警察官達に加えて隣人の視線が俺を観察している。営業トークはやはりジャージにはそぐわない。
「それ、こちらの所有者の許可をいただいてらっしゃいますか? 実は、お留守の筈なのに深夜過ぎても、今朝方も電気が付いているので不審に思われたご近所の方々から通報を受けましたので、参りました。もし許可を得られてるのでしたら、問題ないのですが、とりあえず、署の方でお話しを伺わせて頂きたく、ご足労お願いしたいのですが」
「ですが、もう1時間ほど後にはお客様がいらっしゃるので、後ほどでもよろしいでしょうか」
「いえ、お時間は取らせませんから。なんでしたら、私、そのお客様と直接お話しいたしましょうか」
「いやぁ、それは………… 警察からお電話ですと、お客様にご迷惑掛かりそうですし、困ったなぁ」
シミュレーションしていたセリフは滑らかに口をついて出てくるものの、内心、本当に、心の底から困っていた、焦っていた。足首は特に痛い。
「わっかりました。じゃぁ ちょっと身繕いさせてください、荷物もございますし」
「念の為、同行しましょう」
警察官は靴を脱ぎ、俺の斜め後ろに付いてくる。左足首が痛い、両肩も腰も痛い。頭の中はフル回転。昨日のコンビニ夕食のゴミと、今朝食べる筈だったものは持たねばならないし、布団も畳んで、電気もブレーカーを落とさねば。後、何があった? ビールの缶ぐらいか。何もまずいものは持ち込んでいないはず。
お客様を待つため、ここから動けない、と繰り返して、パトカーの中で、簡単な事情聴取に応じることで、当座の難題はなんとか切り抜け。
最初は遠まきに見ていたお節介な隣人諸氏もいなくなり、一旦、家の中に戻り、着替え、お泊まりセットの底に見つけたミニシェーバーを使い、身繕いしてコンビニ弁当を食べて、この先、来るわけのないお客様のご案内時刻を過ぎるまでここにいて、だって、どこでさっきの警官が見張っているかも、いや、そんな暇は無いかもしれないけれど、その次は、多分捻挫した足首の治療にどこか整形外科を探して、あっそうだ、勤務先にも連絡しなきゃならないし、K署での事情聴取に行くのは明日以降でいいことになったが、勤務時間じゃまずいし、いや、困った。支店にも俺の身分紹介、もう入っているかもしれないし、そしたら、来るはずの無い客のこともバレてしまうだろうし。そもそも俺が泊まっていたことも。ってか、今日、俺、当然出社してる時間じゃん。もう遅刻。無断じゃん。あああああ。
泥棒は嘘吐きの始まり
第3話 今夜もお泊まり 終わり
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