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先般、学芸大学駅の周辺を散策した際に気になる酒場に遭遇しました。出逢った以上は、もはやその呪縛に捉われ逃げることなどできはしないのに―お得意の忘却が功を奏したとて不意に思い出すことはあります―、やはり見過ごしてしまったのだから愚かしいことです。でも言い訳をするなら、昼間に訪れて見掛けたとして、夜まで数時間をこの周辺を散策して過ごすのは厳しいのであります。いやいや実のところは数時間をここらで潰すことも考えたのであります。だからしばらくここらを彷徨ってみたりもして、そうするうちにさらに気になるお店が見つかるという嬉しくも尽きることのないスパイラルに取り込まれてしまうのです。 まだしも「天婦羅 巴」は、さして遠くはありません。と今調べてみたら、こちらはなんと持ち帰りのみの営業なのですね。かつてはきっとこちらで食事やら呑みもできたと思うのですが、少し残念です。 例えば、ここからは随分歩いた「光月」まで行くと田園都市線の三軒茶屋駅とそう距離的には変わらぬ位になるかもしれないけれど、また再び赴くにはキツいなあなんて思ったりしてしまう。やはり調べてみたら昼は11:30~15:00、夜が17:00~21:00と存外中休みも短めと余程間が悪いことを知るのです。ちょうど昼の部を終えたばかりだったのだろうなあ。 そして肝心の今回お邪魔した2軒はこちらであります。昼間に感じがよくても夜になって改めて眺めると、昼間のぼくの感受性はどうしたんだと思うことがありますが、今こうして眺めてみてもやはり昼間も味わいがありますね。 と結局またも駅からそれなりの距離で気になるお店に出逢ったのでありますが、草臥れたので日を改めて伺うことにしたのでした。まずお邪魔したのは、「田や」であります。夜になったらなったで辺りが暗いこともあってやはりとてもいい感じですね。店は外観以上に狭くて、焼場をぐるりと回りこんだところに設けられたたった4席のカウンター席があるばかりです。お邪魔した時には両脇が埋まっていて何とか席に着くことができました。お勧めされた緑茶割で喉を潤します。女将さんが独りでやっておられますが、常連さんに慕われておりいい関係で店を続けてこられたみたいです。日中には近所の子供たちが顔を見せていくといい、そういえば先日通り掛かった際にも小学生の女のコが寄り道していましたね。でも常連さんたちの気持ち、よく分かるなあ。ここでお喋りしながら呑んでいると立ち上がって帰るのが億劫になりそうです。近所に住んでいたら暖簾が仕舞われるまで粘ってしまいそうです。 さて、すぐそばながらより暗く寂しい、交番の裏手にある「海新山」にお邪魔します。カウンター席もありますが、大きな円卓がよさそうです。そこには若い女性が独りで非常にゆったりしたペース、ゆったりというよりはスローモーな位の勢いのなさで麺を啜っています。こちらは食べるものはラーメンと餃子のみというお店です。先の店でお聞きしたのですが、こちらはずっと旦那さんと一緒にやっておられたようですが、今は矍鑠として上品な女将さん一人でやっておられます。もしや酒がないかと思いきや、紹興酒はあるようです。それはありがたいことです。紹興酒とラーメンを頼むと餃子もですねと仰るがそれはご遠慮しておこう。満腹になりすぎるのを避けたかったのもあるけれど、なんとも強気なお値段だからであります。しばらく待って出てきたラーメンは、いかにも横道な中華そばの風情です。しかし店内をさっと見渡すとわかるけれど、やたらとサインや雑誌などの切り抜きが多いのです。特に渡辺満里奈がお気に入りとか。コラーゲンたっぷりだけでれさっぱり体にいいラーメンで、夜中に食べても胃もたれとは無縁らしいのです。コラーゲンはよく分からぬけれど、確かにあっさりいただけました。なるほど、だから女性が独りで来ているのですね。 祐天寺駅に向かって歩きます。駅の明かりが遠くに見え隠れして来た辺りで「からかさ」なるお店を目撃します。これは気になるなあと思ったけれど、スルーしてしまいました。そしてやはり今になって寄っておけば良かったと後悔するのです。
2019/10/18
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月島の「カーサ相生」で書きましたが、個性的な作風で知られる梵寿綱氏であっても初期の物件にその個性を認めるのは相当に強引な読みが求められるようです。中目黒の「カーサ中目黒」もそうでした。こうして情報に基づいてからじっくりと眺めてみても梵氏ならではの符牒は微塵も感じられぬのです。そりゃまあある程度の好き勝手ができるようになるにはそれなりのキャリアが要求されるでしょうからね。まあ、こういう氏の個性的な作品の萌芽すら感知しえぬものであっても、氏のものという知識を得たうえであればそれなりの興味をもって眺められるものです。今のところではこの物件が最も梵寿綱という建築家の個性は希薄です。 うっかりしていましたが、学芸大学駅を出てすぐの路地に「中華料理 二葉」という渋い駅前中華飯店があったのですね。昼食時を過ぎてはいますがまだ暖簾も下がっているので、腹も減ったことだし立ち寄ることにしました。店内は空いてるものと思っていたのだけれど、こんなおやつ時に近い時間にもかかわらず混みあっています。しかも呑んでるお客さんも少なくない。小上がりの女性2名などは腰を据えて呑む雰囲気を露骨に示しておりますし、おっさんも仕事中なのにいいのかねえ。でもそんな出鱈目なところも楽しいのです。これという酒の肴はないけれど、ぼくにはそんなの全く問題ではありません。常々自慢するように白飯だって酒の肴になるから、もやしそばでもあれば文句は何もない。ビールのサービスでお新香もあるからもう言うことなしです。トロトロ仕立てのもやしそばはオーソドックスだけれどしみじみ懐かしくて優しい味です。そろそろ店の方も中休みにしようというのにまだまだ続々とお客さんが入ってきます。これで休みが取れるんだろうか。皆さん、こういう古びたお店の雰囲気が好きで仕方ないようです。 さて、実は東横線に乗り換える前に表参道に立ち寄って、梵寿綱の建築物件をあと一棟眺めてきましたので、なかなか表参道で呑む機会がなさそうなので、まとめて報告しておきます。持ち合わせの少ない甘酸っぱい思い出もある根津美術館のことはともかくとして、その裏手の坂の多い住宅街に「エスペランサビル」はあります。薄ピンク色の外観にはお得意の大きな女神像などの意匠が凝らされていて見どころは少なくありませんが、その面白さは可能な範囲で眺めた限りにおいては表面にとどまっているのが少し残念ですが、こちらは先のマンションとは違って克明に梵氏の息吹を感じ取ることができます。でも、この界隈は見るべき建築物件も多く若干霞んでしまう気がします。
2019/10/04
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そこが神泉っていうだけで嫌悪するのは質の悪い悪い思い込みであります。確かに井の頭線で渋谷からは一駅で、また飽きもせず渋谷嫌いを吐露するのもありなのですけど、渋谷から円山町を越えて来ると途端に町の雰囲気は穏やかなものに変わります。いや、変わったはずだったのだが、どうした事だ若者が跋扈する様は裏浅草ならざる裏渋谷の様相であります。嫌う割には昔、やんごとなき理由でここら辺には時折来ていたのだけれど、もう少し人通りも疎らな静かな土地だったように記憶する。駅そばの呑み屋の何軒かにお邪魔したものそう以前のことではなかったはずです。町並みが変わったというより、町を行き交う人達の顔触れが刷新されたかのように思われるのです。以前は勤め人以外には地元の方がほとんどであったかのように記憶します。しかし、今往来を闊歩するのはかつてついぞ認めることのなかった若い層ばかりなのです。センター街や道玄坂を引退したオールドヤングたちが追いやられて来て、俺達も年を取ったもんだなんて脳天気に語りつつ、当時は立ち入ることの難しかったいかにも高額そうなカフェやらカジュアルバーなんかで語り合っているんじゃないかと思うだけで虫唾が走るのです。ことさらに開放的である事をひけらかすガラス張りで見通しの良い店からもそれがあながち偏見に満ちた想像ではなさそうであります。 そんな神泉の外れ、大きな通りに唐突に「太平山 春」の看板を見ると違和感を感じずにはいられぬのであります。この地にこうした居酒屋らしい居酒屋は似つかわしくないというか、過ぎたる贅沢のように思われるのです。こうした居酒屋はそれがもっとしっくりと収まるべき土地があるはずです。しかし、看板に引き寄せられて店に近付くとどうも想定していた店の構えとは違っています。看板の大きさが店のキャパシティと一致する事が法律で定められている訳じゃないから、文句を言うつもりもないし、そんな意図もないのてす。ただ、段差を付けねばならぬ理由がよくわからぬ短い階段を上るだか降りるだかしたこぢんまりした店内は隠れ家風な雰囲気なのだから、そこまでの看板は無用に思えるのです。きっと広いから大丈夫だろうと思って入ったのですが、カウンター席はびっしりと埋まっているし、奥のテーブル席は一人で使うには臆してしまう半端な広さなのです。しかし、幸いにも通して頂けました。だけれど、どうにも落ち着かぬのです。視線の置きどころもなく、カウンター席の常連たちを所在なく眺めるしかないのです。うち半数は地元の方のようでひとっ風呂浴びて突っ掛けというリラックスした様子の方が目に付きます。いかにも一見のぼくなども気さくに受け入れてくれるのは、ちょっとばかり意外で有り難い。お陰様でようやく寛いだ気分になります。呑み物は独りで店を切り盛る店主を手助けして、新参の若いお兄さんが運んでくれます。2杯目以降はこちらから出向いて交流が生まれるというのもこの店の一体感を生み出すための流儀なのだろうか。魚介類がメインでぼくには手頃そうな品しか手が出ないけれど平目昆布締めなどなかなか気が利いています。しかしまあ、安いとは言えぬこの店に足繁く通えるご近所の常連はどれだけ稼いでるのかとゲスな勘繰りをしてしまうのが情けない。ぼくにはまだ敷居が高いし、どこか一店に収まるつもりはまださらさらないけれどいつかこんな店を持つのも悪くないのかも!と思わせてくれるような居酒屋さんでした。
2017/06/22
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駒場というと言わずと知れた日本の最高学府―と書くとそれ以上コメントする気にもならぬのだけれど―と言われる東京大学があります。こちらには教養学部なんかがあるんだっけ、と語る時点で己が東大とは無縁であると告白しているようなものです。まあ、都内には東大に関連する施設が点在していて、世界的に見ると国の研究への投資額は圧倒的に劣ると言われているようですが、テレビなどを見ると単に高学歴のみを追求してご知恵の効くだけの若者ばかりが目につくのであって、東大はもっと定員を減らして、本当にすごい奴らばかり集めたほうが良いのではないかと思ってしまうのであります。が、こんなことを書いても非才な者の戯言でしかないと一蹴されるのがオチでしょう。ともあれ、本郷には愛嬌があるが駒場は生真面目なだけで退屈な町という印象があり、ましてや呑み歩きなどという碌でも無い趣味で訪れるには、最も相応しからぬ町と思っていました。 でも歩いてみるとあるもんですね。線路に沿って渋谷方面に向かってしばらく歩いていくと、商店街の外れ、末端の辺りに「居酒屋 かこ」はありました。カウンター席が5席、テーブル2卓ばかりのこぢんまりしたお店でした。外観よりはこざっぱりして明るいお店です。先客は男女1名づつ、やはり顔見知りらしく楽しげにお喋りしています。初めここの女将さんと思った年増の方は、実はお手伝いの方のようで、この方がなんともすっとぼけた人柄でいい味出してます。真の女将さんは物静かでしっかりもののように思われます。最初はこちらも様子を伺うし、他の皆さんも素知らぬ顔はしているけれど気にはなっていたんじゃないでしょうか。そのうち何がきっかけになったか思い起こせないのですが、皆さんの輪の中に加わっていました。女性客も店の手伝いをする高齢のお母さんも池袋で良く呑まれるそうで、しかし店の方はここぞという店を知らないのよねと愚痴るのを常連女性はそんなことないわよ、「きらくや」っていういい居酒屋があるのよ、女将さんもとてもいいし、食べるものも美味しいし。なんと、まさが東大のお膝元の居酒屋に通う方にぼくもかつては週に2度、いや3度も通ったお店を利用される方がいらっしゃるとは思わなかった。それは気になるわねと乗り気の店のお母さんに、休みはいつか聞いてあげるわよと早速電話をかけ出しました。そしてぼくに携帯を手渡すのです。なんだか試されてるみたいだけれど、久々に「きらくや」の女将さんの声が聞けたのは嬉しかったなあ。聞き慣れぬと無感動で素っ気なく感じられるけれど慣れ親しむとその底に親密さを感知できるその声音にやはり近く行かねばならぬと心に刻むのです。酒は銘柄もしれぬ焼酎をロックで呑んだだけだし、肴はそれこそ質素極まりない。だけどそれでいいのであります。ここは十分に孤独な酒呑みの心を癒やしてくれる店なのでした。
2017/06/09
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昨日、西小山で呑んだあとに酔い覚ましと腹ごなしをかねて、ブラブラと歩きました。方角は西小山から歩くこと、15分余り、とても目黒区とは思われぬようなボロ酒場がありました。いつも書いているし、地縁もなくこの界隈について熟知しているとも言えぬぼくなどがしたり顔で語るのも口幅ったいものがありますけれど、戦後、いやもっとずっと後かな高度成長期の頃に建てられたような飲食店がここらには数多く残っているようで、それは間もなく役割を終える前の最後の徒花のようにしぶとくしたたかに生き延びているようなのであります。だからこの辺を散歩するのは楽しさと退屈さが同居しています。どこまでも単調な住宅街と思っていると唐突に飲食店が軒を連ねる長屋が出没してみせたりして気が抜けぬのです。そんな夜の散歩で見かけていたやはり古い酒場を訪ねることにしました。地図で見るとどこからも近いとは言えぬけれど、武蔵小山駅からが多少なりとも便利みたいです。実際に歩いてみるとどうという事もなく辿り着けてしまったのですが、途中ビルの間に埋もれるようにして現役営業する呑み屋街があったりして目移りして仕方がないのです。 そのお店は「やきとり 喜作」といいます。細長い奇妙な造りの店舗はそれだけで一見の価値があります。店に入ると驚くほどに混み合っていますが、客席が少ないのがその理由のようです。厨房を取り囲むようにしてカウンターがあり、店の隅には5、6名用のテーブル席もあります。ちょうど2席だけ空いていたのでいそいそと這うように奥のカウンター席を目指します。S氏と一緒でしたが、肩と肩が触れ合うどころでなく寿司詰めみたいに押し込まねばなりません。その奥には広い座敷もありました。しかしそこは裸電球が灯るばかりでそのほとんど見通せぬ闇の先を見ると平成の現在にこのような暗さが残されていることには微かに震えがきます。とは言え、こちらは常連ばかりのお店で皆が皆顔見知りのようで、それぞれ名は知らぬらしいのにも関わらず家族同然のやり取りをしてるのだからその親密ぶりは下手をすると家族以上かもしれぬ。時として酒場での付き合いは家族以上の親密さをもたらすものです。正直ぼくは必要以上の馴れ合いをたまらなく嫌悪するという困った性分なのですが、人々が楽しくする様子まで毛嫌いするほどの偏屈さは持ち合わせていません。だからこの酒場の温もりは、冷淡なぼくをして日参したいとの感情を震わせるのでした。肴はおでんともつ焼程度であるし、それもまあすごく旨いなんてことはないけれどそれはそれで充分じゃないか、ここには気持ちのいい人たちと酒があるのだから。 次の「やぎ」もまた常連ばかりの酒場でした。しかしこちらは幾分様子が異なっています。大抵の人たちは顔見知りで、その一部の方たちはコの字のカウンター越しに一日の出来事やらを語らってみたりしますけれど、大部分の客は独り黙々とグラスを口に運び、肴を摘むのです。よくよく眺めると先程の客たちはみな明朗で快活な様子でした。それに比べるとこちらのお客さんはどこかしら背中に闇を背負っているかのような危険さを潜めている気がします。それは勘ぐり過ぎかもしれませんし、この夜の客層がたまたまそうだったということなのかもしれません。だけれど同じ町の北と南でまさに陰と陽を見た気になったのでした。そしてそんなどちらもが酒場なのだと思います。さて、そうは書きましたが、こちらのお店の雰囲気は少しも陰惨ではないからご安心を。単にちょっと訳あり風の悪そうな客が多かっただけで、それは女将さんの気風の良いというか、男勝りのーなんて言い方はジェンダー論者に叱責どころか発言の撤回を求められるかもしれませんがー人柄を慕って集まっているから根っからのワルではなさそうです。そんなワル共も女将さんの仕込む手料理の数々に焦がれるとあっては、おふくろの味を求める感情的な側面を晒しているようで、可愛げすら感じます。ぼくには感情に浸るようなおふくろの味はありませんが、その多彩な大皿料理はやはり魅力的に思われました。家庭で真似したくなるようなほっこりと優しい味なのです。料理に本当の人柄が潜んでいるということなのでしょうか。
2017/04/22
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西小山は大好きなのですがいざ行くとなるとなかなか面倒な場所です。もちろん分かっているのです、面倒なのはあくまてもぼく個人の問題であって、地元の方にとっては遠いはずもないし、第一住んでいる以上は面倒とかいうわがままは言ってはいられまい。ところが案外多くの人にとって身近な酒場というのは、ちょっと面倒な場所にある酒場に行くよりも面倒らしいのですね。ぼくにとっては身近な酒場はやはり近いのですが、地元の酒場に行かぬと言いはる人は、近所の酒場は視界を横切るだけの見せない店でしかないらしいのです。先程までたまたま電車で出会った職場のおぢさんがまさにそんなタイプの人で、その方、足立区のいわゆる陸の孤島に住んでいるらしいのですが、話を聞くと地元では呑まぬと言い、そしてぼくか嬉々としてその辺の酒場の並べてみてもちっともその名を知らぬようなのです。そんなものなのです。で、ここままだと陸の孤島ならざる西小山川台は遠ざかるばかりなので、そろそろ本題に移行することにします。 まずは酒場放浪記に登場したという「豚゛太郎」にお邪魔します。たまたま見てはくさしてばかり、その割に強烈な呪縛に未だに絡め取られている己が見苦しい。駅からは遠そうに見えるけれど、実のところはあっという間の馬車場所にありました。通りがかりには、「ポエム」や「鳥かつ」、喫茶マニアなんかにはお馴染みのフルーツパーラーなんかがあって、いずれもしばらくお邪魔していないので後ろ髪惹かれつつも見て見ぬふりをします。そこを通り過ぎてもう少し歩けば着けちゃうんだからどうということもない。ほとんど住宅街というようなエリアにもつ焼の店があるのかいくらか不安になります。いつもの迷子癖ーこの酩酊中のぼくが今生み出した単語の定義は後日に取っておきますーが、不意に発動したのではないかという懸念はなかった、だってまだ呑んでないから。と昨夜呑みながら書いた文章を振り返ると飛躍や省略で非常に読みに書くなっているけれどその辺はまあご容赦を。ともあれ住宅の中にポツネンとある酒場という景色は目黒区にはたまに見るタイプであって、それがまあ閑静でそこそこの金持ちが暮らす町並の中にあるのがこの町の特色と言えるかもしれません。足立区なんかも住宅街に紛れるようにして酒場が点在する風景が見られますが、足立区はねえ、ちょっと違ってるわけです。さて、そんな町にあってこの酒場はやはり際立った存在感を漂わせています。当然もつ焼屋なのだろうし、こんなところで煙を撒き散らして大丈夫なのだろうかと思わぬでもないけれど、空き地ばかりのこの場所に先に酒場がポツンとあってその周囲を覆うように住宅が取り囲んだと考えるのが良さそうです。まあ煙も鰻屋ではないけれど好きな人にはそれだけで酒の肴になるかもしれません。さて、店内は古びてはいるけれど、思ったよりはずっと平凡です。平凡という言葉は少しもこの店のことを貶めるために用いているわけじゃなく、むしろ古くて平凡な酒場こそがぼくにとっては最も酒場らしくてしっくりくるのです。ユニークなのは店の方三名がみな女性であったことです。都内でも西側にそういうお店が多いのは、女性だけで営業してもヤバくない程度には客層がに恵まれているからでしょうか。それにしても思いつきの発言ですが酒場には四姉妹より三姉妹がハマる気がするけれどそのこころはハッキリしません。酒も肴も味も値段も普通であり、品数の多さが持ち味となっています。愛嬌のあるミニチュアダックスにも会えます。 実は先の店に向かう前にチラリとみえた食堂に気がいってしまい、不意に暖簾をしまってしまうんじゃないかと気が気じゃなかったといっては先の店に失礼か。それだけ次の店が気になる存在だったとご理解ください。「大門食堂(食堂 大門)」のうら寂しい佇まいは、独りだと胸苦しさを感じていたかもしれません。そうそうこの夜は怒涛の繁忙期をなんとか脱出したというS氏と一緒だったのですが、前夜暴飲して二日酔い冷めぬうちということもあり、いつも以上に寡黙なので恐らく登場の機会はないかと思われるので特に気になさらなくても結構です。さて、店内は何かちょっと素晴らしいじゃないか。実に空間造りに無駄が多い。その割に壁の袖には品書きに並行するように鏡が貼られているというのも、もともとがカランとした客席を拡張する効果がてきめんなのであります。なんとも面妖なムードが堪えられないのでありますが、興奮ばかりしてられない。焼そばやらをとりあえず注文してビールを口に含んでからゆっくりと眺めさせてもらうことにします。これは印象論でしかないのですが、大雑把に北東と南西に分割するとすれば、前者はかなりの建物が建て替えられてしまっている一方で激ボロ物件も辛うじて残っている気がします。後者は本当に古いのは少ないけれど、かなり古いそれなりのボロが相当残っているようなのです。いや、これは単なる印象論だし、言ってるそばから嘘くさい気がする。ともあれ、こちらのお店みたいなのにちょくちちょく遭遇できるなんて、やはり西小山は楽しい。ところでこちらの食堂、おかずも凄いのだ、味は普通に美味しいのだけれど、ボリュームが相当なもので焼そばなど食らえどなかなか減らぬのです。大の男が二人掛かりでもなかなか食べ切れない。50円で大盛りにできるとあったけれど、大盛りだったら間違いなく残していたなあ。なんでぼくの近所にはこういう店がないんだろうなあ。まあ、それじゃあ、入り浸りそうだし、何と言っても歩けぬほどの肥満体になるだろうから、まあ仕方無しとせねばなりますまい。
2017/04/06
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学芸大学駅に行くには、ぼくが苦手とする渋谷で乗り継がねばならなかったので、以前はまず訪れない、いや行きたくても乗り継ぎのことを思うと、人混みにもまれる苦痛が想起されてどうにも敬遠せざるを得ないのでした。でも副都心線と相互乗り入れを始めてから、東急電鉄との付き合いは格段に深まりました。渋谷を素通りするだけで、中央林間駅さえそう遠くないと思えるようになるなんて。ここ十数年で加速的に推進された相互乗り入れってシステムは、住んでる場所で損得感がはっきり分かれるものですが、すべての乗り入れがぼくにとっては行動範囲を広げるために寄与しています。とまあ学芸大学駅も身近に思えるようになってからは、ちょくちょく出かけるようになりましたが、まだまだ知らない酒場もありそうです。 そうはいってみても学芸大学駅っていう町は、印象が曖昧な町でしばらく間が開くとそこがどんな町並みだったかさえ朧気にしか記憶に立ち上がって来なくなります。それでも歩き出せばエリアは狭いながらもいい感じに廃れた呑み屋街があることをすぐさま思い出し、これという酒場ももはや少ないことは知っているもののついつい散策してしまいます。そうして歩いていると「学芸角打」なる酒場があります。角打ちという単語から想起されるような枯れた酒屋さんはそこにはなくうなぎの寝床のような奥深い店内に中骨のようにまっすぐとカウンターが伸びるスタイリッシュなおしゃれなお店でした。それはまあ好みではないだけで好きな人は好きなんだろうけど、少なくとも角打ちという単語に結びつく要素は、酒がある程度のごく当たり前の一致があるだけで、それだったら町の中華屋とかと何の違いもないんじゃないの。ってかよほど味のある中華で呑んだほうがたのしいのは経験済み。 正直まだまだ先の角打ちにさいいたいことがあるけれとやめときましょう、なんたって向かうは「天国」なんだから。でもここは調べていったわけではなくてたまたま入ってしまった店なのです。「天国」といえば横須賀にもあったし、高円寺にもあったような。この二軒はどうも由縁があるようですが少なくともこの学芸大学のお店は全くの個人のお店の雰囲気です。ちなみについついてんごくと読んでしまいますが、本当は天国なのかもしれません。まあそれはどっちでもいいこと、気にするのはいいお店であることが判明してからでも十分です。10名分程度のカウンターとテーブル席もあったかな、至って平凡な造りのお店です。でも客席は窮屈すぎない程度に賑わっており、でも適度にざわめきが混じられる程度で騒がしくもなく大変に居心地がいい。駅から少し離れているためか、地元のご夫婦や一人客が主体であるのも気兼ねせずにゆったり呑める雰囲気をもたらすようです。品書も気が利いていて味も大変結構てした。酒場の種別として、自宅の最寄りにあって欲しい酒場と職場のそばで重宝する酒場があって、こちらは当然前者向きのお店なのでした。
2015/10/24
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都立大学駅のそば、ビルの谷間にある酒場のことは以前から知っていました。知ってはいたのですが、そんなに頻繁に訪れるわけでもないこの酒場に入るのは至難の業なのでした。昼過ぎには時間のできたとある雨混じりの日に、開店の5時前には到着し、店の始まるまでその酒場のある老朽化したビルを歩いてみたのですが、かつて町の百貨店として多くの集客があったと思われるのですが、駄菓子店らしき店を除くとほぼ退去しています。近く取り壊されるような記載もあります。唯一の望みは酒場の隣の古書店が現役であることですが、時間になっても店が開く気配はありません。恐らくは退去してしまったのでしょう。ここの酔客たちを長年見守った狭い広場の小便小僧が悲しげに小便を変わらず排出していますが、次に都立大学に来た時には姿を消しているかもしれません。「庄助」という酒場がここに確かにあったことを示すビルの角の看板のみがわずかの名残ですがこれも間もなく撤去されるはずです。 寄りたい酒場もなく隣駅の学芸大学駅に移動します。この駅の界隈には学芸十字街とかいう呑み屋街などいくつかの呑み屋が集まる一角があり小規模ではあるもののまだ見知らぬ酒場があるはずです。十字街にある一軒、「もつ焼き ふじや」は相変わらず暗いままです。ここも店の使命を終えたのでしょうか。そうそう以前満席で入ることが叶わなかった一軒があります。そちらにお邪魔してみることにします。 身を縮めるようにこぢんまりと通りにある古い木造の一軒家の居酒屋「小料理 美好」は、変わらず営業していました。カウンターに6席、奥にテーブル1卓程度の狭い店なので夜の帳が降りると瞬く間に満席となるようです。早めに到着できて良かったとようやく思えました。狭いカウンターの真ん中の席に腰を下ろします。カウンターが好きといつも語っていますが、窮屈なほどに狭い店の中心をなす席というのはやはりかなり気づまりなものです。言葉の使い方は変ですが肩身の狭い思いに近い感情が去来するのです。こういう時はさっさと酒を呑んで気を大きくするのが得策です。目の前のネタケースに並ぶイワシが立派なので値段も見ずに注文してしまいましたが、ぼくの日頃出入りする酒場よりは割高なようです。お通しも後で計算するとーなんかビンボー臭いー500円とそうそう使えるお店ではなさそうですが、たまに食べる山芋の千切りはやはり酒の肴として好相性で嬉しい。イワシも新鮮でプリプリですが、これは正直ぼくには贅沢で、むしろもう少し成熟させて落ち着いた味の方が好みかも。どうもぼくは本当の魚っ喰いとは言えないようです。左のおっちゃんも右の兄さんも刺し身一品を肴にテレビを見たり読書をしたり、たまに店主夫婦と会話を交わしたりと適当な距離感でうざったいところがないのが好ましい。なかなかハイレベルな酒呑み達です。こういう酒場はやはりいい酒場なのだろうな。 ちょっと予算オーバーなので次は手軽そうなもつ焼き店「きんか」に移ります。今時のちょっとお洒落でモダンな感じのお店ですが、別に気取りはないまあまあ使いやすそうなお店のようです。この辺りはチューハイでも380円位が相場のようですが、ここはぼくには馴染みのある価格帯の280円ーただし税別ーなのは好印象。中年の店主にうら若き娘さんが2人、かほどに可愛らしい小娘さんたちにお愛想を期待するのは贅沢に過ぎますがそれを目当てらしき客もいます。ぼくのことではありません、念のため。でもカウンターのみ盛況の客はほとんどが娘っ子なんぞに用はないよという枯れたオヤジたちばかり。うん、これは悪くない。これで時間も2回りくらいすれば娘さん目当ての客が大勢を占めるに違いありません。さて肝心のもつ焼きはこぶりてはありますが、まずまず悪くないんじゃないでしょうか。使い勝手は悪くありません。でもお通しに柿ピーはあまりに安直かも。
2015/09/16
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とある休日の昼間、所用があって苦手とする自由が丘に出かけました。思ったより早く用事を終えることができたので、あまりじっくりと歩くことのない界隈を歩いてみることにしました。自由が丘から奥沢、大岡山、都立大学とグルリと回り込んで、学芸大学、祐天寺と行きそびれていた喫茶店を回りますが、昼食抜きでこれぞという居酒屋もしくは食堂、中華料理店、そば屋を物色しますが、これぞという店もなし。ようやく辿り着いた祐天寺で、先般うっかりにも程がある店を畳んだと思い込んでしまった「鳥勝」のシャッターが半開きになっており、今にも開店しそうなのを見て、今晩は早く帰ろうと思っていたことなどなかったかのように時間潰しをしてお邪魔する事に決めたのでした。 「ばん」を目指しますがまだ開店までは少々掛かりそうです。商店街で開いているお店がありました。そこに行ってみることにしました。「居酒屋 大将」です。極めてオーソドックスながらこれぞ王道の庶民派居酒屋というお店ですが、この感覚、せいぜいが昭和の30〜50年代の感性なんでしょうねえ。当時ーしかもその末期でしかないーのことなど、おぼろげにしか知らぬぼくのような世代にとっては、懐かしいなど碌に知りもせぬくせに知ったように語ってしまうのは当時を知る人たちにとっては、滑稽な懐古主義に過ぎぬかもしれません。ともあれ直線的に配置されたカウンターとテーブル席を見やり、当然カウンターに着きます。テーブル席では早くも男女混合グループが呑んでいて、若い男がどうしたらここまで笑えるのかというくらいの音量で、けたたましいというか、むしろヒステリックに響く虚ろな笑いを轟かせています。大衆居酒屋というには値段は高いけれどちゃんとしているお店なのにこれでは気分もぶち壊し。そこで語られる話題がぼくをしてくすりとぐらいさせないものであのバカ笑いは迷惑なだけです。 16:30になるとやかましかに耐えかねて店を出ることにしました。「ばん」の前を通るとすでにお客でぎっしりの様子。夫婦連れは2つある入口を行ったり来たり。これだからどうしても好きになれないのです。飲酒環境が良くないのはけして繁盛店の宿命というわけではないはずなのに。 開店には早いかもしれませんが「鳥勝」に向かいました。あらあらもう開店したようで、シャッターが半開きから7割程度の開きになっています。どうやらシャッターはこの程度の開きにしておくのがこの店にとっては常態のように思われます。すでにオッチャン独りカウンターで呑んでいます。店の中心には柱があり、かつては部屋で仕切られていたのかもしれません。この酒場、けして汚いわけではありませんが、一言で言うと散らかり放題のお店です。古い酒場には、手入れが行き届いた上に無駄な装飾をストイックなまでに廃した場合、自宅に対するのと同様に汚れてはいないものの便利さ故に散らかり放題となる場合、そして汚しっぱなし、散らかしっぱなしのカオスのような状態となっている場合がありますが、このお店は第二のタイプのようです。多分に主の性格に左右されることの多いわけですが、ぼくはどのタイプの酒場も店主も好みなのでした。先客のオッチャンは、肴を頼まずカウンターに置かれたおかきなどのちょっとしたおつまみを時折ゴソゴソと漁ってはティッシュペーパーに取り分けて口に運びます。それもいいなあと真似することを思いますが、あまりにもいじましい。ホルモン炒めを頂きました。コリコリと食感もよく臭みもまるでなし。試みにキッチンコショーを振りかけてみたらこれまた大正解。夕食を食べに定食を注文する若者もいたりして休日の夕暮れ時らしいゆるい時間を過ごせました。
2014/09/26
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T氏の勤務先が異動した関係でこのところ東急東横線沿線で飲む機会が若干増えています。ぼんやりしているとそこが東急東横線のどこの駅だか混乱するくらいに似通っていて没個性な雰囲気の駅前風景が続きますが,もちろん一見すると代わり映えなく感じられる町であっても,地域ごとに特別な魅力が隠されているものである,そうに違いないと信じてやって来たのは学芸大学駅です。前回訪れた時には「浅野屋」と「久慈川」というメジャー店にお邪魔していましたが,今回も一軒目はこの2店を上回るメジャーな居酒屋をふり出しにすることにしました。 「居酒屋 鳥勇 学芸大学店」が最初のお店です。武蔵小山のパルム商店街にある「鳥勇」の出した居酒屋さんということで,まだ歴史も浅く,店もありふれた和風居酒屋然としています。さほど広くはない店内のカウンター席が幸い空いていたので,T氏と並び腰掛けます。品書きを眺めた二人はさりげない風を装いながらもその価格の庶民派居酒屋風の店と違う予想以上の高さに内心穏やかではありません。T氏の心の中を覗き込んだわけではありませんが,その表情からそうであることはありありと読み取れます。そんなそぶりは微塵も見せず,さりげなく注文はしてみる者の,大の大人二人が注文する品としてはかなり貧弱になることは避けられませんでした。とまあ相当な高級店であるかのような書きっぷりですが,実際はそこまでではなく大衆居酒屋のつもりで呑みに来た身にはことさらに高く感じられただけでした。というわけで特別悪い店ではないものの,わざわざテレビで紹介されるほどの酒場ではないなあとしょんぼり店を後にするのでした。 T氏は異動後すでに駅の周辺を歩き回っているとのことですが,改めて歩いてみると駅の南側にほどなく良さそうな飲み屋街があるのでした。「家庭料理 吉兵衛」は、鄙びた風情の定食屋風の居酒屋さん。ひとりの客もいなくても元気いっぱいの恰幅のいいおばちゃんが店を切り盛りしています。カウンターには大皿がいくつか並べて置かれ,まだ手つかずのままの状態なので,けして早い時間ではありませんがわれわれが口開けの客だったのでしょうか。ラーメン屋のような飾りっ気のないのっぺりとした内装はけっこう好みなのですが,ひとりだとおばちゃんと差し向かいということになりちょっと気詰まりになりそうです。大皿の料理は家庭の惣菜という程度のもので特別どうというものでもありませんが,それでもやっぱりチェーン系の居酒屋なんかよりはずっとくつろげるのでした。
2013/09/12
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知人と学芸大学駅で呑むことになりました。待ち合わせまでたっぷりと時間があるのでお隣の祐天寺駅で下車しました。祐天寺といえばもつ焼きの名店が知ってるだけでも2店あって、言わずと知れた「忠弥」と「ばん」ですが、前者は恐らく出遅れですし、後者は五反田店の悪い印象がいまだ拭い去れないので、今回は遠慮しておくことにしました。もちろんお目当てはあります。「鳥勝」という「吉田類の酒場放浪記」でも紹介されたお店です。駅を降りるととりあえず、ここを目指して散策します。ところがいくら探してもそれらしいお店は一向に見つかりません。もしや店を畳んでしまわれたのでしょうか。無念な思いながらともかく酒場を求めて進むことにします。 で結局入ったのは、東急線沿線でチェーン展開する「大衆割烹 大樽」の祐天寺店に入ることにしました。なんといってもチューハイ:130円,瓶ビール大:390円という格安料金が魅力的です。店舗によってはこの値段に差があるようですが、いずれにせよ安いことはいいことです。この張り紙に釣られてふらふらと階段を上ります。いかにも古くからやってる居酒屋といった様子の店内は案外好みです。いかにも大学の体育会系サークルメンバーといったむさいお兄ちゃんたちと熟年カップル、研修中といった雰囲気の若いサラリーマンとひとり客はいません。これだけのキャパのお店なのに店の方は厨房に調理人一人と給仕役の外国人のおねえさんだけ、忙しい時間帯には手伝いが入るのでしょうか。ビール気分ではないので、選択肢は当然ひとつだけ、チューハイをいただくことにします。安いからと言って呑み過ぎてしまっては、後が続かなくなるのでゆっくり時間を掛けて呑むことにします。チェーン店であるにもかかわらず不思議とせかせかした感じがなくのんびりくつろげるのはありがたいです。お店の方たちもなんだかゆったりとした動作であるように感じられます。ゆったりしているのはいいのですが、お隣さんたちに出されているお通しがぼくにはいつまでたっても届きません。まあ喉の渇きさえ癒せればとりあえずは何も食べたくないから構わないのですけどお勘定の際、きっちりお通し代が含まれていたので、あれチューハイ2杯だから260円じゃないのと問いただすと、ああお通し出し忘れたのですね申し訳ありませんとときっちり詫びを入れてくれたから文句なし、って260円でお勘定なんてコーヒーショップ並みの安さで、こちらこそ恐縮でした。 学芸大学駅に向かってぶらぶら歩きます。そういえばもう一軒、「吉田類の酒場放浪記」で紹介された「立花」っていうお店があったなあと、メモしてあった住所を頼りにしばらく住宅街をうろうろしました。やがてごく普通の民家をなんとなく化粧した程度のがっかりな外観のお店があり、これが「立花」なんですね。靴を脱いで店内に入るスタイルでちょっと面倒。カウンターの端では地元のオッチャン風がくつろいでいます。品書きを見てギクリ、地元密着系の焼鳥屋さんとしてはいささか値が張るお店です。酒類では一番安いワインハイボール?だったかをもらうとまったく名前通りにワインを炭酸で割ったもの、2杯目以降は単なるワインに切り替えました。焼鳥は値段だけのことはあって、お通しもいわしの丸干しをフライにしたりちょっと気が効いているもののとりたてて感心するまでには至らなかったのでした。終始、若い女性が厨房と応接を担当しておられ、酒なんかもカウンター越しに渡してくれればよいところをちゃんと手元まで運んでくれたり、実にちゃんとしています。そういえばお隣のオッチャンはこの店のご主人だったようです。セコイ呑み方だったのに丁寧に見送っていただけました。品書:果実サワー(S:500,W:800),酒サワー:500,焼鳥:150~200,鳥刺身3点盛:1,000(5種から選択),軟骨から揚:600,立花チキン:1,500,ジャガシャキ・サラダ:500
2013/08/30
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住みたい町の調査をすると必ず上位にランキングされる中目黒は、かねてから訪れたいと常に記憶の片隅に留めておいた酒場があるもののおしゃれで若者の町といった先入観があって、たまに通過することがあったのですがいつも昼間ばかりで夜にやってきたのは酒場巡りをはじめてからこれが初めての訪問となります。自宅から遠くないにも関わらずなかなか足を延ばせない町というのは実はいくつもあって、やはりそうした町にも先入観を持たずに、夜を待って呑みに行ったらなかなか捨てたものではないではないかと思わされる一夜になったのでした。 その町を訪れたらやはり避けて通れない酒場が大抵1軒や2軒はあって、中目黒であれば「大衆割烹 藤八」がそれに当たるのではないでしょうか。「吉田類の酒場放浪記」や「ハシゴマン」にも登場しましたし、太田和彦などの著作にも紹介される有名店です。そんなメジャーな酒場を訪れるのはわれながら俗物であるなあなどと思わぬでもありませんが、それだけ知られているからにはやはり捨ておけないだけの魅力があるのでしょう。駅を出て目黒川を渡るとすぐに巨大ななまこ壁風の安っぽい装飾が施された土蔵風の建物があります。壁には化粧文字で「大衆割烹 藤八へようこそ」とさらに安っぽさを引き立てるかのように記されていて、どうしてこんなみっともないことをしちゃったんだろうなあと早くも失望感にさいなまれます。まあうじうじしていてもしょうがないので平静を装って入店します。ああ、そういえばこの日もおしゃれな町や若者の町をぼく以上に毛嫌いしているO氏がどうした気まぐれからか同行しています。O氏は職場が変わったこともあって気分を入れ替えるためかどうかは知ったことではありませんが、近頃は自由が丘なんかにも出没したりして土地土地の酒場を荒らして歩いているようです。この人と呑むときはどうしてもこそこそ話が多くなり、この夜も店頭に立ってほんのひと時ですが憎まれ口を叩いてみたりしたものです。さて、店内に入っていて、ちょっと意外の念に駆られました。というのもテレビで見たり撮影された写真を見た限りでは大衆割烹そのままにカウンターとテーブルが多少ある程度のこじんまりとした店を想像していたので、これほどまでに広くて雑然としてしかも大衆的だとは想定外だったのでした。いくぶん気分を良くしたわれわれはカウンターに案内されました。さて何をもらおうかねえと壁の品書きを眺めるとちょっとお値段の点がご不満なのかO氏の表情は曇ります。この酒場の名物という自家製腸詰や肉じゃがコロッケを注文します。まあすごい旨いというほどではないまでも個性的な名物があるのはそれだけで楽しいものです。それにしても隣の客がべろんべろんになっていてやたらと体を預けてくるのが気色悪くてうっとおしい。それを見た女将さんが再三注意しても耳に入らないらしくしきりにすまながってくれます。テレビなどで見た限りでは大女将然とした気取った印象でしたが、むしろさっぱりとしたちゃきちゃきした性格の方のようで好感を持ちました。またゆっくり訪れたいお店でした。品書:ビール大:630,サワー/ホッピー:420,酒(小:210,大:680),いかのかき揚/自家製はんぺん/自家製腸詰:420,肉じゃがコロッケ:210,明太子うどん:520,ゆぷし:430 さて、次の店を決めるのに優柔不断なO氏とあっちへ行ったり、同じ道を引き返したりします。確かにこれぞ訪れるべき酒場というのがなかなか見当たらず、東急東横線の高架沿いにある「北の惠」という居酒屋にお邪魔することになりました。こじんまりしてあか抜けない雰囲気がかろうじてO氏の琴線に触れたようです。今風ではない構えの店ながらもどこかしら気品を感じさえします。店に入るとカウンターだけでとてもこざっぱりとしています。狭いお店で時折無理矢理テーブルを詰め込んだようなお店がありますが、散らかり放題の店には似合っても、のっぺり整然とした店はカウンターのみで統一したほうがいいようです。さて、店は女性一人でやっているようで、客もいないので彼女もわれわれに構いっぱなしになります。日頃O氏とひそひそ話に興じることが多いので、たまに店の人が絡んでしゃべることにすっかり夢中になってしまい、しかもこの女性が勧め上手ということもあってもう1杯だけを何度か繰り返したでしょうか、すっかりいい気分になってしまいへろへろになって帰宅したのでした。ちなみに確認したらこちらも「ハシゴマン」に登場していたようです。つくづく俗物だなあ。
2013/08/13
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東急東横線の学芸大学駅って用事があることなんてまるでなく,これまで指折り程度しか下車したことがないので自宅からはちょっと遠いけれど思い切って行ってみることにしました(つい先日まったく同じような文章を書いたばかり)。都立大学の思いがけぬ楽しさに味を占めてこんどは学芸大学に行ってきました。 学芸大学の酒場といえば最初に名前が挙がるのが「浅野屋」ではないでしょうか。「吉田類の酒場放浪記」や「ハシゴマン」にも登場しているようです。昭和41年創業ということですごい老舗というわけではありませんが,目黒区の酒場としては古参であると思われます。店は新しい感じで煤けた印象はほとんどありませんが,店内の広いコの字カウンターはいい感じです。カウンターの奥にはテーブル席があって,思った以上に広いお店です。堀切菖蒲園の「喜楽」や十条の「田や」にちょっと似た感じでしょうか。お客さんで席も7割り方埋まっています。さすがに人気店です。肴のメニューが豊富であれこれ頼みたくなりますが,値段はそこそこなのでカキフライなどに絞って注文します。量がしっかりあってうれしいですね。女将さんはちょっとおっかない感じでしたが,常連さんたちとはにこやかに談笑されていました。 次に伺ったのはこれまた「吉田類の酒場放浪記」,「ハシゴマン第3回」で紹介された昭和58年創業の「久慈川」です。実は「浅野屋」でしたたか呑み過ぎてしまったためほとんど記憶がないのでした。そんな状態なので,このお店のコメントは省略です。また再訪する機会があればそのときに報告させていただきます。
2012/12/18
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立飲みはほどほどに続いての店に向かうことにしました。線路沿いに少し進むと看板が見えてきました。よしよし着いたぞと看板の下に立つとそこには暗くて細い路地とさえ言っていいものか判断に苦しむような砂利道があります。奥にぼんやりと暖簾が見えているので間違いはなさそうです。 「のんべい 安兵衛」です。「吉田類の酒場放浪記」でかつて放映されていたのをこの路地で思い出しました。この路地だけでもたまらなく好みの店である予感が脳裏をよぎります。やはり当たり。建物のぼろさはかなりのもので床がへこへこになっているため,平衡感覚さえ危うくなりまっすぐ立っているのがやや辛いくらいです。カウンターのみせいぜい7,8名も入れば一杯になりそうな小さなお店です。こんなボロなのに東日本大震災にさえまるで動じることなく,焼酎一本ひっくり返ることもなかったそうです。F氏もすっかりうれしくなったようでとんび串:150円など張り紙された品を次々オーダーします。近頃めっきり見かけなくなったハエ取り紙の周囲を巨大なハエが飛び回るのに見入っているうちに焼酎がみるみる減っていきます。ちょっと呑みすぎたようです。 都立大学には同じ屋号のお店が向かい合って建っています。まずはその一軒「食事処 鳥はる」にお邪魔します。カウンターのみの店内は煤けていて渋さ抜群です。先ほど呑みすぎたので,こちらではのんびり休憩させてもらいました。 一息ついて今度はもう一軒の「鳥はる」にお邪魔します。ここも「吉田類の酒場放浪記」で紹介されたお店です。カウンターのみの店内は好みですが,造りこそ渋いもののよくよく見れば上品な装飾が随所に施されています。こちらは焼鳥屋といっても本格的な料理を出してもらえるということを記憶していたので,次々に黙っていても次々と料理が出てくるスタイルのお店かもしれぬと軽く身構えていましたが,なんのことはない焼鳥だけでもぜんぜん問題はなさそうです。御主人はせこい注文でも特に嫌な顔をせずに淡々と受け流してもらえるのはありがたかったです。われわれが店を出るまではお客さんは入っていなかったのですが,帰り際に電話で予約の申し込みがありました。ここでちゃんとおいしいものをいただこうという人はきっちり予約してから来店するのが慣わしなんでしょうか。ともあれ,焼鳥だけで飲めばお手頃だったので一安心でした。生ビール:480,酒1合:900,焼鳥:80,山菜の盛合:750,フグのコールド:1,000,おつまみ:800~
2012/12/13
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東急東横線の都立大学駅って用事があることなんてまるでなく,これまで指折り程度しか下車したことがないので自宅からはちょっと遠いけれど思い切って行ってみることにしました。ホームから見渡す風景はただ自動車道路が横切るばかりでああ,やはりこの界隈では酒場を満喫することはできなさそうであるなあなんて早くも諦めムードで改札を出たわけですが,出てみてうれしい驚き。ガード下に酒場が連なっているのですね。早速ですが,立ち飲み屋に寄り道することにします。 最初にお邪魔したのは「立ち呑み処 新世界」。ガード下の細長いカウンターの立ち飲み屋です。おばちゃんがひとりでやっており,串揚げがメインのようです。まだ開店したばかりのようで客はおらず,おばちゃんも仕込みと開店準備の真っ最中です。早速サワーを所望し,最寄に住むF氏の到着を待ちます。F氏と呑むのは半年振り位でちょっぴり楽しみです。おばちゃんに先日来なかったかい,などと尋ねられますが,ぼくに似た人がそんなにいるとは思えないけど。おにいちゃん20代かいなどと思いっきり見立て違いの年齢を言われたのでおばちゃんの観察力はあまりあてにはならなさそうです。立飲みにしてはやや値段がお高いのでF氏が到着するとほどなくして店を後にしたのでした。品書:ほろ酔いセット(生中+串かつ3本+辛みそキャベツ):780,生中:390,ホッピー:390(中:220),串かつ:120~,コロッケ:210,唐揚/チキンカツ:280 続いて向かったのは「ホームラン」。ガード下の連絡通路をくぐるとすぐにまた立ち飲み屋さんがあるなんてなかなかいいんではないですか。こちらのお店はさっきの店よりはもう少し年季が入っていそうな雰囲気です。料理人らしく白衣を着たおじさんが2名でやっているようです。すでに数名の客も入っていてこちらのほうが繁盛しているようです。肴メニューも立ち飲み屋としては充実しており,特に魚介系は豊富なように記憶しています。難点はやはりここでもお値段です。東横線沿線ではこの価格帯でやむなしとせねばならないのでしょうか。品書:ホッピー/生中/スダチハイ:368,ゴーヤおひたし/シメサバ:315,こまい:210
2012/12/12
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目黒ではよほどのことがない限り下車することはありません。以前こそ目黒シネマにちょこちょこと出入りしていましたが、今では東急の目黒線の乗り換えの際などに駅ビルなんかをぶらつく程度になってしまっており、飲みに来るということもまったくと言っていいほどありませんでした。そんなこともあって山手線沿線としては大崎駅と並ぶ未踏の地ということもあって、さほど期待はしてはいないものの、ほとんどはじめて飲む町に訪れる高揚感をもって訪れることができました。 さて、駅前をぶらつきますが、あまり気を惹かれる店が見つかりません。まだ4時過ぎなのでしょうがないとはいえあまりにも味気のない街並みです。おっ、「目黒 とり薪」というお店はすでに開店しているようです。早速入ってみることにします。けっこうな老舗店のようですが、改装されたらしくてきれいですね。店の手前はカウンター、奥にはテーブル席がありすでにサラリーマン数名が飲んでいて大きな声で盛り上がっています。二代目店長は初代の頃から常連らしいオヤジに絡まれて面倒くさそうに応じています。限定セット(生中+焼鳥3本):660円というのがあるのでとりあえずもらってみることにしました。まだ明るいうちに往来する勤め人たちを眺められるカウンターの絶好の位置を占めることができたので、ひそかに優越感に浸ってはみたものの、冷静に考えるとこんな時間からひとり飲む男を世間は冷ややかな目で眺めているんだろうなあとふと我に返ってしまいました。品書:ビール大:580,酒2合:530,サワー:380,焼酎:350,牛スジ焼:210,串焼2本:220~,もつ焼5本セット:400,アワビの塩辛:420,もつ煮込:400,ポテトサラダ/がつ刺:480 続いては、生ビール160円の張り紙に惹かれて「居酒屋 みどり」に入店します。張り紙を見てすぐに気付くべきでした。あまりにも気の利いた酒場が見当たらず焦ってしまったのが誤りでした。ここは六本木や原宿、表参道などを皮切りに最近は酒場のメッカにも切り込んできた一連のお店の一つのようでした。これまで神楽坂の「竹子」、池袋「すし居酒屋 小池」、原宿「ゆかり」に入って値段こそ安いものの一度として楽しめなかった過ちを繰り返してしまいました。ネットでの調べによると他にも六本木「松ちゃん」、「小松」、神楽坂「竹ちゃん」、参道「中西」、新宿「やまと」、「すし居酒屋 アルプス」、神田「すすむ」、浅草橋「みかみ」、神泉「居酒屋 すみれ」、五反田「ぼたん」、広尾「寿司居酒屋 のぼる」、水道橋「あひる」があるようです。要警戒です。そういうわけで失意のうちに目黒を後にしたのでした。
2012/11/05
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目黒区は、東京23区の西南部に位置し,目黒川や呑川,立会川などが流れています。明治20年にサッポロビールが現在の恵比寿に目黒工場を設立しましたが,現在は恵比寿ガーデンプレスとなっています。目黒区は,関東大震災後と終戦後に人口が増加し,現在高級住宅街として発展を遂げています。交通は東横線や東京急行電鉄が主流で,目黒駅は品川区,恵比寿駅は渋谷区に立地しています。 住宅地がベースの区になりますので,酒場は駅周辺に集まる傾向のようです。目黒駅の西側や中目黒駅を中心に,祐天寺,学芸大学,都立大学,武蔵小山,自由が丘などにそれなりに居酒屋がありますが。中目黒には若者を対象として酒場が増加しているように思われますが,古い酒場が残る街としては大きな商店街のある武蔵小山が筆頭です。おしゃれな街のイメージが定着する自由が丘にもいくつかの名店があります。祐天寺 忠弥 線路沿いの住宅街に「忠弥」はあります。午後3時30分前にはすでに開店を待つ客たちが並んでいます。住宅街に人の列ができているちょっと異様な光景です。普通のお宅にしか見えない外観と違い,店内は想定外に長いカウンターが伸びています。忠弥特製カクテルで流す実に種類が豊富で味も抜群の串は,夕方早い時間には品切れになることも多いようです。確かにここは時間をやりくりしてでも来る価値のある酒場でした。祐天寺 もつやき ばん 昭和32年創業の有名店で,平成17年移転後は平凡な見てくれの店になってしまいましたが,変わらぬ味を求めていつも多くのお客さんが駆けつけます。自由が丘 ほさか 昭和25年頃の創業でしょうか,恐らく当時と同じ店の構えをそのままに活かした活気ある酒場です。からくり焼・ひれ焼・きも焼・塩焼・かしら焼などのお馴染みの鰻串がこちらの肴。
2011/12/15
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