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何事もなく日々が過ぎ行きます。
左大臣には思いもかけぬ出来事でしたから、哀しみの尽きる事がありません。
何の取柄もないつまらぬ子でさえも、人の親であれば可愛いと思うものですのに、
ましてやご両親のお嘆きは尤もなのです。
姫君がたった一人しかいらっしゃらないのを物足りなくお思いでしたから、
まるで手中の玉が砕けてしまったよりも大きなお嘆きぶりです。
大将の君は御自邸の二条院にさえ、かりそめにもお帰りになりません。
深い悲しみに思い嘆き、仏前でのお勤めをまめになさりながら日々暮らしておいでで、
あちこちの女君へは御文だけを差し上げていらっしゃるのでした。
あの御息所へは、斎宮が宮中に設けられた左衛門府にお入りになりましたので、
たいそう厳重な御潔斎を口実に御文を差し上げることもなさいません。
世の中に対してすっかり厭わしいお気持ちになってしまわれて、
『絆しとなるような若君さえ生まれていなかったなら、出家していたものを』
とお思いになるのですが、
対の姫君が一人寂しく暮らしていらっしゃることを、ふとお思い出しになります。
夜は御帳台の内に一人臥していらして、
その周囲には宿直の人々がお仕えしているのですが、独り寝の寂しさに「時しもあれ
(時しもあれ 秋やは人の別るべき あるを見るだに 恋しきものを)」
と、寝ざめがちですので、声のすぐれた僧侶たちを選んで伺候させます。
暁方に聞く念仏には、耐え難いほどの哀しさがあるのでした。