上も左も右も下も真っ白。後ろは見えない。首が回らない、曲がらない。首って何だっけ。目の、前だけは真っ白ではない。けれど、何だかわからない。地面の色のきれ? 白い背の高い箱に細長い箱がたくさん。箱じゃなくて、本だ。きれの床で何かが動いている。白い何か。 本はたいせつな物だっけ。本に書いてあるのは字。見慣れたような、見慣れていないような。
目の周りに黒いものが、目のすぐ上下左右に見える。円いような何か。
私は誰? わからない。この感じは何? 感じ? 漢字? 漢字って何だっけ。
ね ぬぐ な、な ね ぬぐ。つねならぬ。違う。つねならむ、がいろは歌。なにぬねの だっけ? いろはでなくて。いろは歌。何だっけ。イロハ
だっけ。いろはよりしっくりくるような、そうでもないような。
ぼんやり、何も覚えていない。覚える? 思い出す? 何も思い出せない。
首だけではない、何も動かせない。何も? 何もって何があるんだ?
目だけが回る。目、見えるってこと?
私は考えている? 考えるって、何?
目はどこにある? 何だっけ。この目のまわりの。まわり? 目がまわる?
まわり、まわる、首はまわらない。首って何だっけ。
うごかせない首、首の上、黒い、たぶん、まるの中に目。目で見ている。
だんだん分かってきたような。わかるって何だっけ。
ぼんやり暗くなって、ぼんやり明るくなって、目だけが動かせて。
見えるものは、ずぅっと 地面のようなきれのような、本がたくさん、変わるのは、白い小さなものと 白くなくて もっと大きい何か。この二つは、見えなくなったり 見えたり 時々音を出したり。これの繰り返し。延々と永遠に続くような。
永遠って 何?
な ね ぬぐ。この音が私の中でくりかえされる。聞いたことのあるような、ずぅっと昔のこと。いつ? いつって何? 昔って。
見えたり見えなくなっている、白いものとそれより大きいもの、くりかえされるからなのか、何か親しみを感じる。 もしかしたら自分も同じなのか。
あの二つから 私は見えるのだろうか。白い方は、時おり 私の方を見て、何か音を出す。あの二つにも 目が二つずつある。その下の動いているものは
口だ、口が開いたり閉じたりしている。
口が閉じたり開いたりする度に何かぼんやり聞こえる。音。
けれど、よく聞こえない。聞こえない、ってことは聞こえるってこともあるわけだ。聞こえるってどういうこと。
聞こえるってことをわかろうとしたら、目の横に耳があると分かった。耳で聞いていると分かった。
目が動かせるなら、耳も動かせるかもしれない。動かない。そうか、目の下の方に首があって、でも首が動かせないのと同じだ。
私には目がある。首がある。耳がある。けれど動かせない。動くものなのだろうか。
目の下に、私にも口がある、と思い出した。
口も、耳と同じで、動かせない。
動かせないから、音が出せないのか。
目の前に時々現れる二つ。形が違う。特に口の形が違う。
私もあの二つのどちらかと似ているのだろうか。あの二つには、私が見えているらしい。
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