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April 1, 2009
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カテゴリ: 教授の読書日記



 で、そいつをさっき読み終わったのですが、寺山修司が生まれた時から、どんな幼少期を過ごしたのか、少年時代はどんな少年で、長じてからはどんな青年になったのか、そういうことが母親の視点から愛情深く綴られていて、なかなか面白かったです。

 特に、夫を戦争で亡くしてから、細腕一つで寺山さんの学費を捻出すべく、幽霊のような姿になるまで働いたというはつさんの苦労、そしてその苦労に応えるように優しくも有能な青年に育っていく修司の姿など、ますます寺山修司という人に対して好感が湧くような感じ。

 そして早稲田大学在学中から詩や演劇の方面での活躍が始った寺山修司から「一緒に住もう」と言い出され、長年の苦労がついに実ったと思う母親・はつさんの誇らしげな喜びが綴られているあたりは、良かったですねえ、と思わず読んでいるこちらも頬が緩んでしまうほど。

 しかし、その喜びもつかの間、修司の結婚を機に、妻と母のどちらを選ぶかという問題に直面した修司が、母ではなく妻を選んだところから、二人の間に亀裂が入り・・・ということになるのですが、それでも母を捨て切れない修司が、母との関係修復のために時折見せる優しさに、はつさんも満足するようになっていく。ま、所詮、母親と息子なんてそういつまでも一緒にいられるわけもないので、このあたりが修司なりに精いっぱい母親に見せた感謝と信愛の情というところなのでしょう。

 が、そこで一旦和解した二人の関係はもう一度途切れることになる。無論、修司の突然の死によって。本書は、「二日したら帰るよ」と言ったまま永遠に旅立った息子の帰りをいまだ待ち望む母によって書かれた息子・寺山修司へのラブレターなのであります。


 というわけで、それなりに感銘を受けつつ本書を読み終わったワタクシなのでありますが・・・。




 本書を読んだ後、ちょこちょこっと調べたのですが、どうもこの寺山はつさんという人と寺山修司との関係は、この本に描かれているような牧歌的なものでは必ずしもないようなんですな。

 本書にも遠まわしに描かれているように、一方で寺山修司は、愛情の裏返しなんだかどうなんだか、自分の母親を冒とくするような言説を盛んに作品に盛り込むんだそうですね。その点、通常の意味で「優しい孝行息子」とはとても言えないようなところがあった。他方、寺山はつさんの方も、女手一つで息子を育てるためもあったのかも知れませんが、表沙汰にできないようなこともしてきたようなところもあるらしく・・・。で、嫁・姑のいさかいに端を発した修司とはつさんの反目とやらも、常軌を逸した種類のものだったらしい・・・。要するにこの母と子の壮絶な関係というのは、とても綺麗事ではなかったようなんですな。その辺のことは、この本を読んだだけでは、とても想像できませんが。

 つまり、どうも『寺山修司のいる風景』というのは、真実のある一面、きれいな方の一面だけを描いているようなところがあるらしいんです。だから、この本を読んで、ああ、寺山修司って優しい人だったんだな、はつさんもいい息子を持ったな、という読後感を抱くのは、ある意味、危険なことなのではないかと。

 そういう意味で、この本の評価は、多分、寺山修司と母・はつさんの関係を第三者の目から描いている本、たとえば田中未知さんの『寺山修司と生きて』などを読んだ後で、あらためて下すべきなんじゃないかと思うのであります。私も早速、この本を注文しましたが。

 ま、そうは言っても、たとえば本当に幼かった時の寺山修司が、どんな時にどんなことを言ったりやったりしたかということは、母親であるはつさんしか書けないことでしょうから、本書を読む意味というのはもちろんあるわけで、そういう点では十分おススメしますけれど、この本を読んだだけで、寺山修司とはつさんとの関係がすべてわかるというものでもないらしい、ということは、自戒の意味も込めまして、記しておきたいと思います。


 寺山修司という人は、そういう意味でも、一筋縄ではいかない人なんですな。



これこれ!
 ↓ 

寺山修司のいる風景



寺山修司と生きて





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Last updated  April 2, 2009 10:39:44 AM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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