれ!」堅く閉じられた扉を、ユーリは何度も叩いたが、外からは何の反応も無い。やがて彼の白魚のような手から血が滲んできた。「誰も居ないのか!」ユーリは声が嗄れるまで外に向かって叫び続けたが、外には人の気配がしない。(嫌だ・・独りは嫌だ・・)ユーリは床に蹲り、両足の間に顔を埋めながら泣いていた。誰も自分の事を気にかけてくれない。自分が化け物だから。人々と話す事も、触れあう事も、外に出る事も自分に許さなかった父。血の繋がりはなくとも愛情を注いでくれたのに、途端に掌を返したかのように自分を避けるようになった母。そして自分を“化け物”呼ばわりする人間達。人間界に居場所が無い事くらい、わかっていた。わかっていたのに、そこに縋りついて生きるしか幼い自分にはできなかったのだ。(もうこんな世界、要らない。)こんな世界に縋りついて生きるなんて、真っ平だ。滅んでしまえばいいのだ、こんな世界は。(そうだ・・何を今まで躊躇してたんだろう? 殺せばいいんだ。)ゆっくりと顔を上げたユーリの双眸は、緋に染まっていた。「誰かいるの?」外から声がして、ユーリは扉に耳を押し当てた。「君は誰?」「僕? 僕はアベルだよ。君は何ていう名前なの?」「ユーリ。」「ユーリっていうんだ、綺麗な名前だね。ねぇユーリ、僕と友達になってくれない?」自分を恐れ嫌っていた人間から友になろうと言われ、ユーリは涙を流した。今までそんな事、誰も言ってくれなかったから。「わかった、友達になろう。」 “アベル”との扉越しの交流は、半年間続いた。毎日彼が来てくれるのを、ユーリは楽しみに待っていた。「ユーリ、今日は君に話しておきたいことがあるんだ。」「話?」ユーリは嫌な予感がした。「あのね・・僕、貴族の家に貰われるんだ。だから君の元にはもう来れないんだ。」“アベル”の話を聞いたユーリは、深い絶望感に包まれた。彼も、自分を捨てた。自分が化け物だから。もう、人間なんて信じるものか・・ “アベル”がユーリの元から去って、数年の月日が経った。ユーリは狭い部屋の中で、人間への憎しみを募らせていた。(みんな大嫌いだ、人間なんて!)ある日の夜、外からはパーティーをしているらしく、賑やかな笑い声と音楽が扉の外から聞こえた。 人間達の不快な笑い声を聞かぬよう、ユーリが両耳を両手で塞いでいると、突然扉が開かれた。「ユーリ、君も一緒に楽しもうよ。」扉を開けた誰かは、そう言うと廊下へと去っていった。ユーリは覚束ない足取りで初めて外の世界に出た。賑やかな音楽に誘われてユーリが部屋の中に入ると、集まっていた人間達は皆恐怖で凍りついた。「化け物はここから出て行け!」ユーリは身体の奥底から湧きあがる激しい怒りに支配され、自我を失った。我に返ると、全身人間達の返り血に濡れていた。「あっはっは、いい気味だ!」紅蓮の炎に包まれた建物を見上げながら、ユーリは笑った。その時、背後に人の気配がして、ユーリがゆっくりと振り向くと、そこには自分と瓜二つの顔をした青年が立っていた。「やっと、会えた。」その青年は自分が大嫌いだった“人間”のユーリだった。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月18日
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ユーリが野盗達を惨殺した事件以来、彼はアドニスによって宮殿の奥にある部屋に幽閉された。そこにはベッドと机だけの殺風景な部屋で、ユーリは外から出ることも、誰かと話す事もできなかった。アドニスは他人や外の世界とユーリが接触すればまた暴走すると思い込み、馬鹿な占い師の助言を妄信していたからだ。(どうして僕はこんな目に遭わないといけないの? 僕は父上を守りたかっただけなのに・・)ユーリはこの一件以来、己の血に流れる“妖狐”としての自分を嫌悪するようになった。(あんなの、自分じゃない!)周囲は半人半狐のユーリに冷たい視線を送った。―ねぇ、あそこでしょう・・―ああ、確か・・―狐の子・・侍女達の囁き声が扉越しに聞こえると、ユーリは反射的に耳を塞いだ。(みんな僕の事嫌いなんだ・・僕が、化け物だから。)殺風景の部屋で、ユーリは孤独な心を独りで抱えながら毎日を過ごしていた。 ユーリが幽閉されてから3年の月日が流れ、漸く彼は部屋から出る事を許された。「ユーリ!」部屋を出て久しぶりに朝日を浴びたユーリの元に、“姉”となったユーリアが彼に駆け寄って来た。「可哀想に、あんたは何も悪くないのに・・可哀想に!」ユーリアはそう言うと、ユーリを抱き締めた。彼女の腕の中で、ユーリの心を覆っていた分厚い氷が少し溶けたような気がした。しかしどんなにユーリや異母妹・アデルと楽しく語らっても、心の何処かにはまだ深い孤独感を抱えていた。自分はここには居場所はないと、いつも思っていた。かつて心から慕っていたアドニスとは疎遠になり、溺愛してくれた母でさえもユーリを腫れもののように接した。(僕は誰にも必要とされていないんだ・・)ある夜の事だった。ユーリが自室で眠っていると、突然息苦しさを覚えて彼が目を開けると、そこには自分に馬乗りになり、自分の首を絞めている父の姿があった。「いや・・お父さん・・」「お前さえ・・お前さえいなければ・・」父は殺意に満ちた瞳で自分を見つめていた。「お父さん・・やめて・・」すぐに女官達と秘書官達が駆けつけてきて、父をユーリから引き剥がした。ユーリは涙を流しながら、父の手形が残った首を見た。(お父さんは僕の事が憎かったの?)父に殺されかけたことにより、ユーリの中の孤独感が一層深くなっていった。その夜以来、ユーリは両親と距離を置くようになり、寄宿制の学校に通った。学校ではいつも独りで、心を許す友などいなかった。卒業後ユーリは成人して国政に携わることとなり、父とのぎくしゃくとした関係は変わらずにいたが、時折国政のことを話し合ったりするような仲になっていった。だがそれは表面上だけで、一度生じた父とユーリとの深い溝は、埋まる事はなかった。 いつものようにユーリが廊下を歩いていると、きょろきょろと何かを探している青年を見つけた。短い黒髪と、宝石のような翠の瞳を持った青年は、まるで天使のようだった。「どうしたんだい?」「あ、あの・・ここへ行く道がわからなくて・・」天使はそう言うと地図を広げた。彼を見た瞬間、ユーリは彼に運命を感じた。「わたしが案内してあげよう。」この天使との出逢いが、ユーリの心を未だに覆っている氷を少しずつ、少しずつ溶かし始めた。ユーリは自分では気づかぬほどに、天使―アベルに恋心を抱いていた。 ユーリは眠りの世界の中で、必死にアベルの姿を探していた。緑に囲まれた森の中、ユーリは何度も彼を探したが、彼は何処にも居なかった。やがて辺りが暗くなり、気づくとあの部屋の中に彼は居た。かつて深い孤独を抱えながら過ごした部屋に。にほんブログ村↑ランキングに参加しております。クリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月16日
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「父上、しっかりしてください、父上!」 馬車から飛び出したユーリは、地面に倒れた父の逞しい身体を激しく揺さ振ったが、父は目を開けてくれない。「なんだぁ、この餓鬼。」「あいつ、確か妖狐との混血児らしいぜ。」「へぇ~、だったらこいつを花街にでも売るか。こいつが両性だったら言うことないがな。」男達はにやりと笑いながら、ユーリを見た。「坊や、ここで服を脱いでくれねぇか? 変な事はしないからよぉ?」男達の手が、ユーリの肩先に触れた。「汚い手で、僕に触れるな、この下郎共が!」ユーリは邪険に彼らの手を振り払うと、きっと蒼い瞳で彼らを睨んだ。「この野郎、お高くとまりやがって・・化け物が!」男達の1人が、そう叫んでユーリの頬を張った。その衝撃で、華奢なユーリは地面に転がった。だが男はそれで気が済まず、ユーリの内臓に狙いを定めて何度も彼を蹴った。(僕はこんな奴らなんかに殺されて堪るか!)―なら、彼らを殺してしまえばいい。突如、頭の中から声が聞こえた。(誰?)―殺せ、みんな殺してしまえ・・(そうだ・・こいつなんか生きていても何の価値もない。)「どうしたぁ、くたばっちまったのかぁ?」「餓鬼は弱いからな、可愛がりようがねぇぜ。」「おい、大丈夫か?」ユーリを蹴った男がそう言ってユーリに触れようとした時、ユーリはゆっくりと立ち上がった。「僕、皆さんにお願があるんですけど。」「何だ? 何でも聞いてやるぜ。」にやにやと笑う男達の前で、ユーリは笑顔を浮かべた。「ここで全員、死んでください。」ゆっくりと顔を上げたユーリの銀髪は、徐々に緋に染まっていった。「お、おい・・」「何だこいつ・・」「やばいぜ・・」男達が恐怖におびえる瞳には、妖狐として覚醒めたユーリの姿があった。「あなた方を、楽には死なせませんよ。だって・・あなた方は畜生にも劣る輩ですから、屑には屑なりの死を与えなければね・・」10歳の子どもとは思えぬ強烈な妖気を纏いながら、ユーリはゆっくりと男達の方へと歩いていった。 熱風が頬を優しく撫で、ユーリはそっと目を開けた。肩までの長さがある銀髪が、ふわりと揺れた。手に変な感触がしたので見てみると、そこには人の血がついていた。手ばかりではない。服にも、髪にも、顔にも血がついていた。(僕は、一体・・)「ユーリ・・」遠くで父の声が聞こえ、ユーリは父の姿を探した。そこには医者の手当てを受けている父の姿があった。「父上!」「陛下に近寄るな、化け物が!」父の傍へと駆け寄ろうとしたユーリに、医師は罵声を浴びせ彼を睨みつけた。その時、視線の端に肉片と血が飛び散っているのが見えた。「あ・・」(僕は、あいつらを・・殺した・・?)「あああ・・」(僕が・・僕が・・)脳裡に、緋の髪を振り乱し、男達に何度も刃を突き立てる自分の姿が浮かんだ。「嫌だぁ~!」ユーリは気絶した。それから彼は、父に頼んで妖狐の血と力を封印した。「父上、僕はこんな力欲しくありません。」「わかっている・・わかっているよ、ユーリ。」にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしてくださると嬉しいです。
2010年10月03日
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夫・アドニスが死産した息子の代わりに連れて来た妖狐との混血児・ユーリを、彼の妻である王妃・アドリエンヌは亡くなった息子の代わりに育てることにした。ユーリの母親が夫を惑わした憎い妖狐であっても、ユーリはまだ非力な子どもなのだ。 アドリエンヌはユーリを溺愛した。王妃がユーリに愛情を注いでいる様子を見ていた貴族達は、“亡くなった皇太子様の身代わりを可愛がるなんて”と陰口を叩いていたが、王妃はそんな連中のことなど気にしなかった。 王妃と皇帝の深い愛情によって、ユーリはすくすくと成長し、彼は7歳の誕生日を迎えた。「誕生日おめでとう、ユーリ。」「ありがとうございます、母上。」王宮内で盛大な誕生パーティーが開かれ、王妃はユーリの美しい銀髪を優しく梳いた。「今日は体調の方は大丈夫? 苦しくない?」「はい、大丈夫です。」産まれてからこの7年間、ユーリは度々熱を出して寝込むことが多かった。丈夫で活発なユーリアとは対照的に、遊び盛りの年頃であるユーリは1日の大半をベッドの上で過ごしていた。その事を、貴族や女官達はあることないことを言っていた。“ユーリ様には汚らわしい血が入っているから、病弱なのだ”と。「ユーリ、気分が悪かったら直ぐにお父様やお母様におっしゃい。」「わかりました、母上。」パーティーは滞りなく終わり、部屋に戻ったユーリは、ベッドに崩れ落ちる様にして倒れた。「ユーリ、どうしたの?」弟と着せ替えごっこをして楽しもうと思い、部屋に入ってきた兄のユーリアは、ベッドで力無く倒れているユーリアを発見した。すぐさま侍医が呼ばれ、ユーリは風邪で寝込んだ。「どうして直ぐにお母様に言わなかったの?」「だって、そんな事をしたらお父様やお母様が悪く言われちゃう・・」「まぁ、ユーリ・・」アドリエンヌは幼いながらも周囲の噂に傷つき、両親を懸命に守ろうとしている息子のけなげな心に涙を流した。「気にする事はないのよ。わたくし達はね、あなたがいなくなってしまうことの方が怖いのよ。」「お母様・・」 その後ユーリは回復し、彼は身体を鍛える為に父と剣や馬術の稽古を始めた。「お前は筋がいいぞ、ユーリ。」「ありがとうございます、父上。」父に褒められたユーリは、ひたすら武術の稽古に打ち込むようになっていった。その頃、ダブリス王国の南部では、反政府組織が旅行中だった貴族の馬車を襲い、その一家を惨殺したという衝撃的な事件が起きた。王国からの独立を掲げ、住民達は結束を固め、独自の組織を立ち上げていた。その幾つかの組織の中には、事件を起こした反政府組織が入っていた。王国軍は直ちに南部へと侵攻した。15日間にも及ぶ激しい戦いの中、反政府組織は壊滅状態となり、南部は王国の監視下に置かれることとなった。 ユーリは10歳となり、父とともに武術大会に出場し、見事優勝を果たした。「よくやったぞ、ユーリ。わたしはお前の父としてこんなに誇らしい日はないぞ。」笑顔を浮かべながら自分を褒めるアドニスの横顔を見つめていた時、突然2人を乗せていた馬車が急停車した。「どうした?」「は、反乱軍が・・」御者の悲鳴と共に、獣のような咆哮が辺りに響いたかと思うと、馬車は反政府組織の残党によって瞬く間に取り囲まれてしまった。「父上・・」「案ずるな、ユーリ。彼らを余り刺激せぬよう、わたしが話をつけてくる。」アドニスは恐怖におびえる息子の手を握ると、馬車から降りて行った。ユーリは反政府組織の男と何かを話す父の姿を、窓からじっと見ていた。数分後、銃声がして父が地面に力無く倒れた。「父・・上・・」この時、ユーリの奥底に眠っていた妖狐の力と血が、覚醒(めざ)めた。にほんブログ村ランキングに参加しております。↑のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。
2010年10月03日
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