おいしい 千葉 ~ponの食べある記~

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2006.09.29
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カテゴリ: 空に刻まれた言葉


スイスの方を旅してきて、いまフィレンツェに帰るところだという。穴のあいたコインが珍しいだろうと5円と50円硬貨をあげる。おじさんはそれを妻に見せてから、両手を大げさにふって(ありがとう)と頭をさげた。

(今夜どこに泊まるんだい)(フィレンツェです)うんうんと納得顔をする。ガイドブックのフィレンツェの市街図を出すと、ここだここだと指をさす。(うちに来てゆっくりしていきなさい)と言っているらしかった。隣の奥さんも(そうよ、そうして)と言うように微笑んでいた。

住所はここだからと一枚の名刺をくれた。日本のものよりサイズが二周り大きい。これでEさんの本名を知った。既製品ではなく、特注のパックツアーだったが、スケジュールがびっしり入っていて、とても抜けられそうになかった。私はお礼だけ丁寧にのべた。

周囲に建物が重なりはじめ、大都市の予感が満ちてくる。列車がスピードをゆるめていく。継ぎ目をひろう音が小刻みにつづく。線路が枝分かれし、枝分かれをくりかえす。それはどんどん幅広くなっていった。Eさんご夫婦が先に立ちあがった。

ツアーの同行の人たちが私の名前を呼んだ。みると、通路にいたEさんが向こうの大きな建物を身ぶり手ぶりで私に示していた。大聖堂―ドゥオモだった。(よーく見てくれ。俺たちの街の誇りを)と言いたげな胸の張りかただった。ホーム上でもう一度あいさつして、私たちは別れた。その夜、やはり抜けられるような余裕はなく、Eさんの所にはいけなかった。

ツアーから帰って半年後。部屋の整理をしているとき、あのときもらった名刺が出てきた。私はダメもとで絵葉書を送った。2週間くらいして、ベッキオ橋の絵葉書がやってきた。Eさんの奥さんからの返信だった。

1年後結婚した。新婚旅行はイタリア。今度は、あのとき行けなかったEさんの家をたずねてみようと思った。その旨を告げる手紙を出すと、ただ一言(OK)と記した絵葉書がやってきた。

ツアー会社の人に連絡を取ってもらって、時間とかは調整済みだった。公園近くの石造りのマンションの前に立つ。Eさんのネームプレートをその柱に見つけた。一棟に六戸しか入ってないマンションだった。インターフォン連絡をすると、その向こうでたしかにあのときの奥さんの声がした。回廊のようになった石畳のところに奥さんが姿をあらわす。懐かしくて嬉しくて。握手のあと、思わず抱きしめ合ってしまった。初対面の奥方を紹介する。

モノクロ映画に出てくるような鉄格子の重厚なエレベーターにのり、3階でおりた。お子さんやお孫さんが来てくれていた。この日に合わせて、呼んだらしかった。おじさんは仕事で出かけていて今日は不在だという。また列車のときと同じように、少しの英語と少しのイタリア語と大量の日本語、少しの英語と大量のイタリア語同士で会話しあった。

別室に招き入れられた。壁一面に写真がかざってあった。大小さまざまなサイズの額が適当に配されているのだが、それがいかにも自然にバランス良く飾られていた。そこに写っている一人ひとりをおばさんが説明してくれる。一つの額の中に、以前私が送った私と奥方二人の写真があった。

鶏レバーのカナッペのプレートが供された。ロッソワインが注がれる。今晩は、おばさんが料理の腕をふるってくれるという。しばらくして、ダイニングのほうに通された。7人ほどで囲む大きな食卓。イタリア映画の1シーンに、自分たちも参加しているような気がした。

ペペロンチーノがやってくる。大きなビーフステーキが続いた。バージンEXのオリーブオイルが行き交う。新たに白ワインが注がれた。腕と腕が交差した。私が立ち上がろうとすると(いいから)と、おばさんがお孫さんに指示した。ドルチェは、ヌガーとジェラートが出された。本当に濃厚なエスプレッソをやりながら、にぎやかになごやかに会話しあった。お腹をよじって笑った。なぜかベルルスコーニの名前まで飛びだした。ヴェルディの一節を口ずさみあった。「アイネ・クライネ」を、お孫さんがリコーダーで吹いてくれた。このときの食卓のことは、たぶん一生忘れないだろう。

Eさんご夫婦との交流は、今もまだ続いている。年に何回か手紙のやりとりをする。クリスマスカードは、互いに欠かしたことがない。すごいことは書けないが、むしろ簡単な単語の羅列くらいのほうが気持ちが通じるような気がしている。おばさんがあのときくれた(OK)の葉書こそ、心のすべてが含まれた最高の手紙だと今でも思っている。
ポンテベッキオ


「長靴の親和」

田園を吹き押すようにTEE列車はなめし流れる 南下にぬれて

遠く湾曲していた道がふと斜めに近づいてきて踏切 (れっしゃ) に至る

血も影も香らず車窓をうつり行く 街の稜線・オリーブ・みどり

われという縦歴史誤差どうすれば「にがい米」とのリンクかなうか

花の都を細くアジアな風が斬る アルノ河沿いぐんぐんバイク

右ひねりしたまま俊な手わき見る眼 縦列組もうとフィアット・ウーノ

青銅のとびら彫刻見つめすむ人ら 各個にくすむ仰角

忽然の窓からのぞく裏通り 遠近法とフィレンツェ・オレンジ

気持ちよく磨耗したリアル石壁にざらり撫で行くボクが昼影

どうなってもいいような気で石畳奥の射影にずぶずぶもぐる

2分だけじっと目を閉じHIGHで立つ 一切を吸う硬派の午睡

コンパスは必需品かも海の伸す方位つかんでいないと不安

路の辺にフリル添えおる鉢群れにおもう 花・秘話・都市との自愛

イタリアを旅する自然必然にパスタ飽かずの嗜好整う

他所を視るイマジネーション善悪の内におさまる誤差にしたしむ

「ちょい似てるけど基本から違う、そこが狂おしいくらいいいんだよなあ」

<千年でも恋していたら>と強く説くような6月ローマの光

見送れる老夫婦まるく立ち止まり祈手くむサン・ピエトロの内

峻険にしまる教会椅子に座すときの意外な木冷え、硬質

旅急ぐ群れ借りながらデミタスの紙カップカフェかさねるテラス





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Last updated  2006.09.29 11:39:33
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