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葵の上は時々ご返事などなさるのですが、まだ弱々しげです。一時は危篤状態だったことを思いますと、源氏の君にとってはまるで夢のようではあるのですが、また一方では六条御息所のおん物の怪を見てしまったものですから、憂鬱になってしまいます。それでもお薬湯をおすすめするご様子は、お傍に仕える女房が見ても夫として甲斐甲斐しいお振る舞いでいらっしゃいます。
いと、をかしげなる人の、いたう弱り、そこなはれて、あるかなきかの気色にて、臥し給へるさま、いと、らうたげに、心苦しげなり。御髪の、乱れたるすぢもなく、はらはらとかゝれる枕の程、ありがたきまで見ゆれば、「としごろ、何事ありて、思ひつらむ」とあやしきまで、うちまもられ給ふ。
たいそううつくしい人がひどく衰弱なさり、正気を失ってあるかなきかの状態にあって、病床に臥していらっしゃるのは、とても可憐でいじらしいのです。御髪なども乱れることなく、はらはらと枕にかかっているのをご覧になって「今までどうして、この人のことを不足に思っていたのであろう」と、不思議な思いで葵の上を見つめられるのでした。