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2007年05月04日
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カテゴリ: 洋画(07)
人と人が信じあえるのに、言葉は必要なのだろうか。
という疑問がわいてきた。そんな映画でした。

また長い前ふりをします。早く読みたい方は写真がアップされているところまで降りていってください。

幕末前後の外国人の日本旅行記を分析した著書 「逝きし世の面影」 (平凡社ライブリー 渡辺京二)にこのような行(くだり)がある。

開放されているのは家屋だけでなかった。人々の心もまた開放されていたのである。客は見知らぬものであっても歓迎された。ルドルフ・リンダウは横浜近郊の村、金沢の宿屋に一泊したとき、入り江の向かい側の二階家にあかあかと灯がともり、三味線や琴に賑わっているのに気づいた。何か祝いごとをやっているだろうと想像した彼は、様子を見たく思ってその家を訪ねた。「この家の人々は私の思いがけぬ訪問に初めはたいそう驚いた様子であったし、不安を感じていたとさえ思えた。だが、この家で奏でられる音楽をもっと近くから聞くために入り江のむこうからやってきたのだと説明すると、彼らを微笑みをもらし始め、ようこそこられたと挨拶した。」二階には四組の夫婦と二人の子供、それに四人の芸者がいた。リンダウは、歓迎され酒食をもてなされ、一時間以上この「日本人の楽しい集い」に同席した。彼らは異邦人にびくびくする様子もなく、素朴に好奇心をあらわにして、リンダウの箸使いの不器用さを楽しんだ。そして帰途はわざさわ゛リンダウを宿屋まで送り届けたのである。これは文久二(1862)年の出来ごとであった。

渡辺京二氏は、当時の日本の家の鍵などかけない開放性、卑屈になるのでもない恐れ戦くのでもない好奇心をあらわにする親和性、そしてどんな貧しそうな者でも決して物を盗まず、見返りを求めないもてなしをする礼節、それらが一様に一人や二人ではなく何十人という外国人が書いた日本旅行記にことごとく書かれているというのである。
「ここに輝いていたのは、日本の古き庶民生活の最後の残照であった。」と渡辺氏は言う。

果たして現代日本にその光は少しも残っていないのか、という疑問は措いておいて、現代でも外国を旅すると、そういう体験をすることがある。旅の道連れになって 一泊だけ同宿したキム君 、道を教えてくれた 食堂のお兄ちゃん オモニ 、そんな体験はすでにほかにも何度も何度も書いた。

心を伝えるのに、本当に言葉は必要なのだろうか。

1001546_02.jpg
「バベル」
監督 : アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 : ブラッド・ピット 、 ケイト・ブランシェット 、 ガエル・ガルシア・ベルナル 、 役所広司 、 菊地凛子 、 アドリアナ・バラッザ

この映画では幾つかの言葉が使われている。バベルの寓話は人間の放漫に怒った神が人々の言語を分かち、混乱に貶めたというものらしい。だからてっきり外国で登場人物が一人残されて、言葉も出来ずに混乱するという話かと思っていた。けれどもそういうことは一回もない。むしろそれぞれの思いが通じなくなるのは、同じ言葉を話す同国人のほうが多い。物語始めのブラピの夫婦。モロッコの牧畜兄弟。チエコと表面的に付き合う聾の仲間。ブラピとバスの人々。アメリアとブラピの電話のやり取り。検問場面でのガルシアと警官との会話。等々、すべて同じ言葉で会話されている。

そしてこの映画で気持ちが通じる場面はすべて言葉にならない言葉ばかりであった。

幕末の日本人がそうであったように、旅先で私が出会った人々のように、不完全の言葉であれば言葉以外のことを使って人々は「思い」を伝えようとする。その場合のほうがすんなり心の中に入ってくる。

「バベル」とはただ、それだけを伝えようとした映画なのではないか。




OECD(経済協力開発機構)が加盟国(30ヶ国)の貧困状況について比較調査した2005年報告書に「貧困率」というデータがある。貧困率とは、国民の平均所得の半分以下しか所得のない人を「貧困者」とし、国民全体の何%になるかを示すデータなのだが、これによると日本の貧困率はメキシコ(20.3%)、米国(17.1%)、トルコ(15.9%)、アイルランド(15.4%)に次いで世界で5番目の15.3%。中進国のメキシコ、トルコをのぞけば、先進国で3番目の高貧困率国ってことになるという。

もしかしたらこのデータが監督が日本を舞台にした理由なのかもしれない。貧困率が高いということは『格差社会』であると言うことです。それは人々に大きなストレスをもたらすのだろう。摩天楼のようなバベルの塔のようなビルがある日本やアメリカにおいても、その根本においては神が罰を与えた当時の人類と同じ状況なのだ、ということなのでしょう。











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最終更新日  2007年05月06日 07時44分35秒
コメント(15) | コメントを書く


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言葉が伝えるもの について  
Preacher  さん
かつて、外国人(韓国の方でしたが)と結婚した日本人の友人が次のように話していました。
 「惹かれあったのは、言葉が通じたからではなかった。互いに言葉が不自由なときは、一生懸命相手が何を言おうとしているのか聞こうとしていた。ところが、自分が韓国語が上手くなり、彼女の日本語が上達すると、次第に聞くことができなくなっていったように思う。」と。
 しかし、一方で、人間は自分の言葉にならない気持ちを言葉化し、整理し納得し、次のステップに進むことも必要だと思います。
 混乱は、言葉が一緒だと、考えることも一緒だと思ってしまうことにあるのかもしれません。

「こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。」創世記11:9 (2007年05月04日 10時03分04秒)

Re:「バベル」言葉とは何か(05/04)  
薔薇豪城  さん
 なるほど、それで疑問が解けたような・・・というのは、他人事ながら、私は後藤久美子とアレジの結婚が、わからなかったんです。ゴクミはアレジと結婚に至るほどにフランス語が堪能とは思えなかったので。あ、すいません、映画のテーマはもっと精神的なものですよね。 (2007年05月04日 10時26分17秒)

Re:「バベル」言葉とは何か(05/04)  
heliotrope8543  さん
フランス人と結婚したのにそのわりにフランス語が上手にならない人がいて、彼女が言うには、言葉にしなくても通じてしまう、他の人のフランス語はわからないけれど彼のはわかる、というのです。

同じ国で育って同じ言葉を話す人たちだから思いも通じてあたりまえ、という前提だとかえっていけないのかもしれませんね。 (2007年05月04日 11時07分45秒)

こんばんは  
ノラネコ さん
人間の世界の残酷さ、そしてどんな状況でも人間が人間を求める切なさが印象的でした。
神は言葉を違えることで、人を分断したつもりかもしれないが、人は言葉のみで繋がるのではないというあたりが核心なんでしょうね。
(2007年05月04日 23時15分14秒)

Re:言葉が伝えるもの について(05/04)  
KUMA0504  さん
Preacherさん
>かつて、外国人(韓国の方でしたが)と結婚した日本人の友人が次のように話していました。
> 「惹かれあったのは、言葉が通じたからではなかった。互いに言葉が不自由なときは、一生懸命相手が何を言おうとしているのか聞こうとしていた。ところが、自分が韓国語が上手くなり、彼女の日本語が上達すると、次第に聞くことができなくなっていったように思う。」と。

ありがとうございます。素敵な話です。

> しかし、一方で、人間は自分の言葉にならない気持ちを言葉化し、整理し納得し、次のステップに進むことも必要だと思います。

そうなんですね。人間は「次のステップ」に進まなくては生きていけない生物なんですよね。そこからいろんな悲劇や、ドラマが生まれるのでしょう。

>「こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。」創世記11:9
-----
この原文をネットで探したのですが、見つけることが出来ませんでした。教えていただいて嬉しいです。バベル、とは後で言われた言葉なんですね。
(2007年05月04日 23時27分11秒)

Re[1]:「バベル」言葉とは何か(05/04)  
KUMA0504  さん
薔薇豪城さん
> なるほど、それで疑問が解けたような・・・というのは、他人事ながら、私は後藤久美子とアレジの結婚が、わからなかったんです。ゴクミはアレジと結婚に至るほどにフランス語が堪能とは思えなかったので。あ、すいません、映画のテーマはもっと精神的なものですよね。
-----
ゴクミとアレジの結婚はさすがにやはりショックでしたね~。日本男子に甲斐性はないのか!とか。
(2007年05月04日 23時30分23秒)

Re[1]:「バベル」言葉とは何か(05/04)  
KUMA0504  さん
heliotrope8543さん
>フランス人と結婚したのにそのわりにフランス語が上手にならない人がいて、彼女が言うには、言葉にしなくても通じてしまう、他の人のフランス語はわからないけれど彼のはわかる、というのです。

愛し合う二人に言葉は要らない、というのは世界共通の真理なのかもしれないですね。そこから「平和」の鍵があるのかも。
(2007年05月04日 23時31分51秒)

Re:こんばんは(05/04)  
KUMA0504  さん
ノラネコさん

>神は言葉を違えることで、人を分断したつもりかもしれないが、人は言葉のみで繋がるのではないというあたりが核心なんでしょうね。
-----
神が人を分断したのか、それとも分断されたのは人の本質なのか、とふと疑問に思いました。それはすでに映画の課題ではないのですが。
(2007年05月04日 23時33分46秒)

同意見  
jackal さん
TBさせて頂きましたjackalと申します。

人と人が信じあえるのに、言葉は必要なのだろうか。という感想、全く同じ感じ方をしました。
(2007年05月05日 22時45分36秒)

Re:同意見(05/04)  
KUMA0504  さん
jackalさん
はじめまして。コメントありがとうございました。これからもよろしくお願いします。 (2007年05月05日 23時59分26秒)

Re:「バベル」言葉とは何か(05/04)   
なおこん さん
TBさせていただきました。
見終わってからもハッピーエンドではないもやもやの残る映画でしたが 役所サン演じるサラリーマンがあまりに淡々としていて疑問でした。妻が猟銃自殺、おまけに自分がガイドにプレゼントしたライフルが殺人未遂に使われたと言われてあんなに表情が変わらない人は果たしているのかしらと。。。
妹の友人のおばさんはアメリカの方と結婚したのにいつまでたっても英語が下手・・・とうとう連れ合いが大學の日本語学科に通いペラペラに・・・それでも英語が聞き取れるんですが逞しく生活しています。お子さん達は英語しか話せないけれどとても明るい御家庭です。解らないものですよね・・・・ (2007年05月06日 09時02分29秒)

バベル  
tabby さん
こんばんは。コメントありがとうございます。
ほんとに心を伝えるのには、言葉は不要なのかもしれませんね。
映画の中ではモロッコのおばあさんがケイト・ブランシェットにタバコを渡すシーンで、これはなに?と最初はちょっといぶかしげなケイトと表情だけで気持ちが通じるところが印象的でした。 (2007年05月06日 22時38分54秒)

Re[1]:「バベル」言葉とは何か(05/04)  
KUMA0504  さん
なおこんさん
コメントありがとうございました。
もしかしてTBが通っていない?時々あるんです。ごめんなさい。
なんか、国際結婚の話で盛り上がった映画になっちゃいましたね。 (2007年05月06日 22時40分15秒)

Re:バベル(05/04)  
KUMA0504  さん
tabbyさん
コメントありがとうございました。
そうですね。いい場面でした。あの場面がこの監督の一番伝えたかったことではないのかな。と私は思いました。 (2007年05月06日 22時42分00秒)

Re[1]:「バベル」言葉とは何か(05/04)  
ミゥミゥ さん
薔薇豪城さん
>ゴクミはアレジと結婚に至るほどにフランス語が>堪能とは思えなかったので。

同感です。10年経った今でも相当ブロークンなフランス語みたいです。ちなみに二人は事実婚ですが。アレジの英語もすごいので、釣り合ってると言うかイーブンな関係だからストレスが貯まらないのかな。 (2007年05月11日 21時27分56秒)

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