私訳・源氏物語

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April 3, 2006
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雷が止み雨も小降りになったころ、父の右大臣がひょいと入ってきて、御簾を引き上げながら早口で「ひどい雨だったね」などと様子伺いを述べます。
源氏の君はその軽率さを、舅である左大臣とくらべて「重々しさのない粗忽者よ」と、内心ばかにして聞いています。
のんきなお姫様は思いがけない父親の闖入に、すっかり困ってしまいました。
ご自分から御簾の外へいざり出てきたのですが、顔が赤く上気しています。
それを見た父大臣は「まだ熱があるのだろう。かわいそうに」と思うのですが、なんと、娘の御衣(おんぞ)に男物の帯が絡まっているではありませんか。御張台の下には見慣れない男手の手習いまで落ちています。

父親は血相を変えて「それは誰のです。よこしなさい!」と声を荒げ、娘は真っ赤になったまま、今にも泣き出しそうな顔をして立ちすくんでいる・・・このあたりのシーンは、まるでアメリカの喜劇を見ているような感じです。

こんな時は、娘の体裁を思いやって、見て見ぬふりをするのが貴族のマナーであったようですが、紫式部はこの右大臣に、そういった奥ゆかしさを与えませんでした。

几帳の中を覗くと、寝巻き姿で添い臥している男がいるではありませんか。
臆面もなく自分が誰であるかを見せておいて、興ざめた様子でおっとりと顔を隠す図々しさ!
源氏のこの、生意気で嫌味な態度もさることながら、あまりの出来事に驚き呆れ、腹は立つし、どうしてくれようと気をもむ短気な右大臣に「老いのひがみまで加わって」と、追い討ちかけて活写する紫式部の筆力によって、せっかちで自己抑制のない大臣と、おっとりとかわいい尚侍の君の対照的な父娘を源氏の視点から諧謔的に、しかも三者三様の性格を立体的に描いて、実に面白い場面になっています。





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最終更新日  March 8, 2017 06:58:55 PM
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