PR
カレンダー
キーワードサーチ
年をとった女房たちは、
「いやはや、何とも情けない姫宮の御宿世ですこと。
一時は神、仏が現れ給うたような思いがけない源氏の君のお情けに
『このようなご幸運にめぐり会うこともあるものだ』と、ありがたく拝見したものですのにね。
不運は世の常とは言いながら、
源氏の君の他に頼りとなる御方もいらっしゃらないのですから、
何と悲しい姫宮でいらっしゃいますことか」
と不平を言ってはため息をつきます。
源氏の君のご庇護を受ける以前は、どうしようもない貧しさにも慣れてしまい、
何とも思わずに過ごしていらしたのですが、
なまなか少しばかり人並みの暮らしを味わったばかりに、
ひどく耐え難く思うのでしょう。
そうして少しでも役に立つ女房たちが自然に集まってきたのですが、
今では次々に散って行ってしまいました。
女房の中には死んだ者もあって、
月日とともに身分の上下にかかわらず人数も少なくなっていきます。
もとより人少なで荒れ果てた邸内は狐の住処となり果て、
気味悪い遠くの木立には朝夕梟の声が聞こえます。
以前はそのようなものも人の気配に妨げられて姿を隠していたのですが、
今では木魂など怪異な者どもが我が物顔に現れますので不気味でやりきれず、
僅かに居残って末摘花の君にお仕えする女房たちは侘しくてたまりません。
たまたま裕福な受領どもで趣ある家造りをしようとする者が、
常陸宮邸の庭木に目を付けて「ここを私にお譲りくださらんか」と、
足元を見たような値段交渉を申すのを聞いた女房が、
「お売りなさいませ。
そして、恐ろしい思いをしないですむお邸に移ることをお考えくださいませ。
お仕えする私たちも、もう我慢がなりませぬ」
と申し上げるのですが、
「何とひどい事を言うのです。世間体という事もあります。
私が生きている間に、親の形見を売ってしまうなど、どうしてできましょう。
こんなに恐ろしげに荒れ果ててしまったけれど、私にとっては
『両親との思い出がいっぱいの古い住処』と思うと、
寂しさも恐ろしさも慰められる邸なのですよ」
と、泣きながら拒むのです。