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その時突然猫が二匹、御簾の端から走り出て来ました。猫には紐がついていたのでそれがものに絡まり、御簾の裾がまくれ上がってしまったため、お部屋の中がすっかりあらわになってしまいました。柏木は、女三宮と思しき女性が立っているのを見てしまいます。
紅梅にやあらん、濃き、薄き、すぎすきに、あまた重なりたるけぢめ、花やかに、草子のつまのやうに見えて、櫻の、織物の細長なるべし。御髪の、すそまでけざやかに見ゆるは、糸を縒りかけたるやうに靡きて、裾の房やかにそがれたる、いと美しげにて、七八寸ばかりぞ、余り給へる。御衣の、裾がちに、いと細く、さゝやかにて、姿つき、髪のかゝり給へるそば目、いひ知らず、あてにらうたげなり。
紅梅襲ねの袿なのでしょうか、襟やお召し物の裾のあたりの紅色や紫など、濃いのや薄いのが次々に重なっている様子が花やかで、たくさんの色紙を重ねて束ねた草子の綴じ口のようにうつくしく、その上に着ていらっしゃるのは、桜襲ねの織物の細長でいらっしゃいましょうか。御髪は毛先のほうまではっきり見え、それはまるで糸を縒りかけたように靡き、七八寸ほどもお身丈より長く、裾のほうで切りそろえてあるのがたいそううつくしいのです。御衣は裾を長く引き、お身体はたいそうお小さく細く、そのお姿つきや髪のかかっていらっしゃる横顔は、言いようもなく上品でかわいらしいのです。
しかしこれは、あくまで恋する柏木の視点からのこと。夕霧は、「ご自分の挙措や態度に奥ゆかしさがなく、他人への心遣いのない頼りない人は、かわいらしいようではあるけれども気がもめるものである、世間では父の院がこの女三宮を生温くお扱いになると噂されるが、この様子ではそれももっともな事」と、心の中で女三宮を見下していらっしゃるのでした。
恋に溺れる柏木と、冷静な夕霧の、女三宮という一人の女人に対する評価の違いがはっきり見えて、とても面白いと思います。